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第一章

徒歩

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かなり前に空を飛んで見たときに見えた町の方角を頼りに森のなかを歩き続ける。
道中で龍の俺には近寄ってもこない魔物たちが襲いかかってきたりしたが、魔力全快の一撃で粉砕してやった。
かれこれ歩いて数日、倒した魔物はかなりの数になり、相応の魔力を消費していた。
このままだと魔力が尽きるのも時間の問題かもしれない。

しかし、この村ってこんなにヤンヤンヤンキーしていただろうか?
人がいなくなって久しいはずなのに少し前まで人がいたような痕跡がある。
人が戻ってきているというよりは何か住み着いているのだろうか?

様々な疑念を抱きながら廃墟の町を散策していると倒れた看板があった。
その看板には謎の言語で何か書かれていた。
おそらくこの地方で使われている言葉だろう。
この世界に来たときは転生だったので、人間に転生していたら順当にいけばこれが読めたのだろう。

(はぁ、龍なんだよなぁ)

ここでチャチャっと魔法で解決することができたのならいいのだが、流石に龍の俺でも出来ることと出来ないことがある。
それに魔力を込めただけの土人形ではそんな魔法使える気がしない。

まあでも一度持ち帰って見ることにしよう。
その他にも埃を被った書物が何冊かあったのでそれをもち村を出ていこうとすると、どこかから声が聞こえてきた。
それはやはり謎の言語ではあったのだが、久しく感じる人の気配に気分が高揚してしまった。
深く考えることもなく一直線にその声の元にむかうのだった。

(ここから人の気配が…)

意気揚々と扉を鍵ごと吹き飛ばし、中に入ると檻が一つあった。
そこには恐らく人間のものと思われる少女の姿があった。
なぜ恐らくかというと、薄汚れていたということもあるが、なによりこの世界の人間が自分の知っている人間かあまり確証は持てていなかったからだ。

話しかけようと思ったが、同じ言語を有していないことを思いだし立ち止まる。
少女はこちらに対して何か言っているのだがやはりよくわからない。
取り敢えず檻から出してあげようと思い、檻を看板でぶち破る。
思ったよりも檻が脆く、派手な音をたてて崩れる。

そして倒れた少女に優しくてを差しのべようとして自分の姿をふと思い出す。
檻を一振りで吹き飛ばした異形の土人形で、顔に凹凸はなく土でできているので言葉通り土気色の体をした怪物である。

丁度余波で崩れた後ろの壁から月光が差し込み、俺の姿を照らす。

(あ、終わった)

恐怖と安堵の半々で彩られていた表情が一瞬にして恐怖一色に塗り変わる。
少女は言葉にならない叫びを上げて気絶してしまった。

これからどうしようかと思い考えていると近くで別の気配がして、振り向くとそこには少女は居なくなっていた。
遠目に少女を抱えた黒いローブの男が見えたが、若干トラウマが刺激されていたこの心理状態では追いかける気力は湧いてこなかった。

そのあと歩いて自分の元へと帰った。
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