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聖地巡礼〔付録02・狼少年現代録〕

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聖地巡礼〔狼少年付録〕

※[狼少年現代録]のスピンオフ的作品。

小説投稿サイト提供お題・バイクに沿って制作。

 高校を卒業した後に就職した会社の業務内容は毎日絶えず永久に繰り返されるクレームの電話対応だった。
始めてすぐに嫌気が差し、辞めたくなったが、石の上にも三年と言う誰かが言った根拠が明確でない、無責任な言葉を信じ、仕事を続けた結果、三年程で体調を崩し、結局は辞めた。
体調を崩す前に辞めればよかったと思う。
硬い石の上に三年も居たら確かに体調は崩す、あの言葉の裏に隠された真の意味を知った。
それから半月程し体調も回復して来たので体力を以前と同じ水準に戻そうと思い、習慣の様に朝から夕方迄当てもなく外を毎日欠かさずブラブラ歩いていた。

そんな僕はある本を見つけた、場所は東京神田神保町にある古本屋。本棚の上部、脚立を使わないと届かない端に窮屈粗末に押し込まれてる感じだった。
カバー無く、丸裸で本の外観は下地が黒で上に赤い薔薇が沢山散りばめられ様にプリントされており、薔薇の棘茎に目を中通しされた髑髏や茎に絡め取られた裸の子供、裸の少女、蝉、狼、蝶などが、可哀想な感じに描かれていた……
あまり趣味が良いとは言えない。
中の紙質は黄色く黄ばみ、数年もしくは十年は経過している様に感じた。
題名は[狼少年現代録]
元の定価を確認しようとしたら見当たらない、古本屋の百円表記のシールが貼ってあるだげだった。
この本はどうやら自費出版された本のようだ。
開いて内容を確認してみると半分ノンフィクションの恋人同士の日常が描かれた日記の様な物語だった。
なんとなく気にはなり、百円と安くもあったので購入しておいた。
珍しい古本との出会いは縁みたいな物でその時に購入しておかないと再び逢える事は無いと僕は考えているので値段が許す限りは買う様に癖が付いていた。

家に帰り夕飯を済ましたら自室で購入した数冊の古本をリュックから取り出し読んでみる……『うーん』読んでみると、どの本も中場で退屈な気分になり、失敗したと思った。最後にあの自費出版の文庫本を取り出し一途の希望を託し読んで見た……

内容は予想してた通り、素人が書いたサッパリした軽い感じだったが理不尽なクレーム対応で神経が擦り減らされ病んでいた自分にはその簡素加減が気楽に読める心持ちに感じ、軽快に無意識に読み進める事ができた。
中身をもう少し語ると描かれた物語の舞台世界は現実的世界ではあるが微妙にあらゆる物が変に歪んでいる世界に感じる……
この本に登場する主役の男性はどこか頼りなくいい加減でその性格が自分に似ていて不思議と親近感を感じた。この男性を自分に置き換える心持ちでこの本を読んでみると、何か気持ちが劇中のヒロインと疑似恋愛をしているかの様な感じに錯覚が起きてくる……
推測ではあるがこの本の作者はそれを狙って書いているのではないかと感じた、一方この本に登場するそのヒロインの方は年齢は25と設定してある。この本を書いた作者を投影したキャラなら本の古さ加減からして作者ももうそれなりの歳に思えるが逢って見たい気にもなる。

この物語の舞台場面である公園や駅の名称を少し変えてはいるが実際に存在している場所の様に思えたのでネットで調べて見た……
予測ではあるが物語の舞台は神奈川のある地域と特定できた。
ページの後ろの方には一枚の写真が挟んであった、撮った場所はどこかのアパート前で被写体は白いワンピース姿の女性でその女性が大きい亀の両手を持ち万歳させてる感じで写っている。
また向日葵が写り込んでいる事から季節は夏だと思う。
カラーではあるが、ピンボケしており、顔の方は良くわからなかったがそのボヤけてる感じが何か懐かしく儚い貴重な時を写した様な良い写真に見えた。作者かな?
次の日の朝、僕はその物語に登場する場面場面を聖地巡礼の様に回ろうと思い、その文庫本をポケットに押し込み、玄関を出た時……もう実家を出て自立している兄貴が物置に置いていった、現在壊れていると思われる、古い250CCのスポーツバイクが何故か不意に気になった……
鍵は時が止まった様に鍵穴に刺さったままだった……
試しにエンジンをかけてみるとスムーズにかかってくれたので二輪の免許だけは学生の時に習得していた事もあり、電車バス徒歩の旅からバイク旅に急遽変更する事とした。

アクセルを絞ると《グウィーンー》と加速しエンジンが唸るー。
やはり250はパワーが原チャリとは違くスゲーと感じた! 僕は何か大きな力を得た様に感じ、気が大きくなり、なんと初めて高速道路に乗って見た! 高速道路は恐れてはいたが乗ってみると信号がないので思いのほか快適で身体に受けながら切る風も爽快に感じた、それは何か長年をかけて背に積もり積もった面倒くさい人間関係的な嫌なシガラミとかを後方に切り捨て、心をデドックスしながら走っている様に思えた、そのうちトンネルに突入した! トンネル中で不思議な感覚になった、それは天井の数珠繋ぎの四角いオレンジ色の流れて見える照明設備が何か途中でバックで流れ進んでいる様な錯覚に陥った、が、それがまた面白く愉快に感じた。
その脳内錯覚現象は時間が逆行しているタイムトンネルをタイムマシーンで飛んでる気にもなった。
脳内でアドレナリンが出まくり爆発してる様だった。

高速道路を問題無く降り、とりあえず物語に描かれた場所で情報が一番正確で名称を言い変えられてないと思われる山に向かった……
流石に物語の中の二人の様に登山はする気には、なれない。またその用意もしていないし体力も無い。精々行くのは登山口迄である。
着いたらポケから文庫本を取り出し、その場面のページを開き、なんと無く物語の中の世界を想像し雰囲気を感じて見る……うん、何か感じる気がする。物語の中の世界に自分も入れたような気分になる、当然ではあるが周りを見渡しても劇中の彼と彼女の姿は見当たらない、当たり前である。
五分程過ごしたら今度は物語の冒頭の舞台として描かれた宇宙公園のモデルになったと思われる実在する公園に向かった。(物語りに描かれている宇宙公園の特徴とネットで調べ実在する複数の公園の情報とを順番にしらみ潰しに照らし合わせた結果、類似点がもっとも多い公園に向かった)

到着し物語の主人公の様に公園の中をブラついてみる、感じ的に間違い無く物語の公園のモデルになった公園だと確信できた。
物語の公園中央にはスタジアムが存在する、そのスタジアムのモデルになったと思われる、実在するスタジアム前まで来た。🏟️
物語の中でのスタジアムは二四時間開放されていてグランドにも自由に誰でも入れる様に描かれてはいたが実在する公園はプレーヤー以外はグランド内には入れなかった。
なので観客席に座って見る……
そこでまた文庫本を取り出し、その場面のページを開き想像してみる。
今度は登山口の時とは違い何か虚しさが湧いた……
所詮彼女には逢えない……
僕は何をしているんだと感じたら急に吹く風も肌寒く感じてきた……
そして、そろそろ仕事をしなければと現実的な事を考え始めた……
帰る事にした。
公園駐車場を出た所で満腹仙人という中華屋が目に付いた。思えば今日は朝飯を食べただけで何もそれから食べてなかった事に気づいた。
物語の中の彼女らも入った可能性は高いと感じ同時に空腹感も感じたので入る事にした。
店の前に125CCのスポーツバイクが停められていた、僕はそれを見て心の中で『勝った』と感じ少し優越感を感じた。
店の中は半分は厨房でカウンター席がメインで隅の方にテーブル席が1セットある感じだった。そのテーブル席で茶髪でウェーブがかかったロングを後ろで縛っている髪型の女性がラーメンを食べていた。歳はまだ二十代の様に思える事から僕が探している物語の中の彼女ではまずはないだろうと感じた、服装はライダー用のバトルスーツと言われる黒い革鎧の様な物を着込んでいた。
存在は知ってたけど実際に着てる人は始めて見た。でも乗ってるバイクは交通法で高速に乗れない外に留まっている125CC? なんか服装とバイクが不釣り合いな気がした。峠でも攻めんてんのかな? まあ赤の他人の憶測はそこそこにしてカウンター席に座り、僕も普通のラーメンを油増しで注文した。
食べながら文庫本を取り出す。
中身は全部一通り読んでしまったので表装をよく観察してみる。
表装は改めて見ても不気味な感じな本である。おまけに見開きには大きい目玉が一つ描かれている👁️その目玉の細部を観察する様に観ていたら、背中にゾクっとする視線を感じた! 振り向いたら背のテーブル席に座っている女性がジーとこちらを見ていた。彼女は僕と目があったら視線をすぐにそらし少し照れる様にハニカミまた下を向きラーメンを何もなかった様に黙々と食べ始めた……
少しして……
「マスター ご馳走さまー やっぱりマスター のラーメンは宇宙壱だねー、地球の外でラーメン食べた事ないけどさ」
と少し寒いギャグを言い、お金を払い何か一言二言マスターとコソコソ会話をしその女性は出口で一瞬振り返る様な素振りをし横目で僕の事を見た気がした。その口元は少し笑っている様にも感じた、そして結局は振り返らずに店を出て行った……入れ替わる様に今度は老人が入ってきて僕の席と空席を三席挟んだ所に座り、僕を見てニヤリとしてきた(汗)マスターの受け答えからして常連の様だ。
すぐに僕にも話しかけてきた。
内容は過去の戦争に行った時の武勇伝だった、何かその話しの内容を僕は退屈に感じ、眠くなったので腕時計を見るふりをし、
「コレから用事があるので今日はこの辺で」
と切り逃げ、カウンター端のレジで、お金を払おうとしたら、
「お金は前の彼女が君の分も払って行ったからいらないよ」
「え!なんで」
「知り合いって言ってたけど?」
僕に心当たりは無い?
当然ではあるが店の外に出たら彼女の姿はもう見る事はできなかった……
店に戻り、
「あの人の名前は……」
「確かみんな仙と言ってたかな、あの子ももう三十になるのかな~前はよく来てくれていたお客様だったけど今日は久しぶりに来たな。なあ老人」
「店に来なくなったのは、ワシがシツコク過去の武勇伝を遭うたびに繰り返し話し聞かせ過ぎたからかもな……それしか話題がもうワシはないんじゃよ……」
そう語る老人の顔は寂しそうだった。
仙と言う名前からも間違いなく探していた彼女だと感じた。
俺はもっとも気になる事を再確認する様にマスターに聞いた、
「彼女は本当に三十なんですか?」
「それは間違いないよ、さっき客とは言ったが実は彼女は俺の子供と同級生だからな」
『十年くらいの歳の差だったらいける』
それにしても……そっかー 特徴のある本の表装を見て"自分"の書いた本を持っていてくれている僕に何かしらの感情が湧き、気を使ってラーメンおごってくれたのかな……
一言、話しかけてくれてもよかったのにな~と思いつつ家に帰る事にした…… 
帰り高速道路の流れる白線を見ながら思った。
僕は彼女に恋をしている。
神様の巡り合わせで奇跡的に彼女と出会える事ができたあの中華屋にちょくちょく今回と同じ時刻に通おうと思った。
縁は感じる。
そのうちにまた逢えるはずだ。
そう考えたらいつも絶望を感じる沈む夕日も今日は希望を感じ綺麗に見えた🌇

六時半🐦
家に戻ったら玄関のところに兄貴が居た、
「お、帰ってきたの」
「少し親の顔を見に寄っただけだよ、すぐ帰る、お前はどこいってたの? 体調はもういいのか?」
「聖地巡礼」
「巡礼? なんのアニメだ?」
「いやコレ」
と兄貴に文庫本を見せたら兄貴は予想以上の事を喋り出した。
「お! その本、お前どこで?」
「神田の古本屋の伏龍書房で見つけたけど何か」
「伏龍書房か~ それな俺が前に持ってた本だ、そうか~ 探してたが誤って他の本の中に混ざって気づかずに一緒に売っちまっていたのかー それは五年前に同居迄した先生……いや! 間違えた彼女が作った本なんだよ、その本は世界に一冊しか存在はしないから間違いないな」
僕はそれを聞いて動揺した!
(同居していただと!!!)
「兄貴! 彼女と、や、やったのか?」
「ん、やった?……何言ってんだ当たり前だろ、同居してたんだから身体の隅々、尻のシワの数迄知ってるよ、わっははは」
「……」
「でな! ラッキーな事に、こないだ偶然、駅で遭ってな、お互いにフリーだったから久しぶりに」
と兄貴は腰振る仕草を俺に見せつけ。
ニヤリとしてきた!

『あっ兄貴ーーー!』

「ところでそのバイク速いだろ。昔に彼女が俺の為に改造してくれたバイクだからな」

「……」

伏竜書房で僕があの本を見つける可能性は極めて低いと思う、神がかっている……
神様と世界はどこまで僕をイビレば気が済むんだ……
聖地巡礼して結果的には兄貴迄も僕の敵になった……[完]

登場した人物(ネタバレの為、巻末に記載)

主人公
仙身 双葉(せみ ふたば  男21歳)

仙身 彰馬(せみ しょうま 男24歳 双葉の兄)

仙  岳美(せん たけみ  女30歳 兄、彰馬の彼女)

※狼少年現代録から五年後のお話でした。

内容はフィクション。
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