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第一章
謎の新種
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その日は冒険者ギルドに一度顔をだし、その後次回の待ち合わせを決めて解散となった。
解散間際、リーダーのアイザックから正式にチームに入らないかと誘われた。
まだまだ稚拙なこの体を何度も見られると流石に人間じゃないとバレる可能性も考えられたのだが、バレる危険性よりも交流を重視した結果チームに入ることにした。
その日は本当にそれだけで宿に帰った。
終始ナーニャの顔は下を向いていた。
翌日、今度は昼頃に冒険者ギルドに集合した。
ナーニャは昨日よりはましになっているが、まだなにか考えているようだった。
人間をやめて久しいが、ミスひとつでここまで落ち込むだろうか?
まあ、俺が心配しなくともこの感じなら時間とアイザックが解決してくれそうだった。
まあ、なんというか、多分アイザックとナーニャは付き合ってるんだろう。
なんだかそんな雰囲気がした。
____________
緋色の空に加入してからそろそろ一週間になる。
この一週間でそこそこの時間迷宮に潜っていたが、最高到達階層は中層と呼ばれる9階層で、ここ辺りから下層のCランクモンスターが出るようになって中々進みが悪くなった。
俺個人だけでみるなら、疲労もしないので魔力が切れるまで潜っていられるが、アイザックたちは違う。
この四人の中で一番疲労がすぐに出るのが魔法使いのナーニャだ。
人は魔力を使うと精神的な疲労が溜まるらしく、迷宮内の移動もあって肉体、精神ともに強靭とは言えないナーニャは、大体6時間程で明らかな疲労を見せはじめる。
その他の三人は大体同じくらいだが、一番強靭なのは恐らくアイライだろう。
背丈ほどの大盾に金属鎧を見に纏うアイライは意外にも一番疲労を見せない。
ただ寡黙だから判別がついていないという可能性もあるのだが。
因みに四人の中で一番アイライと仲がいい。
バレないように積極的に話さないようにしているので、どこかで共感を持たれたんだろう。
それと、一週間でFランクからEランクに上がった。
冒険者ランクはDまでは案外簡単に上がるらしく、基本的にDから上が冒険者と呼ばれ、E以下は見習いと見なされるらしい。
受付のお姉さんに聞いた話では、この調子ならすぐにDランクに上がるそうだ。
アイザックも能力だけならCランククラスの能力があるから後は経験だけだと言っていた。
因みに緋色の空はアイザックとアイライとセルンがCランクでナーニャはDランクだそうだ。
Dランクから上は試験に合格しないと昇格はできないらしく、アイザックはBランクになってやると息巻いていた。
試験というのは特殊な依頼をこなすとか、大きな功績を作るとかそんなところだ。
まあGランクのゴブリンを永遠に倒していても最高位のSランク冒険者にはなれないということなのだろう。
因みに俺の見立てでは他のCランクと比べて確かにアイザックの動きは頭ひとつ良いが、それがBランククラスなのかと聞かれると、実際にBランク冒険者の動きを見たことがないのでどうとも言うことはできない。
このハレイユを拠点とするBランクパーティーが2つあるのだが、そのどちらもが下層に潜っているので中層をメインにしている俺にはよくわからない。
それとパーティーランクというのは、個人のランクではなくパーティーとしての能力を見たものである。
Cランクパーティーはこのハレイユには5チームしかないらしく、いいところに拾われたものだ。
閑話休題_____
それでなぜナーニャの話から始まりこんな話をしていたのかというと、ちょっと前にナーニャがミスをして落ち込んだでそれは何日かしたら治ったのだが、やはり時々物憂げな表情をするのだ。
それがナーニャの自分の力不足を嘆いているじゃないかと思ったからだ。
ともに行動してまだ一週間ではあるが、だからこそわかることもあるのだと思う。
もしくは皆もう気づいているが、長い付き合いなので言い出しにくいのだろう。
ナーニャは明らかに他の三人よりも能力が劣っている。
それはひとつしたのDという冒険者ランクからも明らかだろう。
ナーニャは2年ほど前にDに上がったそうだがそれ以降ランクは停滞しているようだ。
ナーニャ自身もわかっているだろうが、ナーニャには魔法の幅が少なく、魔力もそこまで多くない。
使える魔法は炎魔法のみで、これまでで三種類の魔法しか使っているところを見ていない。
それは初級魔法が二つと溜めの長い中級魔法が一つだ。
お世辞にも対応力は高いとは言えず、Cランクになるとしたらもう少し詠唱速度を上げるなり新しい中級魔法を覚えるなりしないといけないのだが、魔法というのは使える人から使えない人へ伝授していくもので、今覚えている呪文も昔教えてもらったものらしい。
まだ20才前のナーニャならば、まだ鍛えようによってはCランクにもなれるかもしれないが、それも教えてもらえる場所があればの話。
独学で勉強しようにも、書店で魔術書を買って試行錯誤するしかないのでむずかしいのだ。
それにナーニャがなぜ今いきなり落ち込み始めたかというと多分それは俺のせいでもあるのだろう。
後から入ってきた新入りはかなりの実力を発揮しているが、昔からいる自分は伸び悩んでいて、正式に加入が決定して自分が追い出されてしまうのではないかと思っているのだろう。
これはBランクに上がるのに焦ったアイザックが大した話し合いもせずに決定したせいもあるだろう。
こればっかりはナーニャに自信を持てるだけの実際にてにいれてもらうほかない。
閑話休題_____
今俺たちはギルドが出したある依頼を遂行中だ。
その依頼というのが、先日迷宮の中で新種、もしくは亜種と思われる魔物が発見されたそうで、その未確認生物モンスターの調査および討伐が今回のいらいとなっている。
成功報酬は討伐で1万マリア、調査で1000マリアだった。
最初に目撃された階層は上層の2階層で、最近は3階層に見られたそうだ。
目撃証言からは恐らく相手は一匹のみで、徐々に下の階層に向かっている。
ネズミ型の魔物だそうなのでチューラットの亜種だろうという結論が出た。
因みに魔物の亜種は時々でてくるが、基本的には原因不明で強くなるものから弱くなるものもいる。
今回のやつも弱くなっていてくれると楽でいいのだが……
「だ、誰か助けてくれー!!」
今回の依頼について考えていると少し先から助けを呼ぶ声が聞こえてくる。
走ってその場に向かうと腕を噛みちぎられた男が倒れていた。
そこら辺にいる男たちもかなりの怪我を負っていた。
「セルン応急処置だ!」
「わかっています。動かないでくださいね」
「彼らたしかDランクパーティーよね?こんな上層で一体なぜ?」
Dランクパーティーというのはハレイユ迷宮の上層では十分な能力だと言えるだろう。
それがこうも無惨な姿を晒しているとなると相手はCランククラスの魔物になる。
チューラットというEランクの魔物がCランクまでなるのだろうか?
少し嫌な予感がする。
ここは一度引き上げて作戦を建て直した方がいいかもしれない。
アイザックに撤退をしようと言おうと思い顔を上げるとそこにアイザックは居なくなっていた。
(あいつ先走りやがった)
よくみるとナーニャとアイライも居ない。
付いていったようだ。
予想が正しければ三人では手こずる可能性が高い。
アイザックを追いかけようとすると、反対側から魔物の気配が現れる。
タイミングが悪すぎる。
この場には重傷の冒険者が四人と応急措置中のセルンだけ。
こいつらを倒してからじゃないと向かえそうにない。
(頼むからもってくれよ)
「イップンデカタヅケル」
アイザックside___
大怪我を負った冒険者をみて心配でもなく恐れでもなく真っ先に俺はこう思った。
(今回の魔物を倒せば昇格に近づける)
そう瞬時に考えた俺の目は見覚えのない魔物の影を捉えた。
何か他のことを考えるよりも前にもう走り出していた。
角を抜ける。
すると突如として高速で何かが飛来してくる。
咄嗟に引き抜いた剣で防ぐとその物体は血を撒き散らす。
(しまった!やられた!)
そう思った時にはもう遅く、目のなかに血が入り視界を赤く染め上げる。
急いで目を擦りやっと視界が開けたと思ったら、目の前には見たことのない魔物。
防ぎようがない、このままだと死ぬ、死にたくない。
そんなことを考えていると体が思うように動かなくなる。
そして魔物の攻撃があたる寸前。
「ファイアーショット!」
炎の玉が飛来し魔物に当たる。
だが、威力が足りず直ぐに態勢を建て直し、再び飛びかかる。
すると魔物と俺の射線上に大きな盾をもった大男が聳え立つ。
ガギィッ!!
「…アイザック!」
「す、すまんアイライ」
「ちょっと!私のことを忘れないでよ!」
一度死にかけた事と、仲間に助けられたことで頭に上っていた血が戻り、冷静な思考を取り戻す。
今考えるべきはどうやって悪知恵の働くあいつを倒すのかだ。
奴の速度はかなりのものでついていけるのは俺とアイライ、それとブアくらいだろう。
ナーニャの初級魔法じゃ大したダメージにはなっていなかった、今この場にいるのは俺とアイライとナーニャのみ。
このまま三人で戦うのは強さがわからない魔物相手にはしたくない。
ここは二人が来るまでの時間稼ぎが必要だ。
「ナーニャ!セルンたちは?」
「セルンは応急措置中、ブアは魔物に足止めをされてた」
「二人が来るまで時間稼ぎだ!」
化け物が高速でナーニャに向かって飛びかかる。
そこにすかさずアイライが入ってガードする。
グギイィン!
ストーンスタチューの攻撃も受けきれるアイライのガードを弾くほどのパワー。
そして瞬時に態勢を建て直し再び加速するまでの僅かな時間に風を付与した剣で切り込む。
「エンチャント・ウィンド」
ガキぃ!
魔物の体の至るところから飛び出している骨が動き防がれる。
この魔物、さっきから感じていたがチューラットの亜種とは考えられないほどに強すぎる。
亜種というのはよくてランクが一段階の上昇だが、こいつはEランクのチューラットと比べて二つ高いCランククラスのパワーとスピードを持っている。
それに知能も高い。
下層には鼠型の魔物はいないから恐らく外からはいってきたのだろう。
しかし、2mほどの巨体、鋼鉄クラスの前歯、突き出た硬い骨、骨の尻尾。
こんな異形な魔物は見たことがない。
アンデッドにしては生物の気配がするが、真っ当な生物という感じでもない。
黒魔術によって作られた人工生物か?
いや、そんな都市伝説みたいな話は流石にありえないか。
ジリジリと距離を図る化け物に風の初級魔法を打つ。
「ウィンドエッジ」
だが、また骨が動き魔法を防ぐ。
やはりあの骨は高い魔法耐性を持っているようだ。
だが、相手が攻め込んでこないのは好都合だ、このまま時間を稼がせてもらおう。
(早く来てくれよ、ブア、セルン)
化け物に剣を向け、いつ動かれてもいいように構えていると、足に突如激痛がはしる。
足元を見ると、さっき投げられたチューラットが足に噛みついていた。
確実に致命傷と思える傷を負っているのにも関わらず動くこの生物。
それは生きとし生けるもの全てを恨むゾンビだった。
チューラットのゾンビなんて聞いたことがない。
つまりこの化け物が作り出したのか?
チューラットのゾンビを切り飛ばし叫ぶ。
「こいつはゾンビを作り出す!死体に注意しろ!」
そう叫んだら示し会わせたように転がっていた死体が次々と動きだす。
ゾンビにまとわりつかれ、それの対応をしようとするとあの化け物がその隙を狙い飛びかかってくる。
剣をそちらに向けようとすると手にゾンビチューラットが噛みついてくる。
(しまったっやられる!)
そう思い咄嗟に目を閉じてしまう。
しかし、衝撃はやってこない。
恐る恐る目を開けると、壁際に倒れ伏せている化け物。
そして背後には最近仲間になった獣人のブアとセルンの姿だった。
ブアside___
ギリギリ間に合ったようだ。
魔物の群れを片付けたと思ったら倒れていた冒険者がゾンビになるなんて思っていなかった。
ゾンビとなってしまうともう治療のしようはなく、人間に戻すにしても人間には扱えないレベルの魔法が必要になってくるらしく、やむを得ず排除することになった。
角を曲がると、アイザック達がゾンビになったチューラットたちに絡まれ死にかけていたので足元にいたチューラットを新種に投げつけギリギリ救うことができた。
新種の魔物はチューラットにも似た前歯と尻尾を持ってはいるが、全くの別物とみていいだろう。
2m程の巨体に突き出た肋骨のような骨、前歯は硬質な輝きと魔力を纏っている。
そして魂の形は歪みきっていて、天然でこうなるということはまずないだろう。
つまりこの魔物は人の世界で黒魔術とよばれる分野が作り出した存在だろう。
しかし、どこかで見たような気がする。まあ、気のせいだな。
緋色の空が全員集合し、戦闘態勢をとり終わると、新種は脱兎のごとくスピードで迷宮の奥に逃げていった。
その逃げる新種に対してナーニャが魔法を追い討ちしていたが、防がれてしまいそのまま逃げていった。
アイザックが追おうとしていたが、次に一人になられたら本当に死にそうなのでセルンとアイライが力ずつくで止めていた。
討伐こそは不可能だったが、外から来た強力な新種の魔物発見という情報は瞬く間にハレイユに広がり、ゾンビ化という能力も相まって高位の神官がくるまで迷宮探索は禁止になった。
因みにこの発見の功績でDランク冒険者になった。
解散間際、リーダーのアイザックから正式にチームに入らないかと誘われた。
まだまだ稚拙なこの体を何度も見られると流石に人間じゃないとバレる可能性も考えられたのだが、バレる危険性よりも交流を重視した結果チームに入ることにした。
その日は本当にそれだけで宿に帰った。
終始ナーニャの顔は下を向いていた。
翌日、今度は昼頃に冒険者ギルドに集合した。
ナーニャは昨日よりはましになっているが、まだなにか考えているようだった。
人間をやめて久しいが、ミスひとつでここまで落ち込むだろうか?
まあ、俺が心配しなくともこの感じなら時間とアイザックが解決してくれそうだった。
まあ、なんというか、多分アイザックとナーニャは付き合ってるんだろう。
なんだかそんな雰囲気がした。
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緋色の空に加入してからそろそろ一週間になる。
この一週間でそこそこの時間迷宮に潜っていたが、最高到達階層は中層と呼ばれる9階層で、ここ辺りから下層のCランクモンスターが出るようになって中々進みが悪くなった。
俺個人だけでみるなら、疲労もしないので魔力が切れるまで潜っていられるが、アイザックたちは違う。
この四人の中で一番疲労がすぐに出るのが魔法使いのナーニャだ。
人は魔力を使うと精神的な疲労が溜まるらしく、迷宮内の移動もあって肉体、精神ともに強靭とは言えないナーニャは、大体6時間程で明らかな疲労を見せはじめる。
その他の三人は大体同じくらいだが、一番強靭なのは恐らくアイライだろう。
背丈ほどの大盾に金属鎧を見に纏うアイライは意外にも一番疲労を見せない。
ただ寡黙だから判別がついていないという可能性もあるのだが。
因みに四人の中で一番アイライと仲がいい。
バレないように積極的に話さないようにしているので、どこかで共感を持たれたんだろう。
それと、一週間でFランクからEランクに上がった。
冒険者ランクはDまでは案外簡単に上がるらしく、基本的にDから上が冒険者と呼ばれ、E以下は見習いと見なされるらしい。
受付のお姉さんに聞いた話では、この調子ならすぐにDランクに上がるそうだ。
アイザックも能力だけならCランククラスの能力があるから後は経験だけだと言っていた。
因みに緋色の空はアイザックとアイライとセルンがCランクでナーニャはDランクだそうだ。
Dランクから上は試験に合格しないと昇格はできないらしく、アイザックはBランクになってやると息巻いていた。
試験というのは特殊な依頼をこなすとか、大きな功績を作るとかそんなところだ。
まあGランクのゴブリンを永遠に倒していても最高位のSランク冒険者にはなれないということなのだろう。
因みに俺の見立てでは他のCランクと比べて確かにアイザックの動きは頭ひとつ良いが、それがBランククラスなのかと聞かれると、実際にBランク冒険者の動きを見たことがないのでどうとも言うことはできない。
このハレイユを拠点とするBランクパーティーが2つあるのだが、そのどちらもが下層に潜っているので中層をメインにしている俺にはよくわからない。
それとパーティーランクというのは、個人のランクではなくパーティーとしての能力を見たものである。
Cランクパーティーはこのハレイユには5チームしかないらしく、いいところに拾われたものだ。
閑話休題_____
それでなぜナーニャの話から始まりこんな話をしていたのかというと、ちょっと前にナーニャがミスをして落ち込んだでそれは何日かしたら治ったのだが、やはり時々物憂げな表情をするのだ。
それがナーニャの自分の力不足を嘆いているじゃないかと思ったからだ。
ともに行動してまだ一週間ではあるが、だからこそわかることもあるのだと思う。
もしくは皆もう気づいているが、長い付き合いなので言い出しにくいのだろう。
ナーニャは明らかに他の三人よりも能力が劣っている。
それはひとつしたのDという冒険者ランクからも明らかだろう。
ナーニャは2年ほど前にDに上がったそうだがそれ以降ランクは停滞しているようだ。
ナーニャ自身もわかっているだろうが、ナーニャには魔法の幅が少なく、魔力もそこまで多くない。
使える魔法は炎魔法のみで、これまでで三種類の魔法しか使っているところを見ていない。
それは初級魔法が二つと溜めの長い中級魔法が一つだ。
お世辞にも対応力は高いとは言えず、Cランクになるとしたらもう少し詠唱速度を上げるなり新しい中級魔法を覚えるなりしないといけないのだが、魔法というのは使える人から使えない人へ伝授していくもので、今覚えている呪文も昔教えてもらったものらしい。
まだ20才前のナーニャならば、まだ鍛えようによってはCランクにもなれるかもしれないが、それも教えてもらえる場所があればの話。
独学で勉強しようにも、書店で魔術書を買って試行錯誤するしかないのでむずかしいのだ。
それにナーニャがなぜ今いきなり落ち込み始めたかというと多分それは俺のせいでもあるのだろう。
後から入ってきた新入りはかなりの実力を発揮しているが、昔からいる自分は伸び悩んでいて、正式に加入が決定して自分が追い出されてしまうのではないかと思っているのだろう。
これはBランクに上がるのに焦ったアイザックが大した話し合いもせずに決定したせいもあるだろう。
こればっかりはナーニャに自信を持てるだけの実際にてにいれてもらうほかない。
閑話休題_____
今俺たちはギルドが出したある依頼を遂行中だ。
その依頼というのが、先日迷宮の中で新種、もしくは亜種と思われる魔物が発見されたそうで、その未確認生物モンスターの調査および討伐が今回のいらいとなっている。
成功報酬は討伐で1万マリア、調査で1000マリアだった。
最初に目撃された階層は上層の2階層で、最近は3階層に見られたそうだ。
目撃証言からは恐らく相手は一匹のみで、徐々に下の階層に向かっている。
ネズミ型の魔物だそうなのでチューラットの亜種だろうという結論が出た。
因みに魔物の亜種は時々でてくるが、基本的には原因不明で強くなるものから弱くなるものもいる。
今回のやつも弱くなっていてくれると楽でいいのだが……
「だ、誰か助けてくれー!!」
今回の依頼について考えていると少し先から助けを呼ぶ声が聞こえてくる。
走ってその場に向かうと腕を噛みちぎられた男が倒れていた。
そこら辺にいる男たちもかなりの怪我を負っていた。
「セルン応急処置だ!」
「わかっています。動かないでくださいね」
「彼らたしかDランクパーティーよね?こんな上層で一体なぜ?」
Dランクパーティーというのはハレイユ迷宮の上層では十分な能力だと言えるだろう。
それがこうも無惨な姿を晒しているとなると相手はCランククラスの魔物になる。
チューラットというEランクの魔物がCランクまでなるのだろうか?
少し嫌な予感がする。
ここは一度引き上げて作戦を建て直した方がいいかもしれない。
アイザックに撤退をしようと言おうと思い顔を上げるとそこにアイザックは居なくなっていた。
(あいつ先走りやがった)
よくみるとナーニャとアイライも居ない。
付いていったようだ。
予想が正しければ三人では手こずる可能性が高い。
アイザックを追いかけようとすると、反対側から魔物の気配が現れる。
タイミングが悪すぎる。
この場には重傷の冒険者が四人と応急措置中のセルンだけ。
こいつらを倒してからじゃないと向かえそうにない。
(頼むからもってくれよ)
「イップンデカタヅケル」
アイザックside___
大怪我を負った冒険者をみて心配でもなく恐れでもなく真っ先に俺はこう思った。
(今回の魔物を倒せば昇格に近づける)
そう瞬時に考えた俺の目は見覚えのない魔物の影を捉えた。
何か他のことを考えるよりも前にもう走り出していた。
角を抜ける。
すると突如として高速で何かが飛来してくる。
咄嗟に引き抜いた剣で防ぐとその物体は血を撒き散らす。
(しまった!やられた!)
そう思った時にはもう遅く、目のなかに血が入り視界を赤く染め上げる。
急いで目を擦りやっと視界が開けたと思ったら、目の前には見たことのない魔物。
防ぎようがない、このままだと死ぬ、死にたくない。
そんなことを考えていると体が思うように動かなくなる。
そして魔物の攻撃があたる寸前。
「ファイアーショット!」
炎の玉が飛来し魔物に当たる。
だが、威力が足りず直ぐに態勢を建て直し、再び飛びかかる。
すると魔物と俺の射線上に大きな盾をもった大男が聳え立つ。
ガギィッ!!
「…アイザック!」
「す、すまんアイライ」
「ちょっと!私のことを忘れないでよ!」
一度死にかけた事と、仲間に助けられたことで頭に上っていた血が戻り、冷静な思考を取り戻す。
今考えるべきはどうやって悪知恵の働くあいつを倒すのかだ。
奴の速度はかなりのものでついていけるのは俺とアイライ、それとブアくらいだろう。
ナーニャの初級魔法じゃ大したダメージにはなっていなかった、今この場にいるのは俺とアイライとナーニャのみ。
このまま三人で戦うのは強さがわからない魔物相手にはしたくない。
ここは二人が来るまでの時間稼ぎが必要だ。
「ナーニャ!セルンたちは?」
「セルンは応急措置中、ブアは魔物に足止めをされてた」
「二人が来るまで時間稼ぎだ!」
化け物が高速でナーニャに向かって飛びかかる。
そこにすかさずアイライが入ってガードする。
グギイィン!
ストーンスタチューの攻撃も受けきれるアイライのガードを弾くほどのパワー。
そして瞬時に態勢を建て直し再び加速するまでの僅かな時間に風を付与した剣で切り込む。
「エンチャント・ウィンド」
ガキぃ!
魔物の体の至るところから飛び出している骨が動き防がれる。
この魔物、さっきから感じていたがチューラットの亜種とは考えられないほどに強すぎる。
亜種というのはよくてランクが一段階の上昇だが、こいつはEランクのチューラットと比べて二つ高いCランククラスのパワーとスピードを持っている。
それに知能も高い。
下層には鼠型の魔物はいないから恐らく外からはいってきたのだろう。
しかし、2mほどの巨体、鋼鉄クラスの前歯、突き出た硬い骨、骨の尻尾。
こんな異形な魔物は見たことがない。
アンデッドにしては生物の気配がするが、真っ当な生物という感じでもない。
黒魔術によって作られた人工生物か?
いや、そんな都市伝説みたいな話は流石にありえないか。
ジリジリと距離を図る化け物に風の初級魔法を打つ。
「ウィンドエッジ」
だが、また骨が動き魔法を防ぐ。
やはりあの骨は高い魔法耐性を持っているようだ。
だが、相手が攻め込んでこないのは好都合だ、このまま時間を稼がせてもらおう。
(早く来てくれよ、ブア、セルン)
化け物に剣を向け、いつ動かれてもいいように構えていると、足に突如激痛がはしる。
足元を見ると、さっき投げられたチューラットが足に噛みついていた。
確実に致命傷と思える傷を負っているのにも関わらず動くこの生物。
それは生きとし生けるもの全てを恨むゾンビだった。
チューラットのゾンビなんて聞いたことがない。
つまりこの化け物が作り出したのか?
チューラットのゾンビを切り飛ばし叫ぶ。
「こいつはゾンビを作り出す!死体に注意しろ!」
そう叫んだら示し会わせたように転がっていた死体が次々と動きだす。
ゾンビにまとわりつかれ、それの対応をしようとするとあの化け物がその隙を狙い飛びかかってくる。
剣をそちらに向けようとすると手にゾンビチューラットが噛みついてくる。
(しまったっやられる!)
そう思い咄嗟に目を閉じてしまう。
しかし、衝撃はやってこない。
恐る恐る目を開けると、壁際に倒れ伏せている化け物。
そして背後には最近仲間になった獣人のブアとセルンの姿だった。
ブアside___
ギリギリ間に合ったようだ。
魔物の群れを片付けたと思ったら倒れていた冒険者がゾンビになるなんて思っていなかった。
ゾンビとなってしまうともう治療のしようはなく、人間に戻すにしても人間には扱えないレベルの魔法が必要になってくるらしく、やむを得ず排除することになった。
角を曲がると、アイザック達がゾンビになったチューラットたちに絡まれ死にかけていたので足元にいたチューラットを新種に投げつけギリギリ救うことができた。
新種の魔物はチューラットにも似た前歯と尻尾を持ってはいるが、全くの別物とみていいだろう。
2m程の巨体に突き出た肋骨のような骨、前歯は硬質な輝きと魔力を纏っている。
そして魂の形は歪みきっていて、天然でこうなるということはまずないだろう。
つまりこの魔物は人の世界で黒魔術とよばれる分野が作り出した存在だろう。
しかし、どこかで見たような気がする。まあ、気のせいだな。
緋色の空が全員集合し、戦闘態勢をとり終わると、新種は脱兎のごとくスピードで迷宮の奥に逃げていった。
その逃げる新種に対してナーニャが魔法を追い討ちしていたが、防がれてしまいそのまま逃げていった。
アイザックが追おうとしていたが、次に一人になられたら本当に死にそうなのでセルンとアイライが力ずつくで止めていた。
討伐こそは不可能だったが、外から来た強力な新種の魔物発見という情報は瞬く間にハレイユに広がり、ゾンビ化という能力も相まって高位の神官がくるまで迷宮探索は禁止になった。
因みにこの発見の功績でDランク冒険者になった。
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