異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、お鍋とお酒と

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 居酒屋さわこさんの一角には、お座敷席が出来ています。

 今のところ1組分のこじんまりとしたお座敷ですが、そこにはコタツを設置しております。
 掘り式になっていますので、コタツに入ると椅子に座る感覚でコタツに入ることが出来るようになっています。

 横長のコタツですので、一面に2人、両面で4人座ることが出来ます。
 無理をして詰めれば、あと1人ずつ、合計6人くらい入れないこともございません。

 この世界には、こういったお座敷席は存在していないそうです。
 そのため、このお座敷席を見たお客様達は

「ほぉ、なんかおもしろい席だね」
「へぇ、コタツねぇ、はじめて聞くな」

 最初は、だいたいそんな感じで、珍しそうにコタツを眺められるのですが……

 これが、一度でもこのコタツに入られますと、

「うわぁ……あったかい……」
「足が……生き返るぅ」
 
 皆さん例外なく、コタツの中の暖かさに魅了されまして、その顔にとろけたような表情を浮かべられまして、同時にコタツの中に少しでも体をいれようとなさりながら、背中を丸めて腕をコタツの中にいれようとなさるのです。

 そんなお客様の姿を見た別のお客様がですね

「……なんだか、すごく気持ちよさそうだな」
「……は、はやく空かないかな」

 そんな言葉を口になさりながら、お座敷を利用なさっている皆様が、席を立たれるのを今か今かと待たれている……そんな光景がお店の中で繰り広げられることが、多くなり始めている次第でございます。

 やはりあれですね、

 居酒屋さわこさんの店内も、魔石で暖かくしてありますし、お店の中央ではだるまストーブをつけておりますのでそれなりに暖かくしてあるのですが、お客様がお店を出入りなさる際に、扉が開閉されますので、時折冷たい空気が室内にはいってくることがございます。
 それもあってでしょうか、余計にコタツ席が人気になっているのかもしれませんね。

◇◇

 そんな中、居酒屋さわこさんでは暖かなメニューが大人気となっております。

 やはり外が寒いですからね。
 その寒い中をわざわざお越しくださった皆様は、まず、だるまストーブの上で燗しております日本酒で暖を取られた後、

「さわこさん、寄せ鍋をもらえるかな」
「こっちはデラマウントボア鍋を頼むよ」
 
 そんな感じで、お鍋を御注文くださるお客様がとても多くなっております。

 居酒屋さわこさんの人気定番メニューでございます、

 クッカドゥウドルの焼き鳥
 デラマウントボアの串焼き
 和風すうぷかれぇ

 それらを抑えて、今では居酒屋さわこさんの一番人気メニューになっている次第でございます。

 最近人気になっているのが雪見鍋でございます。
 大根もどきなこちらの世界の野菜、ダルイコンをおろしたものを雪に見立ててお鍋の上にどっさりのせたお鍋なのですが、

「へぇ、ホントに白いね」
「これを雪にみたててるんだ。なんかいいね」

 そんな感じでお客様の間にあっというまに浸透していきまして、今ではお鍋の中で一番注文が多くなっている次第でございます。

 このお鍋には、綿屋の特別本醸造 華を一緒に提供させていただいております。
 このお酒は辛口ですが、とても優しい味のお酒です。
 雪見鍋は、ダルイコンおろしがのっている関係で薄味になっているのですが、その味に勝ることなく、むしろその味をさらに際立たせてくれる、そんなお酒なんです。
 燗すると、とても口当たりがいいものですから、ついつい飲み過ぎてしまうお客様が続出している次第でございます。

 他のお鍋を御注文くださった皆様には、旭菊の特別純米酒、綾花をお勧めしております。
 このお酒は、味わえば味わうほど深い旨みを感じることが出来る、そんなお酒でございます。
 鍋の味をさらに深めてくれる、そんなお酒でございます。

 いずれも燗して提供させていただいております。

 そのため、お客様にお酒を提供してくださっているバテアさんも、その手に燗した徳利を持ってお客様の間を歩いておられます。

 以前は一升瓶を手になさっていたバテアさん。
 その分、量が多かったものですが、今のように徳利になりますと、その量が少なくなってしまっているわけです。
 そのため、すぐに徳利が空になってしまい
「さわこぉ、次の徳利、準備出来てる?」
 そう言いながら、私のもと燗したお酒を取りに戻ってこられます。
「はいはい、も、もう少しお待ちくださいね」
 ダルイコンをおろす手を一度止めて、私は、魔石コンロにかけた鍋の中で燗している徳利を確認していきます。

 この燗がなかなか難しいのです。
 魔石コンロの温度を最大にすれば、鍋のお湯も沸騰してすぐにお酒もあったまります。

 ですが

 そうしてしまいますとお酒が熱くなりすぎます。
 それでは、酒の旨みまでとんでしまいます。

 燗は人肌

 その言葉のとおりに、お鍋のお湯の温度は人肌よりもやや熱めに維持し、徳利の中のお酒が人肌に燗されるようにしないといけません。

 その分、お酒がいい塩梅に燗出来るまでには少々時間がかかってしまうわけです。

 サービスで提供させて頂いているだるまストーブの上のお酒は少し熱めになってしまい少々味が落ちているのですが、そこはサービス品ということでご勘弁願っている次第です。

 私とバテアさんは、休みなく徳利の準備をしては、お客様にそれを提供しております。
 大変ではありますけれども、そのお酒を口になさったお客様が

「うん、うまい!」

 お猪口でお酒を飲み干されてそう言ってくださると、その苦労がすべて報われる思いがいたします。

◇◇

「はぁ、今日も忙しかったですねぇ」
 居酒屋さわこさんが閉店し、片付け作業を終えた私は、居酒屋さわこさんの上の階、バテアさんの巨木の家の2階にございますリビングのコタツの中に足を突っ込んで、笑顔を浮かべていました。

 はい、笑顔です。

 居酒屋をしている者にとって、忙しさを実感出来るのは喜ばしいことですからね。

「ふふ、さわこってば、忙しいといいながら嬉しそうじゃない。まぁ、気持ちはわかるけどね」
 バテアさんは、そんな私を見つめながら笑顔を浮かべておいでです。

「はい、やっぱり忙しいのはうれしいですね」
 私も、笑顔でバテアさんに笑い返しました。

 そんな私の横では、ベルが牙猫姿のまま眠っています。
 牙猫なのですが、丸くならずに、その体をまっすぐにしてコタツに入っているベル。
 なんだか、不思議な格好ですね。

 ちなみに、エンジェさんはベッドの上で寝息をたてています。
 今日は、居酒屋さわこさんが開店して1時間くらいで寝入ってしまったエンジェさん。

 ですが、エンジェさんは今日も朝一番からエンジン全開で頑張ってくださっていましたからね。
 むしろ、その状態でよくあの時間まで頑張ってくれました、と、お礼を言いたいくらいです。

 私の向かい側にリンシンさんが座っておられるのですが、すでにリンシンさんはコタツの中に入れるようにしてお布団を敷いておられます。
 敷布団の上に座り、膝の上に掛け布団をのせた状態のリンシンさんは、いつものように両手で日本酒の入ったグラスを抱えながら、その中の日本酒をチビチビ舐めるようにして飲まれています。

 掛け布団をひっぱりながら横になれば、そのまますぐに寝ることが出来る格好です。
 今ではリンシンさんも、それくらいコタツのことがお気に入りなんです
 
 私やバテアさんがベッドに移動すると、ベルがリンシンさんの布団の中に移動していくのが常でございます。

「まだまだ寒くなりますかね?」
「そうね、今年はまだまだ寒くなりそうね」
 私とバテアさんは、そんな会話を交わしながら、お酒を酌み交わしています。

 特に大きな意味はございません。

 たわいもない会話を、のんびり交わしていく……そんな時間が、私は大好きです。

 飲み過ぎて、服を脱いでしまわないように気をつけないといけないんですけどね。

ーつづく
 


 

 
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