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三章 消えた精霊王の加護

29話 魔法の塩

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ーハーブティーだけでポーションと変わらない効果って…ポーションの存在意義とは…?

ギルド『七曜の獣』にはポーションを調合出来る者はいない。

薬草(ハーブ)を煮出した物でも下級のポーション程ではないが体力を回復させる効果があると聞いたエイリは見回りに出ている団員達の疲労回復の為に早速スオンが持ってきてくれたペパーミントを使いフレッシュミントティーを作った。

するとやはりエイリの『料理スキル』が高いからか通常より効果が強いミントティーが出来上がってしまった。

『アイテム鑑定スキル』でミントティーを鑑定すると体力の回復効果は『+30』に日本でも眠気覚ましのハーブというイメージが強いペパーミントを使ったからかステータス異常『眠り回復』効果も付加されている。

ちなみにアビリオがいつもミントティーを作る時の体力の回復効果はエイリが作った物の半分の効果になるらしい。

完成したミントティーは粗熱を取ってから後で飲みやすいよう冷蔵庫に入れて冷やしておくことにした。

「ザンザスさんがつぎにラニャーナにいくときのしょくじにつかえる塩をつくろうかな」

ザンザスがラニャーナへ行く時に仮拠点のような美味い食事を食べれないと落ち込んでいたので何か携帯できる調味料を作る事にした。

今回使う薬草ことハーブはジャガイモや焼いた肉と相性抜群で食欲増量効果が高いバジルだ。

このバジルを塩に漬け込み、バジルの香りをうつした塩『塩バジル』を作ることにした。

塩に漬けることで新鮮なバジルの葉を変色させず保存することが可能になる。

そして旅の途中などで焼いたり茹でたりしたジャガイモに使うだけでなく狩った魔物の肉で臭みがあるものでもこれを使えば多少は臭みも取れバジルの良い風味もつくはずだ。

「成る程、塩に薬草の香りをつけるとは考えましたね」

ザンザスに一工夫した塩を旅先に持たせたいとエイリが言うとスオンが感心したように言った。

ザンザスは入れた生物(なまもの)などが腐らない冒険者用の魔法カバンを持っているのではじめは万能調味料マヨネーズを竜鳥の卵で作って瓶に詰めたものを持たせようとエイリは考えていた。

しかし『スティリア』にはマヨネーズが存在していない。

日本でも人々を魅了する悪魔の調味料とも呼ばれるマヨネーズを持たせ仮拠点の外の食事に使おうものなら確実に目立ちそれを見た者達との間で騒ぎになるのが明らかだった。

騒ぎになりザンザスが周囲に説明する苦労をさせない為『塩』に一工夫して持たせようとエイリは考えた。

一見は何処にでもある塩に見えるので匂いに気付かれなければ騒ぎにならずザンザスも周りの人間に余計な詮索をされずに済むだろう。

塩バジルの作り方は至って簡単だ。

バジルを洗って葉についている汚れを落としザルに入れて葉を乾かしてから容器半分に塩を入れてから乾かしたバジルを塩の上に乗せて残りの塩でバジルを挟むように漬けて冷蔵庫で乾燥させるだけ。

バジルの風味はその日のうち塩に付くが2~3日漬ける方がお勧めだ。

仮拠点ではじめての塩バジル作りはバジルを洗う作業にはお手伝いがしたい年頃の猫耳姉妹も加わり5人で仲良く作った。


「結構大量に漬けるんだねぇ」

冷蔵庫に入るサイズの少し大きめの調味料用の壺二つに塩とバジルを入れる作業をしながらアビリオが言った。

「一つはスオンさんにあげるぶんです」

「私にですか…?」

少々驚いた表情でスオンが言った。

今回使用したハーブはルエンに頼まれたとはいえスオンが採取して持ってきてくれた物だ。

エイリは未だ魔物に襲われる恐怖というものは分からないが『スティリア』に住まう人々にとっては魔物の脅威は極当たり前のもの、このハーブを採りに行くのにも危険が伴っただろうにただスオンにハーブを使った塩の作り方を教えるだけでは申し訳ないのでエイリはスオンに分けるぶんの塩も作りたかった。

「ありがとうございます。完成したら大切に使いますね」

優しく微笑みながらスオンが言った。

この後ハーブを塩に漬けるだけでなく、高価すぎて買えないが白砂糖にも同じようにハーブの香りを付けることができることをエイリは話した。

白砂糖に使うハーブは特にラベンダー、シナモン、バニラビーンズのサヤなど甘い物と相性が良いハーブがお勧めでミントでもアップルミント、パイナップルミントなどを使っても良いかもしれない。

ハーブを使った料理は医食同源の考えが当たり前のエイリからすれば特に不思議ではないが、やはりハーブやスパイスの大半は薬として使うことが常識の『スティリア』ではハーブを使った料理やハーブの香りをつけた調味料に使うことはまず考えつかないらしく常識を知る大人2人のアビリオとスオンはどれにも予想以上に驚いていた。

このような話しをしながら5人で見回りに出ている団員達を癒すための夕食の用意をしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方その頃ハラスの畑区域、見回りを担当している団員達は久し振りに魔物と遭遇していた。

遭遇した魔物はまだ成体になりきっていないレッドボアだった。

成体になりきっていない若い個体でも中々の大きさのレッドボアは頭から胴体の半分程、縦に大きく裂け絶命していた。

「ルエンさんが魔物と戦っているところ初めて見たけどやっぱスゲーや!」

「オレもこんな風に強くなりたいな…」

などとまだ10代のハロルドとカインの2人は一撃でレッドボアを倒したルエンを尊敬の眼差しで見ていたが当のルエンは…。

ー随分と腕が鈍ったものだな…。

と久し振りに魔物の相手をしたルエンは苦渋の表情をしていた。

フィリルルの死後、エイリが『スティリア』に帰って来たと精霊達の知らせを聞くまで冒険者として日々魔物の相手をしていたとはいえ狩っていた魔物は雑魚ばかりだっただけでなく碌な食事をせずに酒を浴びるように飲む生活を長年続けたルエンの腕はすっかり錆びつき、体の動きも重く感じていた。

『煉獄のロウ』だった頃であれば数ヶ月程前に倒したエノルメピッグの頭部は半分以上割ることも今回のレッドボアでさえ真っ二つにすることが出来たというのにいずれもルエンからすれば中途半端だった。

今までは運良く遭遇した魔物をすぐ絶命させることができたがこれ以上の魔物や複数の高レベルの魔物を相手した場合無傷で済まないかもしれない。

最愛の妻フィリルルの忘れ形見であるルエンの娘、まだ成人すらしていないエイリを遺して死ぬわけにも不意の襲撃でエイリを失うわけにはいかなかった。

ルエンはどうにか昔のカンを取り戻そうと改めて決心した。

ギルド『七曜の獣』に来てからは鍛錬代わりにハロルド、カイン、グランドンの3人と稽古することが多いが駆け出し冒険者の3人では負傷させないよう加減しなければならず正直ルエンの鍛錬の相手にするには向かなかった。

ーそのうちアビリオを嗾(けしか)けるか…。

アビリオは昔からルエンのちょっとした言葉ですぐムキになりやすい。

アビリオの性格を利用してルエンはアビリオとでも稽古すればこの3人より良いリハビリが出来るだろうと考えていた。

そう考えているとふと、ルエンは不吉な悪臭を鼻に感じた…。

その悪臭の主は最悪な魔物の特徴のものだった…。

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