異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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連載

さわこさんと、ゾフィナさんとエンジェさん

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 今夜も、居酒屋さわこさんの軒先には提灯と暖簾が掲げられています。

「今日もよく振りますねぇ」
 扉の前を掃き掃除しながら、私は空を見上げました。

 薄暗くなりはじめている空はどんよりと曇っておりまして、そこから雪が降っております。
 その勢いは、お昼過ぎからかなり増えているように思います。

「……うん。これだと、朝にはすごいことになってる」
 提灯に灯りをつけてくださっていたリンシンさんも、空を見上げながら首をかしげておいでです。
 
 最近の、リンシンさんをはじめとした、居酒屋さわこさんと専属契約を結ばせていただいております冒険者の方々は、ここ辺境都市トツノコンベ周辺では狩りが出来ないため、もっぱらバテアさんの転移魔法を利用させていただいて、積雪のない南方へ出向いて狩りを行っている状態でございます。

「リンシンさん、明日も南方に狩りに出向かれるのですか?」
「……うん、明日はクッカドゥウドルを狩ってくる」
「いつもありがとうございます」
「……ううん、さわこの役に立てるのなら、うれしい」
 リンシンさんはそう言うと、にっこりと微笑んでくださいました。
「そう言って頂けると、私も嬉しいですわ」
 そんなリンシンさんに、私も笑顔を返させていただきました。

 私達は、しばらくの間玄関まわりを掃除してからお店の中へと戻っていきました。

「さぁ、さわこ! 今日も頑張るわ!」
 お店に入ると、赤い着物に袖を通したエンジェさんが張り切った声をあげています。

 元はクリスマスツリーだったエンジェさん。
 付喪神となって、人の姿になれるようになったのですが、しばらくの間はすぐに体力はなくなってしまって、夜になると早々にお休みしてしまうのが常だったのですが、ここ最近はいつものペースで日中働いていても、夜もこうして元気に起きていることが出来るようになってきたのでございます。

「エンジェ、あんまり張り切らないのよ。あんた時々仕事中にバタンキュウしやうんだから」
 そんなエンジェさんに、お酒を燗しているバテアさんが笑いかけておいでです。

「まかせてバテア! 今日は大丈夫よ」
「それ昨日も言ってたじゃない。そんでもって営業開始してから二時間ほどで、そこの椅子に座って寝息を立ててたんだしさ」
「まかせてバテア! 今日は大丈夫よ」
 エンジェさんは、満面の笑みを浮かべながら胸をドンと叩いています。

 そんなエンジェさんを、店内のみんなも笑顔で見つめていました。

「じゃあエンジェ、トゥデイは私と一緒に接客をしましょう。いいわね?」
「わかったわ、エミリア。一緒に頑張りましょう」
「えぇ、トゥゲザーしましょう」
 そう言うと、エンジェさんとエミリアは玄関だるまストーブの上のタライの中で燗されているお銚子を確認しています。

 唯一、ベルだけは二階のコタツに入っていまして、今頃寝息をたてているはずです。
 人型になって、リンシンさんのお布団に入っているはずです。

 寒くなる前は、私とバテアさんのベッドで一緒に寝ていたベルなのですが、最近はリンシンさんのお布団で寝るのが定番になっている感じなんですよね。
 ただ、これはリンシンさんと一緒に寝たいというのではなくて、コタツに足を突っ込んで寝たいという欲求からきている行動だと思います。

「さわこ、来たわよ」
 そう言ってお店の扉を開けたのはゾフィナさんでした。

「ウェルカム、さぁ、こちらへ」
 出迎えたエミリアが挨拶をすると、すぐにいつものカウンター席へお通ししていきます。

 普通のお客様ですと、まずはだるまストーブの上で燗しているお酒を1杯飲んで頂いてから席にご案内するところなのですが、ゾフィナさんの場合飲まれるものが違っていますので……

「さわこ、いつものぜんざいを頼む。それと甘酒を」
「いつものですね、はい、喜んで」
 ゾフィナさんのいつもの声に、私もいつものお返事をお返しいたしました。
 
 すでに甘酒は作り置きして、魔法袋に保管してあります。
 私は、それを取り出すと魔石コンロで温めはじめました。
 同時に、炭火コンロの上で丸餅を焼いていきます。

 頃合いを見計らいながら、丸餅を次々に炭火コンロの上へ……

 何しろゾフィナさんは、毎回ご来店なさると十杯近くぜんざいをお食べになりますからね。
 お待たせしないように、早めに準備をしている次第です。

 ゾフィナさんがぜんざいをお食べになる時間は、だいたい把握しておりますので、それに合わせている次第です。

 ただ、この時間は少し気をつけないといけません。

 役場のヒーロさんがお見えになると、ゾフィナさんはヒーロさんと会話をなさることが多くなるため、ぜんざいをお食べになる速度が若干遅めになってしまうんです。
 そのあたりも考慮しつつ、準備をさせていただいております。

 テーブル席のお客様までは、なかなかそこまでの配慮が出来ないのですが、いつもカウンターに座ってくださるお客様のお好みや、傾向、お食べになる速さはある程度把握しておりますので。

 お餅が焼き上がるのと同時に、私の足下にエンジェさんが駆け寄って来ました。
 そんなエンジェさんに、私は
「じゃあエンジェさん、お願いしますね」
 そう言って、ぜんざいのよそったばかりのお椀が乗ったお盆をエンジェさんに手渡しました。
「まかせてさわこ!」
 エンジェさんは、それを満面の笑みで受け取ると、トトトと歩いてゾフィナさんの元へ……

「お待たせゾフィナ。さわこのぜんざいよ」
「うむ、いつもありがとうエンジェ」
 ゾフィナさんは、ぜんざいのお椀を笑顔で受け取っておられます。
 そんなゾフィナさんに、エンジェさんも笑顔でお椀の乗ったお盆を差し出しています。

 エンジェさんは、クリスマスツリーの付喪神です。
 元は、天使のオーナメントの姿をしていたのですが、ゾフィナさんのお友達の女神さまが酔ったはずみに、エンジェさんを人の姿にしてくださり、ゾフィナさんの配慮のおかげでこの姿のまま過ごすことが出来るようになっているのでございます。

 その事を知っているエンジェさんは、
「ゾフィナに恩返しをするわ!」
 そう言って、率先してゾフィナさんに料理を運ぶようになっているのでございます。

 ゾフィナさんは、受け取ったぜんざいを口に運ばれました。
 いつものように、まずは汁を半分近く一気に飲み干していかれます。
「……うん、うまい。さわこのぜんざいは、やはり最高だな」
「そうよ! さわこの料理は最高なんだから」
 笑顔のゾフィナさんに、笑顔を向けているエンジェさん。
 そんなエンジェさんの笑顔を、ゾフィナさんも笑顔で見つめています。
「うむ、そうだな。最高だ」
「そうよゾフィナ、だから今日もいっぱいおかわりしていいんだからね!」
「わかった、ではお言葉にあまえて……」
 そう言うと、ゾフィナさんは、お餅まで一気に口に運ばれまして、
「早速おかわりをもらおおうか」
 そう言って、空になったお椀をエンジェさんに差し出しました。

 エンジェさんは、嬉しそうに笑顔を浮かべると、
「わかったわゾフィナ、少し待ってて」
 そう言うと、エンジェさんは空になったお椀をお盆にのせて、私の元へと戻って来ました。
「さわこ、おかわりをいただいたわ」
「はい、よろこんで」
 笑顔のエンジェさんに、私も笑顔を返しました。

 いつもより、少しペースが速いのですが……大丈夫です、これくらいなら許容範囲ですので。

◇◇

 それから、一時間……

 ゾフィナさんは、今もぜんざいをお食べになっておいでです、
 その隣の席には、エンジェさんが座っています。

「ゾフィナさん、申し訳ありません」
「いいのよさわこ、気にしないで」
 私の言葉に笑顔を返してくださるゾフィナさん。

 その横の席で、エンジェさんは眠っていました。

 今日も、朝からずっと目一杯の元気で頑張ってくださっていたエンジェさん。

 気がつくと、ゾフィナさんのお隣に座って寝ていたのでございます。
 ゾフィナさんにもたれかかりながら、寝息をたてているエンジェさん。
 そんなエンジェさんを、時折笑顔で見つめながら、ゾフィナさんはぜんざいを食べておいでです。

「エンジェにこうしてもらえるのは、むしろ光栄だしな」
 そう言うと、エンジェさんの頭をそっと撫でていくゾフィナさん。
 エンジェさんは、心なしか嬉しそうに微笑んだ気がします。

 この夜……ゾフィナさんは、いつもより少し長めに居酒屋さわこさんの中でぜんざいを満喫なさっておいででした。

ーつづく

 
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