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さわこさんと、吟遊詩人さんと割引券 その2
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ミリーネアさんに居酒屋さわこさんの割引券をお渡ししまして、それを受け取ったミリーネアさんはお昼過ぎに、今日も冒険者組合へと出向いていかれました。
◇◇
夕方前に居酒屋さわこさんへお戻りになったミリーネアさん。
「割引券の方はいかがでしたか?」
「最初はあんまり……でも、冒険者組合にいた冒険者の人が『その店、お勧めだよ』って口添えしてくれてから、たくさん受け取ってもらえた」
ミリーネアさんは嬉しそうに微笑んでいます。
「そうですか、それは何よりでした」
その言葉に、私も思わず笑顔になりました。
お店の開店に合わせて、ミリーネアさんは早速三味線を構えておいでです。
今日、冒険者組合で仕入れてこられたらしい題材をメモした紙を見つめながら、何やら小声で呟いておいでです。
おそらく、仕入れてこられた題材を元にした歌をつくっておられるのでしょう。
こうして、即興で歌を作れてしまうなんて、ホントすごいなぁ、と感心しきりな私です。
とは申しましても
餅は餅屋とも申しますし、吟遊詩人のミリーネアさんなら出来て当然なのかもしれません。
私は私で、居酒屋の女将として料理をしっかり頑張らないといけませんね。
そう思った私は、改めて今夜の料理の準備具合を確認していった次第でございます。
◇◇
ほどなくいたしまして、居酒屋さわこさんの開店時間がまいりました。
リンシンさんが店先に吊してくださった提灯に灯りが灯っています。
半年ほど前でしたら、まだ明るかった外なのですが、今はすでに薄暗くなっております。
そんな中、お店の扉が開きました。
「居酒屋さわこさんっていうのは、ここでいいのかな?」
「はい、ここで間違いございません」
はじめてお見かけするお客様ですね、冒険者の出で立ちをなさっています。
そのお言葉に、私がお返事を返すと、
「昼間は、どうも……」
そう言ってミリーネアさんが頭をさげています。
すると、冒険者の方も、
「あぁ、吟遊詩人さん。早速来てみました」
ミリーネアさんの顔を見るなり安堵した表情を浮かべておいでです。
どうやら、ミリーネアさんが割引券をお渡しした冒険者の方が早速お見えになられたようですね。
「ウェルカム、さ、まずはこちらへ」
いつものようにエミリアがお客さんを店内に案内してくれています。
そのお客様のために、まずはお通しを準備する私でした。
◇◇
そのお客様は、
「とりあえず、お勧めをお願い出来るかな。あと、それにあう酒も」
そう言いながらカウンター席へお座りになられました。
「はい、よろこんで」
笑顔でお返事を返した私は、早速クッカドゥウドルの焼き鳥を炭火コンロの上にのせていきました。
お勧めの御注文ですので、ここは居酒屋さわこさん一番人気メニューのクッカドゥウドルの焼き鳥を、まずはお出しすべきですものね。
合わせてまして、今日も外が寒かったですので、一人鍋を準備していきます。
「お客様、動物のお肉とお魚、どちらがお好みですか?」
「え? このお店、魚を出してくれるのかい? こんな山奥の街なのに」
「えぇ、お出ししておりますわ」
「じゃあ、魚でお願いしようか」
「はい、喜んで」
その返答を受けまして、お鍋は魚メインにすることにいたしました。
私の世界の鮭によく似た魚、ジャッケを遣った石狩鍋でございます。
水とお酒を入れたお鍋に昆布を敷きまして、ジャッケのアラと頭を加えて火にかけましてアクを取りながら炊いていきます。結構アクがでますので、こまめにとりのぞきます。
ほどよくなったところで、ジャッケの身と切り分けた豆腐・長ネギなどの私の世界の食材と、タルマネギ・カゲタケといったこちらの世界の食材を加えていき、味噌・みりん・お酒で味を調えます。
一煮立ちしたところで春菊を加えまして、最後にバターを加えて……はい、完成です。
「……おまたせ」
リンシンさんが配膳してくださると、
「へぇ、焼き鳥も美味しそうだけど、こっちのも暖かくて美味しそうだね」
そう言いながら、冒険者さんはまず、レンゲを手に取って石狩鍋の汁をすくい、口に運ばれました。
は~っと大きく息を吐いてから
「うん、これはいい味だなぁ……しかもすごくあったかい」
嬉しそうな笑顔の冒険者さん。
フォークとレンゲを使用して、石狩鍋の中身をどんどん口に運んでいかれています。
クッカドゥウドルの焼き鳥のことなどまるで眼中にないかのように、ひたすら石狩鍋を口に運ばれている冒険者さん。
すると、
「こんばんわ……ここ、居酒屋さわこさんです?」
おずおずといった様子で、新しいお客様がお店に入ってこられました。
すると、ミリーネアさんが
「あ、お昼はどうも……」
と、再び頭をさげられました。
どうやら、またもミリーネアさんのご縁でご来店くださったお客様のようですね。
思ったよりも効果があったようです、あの割引券。
そんな感じで……
この日の居酒屋さわこさんには開店早々から、割引券持参のお客様がお見えになられた次第でした。
ミリーネアさんは、確か割引券を6枚配布なさったと言われていたのですが、開店して1時間もしないうちに、その6名の方全員がご来店くださっていた次第です。
そうして、居酒屋さわこさんを初体験なさった皆様は
「うん、これは美味しい」
「この街の冒険者が勧めるわけだ」
と、喜びの声を口になさっていた次第です。
中には、よほど料理が気にいられたのか、
「吟遊詩人さん、実はもう1つネタがあるんだけどさ……割引券と交換でどう?」
と、店内でミリーネアさんに対して交渉を持ちかけはじめる方まで出た次第でございます。
「まぁ、さわこの料理とこのお酒があれば、当然の結果よね」
そんな冒険者の皆様を見つめながら、バテアさんが笑顔でそうおっしゃいました。
「いえいえ、私の料理なんてまだまだですから。日々精進あるのみですわ」
バテアさんに笑顔を返す私。
私とバテアさんは一度見つめ合いまして、
「ホント、さわこらしいわね」
そう言って笑うバテアさんと、
「おそれいります」
そう言って、にっこり微笑み私でございました。
一人鍋は皆様のお好みに合わせて出させて頂いた次第なのですが、〆のおうどんは皆様共通でございます。
具がほとんどなくなったお鍋を一度回収させていただきまして、そこにおうどんを一玉入れて一煮立ちさせます。
それを再度お渡しいたしますと、
「うん!? このうどんっていうのも美味しいねぇ」
皆様、一口すするなり、歓喜の声をあげられていました。
ベルとエンジェさんが聞いていたら、2人して喜んでいたでしょうね。
エンジェさんは昼間張り切りすぎてですね、2階のベッドの中で寝息をたてています。
寒いのが苦手なベルは、2階のコタツの中で寝息をたてているんです。
2人には、明日の朝にでもこのことを教えてあげようと思います。
そんなわけで……
今夜の居酒屋さわこさんも、お客様でほぼ満席でございました。
ーつづく
◇◇
夕方前に居酒屋さわこさんへお戻りになったミリーネアさん。
「割引券の方はいかがでしたか?」
「最初はあんまり……でも、冒険者組合にいた冒険者の人が『その店、お勧めだよ』って口添えしてくれてから、たくさん受け取ってもらえた」
ミリーネアさんは嬉しそうに微笑んでいます。
「そうですか、それは何よりでした」
その言葉に、私も思わず笑顔になりました。
お店の開店に合わせて、ミリーネアさんは早速三味線を構えておいでです。
今日、冒険者組合で仕入れてこられたらしい題材をメモした紙を見つめながら、何やら小声で呟いておいでです。
おそらく、仕入れてこられた題材を元にした歌をつくっておられるのでしょう。
こうして、即興で歌を作れてしまうなんて、ホントすごいなぁ、と感心しきりな私です。
とは申しましても
餅は餅屋とも申しますし、吟遊詩人のミリーネアさんなら出来て当然なのかもしれません。
私は私で、居酒屋の女将として料理をしっかり頑張らないといけませんね。
そう思った私は、改めて今夜の料理の準備具合を確認していった次第でございます。
◇◇
ほどなくいたしまして、居酒屋さわこさんの開店時間がまいりました。
リンシンさんが店先に吊してくださった提灯に灯りが灯っています。
半年ほど前でしたら、まだ明るかった外なのですが、今はすでに薄暗くなっております。
そんな中、お店の扉が開きました。
「居酒屋さわこさんっていうのは、ここでいいのかな?」
「はい、ここで間違いございません」
はじめてお見かけするお客様ですね、冒険者の出で立ちをなさっています。
そのお言葉に、私がお返事を返すと、
「昼間は、どうも……」
そう言ってミリーネアさんが頭をさげています。
すると、冒険者の方も、
「あぁ、吟遊詩人さん。早速来てみました」
ミリーネアさんの顔を見るなり安堵した表情を浮かべておいでです。
どうやら、ミリーネアさんが割引券をお渡しした冒険者の方が早速お見えになられたようですね。
「ウェルカム、さ、まずはこちらへ」
いつものようにエミリアがお客さんを店内に案内してくれています。
そのお客様のために、まずはお通しを準備する私でした。
◇◇
そのお客様は、
「とりあえず、お勧めをお願い出来るかな。あと、それにあう酒も」
そう言いながらカウンター席へお座りになられました。
「はい、よろこんで」
笑顔でお返事を返した私は、早速クッカドゥウドルの焼き鳥を炭火コンロの上にのせていきました。
お勧めの御注文ですので、ここは居酒屋さわこさん一番人気メニューのクッカドゥウドルの焼き鳥を、まずはお出しすべきですものね。
合わせてまして、今日も外が寒かったですので、一人鍋を準備していきます。
「お客様、動物のお肉とお魚、どちらがお好みですか?」
「え? このお店、魚を出してくれるのかい? こんな山奥の街なのに」
「えぇ、お出ししておりますわ」
「じゃあ、魚でお願いしようか」
「はい、喜んで」
その返答を受けまして、お鍋は魚メインにすることにいたしました。
私の世界の鮭によく似た魚、ジャッケを遣った石狩鍋でございます。
水とお酒を入れたお鍋に昆布を敷きまして、ジャッケのアラと頭を加えて火にかけましてアクを取りながら炊いていきます。結構アクがでますので、こまめにとりのぞきます。
ほどよくなったところで、ジャッケの身と切り分けた豆腐・長ネギなどの私の世界の食材と、タルマネギ・カゲタケといったこちらの世界の食材を加えていき、味噌・みりん・お酒で味を調えます。
一煮立ちしたところで春菊を加えまして、最後にバターを加えて……はい、完成です。
「……おまたせ」
リンシンさんが配膳してくださると、
「へぇ、焼き鳥も美味しそうだけど、こっちのも暖かくて美味しそうだね」
そう言いながら、冒険者さんはまず、レンゲを手に取って石狩鍋の汁をすくい、口に運ばれました。
は~っと大きく息を吐いてから
「うん、これはいい味だなぁ……しかもすごくあったかい」
嬉しそうな笑顔の冒険者さん。
フォークとレンゲを使用して、石狩鍋の中身をどんどん口に運んでいかれています。
クッカドゥウドルの焼き鳥のことなどまるで眼中にないかのように、ひたすら石狩鍋を口に運ばれている冒険者さん。
すると、
「こんばんわ……ここ、居酒屋さわこさんです?」
おずおずといった様子で、新しいお客様がお店に入ってこられました。
すると、ミリーネアさんが
「あ、お昼はどうも……」
と、再び頭をさげられました。
どうやら、またもミリーネアさんのご縁でご来店くださったお客様のようですね。
思ったよりも効果があったようです、あの割引券。
そんな感じで……
この日の居酒屋さわこさんには開店早々から、割引券持参のお客様がお見えになられた次第でした。
ミリーネアさんは、確か割引券を6枚配布なさったと言われていたのですが、開店して1時間もしないうちに、その6名の方全員がご来店くださっていた次第です。
そうして、居酒屋さわこさんを初体験なさった皆様は
「うん、これは美味しい」
「この街の冒険者が勧めるわけだ」
と、喜びの声を口になさっていた次第です。
中には、よほど料理が気にいられたのか、
「吟遊詩人さん、実はもう1つネタがあるんだけどさ……割引券と交換でどう?」
と、店内でミリーネアさんに対して交渉を持ちかけはじめる方まで出た次第でございます。
「まぁ、さわこの料理とこのお酒があれば、当然の結果よね」
そんな冒険者の皆様を見つめながら、バテアさんが笑顔でそうおっしゃいました。
「いえいえ、私の料理なんてまだまだですから。日々精進あるのみですわ」
バテアさんに笑顔を返す私。
私とバテアさんは一度見つめ合いまして、
「ホント、さわこらしいわね」
そう言って笑うバテアさんと、
「おそれいります」
そう言って、にっこり微笑み私でございました。
一人鍋は皆様のお好みに合わせて出させて頂いた次第なのですが、〆のおうどんは皆様共通でございます。
具がほとんどなくなったお鍋を一度回収させていただきまして、そこにおうどんを一玉入れて一煮立ちさせます。
それを再度お渡しいたしますと、
「うん!? このうどんっていうのも美味しいねぇ」
皆様、一口すするなり、歓喜の声をあげられていました。
ベルとエンジェさんが聞いていたら、2人して喜んでいたでしょうね。
エンジェさんは昼間張り切りすぎてですね、2階のベッドの中で寝息をたてています。
寒いのが苦手なベルは、2階のコタツの中で寝息をたてているんです。
2人には、明日の朝にでもこのことを教えてあげようと思います。
そんなわけで……
今夜の居酒屋さわこさんも、お客様でほぼ満席でございました。
ーつづく
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