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三章 消えた精霊王の加護
35話 作戦会議
しおりを挟む「あの、ポーションのように体力が回復したりステータスが上がったりする料理を騎士団の人達に提供したいのですが良いでしょうか?」
エイリが味付けをした料理には全て回復効果、異常回復効果、ステータス向上効果が本人の意思と関係なく付加される。
これを新人騎士達の食事として出せばポーションのように体力は回復しステータスが向上できれば犠牲者を出さずオーク討伐をすることが出来るのではないか。
普段どころか日本にいた頃もそうだったがエイリは自分の能力を売り込む娘ではない。
そのエイリが事情を深く知っている者しかいないこの場ではっきりと発言した。
「駄目だ」
エイリの提案をルエンは即却下した。
「なんで?今私に出来ることはこれだけなのに何もしないでいるのは絶対嫌だよ」
エイリは自分が今出来ることをせずただ守ってもらうことに不満に思っているので引き下がらない。
ステータス向上効果がある食事を食せばオーク討伐は効率良く行えるだろう。
ルエンはその後の問題を危惧していた。
エイリの料理の効果を教官のイアソンが口止めを命じた所で情報とは余計な場所にまで漏れるものだ。
情報源が城に仕える者であれば噂が国王の側近の耳などに入ってしまいやすいだろう。
「マヨネーズとか手づくり調味料をこっそりやればバレないって!」
「お前の作るものは想像の域を超えているから言っているんだ」
そしてあらゆる効果が付加され『スティリア』にはない料理を作った者がエイリだと判明すればそれと同時に『愛し子』の娘だということがリィンデルア国王に知られてしまいかねない。
今の国王がマトモでもハーセリアの第一王子と大差ない男がリィンデルア次期国王有力候補である以上エイリが国にどのようなことで利用されるか分かったものではないからだ。
エイリが保護という名目で『白銀の愛し子』だったフィリルルのように魔脈調律以外のことで利用されてしまうことをルエンは防ぎたかった。
特に現在判明しているエイリの能力、食した者の性能を上げることが可能の料理を作れるとなれば厄介な魔物討伐に幼いエイリが同行させられかねない。
それから暫くエイリの提案とそれを却下するルエンの言い合いが続いた。
「ならば私がエイリさんの代理人として行動しましょう。それならばエイリさんのことが国王に知られるまでの時間を稼げるのではないですか?」
スオンが発言すると一気2人は静かになった。
「私は『白銀の愛し子』様に料理を教わったことで知られていますから私がエイリさんに料理を教えているということにすれば良い」
元々アビリオよりもスオンの『料理スキル』のレベルが高かったらしいのだがエイリから料理を教わってから一気にスキルレベルが上がり現在『料理スキル』がレベル25になっている。
若干味付け加減に違いはあれどエイリが料理のお手伝いをして完成した料理と同程度の効果がスオンの作る料理にも付加されるようになったらしい。
今までエイリが『スティリア』で作ってきた料理のレシピを『白銀の愛し子』がギルド『七曜の獣』の団長ザンザスに託し、それをスオンが再現したということにすれば外の者からエイリの能力を当分は欺けるのではないかとスオンが皆に提案した。
スオンはエニシ屋のオーナーということだけでなく『白銀の愛し子』から当時完全に廃れてしまっていたヤヌワ料理である味噌汁の作り方を直に教わっていたことで『スティリア』中の者から『愛し子様の弟子』としても名前を知られている人物だ。
彼が何故向上効果がある斬新な料理を作れるのか上記のことを外部の者に話せば説明がつきやすい。
「でも、それだとスオンさんが大変なんじゃないですか…?」
確かにそれならばエイリの存在を当分隠しながら守ることができる。
しかし、今のエイリ同様の効果がある料理を作れることを知られればスオンにも危険が及ぶのではとエイリは心配していた。
「私はこれでも皆さん程ではありませんが自衛はちゃんと出来ますから大丈夫です。エイリさんはまだまだ大人に守られなくてはいけない存在なのですからここは私達大人に全て任せてください」
それにこれが広まれば私の店も更に繁盛しますから願ったり叶ったりですよとスオンは商人らしい言葉も付け足して言った。
「それで部下達の生存率が上がるのならば2人の力を借りたい。俺はもう部下達を失うような目に遭いたくないからな…。もちろん国王達には絶対エイリのことは絶対話さない」
沢山の部下を任務で亡くした経験があるイアソンが2人に頭を下げながら言った。
「スオン、お前の手に負えない事態になるようであればそうなる前に俺たちに言え」
とルエンが言った。
やはり体力回復、ステータス向上効果が高いアイテムなどを作成できる者を欲する場所は多い。
場合によっては命を狙われることさえある。
ルエンは長年の友人、というよりは弟のようにさえ思っているスオンのことを気に掛けていた。
「こういうことは慣れていますが、成る可くそうならないように立ち回りますよ」
スオンはいつもの笑顔で言った。
こうしてハラス周辺のどこかにいるオークの親玉を討伐するまでの間、外見詐欺の師弟2人が作戦の要として活動することになった。
活動内容は主にエイリが知っている料理を片っ端から2人で作りその中から体力回復、ステータス向上効果のある料理をギルド団員、新人騎士達の食事として出し、それの大部分はスオンが作ったことにするというものだ。
しかしこの外見詐欺の子弟の活動によってあらぬ誤情報が出回ってしまうことになるとは誰も思わなかった…。
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