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桃太郎その後

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桃太郎その後

 ある日の午後、婆と焼飯を食べていたら帝国から使者が訪れた。
その使者は帝国の肩章が付いた漆黒の礼服に身を包み、綺麗な細身の金髪少女だった。
その使者は一礼し、
「おめでとう御座います」
と言い、携えた書簡に両手を添えて、私に差し出した。
私は、一礼しその真紅の帝書を受け取り、ついでに勅使である、この少女の連絡先を聞いた!
が、睨まれたからやめた……。
彼女の腰に綺麗な装飾が施された金のレイピア(細刺剣)が光っていた。
私は口の中に残る焼飯を、音を立て無い様に咀嚼し、飲み込み、帝書を丁重に開いた。

【勅命】
[鬼ヶ島ノ鬼ヶ復活シセリ、君ハ直チニ鬼共ヲ殲滅シタシ、鬼ノ身ニ鋼乃刃ハ入ラナイ、ナリテ、君ノ携エル光剣ノミヶ頼ミナリテ、鬼ヲウチハタシタノチノ恩賞ハ君ノ意ノママ二、余ノ願イ任せシセリ =帝王=]

訳すと、
また悪さ始めた、鬼ヶ島の鬼を皆殺しにしろという事である。ちなみに鬼の超硬質な身体に刀の刃は入らないので、私の持つ、先祖伝来の光の剣(空間斬光刀)のみが頼りなんだってさ!

帝書には支度金として小判20枚が包んであった。
「……」
私は少女に聞いた。
「断ったら」
「アレをされた後アレです、担当は私です」少女の蒼目が光った!
私はビビり、
「わ、わかりました、鬼討伐の命、この桃太郎、謹んでお引き受け致す」
彼女は敬礼し、
「ご武運を」
……少し彼女にヤられるアレに興味も湧いたが、華麗に舞って過激にエグそうなんでやめた。

その綺麗な勅使少女を直ぐに帰すのももったいない気がし、半分は引き留める気持ちで、ちょうど作り過ぎた焼飯を進めてみた。
彼女はニッコリし、
「ほう♪美味しそうですわね、具材切る時にちゃんと手は洗いましたか?」
「洗ったワイ!」
「では、ご馳走になります、後、髭ぐらい剃った方が良いですよ」

 食事中、彼女にかつての鬼討伐の時のメンツはもう居ない事を打ち明けた。
前の鬼討伐は、
賢い猿(指揮作戦)
犬(突撃切り込み)
雉(情報収集調略)
彼らに全部任して自分は大将と言う名目で途中から逃げて本陣(テント)でビビって隠れてて何もしなかった事も告白した。
自信が無いから鬼征伐の一緒に来てくれないか、ついでに結婚もしてくれないか、駄目元でお願いしてみた!

彼女は眉を顰め、

「私のレイピアでは鬼の超硬質な身体には傷も付ける事も出来ません、帝国の武器は無力なんです。付いて行っても足で纏いですわ……あなたの光剣は帝国でも作ろうとし、一回預かった事もあったと思いましたが、知っての通り分解すら出来なかったです。またその剣は貴方の体内の気にのみ反応する様になってます、貴方しかいないんです、どうぞ頑張ってください。とは言え、作戦的には降伏すると見せかけ、鬼頭の前に立ち、一振りのもとに首を落とすか、もしくは鬼の城に夜にひっそりと忍び込み、鬼頭の寝込みを襲う、暗殺的手段しかないと思います、真正面から挑んだら多勢に無勢です」
と彼女はハッキリと言った。

結婚に付いてはスルーされた……

「いや無理を言ってごめん、参考になったよ……」
と私は返した……

 一つ気になったのは、前の鬼征伐の時に光剣をあの犬は口に咥ふあんえ、猿と普通に交代で絶妙なコンビネーションで使いこなしていたが?
俺は奴ら同類の獣なのか?と少し思った。

その後は、たわいもない雑談を交わし。

 彼女は焼飯を全部平らげたら、胸ポッケから取り出した薄青いハンカチで口を拭き、懐から何かを取り出し、私に差し出して来た。
「これは私の私物ですがお礼です。貴方も帝国の予備兵です、身だしなみには普段から気を使ってください。
それに、だらしないとモテないですわよ」
とニコリと固い役人の顔から友達みたいな顔になった(嬉)
彼女からプレゼントされたそれは、綺麗な装飾がほどこされた折りたたみの剃刀と爪ヤスリ付きの携帯用鼈甲櫛であった。それらは彼女の香水の匂いが付着してて癒し効果がプラスされてる感じがした。
さらに嬉しい事に食事の間になんとか彼女の連絡先だけは聞くことはできた脈はあり!

 帰り時、彼女は跨った白馬の馬上から私を見つめ、一回目を閉じたら、
「後の事は貴方が生還できたら、考えます」
と言い、彼女は敬礼し、白馬に乗り帰って行った。
その言葉に私は意地でもこの任務から生還してやると、愛の為、彼女の為、そして自分自身の為に、心に誓った!


 ……と力んだものの、私は50歳を過ぎた引きこもりである、もうやる気が出ないし、前にも言った通り、かつてのメンツ、猿、犬、雉、全員、時命で死んだ、今更、非力な私に何をしろというだ……せめて猿だけでも生きてればらあいつに全部人集めからやらせるのにー。

 試しに神棚に飾ってある、ホコリまみれの光剣を手に取って、念じてみる……
《ブーンー》
柄の根本から光の刃が飛び出た!
クソー壊れてない、断る大義名分が無くなった! 流石(さすが)エイリアンテクノロジー、故障と言う文字は無い!
ハッキリ言って怖い! 行きたくない!
ていうか最近は外出しただけで具合が悪くなる……しかし勅命が下った以上は、従わなければ処罰されるイコォル死刑なわけなんだな。
ここっ困ったな、ぼぼ、ぼくは行きたくないんだな~ オニギリ食べたいんだな!
と誰かの真似をし、ふざけていても始まらない……

しょうがなく数日後、鉛の様な頭と身体を引きずって35年ぶりに出陣することにした! 髭も1ヶ月ぶりに剃った!
八十になる婆に、
「少し散歩してくる、帰りは遅くなる、飯はいらない」
と言い家を出た。

半日程で鬼ヶ島にもっとも近い海岸に到着した、気が張ってるせいか体調はそんなには悪くなかった。

 情報収集も兼ねて入った海岸沿いのそば屋の店内は薄暗く、他の客はいなかった……
そのまま出るのもアレなんで、一番安い掛け蕎麦を頼みカウンターに座った、店番をしている女性は若すぎて優良な話しは聞けなかったが、舟が必要な事を告げたら、近くの漁師が住んでる場所を教えてくれた、それ以上の情報収集は諦め、蕎麦を胃に納めたら、彼女から聞いた漁師の所へ行き、木舟を買う交渉をした、
話を聞いた漁師は、最初は舟を売る事を渋ったが、私が勅命を帯びてる事を告げ、トドメに小判を三枚見せたらあっさりと心変わりをし、木の盾もサービスしてくれた。
更に漁師に催促し貰った竹竿と白い布切れで白旗も作った、降伏するふりをし、鬼を騙し討ちにするのだ!
用意が整ったら、
小判3枚を渡し、礼を言い、遂に私は鬼ヶ島に半分は絶望的な気分で向かった、なぜなら、正直なところ、その場で鬼頭を殺した所で、手下の鬼達が私に、おとなしく従うかもカケだった……。


 しだいに空は不吉に曇り、周囲の霧も何故か急に濃くなっていた……そのうちその霧は薄く成りかけた頃……陰気な妖気を放つ鬼岩城が見えてきてしまった!
霧が晴れた事で見張りの高台の鬼も私の存在にすぐに気づき騒ぎ出した! 戦の始まりを告げる法螺貝の音が聞こえ、
『ま、まずい』と思ったら、直ぐに矢が雨の様に降って来た!
用意した木の盾で矢を防ぎながら白旗を掲げた…が無視された!
《どん!どん!どん!》木の盾に次ぎ次ぎと矢が刺さり、ダメだ!そのうち盾が崩れ、このままでは蜂の巣になる、と恐怖を感じ、たまらず海に飛び込んだ!
水中を潜り抜け鬼ヶ島の岩壁になんとかしがみついた、自分が乗って来た木の舟を沈んだようだ、鬼共の歓喜の声が上がっていた、私を舟と共に沈めたと思ってるようだった。
波に打たれながら、岩壁にしがみつ、島の周辺を回り、岩に囲まれた鬼岩城の入り口に当たる狭い砂浜以外の入り口を探す事にした。どこかに島内部に侵入できる、裏の入り口があるかも知れない!
知っての通り、初期作戦プランの降伏し、鬼頭に近づき、騙し討ちする作戦は失敗したので、こうなったら鬼頭の寝込みを襲い暗殺するのである!
しかしそんな世の中、甘く無かった……入り口は見つからなかった、そんなものは無いのかも知れない妄想である。
あったのは人がひとり入れる程の畳一枚位の岩の間の狭い空間だけであった……

 それから二日間飲まず食わずで、ただ地平線だけを眺め、『あ~ 小判持ってるのにケッチって、かけ蕎麦なんかにしないで、カツ丼セットにしとけば、良かった~』とか思いながら、その岩の窪みに居た。
腹が減って死にそうである、無線電話は海に飛び込んだ時に濡れて壊れてしまった、ケチらずに防水仕様を買っとけばよかった……。
持ってる物は遠い先祖が墜落した飛行物の中から救出した時にギンガノテイオウとか言う人からお礼に授かったと伝えられてる、腰の光剣だけである。
私は思った、
『こんな物を持ってたから、こんな事になったんだー』
八つ当たりする物がこの剣しかないので岩に打ちつけた何回も!
その時!
柄の底の部品が外れた!(知らなかった)
外れた部品はねじ込み式の蓋だった、蓋から醤油の匂いがした、前に溢した醤油の影響で柄本体と蓋が固着してたようだ……
柄の底の方を見たら食いかけの林檎の様なボタンらしき物があった、押して見た……
《ガーガーピーピー『%=☆→〒〆』》何やら知らない言葉が聞こえてきた
私はイラついて
「解るように話してー」
と剣に向かって叫んだー
『翻訳機能に設定しますピー
…こちらガーディアン支援惑星194! ナイトNO.6901919応答せよ』

ヤケになってこう言った
「腹が減ったー 助けてー そこの辺にいる鬼も殺してー」

『ピー 援護爆撃要請了解した! 座標は君が今いる所から少し離れた所に地球外生物複数の生命反応を確認した! 爆撃ポイントはそこで良いかー どうぞー』

「頼むー そこにいる鬼全員死ぬまで爆撃して」

『了解した! 5分後に爆撃を開始する、ターゲット殲滅確認作業終了後に君は救出する』

少ししたら私を球体の中心にするように光の壁(バリヤー)が包み込んだ……
続けて目の前に見たことない果物が現れた! 続けて空が歪み…空間を引き裂くように空に無数の光が現れた!それは銀色で綺麗だった……

 私はまたしても誰かに鬼退治をしてもらい、手柄は1人締めし無事に生還した、そしてまた寝た。

 こうして私の生活には元に戻った……
報酬は、たんまり貰えそうだ、まあ寝るだけの私しには使い道は無いけど……
 そして暗い部屋でまどろむ、私の耳元には、婆が作る夕食(ゆうげ)の支度の音だけが木魂し聞こえていた。
《トントン》……zzz

『あー そうだ! 彼女に連絡しないと』

【完結】2022・10・27執筆
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