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エピローグ
二人で
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*
「若き書道家……恋人のために痴漢犯罪者を捕獲。彼の男らしい功績を讃え、警視庁は昨日感謝状を……」
バイト仲間の川崎佳代ちゃんが、休憩室でスマホを読み上げていた。
「はあ~本当におったまげたわね! あの火村君が犯罪者を捕まえちゃうなんて! 高校の時の彼からは想像がつかないわ」
「佳代ちゃん、それって……」
「ああ。ニュースよニュース。もうお客さんも噂で持ち切りよ! あの書道家の火村大和の大活躍!」
佳代ちゃんが私にグイッと画面を見せてきた。
そこには、和服を着た大和さんと、その腕に絡みつく小梅先輩の姿の写真が記載されている。明らかに不機嫌そうに眉間に皺を寄せている大和さんに、構うことなく嬉しそうに寄り添っている先輩。
『若き書道家、犯罪者を逮捕』と大きな記事が掲載されており、私は苦笑した。
「すごいわね~。あの安部財閥の三男だってこともバレてるよ。こりゃまた稼ぎになっちゃうんじゃない? 陽菜子ちゃん知ってた?」
「はい。陽太さんから教えて貰いました」
あの騒ぎから一週間が経過し、私は何事もなかったかのように平穏な生活を送っている。溜まりに溜まった講義の課題に追われたり、ご近所だった石渡さんに陽太さんについて詳しく問いただされたり、一週間彼の家に泊まっていたことがおばあちゃんにバレて「まだ妊娠するんじゃないよ」と冷やかされたりしたが、私はあれから猫になることなく過ごしていた。
バイトが終わり、私は椅子に腰をかけて佳代ちゃんからスマホを借りると画面をスライドさせて記事に一通り目を走らせた。
「風間君も焦っちゃうんじゃない? 弟がこんな活躍をしちゃうんだもん。水野君も一緒にその場にいたんだってね。本当にすごい兄弟だわ」
「あはは……。和真さんも一緒に暴れたことになってるんだ……」
「え? 何か言った陽菜子ちゃん?」
「い、いえ何も!」
赤い眼鏡を光らせる友人に私は慌てて手を振って誤魔化した。
陽太さんが提案したように、私を誘拐した三人の男性は大和さんが捕まえたことになっていた。小梅先輩が痴漢を受けたという設定で、怒り狂った大和さんが和真さんを連れて倉庫に乗り込み、彼等を成敗した……と新聞にまで載っている。あの場にいなかったはずの和真さんも噂に尾鰭がつき、何だかすごい活躍した英雄みたいに讃えられていた。
まあ、彼等は有名人だから仕方あるまい。ただでさえ顔が広いのだから、ここまで盛り上がるのは納得した。
「陽太さんは普通でしたよ。あいつらは俺と格が違うって呟いてました」
事件に関わっていたのは実際私と陽太さんなんだけど、騒ぎ立てたくなかった私達は大和さん達の活躍をそのまま受け流している。蓮先輩も公に出ることを拒んだらしく、すべて大和さんに押し付けるような形となってしまった。警察からの事情聴取やら何やら面倒を受けた大和さんの機嫌は最高潮に悪かったらしい。しかし小梅先輩の迫真の演技もあり、警察は経緯を簡単に納得した。ちゃっかり和真さんも事件に関わった人物としてキメ顔の写真を載せている。
「今日はその祝いをしようと皆でご飯を食べに行く予定をしているんです」
「へえ! 陽菜子ちゃんも一緒に行くの?」
「はい。なので今日は少し早めに上がりますね」
「相変わらず仲がいいわね~」
カメラに映されていた猥褻を受けた被害者達からも情報を取り、あの三人組は逮捕。陽太さんはすでに私の写真だけを消去しており、猫耳騒動は起きなかった。男性三人も陽太さん達の背後に安部財閥が佇んでいることがわかっているのか、私の名前を出すことはなかったらしい。蓮先輩が私に鞄と荷物だけを届けに来てくれたが、特に追及してくることはなかった。
(蓮先輩は絶対怪しんでると思ってたんだけど……私達が何かを隠してるって察してくれてるのかな)
勘が鋭い先輩を思い浮かべるも、優しい性格だからあえてそっとしてくれているのかもしれない。今日は久しぶりに皆さんで集まって食事をすることになっており、私は楽しみが半分、もう半分は緊張していた。
もやもやと渦巻く霧を振り払うように頭を振ると、佳代ちゃんが思い出したように手を叩いた。
「そういえば、風間君があたしに久しぶりに電話してくれた時は驚いたな。陽菜子ちゃんがバイトに来てるのかってすごい必死に問いただされてね」
「え?」
「ほら、陽菜子ちゃんが風邪で寝込んでたって時。あの時の風間君ってばすごい必死だったんだよ。電話を切った後しばらくして……閉店の準備をしてたらズブ濡れで店に飛び込んできたの」
「そうなんですか!?」
まさかバイト先にまで顔を出していたとは知らなかった。私は顔に熱が集中して驚愕の声を上げる。
「今時あんなに必死で彼女のことを探す男はいないよ。本当に大事にされてるんだね」
「うーんと……えっと……たぶん……はい」
否定することもできず、私は素直に頷いた。
「陽菜子ちゃんって何で風間君を選んだの?」
「ええ!? 何ですか急に」
「いや~? 顔を合わせるたびに喧嘩ばっかしてたなって思ってさ。陽菜子ちゃんの周りって他にもいい男いっぱいいたじゃない? 弟の水野君とか陽菜子ちゃんに懐いてたし。それこそ、生徒会会長だった土谷先輩とも仲良かったよね? 何で風間君だったのかなって」
佳代ちゃんに尋ねられ、私は首筋に結んでいたエプロンの紐を解いた。
「それは……」
私は少し考えてから、小さく呟いた。
「気が付いたら、好きになってたから……ですかね」
「え?」
「あはは。うーん……よくわかんないです」
照れくさくなり、私は佳代ちゃんにはにかんだ。いつから私は陽太さんが好きになったのか……よく覚えてない。過去を振り返りながら着替えるためにロッカーを開けると、スマホが点滅していることに気づいた。メールが受信されており、「風間陽太」という名前が浮かんでいる。
『外で待ってる』と短い文を確認し、私は慌てて時計を確認した。
「大変。もうこんな時間だ。急がないと……!」
「彼氏のお迎え?」
「そうです」
私は急いで私服に着替え、白いコートを羽織った。鏡で自分の顔を確認し、前髪をちょいちょいっと直す。お気に入りの鞄を肩にかけると私はロッカーを閉めた。
「それじゃあお先に!」
「お疲れ様。楽しんで来てね」
佳代ちゃんと挨拶を交わし、私は喫茶店の裏口から外へと出た。冷たい風が私の髪を撫で、吐いた息が白く染まった。冷え性である両手を擦り合わせ、私はキョロキョロと辺りを見渡し目的の人物を探す。
街へと繋がる路地裏をしばらく歩きビルの角を曲がると、小さな鳴き声が聞こえた。
「にゃー」
聞きなれた高い動物の声を追いかけると、積まれていた空き瓶の籠に腰かけている陽太さんを見つけた。モッズコートを着ている彼の膝に、一匹の黒猫が前足を置いている。陽太さんは大きな掌で猫の頭を撫でていた。
甘えるように猫が彼に擦り寄っていると、路地裏の奥から白い猫が姿を現した。
「にゃーお」
白猫が誘うように鳴くと、耳をピクリと動かした黒猫が陽太さんの膝から下りた。
「みゃあお」
「にゃあ」
互いの体を擦り合わせると、二匹の猫は街へと走って行く。その光景を陽太さんは追いかけていた。私はそっと近づくと、足音が響き彼が振り向く。
「おう、お帰り」
「ただいま。待たせちゃいました?」
「別に。その辺で適当に暇を潰してた」
陽太さんは立ち上がると、私の頭を撫でた。
「猫と遊んでたんですか?」
「遊んでたっていうか、勝手に近づいてきたんだよ。一瞬お前じゃねーのかって思っちまった」
「笑えないですよ、それ」
「笑えないだろ。俺も神経張ったけど……でも案外お前じゃないってわかるもんだな」
陽太さんが可笑しそうに口元を緩めた。
「俺の野生の勘には、絶対的な自信がある」
「ぷっ。野生の勘? あはは。何の根拠もないじゃないですか」
思わず吹き出すと、陽太さんがニシシッと笑った。
「ずっと一緒にいるんだ。間違えるわけねーだろ」
陽太さんは私の手を握ると、指を絡めた。隣に並び、私達は足を踏み出す。
「もう皆さん集まってますかね」
「まだじゃねー? 店は予約してるって言ってたし、多少遅れても大丈夫だろ」
「私もうお腹ペコペコです」
「俺も。今日は酒飲んでもいいかな」
「あ。私も少しだけ……」
「ダメ。絶対ダメ。飲むな」
「えー。何でですか。たまには……」
「飲むのは家だけにしろ」
「むぅ……」
そんな些細なやり取りを繰り返し、私達は明るい街灯に溢れる街通りに出た。私と彼の薬指には金色の ペアリングが光る。互いの温もりを感じながら、私と陽太さんは一緒に歩んだ。
向かい側の道で、さっきの二匹の猫が尻尾を絡めるように寄り添っている姿が一瞬だけ視界に映る。しかしすぐに乗用車に隠れてしまい、次に瞬きした時にはもう猫は消えてしまった。
ふと空に視線を向ければ、瞬く星の中で幻想的な月が浮かんでいることに気づいた。
「あ! 陽太さん、見てください。月が綺麗ですよ」
「ん? お。本当だ」
私が夜空を指さすと、陽太さんも釣られて月を見上げる。綺麗な月をしばらく眺めていると、陽太さんがふと微笑んだ。
「綺麗だな」
「はい」
「上ばっか見てて転ぶなよ」
「手を繋いでるから大丈夫ですよ。陽太さんが手を離さなければ」
「離すかっての」
陽太さんが私の手を強く繋ぎ直し、自分のコートのポケットに二人分の手を収めた。
「ふふ。あったかいです」
「これで転ばないだろ」
距離が縮まり、私は彼に寄り添いながら笑顔を返した。陽太さんは穏やかな瞳を細める。どんなに寒い夜でも、二人でいれば不思議と心地良さを感じた。
隣にいることが。温もりを感じることが。共に歩いて行くことが……こんなにも幸せなことだなんて、彼と出会う前の自分には想像だってできなかった。
「陽太さん」
「ん?」
「えへへ。呼んでみただけです」
「何だよ」
些細なやり取りが嬉しくて、私の足は軽い。
今ある幸せを噛みしめながら、私は微笑んだ。
『私は彼の迷い猫』 =END=
「若き書道家……恋人のために痴漢犯罪者を捕獲。彼の男らしい功績を讃え、警視庁は昨日感謝状を……」
バイト仲間の川崎佳代ちゃんが、休憩室でスマホを読み上げていた。
「はあ~本当におったまげたわね! あの火村君が犯罪者を捕まえちゃうなんて! 高校の時の彼からは想像がつかないわ」
「佳代ちゃん、それって……」
「ああ。ニュースよニュース。もうお客さんも噂で持ち切りよ! あの書道家の火村大和の大活躍!」
佳代ちゃんが私にグイッと画面を見せてきた。
そこには、和服を着た大和さんと、その腕に絡みつく小梅先輩の姿の写真が記載されている。明らかに不機嫌そうに眉間に皺を寄せている大和さんに、構うことなく嬉しそうに寄り添っている先輩。
『若き書道家、犯罪者を逮捕』と大きな記事が掲載されており、私は苦笑した。
「すごいわね~。あの安部財閥の三男だってこともバレてるよ。こりゃまた稼ぎになっちゃうんじゃない? 陽菜子ちゃん知ってた?」
「はい。陽太さんから教えて貰いました」
あの騒ぎから一週間が経過し、私は何事もなかったかのように平穏な生活を送っている。溜まりに溜まった講義の課題に追われたり、ご近所だった石渡さんに陽太さんについて詳しく問いただされたり、一週間彼の家に泊まっていたことがおばあちゃんにバレて「まだ妊娠するんじゃないよ」と冷やかされたりしたが、私はあれから猫になることなく過ごしていた。
バイトが終わり、私は椅子に腰をかけて佳代ちゃんからスマホを借りると画面をスライドさせて記事に一通り目を走らせた。
「風間君も焦っちゃうんじゃない? 弟がこんな活躍をしちゃうんだもん。水野君も一緒にその場にいたんだってね。本当にすごい兄弟だわ」
「あはは……。和真さんも一緒に暴れたことになってるんだ……」
「え? 何か言った陽菜子ちゃん?」
「い、いえ何も!」
赤い眼鏡を光らせる友人に私は慌てて手を振って誤魔化した。
陽太さんが提案したように、私を誘拐した三人の男性は大和さんが捕まえたことになっていた。小梅先輩が痴漢を受けたという設定で、怒り狂った大和さんが和真さんを連れて倉庫に乗り込み、彼等を成敗した……と新聞にまで載っている。あの場にいなかったはずの和真さんも噂に尾鰭がつき、何だかすごい活躍した英雄みたいに讃えられていた。
まあ、彼等は有名人だから仕方あるまい。ただでさえ顔が広いのだから、ここまで盛り上がるのは納得した。
「陽太さんは普通でしたよ。あいつらは俺と格が違うって呟いてました」
事件に関わっていたのは実際私と陽太さんなんだけど、騒ぎ立てたくなかった私達は大和さん達の活躍をそのまま受け流している。蓮先輩も公に出ることを拒んだらしく、すべて大和さんに押し付けるような形となってしまった。警察からの事情聴取やら何やら面倒を受けた大和さんの機嫌は最高潮に悪かったらしい。しかし小梅先輩の迫真の演技もあり、警察は経緯を簡単に納得した。ちゃっかり和真さんも事件に関わった人物としてキメ顔の写真を載せている。
「今日はその祝いをしようと皆でご飯を食べに行く予定をしているんです」
「へえ! 陽菜子ちゃんも一緒に行くの?」
「はい。なので今日は少し早めに上がりますね」
「相変わらず仲がいいわね~」
カメラに映されていた猥褻を受けた被害者達からも情報を取り、あの三人組は逮捕。陽太さんはすでに私の写真だけを消去しており、猫耳騒動は起きなかった。男性三人も陽太さん達の背後に安部財閥が佇んでいることがわかっているのか、私の名前を出すことはなかったらしい。蓮先輩が私に鞄と荷物だけを届けに来てくれたが、特に追及してくることはなかった。
(蓮先輩は絶対怪しんでると思ってたんだけど……私達が何かを隠してるって察してくれてるのかな)
勘が鋭い先輩を思い浮かべるも、優しい性格だからあえてそっとしてくれているのかもしれない。今日は久しぶりに皆さんで集まって食事をすることになっており、私は楽しみが半分、もう半分は緊張していた。
もやもやと渦巻く霧を振り払うように頭を振ると、佳代ちゃんが思い出したように手を叩いた。
「そういえば、風間君があたしに久しぶりに電話してくれた時は驚いたな。陽菜子ちゃんがバイトに来てるのかってすごい必死に問いただされてね」
「え?」
「ほら、陽菜子ちゃんが風邪で寝込んでたって時。あの時の風間君ってばすごい必死だったんだよ。電話を切った後しばらくして……閉店の準備をしてたらズブ濡れで店に飛び込んできたの」
「そうなんですか!?」
まさかバイト先にまで顔を出していたとは知らなかった。私は顔に熱が集中して驚愕の声を上げる。
「今時あんなに必死で彼女のことを探す男はいないよ。本当に大事にされてるんだね」
「うーんと……えっと……たぶん……はい」
否定することもできず、私は素直に頷いた。
「陽菜子ちゃんって何で風間君を選んだの?」
「ええ!? 何ですか急に」
「いや~? 顔を合わせるたびに喧嘩ばっかしてたなって思ってさ。陽菜子ちゃんの周りって他にもいい男いっぱいいたじゃない? 弟の水野君とか陽菜子ちゃんに懐いてたし。それこそ、生徒会会長だった土谷先輩とも仲良かったよね? 何で風間君だったのかなって」
佳代ちゃんに尋ねられ、私は首筋に結んでいたエプロンの紐を解いた。
「それは……」
私は少し考えてから、小さく呟いた。
「気が付いたら、好きになってたから……ですかね」
「え?」
「あはは。うーん……よくわかんないです」
照れくさくなり、私は佳代ちゃんにはにかんだ。いつから私は陽太さんが好きになったのか……よく覚えてない。過去を振り返りながら着替えるためにロッカーを開けると、スマホが点滅していることに気づいた。メールが受信されており、「風間陽太」という名前が浮かんでいる。
『外で待ってる』と短い文を確認し、私は慌てて時計を確認した。
「大変。もうこんな時間だ。急がないと……!」
「彼氏のお迎え?」
「そうです」
私は急いで私服に着替え、白いコートを羽織った。鏡で自分の顔を確認し、前髪をちょいちょいっと直す。お気に入りの鞄を肩にかけると私はロッカーを閉めた。
「それじゃあお先に!」
「お疲れ様。楽しんで来てね」
佳代ちゃんと挨拶を交わし、私は喫茶店の裏口から外へと出た。冷たい風が私の髪を撫で、吐いた息が白く染まった。冷え性である両手を擦り合わせ、私はキョロキョロと辺りを見渡し目的の人物を探す。
街へと繋がる路地裏をしばらく歩きビルの角を曲がると、小さな鳴き声が聞こえた。
「にゃー」
聞きなれた高い動物の声を追いかけると、積まれていた空き瓶の籠に腰かけている陽太さんを見つけた。モッズコートを着ている彼の膝に、一匹の黒猫が前足を置いている。陽太さんは大きな掌で猫の頭を撫でていた。
甘えるように猫が彼に擦り寄っていると、路地裏の奥から白い猫が姿を現した。
「にゃーお」
白猫が誘うように鳴くと、耳をピクリと動かした黒猫が陽太さんの膝から下りた。
「みゃあお」
「にゃあ」
互いの体を擦り合わせると、二匹の猫は街へと走って行く。その光景を陽太さんは追いかけていた。私はそっと近づくと、足音が響き彼が振り向く。
「おう、お帰り」
「ただいま。待たせちゃいました?」
「別に。その辺で適当に暇を潰してた」
陽太さんは立ち上がると、私の頭を撫でた。
「猫と遊んでたんですか?」
「遊んでたっていうか、勝手に近づいてきたんだよ。一瞬お前じゃねーのかって思っちまった」
「笑えないですよ、それ」
「笑えないだろ。俺も神経張ったけど……でも案外お前じゃないってわかるもんだな」
陽太さんが可笑しそうに口元を緩めた。
「俺の野生の勘には、絶対的な自信がある」
「ぷっ。野生の勘? あはは。何の根拠もないじゃないですか」
思わず吹き出すと、陽太さんがニシシッと笑った。
「ずっと一緒にいるんだ。間違えるわけねーだろ」
陽太さんは私の手を握ると、指を絡めた。隣に並び、私達は足を踏み出す。
「もう皆さん集まってますかね」
「まだじゃねー? 店は予約してるって言ってたし、多少遅れても大丈夫だろ」
「私もうお腹ペコペコです」
「俺も。今日は酒飲んでもいいかな」
「あ。私も少しだけ……」
「ダメ。絶対ダメ。飲むな」
「えー。何でですか。たまには……」
「飲むのは家だけにしろ」
「むぅ……」
そんな些細なやり取りを繰り返し、私達は明るい街灯に溢れる街通りに出た。私と彼の薬指には金色の ペアリングが光る。互いの温もりを感じながら、私と陽太さんは一緒に歩んだ。
向かい側の道で、さっきの二匹の猫が尻尾を絡めるように寄り添っている姿が一瞬だけ視界に映る。しかしすぐに乗用車に隠れてしまい、次に瞬きした時にはもう猫は消えてしまった。
ふと空に視線を向ければ、瞬く星の中で幻想的な月が浮かんでいることに気づいた。
「あ! 陽太さん、見てください。月が綺麗ですよ」
「ん? お。本当だ」
私が夜空を指さすと、陽太さんも釣られて月を見上げる。綺麗な月をしばらく眺めていると、陽太さんがふと微笑んだ。
「綺麗だな」
「はい」
「上ばっか見てて転ぶなよ」
「手を繋いでるから大丈夫ですよ。陽太さんが手を離さなければ」
「離すかっての」
陽太さんが私の手を強く繋ぎ直し、自分のコートのポケットに二人分の手を収めた。
「ふふ。あったかいです」
「これで転ばないだろ」
距離が縮まり、私は彼に寄り添いながら笑顔を返した。陽太さんは穏やかな瞳を細める。どんなに寒い夜でも、二人でいれば不思議と心地良さを感じた。
隣にいることが。温もりを感じることが。共に歩いて行くことが……こんなにも幸せなことだなんて、彼と出会う前の自分には想像だってできなかった。
「陽太さん」
「ん?」
「えへへ。呼んでみただけです」
「何だよ」
些細なやり取りが嬉しくて、私の足は軽い。
今ある幸せを噛みしめながら、私は微笑んだ。
『私は彼の迷い猫』 =END=
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