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閻魔天
しおりを挟む語り・仙岳美
魂が忙しなく行き交う盆の時期、行き付けの天麩羅屋で裏メニューを注文した私は、その天麩羅のネタを、店の裏に広大と広がる墓地で、皮と骨だけの青白顔な、その風貌は、死神の様な老マスターと虫網を持ち、探し歩いていた。
墓地の土俵が荒熱を吸ってくれているおかげで暑さはあまり感じない、けど歩き回っていると喉はそれなりに渇き、腰に下げた瓢箪水筒の薄酒を一口含むと、不意にマスターが私の肩をツンツンし、耳元で「仙さん、あそこ」と囁き、指差した松の木の、枝先に、ぷかぷかと青白い人魂……じゃなく蜻蛉の大将であるオニヤンマを見受けた。
「ほら、行け、自分で獲った方が美味いから」
私は、うなずき、素早く猫足でその蜻蛉に近づきサッとそのヤンマを網の中に潜らせると手首を返し網口を折りたたみ塞ぐ。
「よっ、仙国屋!」とマスターが私を歌舞伎役者の様に褒め称える。
子供の頃によく蝶を捕まえていた。
私しになんの苦は無かった。
昔に取った杵柄である。
そして私はそのヤンマを法事客でガヤガヤとにぎあう店内のカウンター席に座り、目の前で揚げてもらう。
天麩羅菜箸でサッと目の前の敷紙の上に提供された、そのカリッと揚がった、その名も閻魔天を口に含むと、苦味のあるサンマのハラワタに海老味噌と黄身を混ぜた様な少しクセのある、複雑な味が広がり、一瞬マズと感じるも最後でもある二口目は味わい深いものを感じる、不思議な感覚に陥る旨味だった。
私は冥界と言う名の冷酒でその混沌とした口の中を整え、言う。
「これは苦美味珍味ですな」
それを聞いてマスターはキセルを取り出し、すきっ歯を見せながら自慢気にこう言う。
「だろ~、この盆の時期のオニヤンマは魂が乗ってて格別さ、まあ今の時期は法的に禁猟にになってるけどね」
[完]
解説とあとがきに代えて
オニヤンマは盆の時期、冥界とこの世の送り向かいの役を担うという……。
その言い伝えを題材にし、こしらえたのが本作である。
そして物語の肝であるオニヤンマが美味しいのかどうかは、実際に食べた事が無いので知り得ないが昆虫にも旬と言う物はあるのかも知れない。
最後に、オニヤンマの捕獲は法的に禁止されているとマスターは言っていたが、それが仏教の戒律の事なのか、どちらなのかは、基本、人間は同じ夢を見る事は無いので知り得る方法はない、夢法だけに……なんちゃって。
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