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さわこさんと、忘年会 その1
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その夜の居酒屋さわこさんは、雪の話題で持ちきりでした。
「いやぁ、もうそんなシーズンになったんだねぇ」
常連客のお1人のナベアタマさんが、お酒を飲みながらお店の外を眺めておいでです。
お店の外では、今も雪が降り続けております。
早朝から降っていた雪が、今も降り止んでおりません。
そんな中ですが……
居酒屋さわこさんの中は大変盛り上がっておりました。
居酒屋さわこさんが開店する頃になりますと、入れ替わるように閉店するバテアさんの魔法道具のお店なのですが、ここに並んでいる棚をバテアさんの魔法ですべて片付けまして、代わりに机と椅子を並べて居酒屋さわこさんのスペースとして使用させて頂いております。
そのスペースなのでが、今日は完全貸し切り状態になっております・
はい、居酒屋さわこさんをこの世界で開店いたしまして、はじめての忘年会がここで実施されているのでございます。
本日のお客様は、ゾフィナさんを中心にした神界の皆様でございます。
総勢18名。
皆様、神界の方ですので、本来は私達とはお姿が少々異なるはずなのですが、こうしてこちらの世界にこられたからでしょうね、全員私達と同じ姿をなさっておいでです。
そんな皆様を見たバテアさんも、
「あらあら、神界のやつらが気を遣うなんて珍しいわね」
そんなことを口になさっておいででした。
とは申しましても……私にはそんなことは、正直あまり問題ではございません。
お店にご来店くださった以上は、皆様お客様です。
皆様にしっかり楽しんで頂かないと……それが全てでございますので。
◇◇
主催なさっているのがゾフィナさんということで、『すべてぜんざいと甘酒で』そう言われるのではないかと、少々危惧していたのですが、
「料理はおまかせしてもいいかしら?」
忘年会をお申込くださった際に、ゾフィナさんがそう申し出てくださったので、内心安堵した次第でございました。
ただ
「あ、私の料理にはぜんざいと甘酒をしっかりいれもらうわよ。別料金になってもかまわないから」
そう、一言付け加えられるのをお忘れではございませんでした。
ちなみにですが……
居酒屋さわこさんの忘年会のお料理には3コースございます。
まず、一つ目は『鍋コース』でございます。
これは、文字通りお鍋がメインのコースでございます。
お鍋の内容に関しましては、幹事さんと相談させていただいて決めることにしております。
お肉多めをご希望の場合はしゃぶしゃぶにしたりすき焼き風にしたり、魚介をご希望の場合は寄せ鍋にしたり、ご要望に応じまして、準備出来るお鍋を紹介させて頂く。そんな形式をとらせていただいております。
ただ、今回、この鍋コースをお申込くださった皆様は、すべて
『さわこさんにお任せしてもいいかな?』
そんな感じで申し込みくださっている次第でございます。
おかげさまで、その日に仕入れる事が出来た最高の食材を使用して、最高のお鍋を準備することが出来そうです。
次に、2つ目は『和食コース』でございます。
これは、文字通り和食のコース料理を堪能して頂くコースになっております。
タテガミライオンのお肉の和風ステーキをメイン料理にいたしまして、一品料理をお出しさせていただきます。
最後の3つ目ですが『お酒コース』でございます。
これは文字通り、お酒がメインのコースでございます。
お料理はすべて酒の肴で統一いたしまして、ひたすら日本酒を満喫頂くコースになっております。
今のところ、一番申し込みが多いのは鍋コースでございます。
今回ご予約頂いている忘年会の、実に8割がこれなんです。
次いで、和食コースが数件。
……そして、残念ながらお酒コースには、今のところ申し込みはございません。
他の2つのコースで、料金を追加してくださればお酒も飲み放題になるサービスを実施しておりますので、これはある意味仕方がないかもしれません。
ただ、飲み放題はですね、提供させていただくお酒の銘柄を絞らせていただいている次第なのです。
これが、お酒コースになりますと、居酒屋さわこさんにその時ございます日本酒すべてを満喫頂けるコースになっておりますので……私個人といたしましてはこのコースが最高にお勧めなのですが……なかなか思い通りにはいかないものでございます。
◇◇
そんな中、本日ご来店くださっている神界の皆様のお料理は「お鍋コース」でございます。
数日前に、リンシンさん達、居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者の皆様が、体格のいい脂のよくのったマウントボアを仕留めてきてくださっておりまして、それがちょうどいい感じに熟成した頃合いでしたので、このお肉を使用いたしましたボタン鍋をメインとさせていただいております。
他の料理といたしましては、サラダや串焼き、それにクッカドゥウドルの焼き鳥など、居酒屋さわこさんの人気メニューを少々アレンジしてお出しさせていただいております。
「あらあら、このお店……思った以上にあたりですわぁ」
「なかなか美味しいわね……ちょっとびっくりかも」
皆様、楽しそうに料理を口に運んでは、そんな感想を口になさっておいでです。
そのお言葉を耳にいたしまして、私も思わず安堵しておりました。
何しろ、この世界ではじめての忘年会でございます。
これでいきなり気に入ってもらえなかったら……
そんな心配を何度かしていた私だったものですから……その心配が杞憂に終わり、本当に安堵しきりでございます。
……ただし
みなさんが、お鍋や、お出しさせて頂いた料理を満喫してくださっている中、
「さわこ、ぜんざいおかわり」
ゾフィナさんだけは、いつもと同じようにぜんざいを御注文くださっている次第です。
ゾフィナさんは、最初こそ他の皆様と同じ料理を食べておられたのですが……
お酒が入り、お顔が少々赤くなったあたりから様子が変わってまいりまして、
「さわこ、いつものをお願い」
いつしか、そう口になさるようになったのでございます。
これに関しましては私も予期しておりましたので、厨房ではぜんざいの準備をしっかりしておりました。
「はい、よろこんで」
おかげで、私はすぐにこの御注文にお応え出来た次第でございます。
忘年会の際には、1人専属で店員がつくようにしております。
本日のゾフィナさん達の忘年会には、エミリアに担当としてついてもらっています。
その変わりといたしまして、通常のお店の方にはショコラにお手伝いにきてもらっている次第です。
ショコラは、バテア青空市のお手伝いしてくださっているんです。
居酒屋さわこさんで忘年会が開催されている際は、前述のとおり店員を1名専属でついてもらうことにしている関係で、人手が少々足りなくなってしまいます。
そのため、急遽、バイトとしてお手伝い願っている次第でございます。
「さわこ、ぜんざいをワンモアね。あと日本酒の追加もよろしく」
「ぜんざい、了解です」
エミリアの言葉に、私は笑顔で声をあげながら、ぜんざい用のお餅を焼き始めました。
その横でバテアさんが
「エミリア、お酒の銘柄に指定はないのかしら?」
そう確認しています。
忘年会でも、お酒の担当はバテアさんでございます。
「イエス。指定はナッシングよ」
「わかったわ。とりあえずお勧めの辛口を持って行くわね」
そう言うと、バテアさんは居酒屋さわこさんの壁に立てかけてある日本酒の瓶を、片手で3本・両手で6歩手に持って、ゾフィナさん達の席へ向かって移動していかれました。
◇◇
ゾフィナさん達のテーブルからは、終始楽しそうな話し声が聞こえてきておりました。
途中からぜんざいと甘酒オンリーという、いつものメニューしか口になさらなくなったゾフィナさん。
それを受けまして、
「……それ、そんなに美味しいの?」
「……なら、私も試してみようかしら」
そう申し出てこられる方々も出始めまして、お開きまでの間に結構な数のぜんざいと甘酒の追加注文も頂いた次第でございます。
席から聞こえてくる楽しそうな笑い声。
それをお聞きしながら、私もまた笑顔を浮かべながら調理をしていた次第でございます。
ーつづく
「いやぁ、もうそんなシーズンになったんだねぇ」
常連客のお1人のナベアタマさんが、お酒を飲みながらお店の外を眺めておいでです。
お店の外では、今も雪が降り続けております。
早朝から降っていた雪が、今も降り止んでおりません。
そんな中ですが……
居酒屋さわこさんの中は大変盛り上がっておりました。
居酒屋さわこさんが開店する頃になりますと、入れ替わるように閉店するバテアさんの魔法道具のお店なのですが、ここに並んでいる棚をバテアさんの魔法ですべて片付けまして、代わりに机と椅子を並べて居酒屋さわこさんのスペースとして使用させて頂いております。
そのスペースなのでが、今日は完全貸し切り状態になっております・
はい、居酒屋さわこさんをこの世界で開店いたしまして、はじめての忘年会がここで実施されているのでございます。
本日のお客様は、ゾフィナさんを中心にした神界の皆様でございます。
総勢18名。
皆様、神界の方ですので、本来は私達とはお姿が少々異なるはずなのですが、こうしてこちらの世界にこられたからでしょうね、全員私達と同じ姿をなさっておいでです。
そんな皆様を見たバテアさんも、
「あらあら、神界のやつらが気を遣うなんて珍しいわね」
そんなことを口になさっておいででした。
とは申しましても……私にはそんなことは、正直あまり問題ではございません。
お店にご来店くださった以上は、皆様お客様です。
皆様にしっかり楽しんで頂かないと……それが全てでございますので。
◇◇
主催なさっているのがゾフィナさんということで、『すべてぜんざいと甘酒で』そう言われるのではないかと、少々危惧していたのですが、
「料理はおまかせしてもいいかしら?」
忘年会をお申込くださった際に、ゾフィナさんがそう申し出てくださったので、内心安堵した次第でございました。
ただ
「あ、私の料理にはぜんざいと甘酒をしっかりいれもらうわよ。別料金になってもかまわないから」
そう、一言付け加えられるのをお忘れではございませんでした。
ちなみにですが……
居酒屋さわこさんの忘年会のお料理には3コースございます。
まず、一つ目は『鍋コース』でございます。
これは、文字通りお鍋がメインのコースでございます。
お鍋の内容に関しましては、幹事さんと相談させていただいて決めることにしております。
お肉多めをご希望の場合はしゃぶしゃぶにしたりすき焼き風にしたり、魚介をご希望の場合は寄せ鍋にしたり、ご要望に応じまして、準備出来るお鍋を紹介させて頂く。そんな形式をとらせていただいております。
ただ、今回、この鍋コースをお申込くださった皆様は、すべて
『さわこさんにお任せしてもいいかな?』
そんな感じで申し込みくださっている次第でございます。
おかげさまで、その日に仕入れる事が出来た最高の食材を使用して、最高のお鍋を準備することが出来そうです。
次に、2つ目は『和食コース』でございます。
これは、文字通り和食のコース料理を堪能して頂くコースになっております。
タテガミライオンのお肉の和風ステーキをメイン料理にいたしまして、一品料理をお出しさせていただきます。
最後の3つ目ですが『お酒コース』でございます。
これは文字通り、お酒がメインのコースでございます。
お料理はすべて酒の肴で統一いたしまして、ひたすら日本酒を満喫頂くコースになっております。
今のところ、一番申し込みが多いのは鍋コースでございます。
今回ご予約頂いている忘年会の、実に8割がこれなんです。
次いで、和食コースが数件。
……そして、残念ながらお酒コースには、今のところ申し込みはございません。
他の2つのコースで、料金を追加してくださればお酒も飲み放題になるサービスを実施しておりますので、これはある意味仕方がないかもしれません。
ただ、飲み放題はですね、提供させていただくお酒の銘柄を絞らせていただいている次第なのです。
これが、お酒コースになりますと、居酒屋さわこさんにその時ございます日本酒すべてを満喫頂けるコースになっておりますので……私個人といたしましてはこのコースが最高にお勧めなのですが……なかなか思い通りにはいかないものでございます。
◇◇
そんな中、本日ご来店くださっている神界の皆様のお料理は「お鍋コース」でございます。
数日前に、リンシンさん達、居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者の皆様が、体格のいい脂のよくのったマウントボアを仕留めてきてくださっておりまして、それがちょうどいい感じに熟成した頃合いでしたので、このお肉を使用いたしましたボタン鍋をメインとさせていただいております。
他の料理といたしましては、サラダや串焼き、それにクッカドゥウドルの焼き鳥など、居酒屋さわこさんの人気メニューを少々アレンジしてお出しさせていただいております。
「あらあら、このお店……思った以上にあたりですわぁ」
「なかなか美味しいわね……ちょっとびっくりかも」
皆様、楽しそうに料理を口に運んでは、そんな感想を口になさっておいでです。
そのお言葉を耳にいたしまして、私も思わず安堵しておりました。
何しろ、この世界ではじめての忘年会でございます。
これでいきなり気に入ってもらえなかったら……
そんな心配を何度かしていた私だったものですから……その心配が杞憂に終わり、本当に安堵しきりでございます。
……ただし
みなさんが、お鍋や、お出しさせて頂いた料理を満喫してくださっている中、
「さわこ、ぜんざいおかわり」
ゾフィナさんだけは、いつもと同じようにぜんざいを御注文くださっている次第です。
ゾフィナさんは、最初こそ他の皆様と同じ料理を食べておられたのですが……
お酒が入り、お顔が少々赤くなったあたりから様子が変わってまいりまして、
「さわこ、いつものをお願い」
いつしか、そう口になさるようになったのでございます。
これに関しましては私も予期しておりましたので、厨房ではぜんざいの準備をしっかりしておりました。
「はい、よろこんで」
おかげで、私はすぐにこの御注文にお応え出来た次第でございます。
忘年会の際には、1人専属で店員がつくようにしております。
本日のゾフィナさん達の忘年会には、エミリアに担当としてついてもらっています。
その変わりといたしまして、通常のお店の方にはショコラにお手伝いにきてもらっている次第です。
ショコラは、バテア青空市のお手伝いしてくださっているんです。
居酒屋さわこさんで忘年会が開催されている際は、前述のとおり店員を1名専属でついてもらうことにしている関係で、人手が少々足りなくなってしまいます。
そのため、急遽、バイトとしてお手伝い願っている次第でございます。
「さわこ、ぜんざいをワンモアね。あと日本酒の追加もよろしく」
「ぜんざい、了解です」
エミリアの言葉に、私は笑顔で声をあげながら、ぜんざい用のお餅を焼き始めました。
その横でバテアさんが
「エミリア、お酒の銘柄に指定はないのかしら?」
そう確認しています。
忘年会でも、お酒の担当はバテアさんでございます。
「イエス。指定はナッシングよ」
「わかったわ。とりあえずお勧めの辛口を持って行くわね」
そう言うと、バテアさんは居酒屋さわこさんの壁に立てかけてある日本酒の瓶を、片手で3本・両手で6歩手に持って、ゾフィナさん達の席へ向かって移動していかれました。
◇◇
ゾフィナさん達のテーブルからは、終始楽しそうな話し声が聞こえてきておりました。
途中からぜんざいと甘酒オンリーという、いつものメニューしか口になさらなくなったゾフィナさん。
それを受けまして、
「……それ、そんなに美味しいの?」
「……なら、私も試してみようかしら」
そう申し出てこられる方々も出始めまして、お開きまでの間に結構な数のぜんざいと甘酒の追加注文も頂いた次第でございます。
席から聞こえてくる楽しそうな笑い声。
それをお聞きしながら、私もまた笑顔を浮かべながら調理をしていた次第でございます。
ーつづく
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