異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、とんど祭り その2

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 私の世界で開催されているとんど祭りの会場にやってきた、私、バテアさんをはじめとしたバテアさんの家に居候しているみんな。

 ベルとエンジェさんはすっかりみなさんの人気者になっています。

 ただ、エンジェさんは見た目の姿形こそ幼いのですが、かつて居酒屋酒話時代からお店のお客様を見つめ続けていた存在です。クリスマスの12月のみだったとはいえ、それが数年分積み重なっているものですから、とんど祭りの会場に集まっているお年寄りの皆さんのほとんどの顔を覚えているみたいでして、

「あら幸夫、もう腰の具合はいいの? 輝彦はずいぶん楽しそうね。一夫はもっと元気をださないと」

 そんな感じで、お年寄りの方々一人一人に笑顔で話しかけていくもんですから、

「おかげさまで、腰はずいぶんよくなってるよ」
「なんだか嬉しいねぇ。年末ひゃっはーした甲斐があったってもんだなぁ」
「そうだね、まだまだ2人に負けるわけにはいかないしね」

 みなさん嬉しそうにエンジェさんを囲んでいた次第なんです。

 私的には、そのことに疑問をもたれて深く突っ込まれたらどうしようかとヒヤヒヤだったのですが……どうやらその心配はなさそうですね。

「ほれ、さわこちゃんもバテアちゃんも、それに他のみんなもこっちに来なさい」
 善治郎さんが、笑顔で私達を手招きしてくださいました。

 そこには机がありまして、ぜんざいや甘酒をつくっているお鍋がカセットコンロの上にのっかっています。

「おい、こっちのみんなにもぜんざいと甘酒、それにお餅を持ってきてくれ」
 善治郎さんの言葉を合図にして、私達の周囲にお皿を手にしたお年寄りの皆さんが集まってこられました。

「さぁ、あったかいぜんざいだよ」
「甘酒も飲みなさい」
「きなこ餅はどうじゃ?」
「あべかわもあるぞ」
「団子もあるわよ」

 皆さん、満面の笑顔で私達にお皿を差し出してくださっています。
 その数があまりにも多すぎて、私達は思わずたじたじになってしまいまして……

「あ、ありがとうございます」
「みなさんすいませんねぇ」
「……ど、どうも」
「ありがと、ありがと」
 と、それぞれお礼を言いながら、お皿を受け取っていったのですが、お皿を1つ受け取ると、また新たなお皿を手になさった方が寄って来てくださって、と……なんといいますか、まさにエンドレス状態でして……

 でも……みなさん、すごく嬉しそうなんです。
 その笑顔を拝見出来ただけでも、こうして出向いてきた甲斐があったって思えている私でした。

◇◇

「それにしても……」
 きなこ餅を口に運びながら、バテアさんが周囲を見回しています。

 この公園は、かなり大きくてですね、その周囲には住宅地やマンションなんかが林立しています。
「周囲にこんなに家があるのに、祭りの参加者が少ないのねぇ」
「まぁ、しょうがないわい」
 バテアさんの言葉に、善治郎さんが苦笑なさっています。
「昔と違ってなぁ、こんな寒い日にわざわざ出てくる人も少なくなっててな……昔のように書き初めしたり、お飾りを飾る家も少なくなったしな。まぁ、そんなものなどお構いなしに、ただ遊びに来てくれるだけでも嬉しいんじゃが……」
 そんな善治郎さんの言葉を聞いていたミリーネアさん。
「じゃあ、美味しい食べ物のお礼」
 そう言うと、背負ってきていた三味線をおもむろに構えました。

 ベベンベン

 私の親友、和音直伝の三味線の音とともに、ミリーネアさんの歌声が周囲にひ引き渡り始めました・

 ♪ とんどのお祭~ 火の祭り~

  ♪ お餅にぜんざい、甘酒に~

 消して大きくないミリーネアさんの歌声なのですが、その声は凜として静かに周囲に広がっていいます。

 ……すると

「……公園で何かやってるの?」
「なんだなんだ?」
 周囲を行き交っていた人々が、ぞろぞろと公園の中に集まって来始めたのです。

 それだけではありません。

 周囲の住宅やマンションの窓があいて
「あら? 公園で何かしてるのね?」
「そういえば、今日ってとんど祭りだったっけ?」
 そんな声が聞こえて来始めました。

 程なくすると、公演の中は道を行き交っていた人々に加えて、周囲の住宅やマンションから集まってこられたみなさんでいっぱいになっていったのです。

 ミリーネアさんの歌声には魅了の効果があるってバテアさんにお聞きしていましたけど……ちょっとその効果、すごすぎませんか?……

 そんな事を思っている私の横で、
「おいおい、こりゃあ一体……」
 その光景を見回しておられた善治郎さんをはじめとした、とんど祭りを取り仕切っておられる皆さんも、一様にその眼を丸くなさっています。

「ほらほら、ぼさっとしてないで接待しないと。せっかくみんな集まってくれたのよ」
 バテアさんが笑いながら甘酒の入った紙コップを手にとってそれを周囲の皆さんに配り始めました。

 リンシンさんも、お餅ののっている紙皿を配ってくださっています。

「じゃあ、私は甘酒の追加でもおつくりしましょうか?」
「あぁ、お願い出来るかい? まさかこんなに人が来るなんて思ってなかったから全然足りなくて」
「はい、お任せください」
 カセットコンロのところで作業なさっていたおばあさんの横で、私は後方に置かれていた予備の鍋を準備していきました。

 公園の中では、ベルが子供達と遊具で遊んでいる姿がありました。

 エンジェさんはといいますと……
「たかしも昔は地毛だったのにね」
「いやぁ、それは言ってほしくなかったかなぁ」
 お年寄りの皆さんに普通に混じって、昔話に華を咲かせています。

 バテアさんは、皆さんに甘酒を配りながら、その炎に向かって魔法をはなっておいでです。
 その魔法によって、炎が大きく膨らみ……それがまるで花火のように上空で散開しています。
 それを見た皆さんは
「まぁ、綺麗」
「すごいすごい!」
 一様に感嘆の声をあげておいででした。

 会場内には、ミリーネアさんの三味線と歌声が流れています。
 演奏し、歌っているミリーネアさんの周囲にも、多くのみなさんが集まってその演奏に聞き入っておいでです。

「この祭に、こんなに人が集まってくれるなんてなぁ……何年ぶりじゃろう」
 そんな会場を見回しながら、善治郎さんは嬉しそうに笑顔をうかべておいでです。

 その笑顔を見つめながら、私は、いつもお世話になっている善治郎さんのお役にたてたことを嬉しく思っていた次第です。

 さぁ、私も皆さんに負けないように甘酒をしっかりお造りしませんと!
 そう、気合いを入れ直した私は、お玉でお鍋の中身をかき混ぜていきました。

◇◇
 
 この日の私達は、夕方近くまでお祭りにお邪魔していました。

「さ、あとの片付けはワシらにまかせて、さわこちゃん達はお帰り。なんか遠くから来てくれたんじゃろう?」
 善治郎さんは笑顔でそう言ってくださっています。

 そんな善治郎さんの前にいる私達は、みんな持ちきれないほどの大きな紙袋を手にしていました。
 
 お餅や、お菓子が詰まった紙袋です。
 私達のために、お年寄りの皆さんが準備してくださったものばかりです。

 今日の会場に集まっておられたのは商店街のみなさんですので、ご自分のお店に戻ってわざわざ準備してきてくださったものばかりなんです。

「みんな、来年もぜひ来てね」
「来年と言わず、夏祭りにもな」
 
 みなさん、そんな事を口になさりながら、笑顔で手を振ってくださっています。
 そんなみなさんに、私達も笑顔で挨拶を返しながら、その場を後にしていきました。


 帰り道。
「ニャ♪ お菓子がいっぱいニャ」
 抱えている紙袋をの中身を覗き込みながら、ベルはご機嫌です。
「ベル、食べるのは帰ってからですよ」
「うん、わかったニャ」
 ベルは笑顔で返事を返しました。

 そんなベルを中心にして、私達は歩道を歩いていきました。

 みんな笑顔だったのは言うまでもありません。

ーつづく
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