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さわこさんと、仕入れ その2
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「さて……おもてなし商会のおかげで結構お肉は手に入ったのですが……」
魔法袋の中身を確認しながら、私は居酒屋さわこさんの厨房で腕組みしていました。
こちらの世界であれこれ仕入れしているお肉系の食材はかなり入手することが出来ました。
ですが、私が元いた世界で仕入れている品物が結構あれこれ少なくなっています。
これは、忘年会シーズンで想定以上に消費したのに加えて、新年早々お客様が大変たくさんお越しくださっているからに他なりません。
いわゆる、嬉しい悲鳴と言うやつですね。
2階にあがった私。
まだ時間が早いため、バテアさんはベッドで眠っておいでです。
リンシンさんも、今の時期は雪で狩りに出かけることが出来ないため、コタツにお布団を突っ込み、そのお布団の中で眠っておいででして、その横でベルも寝息を立てています。
唯一、エンジェさんだけは手に雑巾を持って床の拭き掃除を行っている最中でした。
「あ、さわこ。他にすることがあったら何でも言ってね」
私に気がついたエンジェさんが、笑顔でそう言ってくださいました。
いつも早寝なエンジェさんですが、その分こうして早起きしてあれこれ頑張ってくれているんです。
「今のところ大丈夫ですよ。いつもありがとうございます」
そんなエンジェさんに私は笑顔で頷きました。
エンジェさんは、そんな私に
「わかったわ、さわこ。じゃあとりあえず床拭きを続けるわね」
そう返事を返してから、再び床を拭き始めました。
改めまして、視線をバテアさんへ向けた私なのですが……
バテアさんはいまだに熟睡なさっておいでです。
いつものように、寝間着をすべて脱ぎ散らかされていまして……いわゆる素っ裸の状態で毛布だけをかけておいでです。
いくら室内が、温度調整魔石のおかげで適温を保っているとはいえ、この真冬にこんな格好で寝ていたら風邪を引きかねないと思っているのですが、その心配を口にする度にバテアさんは
『大丈夫よ、風邪を引いたら体の免疫力を高めまくっちゃえばすぐよくなるんだし』
そう言って笑われるばかりなんです。
確かにそうかもしれませんが……う~ん……
そんなことを思い出しながらバテアさんの様子を拝見していた私なのですが……今のところバテアさんが眼を覚ます気配はまったくございません。
私の都合で起こす訳にもいきませんし……
「とりあえず、他のことをしながらバテアさんが眼を覚まされるのを待ちますか」
そう思い直した私は、一階へと降りていきました。
◇◇
その後……
バテアさんが眼を覚まされたのは、それから2時間ほど経過してからのことでした。
魔法雑貨のお店がすでに開店していたにも関わらず、
「おあよ~」
と、寝ぼけた声をあげながら降りてこられたバテアさん。
当然のように……そのお姿はすっぽんぽんのままでした。
そのため、魔法道具のお店の店番をしていたエミリアが
「ストーップ!バテア、それは駄目よ!」
と、大慌てしながら2階に押し戻していった次第でございました。
来店なさっていたお客様達が、眼を丸くなさっていたのは言うまでもありません。
なんといいますか……良い意味でも悪い意味でも自由奔放過ぎるんですよね、バテアさんってば。
◇◇
程なくいたしまして……
改めて服を着て1階に降りてこられたバテアさん。
今は、居酒屋さわこさんのカウンターに座っておいでです。
ここで、遅めの朝ご飯を食べておられる最中です。
本日は、
アミリア米のご飯
豆腐とわかめのお味噌汁
焼きジャッケ
白和え
自家製のお漬物
以上のような献立でございます。
このメニューは、数時間前に、さわこの森で働いてくださっている皆様にお出ししたのと同じメニューでございます。
「は~……やっぱり朝のお味噌汁はいいわねぇ」
お椀のお味噌汁をずずっとすすりながら、バテアさんは、その顔に至福の笑顔を浮かべておいでです。
「さわこのお味噌汁なら、一生飲み続けたいわね」
そう言葉を続けたバテアさんなのですが……
そうですね、相手が男性であれば見事なまでのプロポーズの言葉でしょうね、これ。
はぁ……そんな感じで求愛してくださる相手など、三十うん歳のこの年までただの一度も巡り会ったことがない私でございます。
今日は珍しくリンシンさんが起きてきませんので、その1食分は作成した状態で魔法袋に保存してあります。
私は、夜の仕込みを行いながら、バテアさんが朝ご飯を食べ終わるのをお待ちしておりました。
すると
「そうださわこ。そろそろあなたの世界に仕入れにいかないといけないんじゃないの?」
バテアさんの方からそう切り出してくださいました。
「えぇ、そうなんですけど……私、このお話しましたっけ?」
「ん~……特には聞いてなかったんだけど……なんとなくそんな気がしてさ」
バテアさんは、そう仰りながら白菜の浅漬けをパリパリと食べてお出でです。
なんと言いますか……こういうのを以心伝心というのかもしれませんね。
「じゃあ、今日これから行っちゃう?」
「そうしたいのは山々なのですが……今日はミリーネアさんがすでに冒険者組合に行かれていますので」
そうなんです。
ミリーネアさんは、朝早くに起き出されまして、さわこの森の皆さんと一緒に朝食をお食べになった後、冒険者の皆様から歌の題材になりそうなお話を聞くために冒険者組合へ出向かれているんです。
今の時期は、都市の周囲が雪で覆われているものですから、外部から冒険者の方がお見えになることは極々希です。
そのため、都市の冒険者の方が大半なのですが、そういった皆様からこの都市で起きた過去の出来事などをお聞きしているそうなんです。
そんなミリーネアさんなのですが、先日、
『さわこの世界、行ってみたい』
そう仰られていたものですから
『では、今度仕入れに行く際にご一緒しましょう』
そうお約束した次第なんです。
「そういえばそんな話もあったわね。じゃあミリーネアが早めに戻って来たらってことにしましょうか。遅かったら明日の朝ってことで」
「はい、その方向でよろしくお願いいたします」
バテアさんの言葉に、私は笑顔で頷きました。
その後……
バテアさんは、3階にございますバテアさんの研究室にこもって魔法薬の生成などを行いはじめました。
この世界のあちこちや、他の世界から仕入れて来た薬草や魔石を使用して、お店で販売するための薬を生成なさっているんです。
私は、今夜の居酒屋さわこさんの仕込みを続けています。
そうしていると、
「ただいま」
大きなリュックを背負ったミリーネアさんが、居酒屋さわこさん側の扉から入ってこられました。
この時間、表玄関はバテアさんの魔法雑貨のお店の出入り口になっていますので、ミリーネアさんは気を使ってくださった次第なんですよ。
「お帰りなさいミリーネアさん。今日はいいお話が聞けましたか?」
「ん……今日はいまいち」
私の言葉に、首を左右に振るミリーネアさん。
そうなんですよね。
足を運んだからって、いつもいいネタが聞けるわけではないそうなんです。
むしろ徒労に終わることの方が多いそうです。
それでも、いい題材を入手するために、ミリーネアさんは毎日のように出かけておいでなんです。
「ミリーネアさんさえ良ければなんですが……これから私の世界に仕入れに向かうつもりなんですけど、ご一緒しませんか?」
私がそう言うと、ミリーネアさんは
「ぜ、ぜひ!」
身を乗り出して、声をあげられました。
冒険者組合が空振りだったせいか、少しお疲れなご様子だったミリーネアさんなのですが、私の一言で満面笑顔になられた次第です。
その笑顔を確認した私。
では、バテアさんをお呼びしにいかないといけませんね。
ーつづく
魔法袋の中身を確認しながら、私は居酒屋さわこさんの厨房で腕組みしていました。
こちらの世界であれこれ仕入れしているお肉系の食材はかなり入手することが出来ました。
ですが、私が元いた世界で仕入れている品物が結構あれこれ少なくなっています。
これは、忘年会シーズンで想定以上に消費したのに加えて、新年早々お客様が大変たくさんお越しくださっているからに他なりません。
いわゆる、嬉しい悲鳴と言うやつですね。
2階にあがった私。
まだ時間が早いため、バテアさんはベッドで眠っておいでです。
リンシンさんも、今の時期は雪で狩りに出かけることが出来ないため、コタツにお布団を突っ込み、そのお布団の中で眠っておいででして、その横でベルも寝息を立てています。
唯一、エンジェさんだけは手に雑巾を持って床の拭き掃除を行っている最中でした。
「あ、さわこ。他にすることがあったら何でも言ってね」
私に気がついたエンジェさんが、笑顔でそう言ってくださいました。
いつも早寝なエンジェさんですが、その分こうして早起きしてあれこれ頑張ってくれているんです。
「今のところ大丈夫ですよ。いつもありがとうございます」
そんなエンジェさんに私は笑顔で頷きました。
エンジェさんは、そんな私に
「わかったわ、さわこ。じゃあとりあえず床拭きを続けるわね」
そう返事を返してから、再び床を拭き始めました。
改めまして、視線をバテアさんへ向けた私なのですが……
バテアさんはいまだに熟睡なさっておいでです。
いつものように、寝間着をすべて脱ぎ散らかされていまして……いわゆる素っ裸の状態で毛布だけをかけておいでです。
いくら室内が、温度調整魔石のおかげで適温を保っているとはいえ、この真冬にこんな格好で寝ていたら風邪を引きかねないと思っているのですが、その心配を口にする度にバテアさんは
『大丈夫よ、風邪を引いたら体の免疫力を高めまくっちゃえばすぐよくなるんだし』
そう言って笑われるばかりなんです。
確かにそうかもしれませんが……う~ん……
そんなことを思い出しながらバテアさんの様子を拝見していた私なのですが……今のところバテアさんが眼を覚ます気配はまったくございません。
私の都合で起こす訳にもいきませんし……
「とりあえず、他のことをしながらバテアさんが眼を覚まされるのを待ちますか」
そう思い直した私は、一階へと降りていきました。
◇◇
その後……
バテアさんが眼を覚まされたのは、それから2時間ほど経過してからのことでした。
魔法雑貨のお店がすでに開店していたにも関わらず、
「おあよ~」
と、寝ぼけた声をあげながら降りてこられたバテアさん。
当然のように……そのお姿はすっぽんぽんのままでした。
そのため、魔法道具のお店の店番をしていたエミリアが
「ストーップ!バテア、それは駄目よ!」
と、大慌てしながら2階に押し戻していった次第でございました。
来店なさっていたお客様達が、眼を丸くなさっていたのは言うまでもありません。
なんといいますか……良い意味でも悪い意味でも自由奔放過ぎるんですよね、バテアさんってば。
◇◇
程なくいたしまして……
改めて服を着て1階に降りてこられたバテアさん。
今は、居酒屋さわこさんのカウンターに座っておいでです。
ここで、遅めの朝ご飯を食べておられる最中です。
本日は、
アミリア米のご飯
豆腐とわかめのお味噌汁
焼きジャッケ
白和え
自家製のお漬物
以上のような献立でございます。
このメニューは、数時間前に、さわこの森で働いてくださっている皆様にお出ししたのと同じメニューでございます。
「は~……やっぱり朝のお味噌汁はいいわねぇ」
お椀のお味噌汁をずずっとすすりながら、バテアさんは、その顔に至福の笑顔を浮かべておいでです。
「さわこのお味噌汁なら、一生飲み続けたいわね」
そう言葉を続けたバテアさんなのですが……
そうですね、相手が男性であれば見事なまでのプロポーズの言葉でしょうね、これ。
はぁ……そんな感じで求愛してくださる相手など、三十うん歳のこの年までただの一度も巡り会ったことがない私でございます。
今日は珍しくリンシンさんが起きてきませんので、その1食分は作成した状態で魔法袋に保存してあります。
私は、夜の仕込みを行いながら、バテアさんが朝ご飯を食べ終わるのをお待ちしておりました。
すると
「そうださわこ。そろそろあなたの世界に仕入れにいかないといけないんじゃないの?」
バテアさんの方からそう切り出してくださいました。
「えぇ、そうなんですけど……私、このお話しましたっけ?」
「ん~……特には聞いてなかったんだけど……なんとなくそんな気がしてさ」
バテアさんは、そう仰りながら白菜の浅漬けをパリパリと食べてお出でです。
なんと言いますか……こういうのを以心伝心というのかもしれませんね。
「じゃあ、今日これから行っちゃう?」
「そうしたいのは山々なのですが……今日はミリーネアさんがすでに冒険者組合に行かれていますので」
そうなんです。
ミリーネアさんは、朝早くに起き出されまして、さわこの森の皆さんと一緒に朝食をお食べになった後、冒険者の皆様から歌の題材になりそうなお話を聞くために冒険者組合へ出向かれているんです。
今の時期は、都市の周囲が雪で覆われているものですから、外部から冒険者の方がお見えになることは極々希です。
そのため、都市の冒険者の方が大半なのですが、そういった皆様からこの都市で起きた過去の出来事などをお聞きしているそうなんです。
そんなミリーネアさんなのですが、先日、
『さわこの世界、行ってみたい』
そう仰られていたものですから
『では、今度仕入れに行く際にご一緒しましょう』
そうお約束した次第なんです。
「そういえばそんな話もあったわね。じゃあミリーネアが早めに戻って来たらってことにしましょうか。遅かったら明日の朝ってことで」
「はい、その方向でよろしくお願いいたします」
バテアさんの言葉に、私は笑顔で頷きました。
その後……
バテアさんは、3階にございますバテアさんの研究室にこもって魔法薬の生成などを行いはじめました。
この世界のあちこちや、他の世界から仕入れて来た薬草や魔石を使用して、お店で販売するための薬を生成なさっているんです。
私は、今夜の居酒屋さわこさんの仕込みを続けています。
そうしていると、
「ただいま」
大きなリュックを背負ったミリーネアさんが、居酒屋さわこさん側の扉から入ってこられました。
この時間、表玄関はバテアさんの魔法雑貨のお店の出入り口になっていますので、ミリーネアさんは気を使ってくださった次第なんですよ。
「お帰りなさいミリーネアさん。今日はいいお話が聞けましたか?」
「ん……今日はいまいち」
私の言葉に、首を左右に振るミリーネアさん。
そうなんですよね。
足を運んだからって、いつもいいネタが聞けるわけではないそうなんです。
むしろ徒労に終わることの方が多いそうです。
それでも、いい題材を入手するために、ミリーネアさんは毎日のように出かけておいでなんです。
「ミリーネアさんさえ良ければなんですが……これから私の世界に仕入れに向かうつもりなんですけど、ご一緒しませんか?」
私がそう言うと、ミリーネアさんは
「ぜ、ぜひ!」
身を乗り出して、声をあげられました。
冒険者組合が空振りだったせいか、少しお疲れなご様子だったミリーネアさんなのですが、私の一言で満面笑顔になられた次第です。
その笑顔を確認した私。
では、バテアさんをお呼びしにいかないといけませんね。
ーつづく
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