異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

文字の大きさ
193 / 343
連載

さわこさんと、年末の風景

しおりを挟む
 連日寒さが厳しい、辺境都市トツノコンベでございます。

 今日は、中級酒場組合に加盟なさっている皆様を相手にした月に一度の料理教室の日です。

 街中にあります中級酒場組合の皆様がご使用なさっておられます集会所の中で、今日も私は僭越ながら講師として皆様にお料理作りを指南させていただいておりました。

 今日のお題は『すき焼き』です。

 忘年会シーズンになりまして、中級酒場組合に加盟なさっている皆様のお店でも連日忘年会が開催されているそうなんです。
 その看板メニューになれるものを、との要望が多かったものですからこのメニューを選択させていただいた次第です。

 ……もっとも、この要望は以前からよせられておりまして、それを受けまして先月の料理教室ではお鍋の出汁の取り方と、各種お鍋の作り方を指南させていただいた次第でございます。
 皆様、それを早速ご利用くださっているとのことなんです。

 今回は、それ以外に新しいメニューを何かお願い出来ないか……との要望を受けてのものなんです。

 本当は、今回は新年に向けたお料理を……と、思っていたのですが、要望が多い方を優先した次第でございます。

 ちなみにですが……

 会場には、ベルとエンジェさんの姿もございました。
 2人とも私のお手伝い兼ボディガードとして同行してくれているんです。

 はい……

 もう随分時間が経過しておりますが……私は以前、上級酒場組合の皆様と中級酒場組合の皆様の間でおこったいざこざに巻き込まれる形で拉致されてしまったことがございまして……あの時は、バテアさんのおかげで事なきを得たのですが、あれ以降、私がトツノコンベの街中を出歩く際には、バテアさんかリンシンさん、ベルの誰かが必ず同行することになっているのでございます。

 ……すでに事件は解決しておりますし、上級酒場組合の皆様と中級酒場組合の皆様の間で和解も成立しているそうですし、ボディガードまでしてもらわなくても……そう思っているのですが……

「そうよベル。料理教室に来てもらう際のボディガードなら、この中級酒場組合長のジュチが責任をもって努めるから心配無用よ」
 この料理教室の依頼主でもあられますジュチさんが、ベルに向かってそう言っておられるのですが……
「もうね、さわこのことなら店の前からこの会場までの間、片時も離れないで護衛して……隙あらばちょっと宿屋に寄り道してあんなことやこんな……」

 ……なんでしょう……その顔を上気させながら、ハァハァ息を荒げていくジュチさん……
 
 ……気のせいでしょうか……私、別な意味で身の危険を感じ始めているのですが……

 すると、そんな私とジュチさんの間に、黒い棒を持ったベルとエンジェさんが割り込んできました。

「ニャ! ジュチアウトニャ!」
「お尻に蹴りをいれますよ!」
「あたた!? エンジェ、いれますよじゃなくて、もう蹴ってるじゃないのさ」
 ベルに棒で叩かれ、エンジェさんにお尻を蹴られたものですから、ジュチさんも退散なさった次第でして……なんといいますか、ホントにジュチさんには困ったものです。

◇◇

 その後、料理教室を終えた私は、

 右腕にベル
 左腕にエンジェさん

 それそれに抱きつかれながら街道を歩いておりました……

「あの……2人とも……そこまでしなくてもいいんですよ?」
 苦笑しながらそう言う私なのですが…… 
「ニャ! さーちゃんは隙が多いから駄目なのニャ」
「そうよ!私達がしっかり守るの!」
 ベルとエンジェさんは、そう言って、決して私の腕を放そうといたしません。

 ……なんでしょう……気のせいではなく、周囲の皆様に不思議そうな表情で見つめられているのですが……

 でも、これも、私の身を案じてくださっているからこそですものね……そう、自分に言い聞かせながら、私達は街道を居酒屋さわこさんへ向かって歩いておりました。

 しかし、あれですね……

 街中もすっかり冬景色。
 街道の真ん中は雪かきをされているので問題ありませんが、その左右には街道の中央からどかされた雪が山積みになっております。

 バテアさんにお聞きしたのですが、役場に魔法使役者の方が所属なさっている北方の街ですと、その方がこの雪をすべて魔法で溶かしてまわるそうなのです。

 ただ……この街には、バテアさん以外に定住なさっている魔法使いの方がおられないそうなのです。
 
 役場のヒーロさんから、何度か役場の専属か、冬期の期間限定でもいいので職員になってほしいと何度も打診されているそうなのですが、バテアさんはご自分のお店をお持ちですので
「週に1、2回なら、溶かしてまわってあげてもいいわ」
 と、言われているそうでして、その言葉通り週に1,2回、この雪を溶かして回られているんです。

 このトツノコンベなのですが、結構広いんですよ。
 なので、雪を溶かして回るのも一苦労なんだそうです。
 
 ですから、バテアさんが作業してまわられる際には、何か温かい物を準備してお待ちしている次第なんです。

 雪が大変なのは、私の世界もこちらの世界も一緒なんですよね。

◇◇

「ただいま戻りました」
 裏口から家の中に入った私は、そう声をあげました。
「ただいまニャ!」
「かえったわ!」
 ベルとエンジェさんも、そう声をあげています。

 すると、ベルはすぐさまこたつに向かって猛ダッシュをしていきます。
「こらベル! 外から帰ったらうがいをする約束でしょう?」
 私は、そう言いながらベルを引き留めました。
「うにゃ……そうだったにゃ」
 そう言いながら、ベルは私の元に戻ってきました。

 私は、3人一緒に洗面所へ移動していきまして、まず手を洗ってから3人一緒にうがいをしていきました。

 口に水を含み、上をむいてガラガラガラ……
 それを、コップ一杯分しっかり行います。

 私が小さい頃、おばあちゃんから何度も言われたこのうがい。
 今では、帰宅した際に行わないと気持ち悪く感じております。

 うがいが終わると、ベルは即座に
「コタツ~!」
 と言いながら、今度こそコタツの中に入っていきました。
 
 エンジェさんは、
「さわこ、今日は何からするのかしら?」
 そう言いながら、私のお手伝いをしてくださる気、満々の様子です。

 すると、ベルがコタツから顔だけだしてきました。
「さーちゃん、ベルもあったまったらお手伝いするニャ」
「わかりました、よろしくお願いしますね」
 ベルに、私は笑顔で返事を返しました。
 
 今夜は、忘年会の予約は入っておりません。

 ですが、今夜も寒い中、お店に来てくださるお客様がおられるはずです。

「さ、エンジェさん、まずはお店の出入り口のお掃除からはじめましょうか」
「わかったわさわこ」
 私の言葉に頷くと、エンジェさんは駆け足で階段を降りていきました。
 私もその後に続いていきます。

 そろそろ年末が近いですし……大掃除も兼ねてお店のお掃除もしないといけませんからね。

 この世界で暮らし始めて始めて迎える年末年始です。
 そう考えると、なんだかやる気も出て来てしまいますね。

 私は、エンジェさんと一緒に、まずは拭き掃除からはじめていきました。

ーつづく


 

 
しおりを挟む
感想 164

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。