空色の娘は日本育ちの異世界人

雨宮洪

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三章 消えた精霊王の加護

閑話 ミクロの逆恨み

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「なんでなんだよ!オレが7才になったら見習いにさせてくれるって父ちゃんいってたろ!?」

「俺だってそのつもりだったさ…。だけど最近のお前の様子を見てお前をこの店の見習いにするのは早いと思った」

ミクロが幼馴染のレニとニックを巻き込みエニシ屋に忍び込む3日前、ミクロは父シャロムが経営しているパン屋にてパン職人の見習いになるべくシャロムに頼み込んでいた。

ミクロは今年で7才、職人の親を持つ子供であれば親元で見習いを始める年頃だ。

ミクロは物心ついた時から暑さに耐えながら石窯でパンを焼く父、シャロムの逞しい背中を見て育ってきた。

シャロムはミクロにとって自慢の父だ。

ミクロは将来、シャロムのようなパン職人になるのが夢だった。

ハラスに唯一あるパン屋『麦屋』の長男であるミクロがこの店で見習い職人になれば将来は自動的にこのパン屋の跡継ぎとなるわけであるが…、ミクロがシャロムに見習い志願をするとこのようなミクロの予想を裏切る回答がかえってきたのだ。

シャロムが息子ミクロを現時点で見習い職人にさせないのは"柔らかいパンの素"を作ってくれているギルド『七曜の獣』の団員見習いであるエイリや猫耳姉妹を虐めているのが理由なのだが本当の理由をシャロムがはっきり言ってしまえばこの3人に対してミクロが陰湿に仕返しするだろうと危惧しこのようにぼかして説明した。

最終的に『明日焼くパンの仕込みの邪魔だ』とミクロは作業場から締め出された。

ー"あのパン"の素の作り方をオレが知ったら見習いにさせてくれるかな…?

ミクロは前からシャロムの焼くパンが大好きだったが最近新しい製法で焼いたパンは柔らかいだけでなく小麦と雑穀の甘さ、旨味を強く感じられるもので衝撃を受ける程美味いのだ。

そしてこの美味しいパンのお陰で最近はシャロムが焼いたパンが毎日、町に滞在している騎士達から大量に注文されミクロにも『君のお父さんが焼くパンは世界一美味いよ!』と騎士に感想を言われるようになった。

だがこのパンは時折スオンが持ってきてくれる"コウボ"という特別な材料がなければ作れないらしい。

シャロムはこの"コウボ"の作り方を知らない。

"コウボ"の作り方さえ知ることができればミクロを見直し、父の元で見習い職人になれるのではとミクロは思いついた。

しかし、"コウボ"の作り方を確実に知っているであろうスオンとアビリオの2人から快く思われていないので聞いたところで教えてはくれないだろうとミクロは分かっていた。

この2人に快く思われていないのは2人が可愛がっているエイリと猫耳姉妹をミクロが目の敵にし虐めているのが原因だ。

ミクロが幼い3人を目の敵にしているのはハラスの住民達にシャロムの焼くパンは美味い、いずれミクロもその父親のように美味いパンを焼く職人になるだろうと期待され、更にシャロムの人柄もありミクロは住民達に甘やかされてきた。

それがハラスにギルド『七曜の獣』の仮拠点が設けられてから住民達はこのギルド団員達に期待の眼差しを向けるようになり、ギルド見習いとして身を置いている3人を可愛がるようになった。

『七曜の獣』の団長のザンザスはヘラヘラしているし副団長のアビリオは良く市場でおばちゃん達と井戸端会議をしていて畑に現れる害獣駆除はグランドンとハロルド、カインだけで2人が全く剣を振るう姿をミクロは見た事がない。

この2人がスティリアを救った英雄だと知ってもスティリア中が荒んでいた時代を知らない世代のミクロには何故この2人が凄いのか分からなかった。

だからミクロはこのダラシない2人が引き取って育てているリコリスとルティリスという猫耳姉妹が住民達にに『親がいなくてもあの2人が親代りなら安心ね』、『頭の猫耳が可愛い』などと可愛がられているのが余計に気に入らなかった。

ミクロにはギルド団員達が移住してくる数ヶ月前に生まれた妹がいるのだが妹が生まれてからというもの母親は妹にかかりきりになり母親の愛情を独占している妹を見ている時と同じ気分だった。

流石にミクロは実の妹が可愛いとも思っているので妹に苛立っている分も含め幼馴染のレニとニックと一緒になって猫耳姉妹に向けて『親がいない癖に調子に乗るな』、『耳が気持ち悪い』、『ミナシゴ』悪口を言って鬱憤を晴らした。

この件でミクロ達は両親だけでなく住民達から小言を言われるようになりますますミクロ達は逆恨みで猫耳姉妹にちょっかいを出すようになった。

更に数ヶ月経つと今度は『七曜の獣』の団員に黒髪の父娘が加わった。

父親の方はスオンと同じヤヌワでも目付きが鋭く只者ではない雰囲気を漂わせていたが、一見猫耳姉妹と変わらぬ年頃の娘だった。

ミクロが直接エイリに会ったのはこの父娘が町に来て一か月だった頃であったが『まだ小さいのに勉強熱心』、『外出ができないほど病弱』など噂話は良く耳にしていた。

そしてミレイとタリアが猫耳姉妹と遊んでいる様子を伺っていた時にエイリとは姉妹同然のように仲が良いと知るとミクロの中でエイリのことも虐めの標的に定め、初対面でいきなり猫耳姉妹同様に悪口を浴びさせた。

3人で猫耳姉妹と同じように思いつく限りの悪口を言ってもエイリは猫耳姉妹のように泣くことはなく、冷静に冷たく言い返してきたのだ。

身長的にミクロ達より年下に見えるのだがその時のエイリの雰囲気だけでなく口調も大人び過ぎてミクロ達にはエイリが異質の塊のように感じられた…。

それからすぐ町付近でオークが大量出現したことで特に町の子供達は引きこもりに近い生活になったので直接会うことはなくなったがエイリのことを考えると猫耳姉妹の時より苛立ちとは違う変な気持ちになるのでエイリのことはなるべく考えないようしなるべく頭の中で見習い職人になるにはどうしたら良いかのかを考えるようにしていた。

"コウボ"の手掛かりを探るチャンスは早く訪れた。

新人騎士やギルド団員が町を見回っていない、後日オークキング討伐でその者達の大半が町を離れると知りこれがチャンスとばかりにミクロ達は夜は無人のエニシ屋に忍び込み"コウボ"の作り方の手掛かりを商品棚をひっくり返してまで探したが見つからない。

こうなればギルドの仮拠点にいるであろう大人達がエニシ屋の片付けでいない間に仮拠点で留守番をしている猫耳姉妹とエイリから無理矢理聞き出すしかないという考えに至った。

少し前から仮拠点にいる黒い狼は怖いが人を噛まないようエイリが躾けていたり大人しい性格であると市場の者達が言っていたのでどうにかなるとミクロ達は思っていた。

家族が目覚める前に一旦帰宅し仮眠してから周囲がエニシ屋の異変に気付く前に予め決めていた場所に3人は集合、ギルドの仮拠点へ向かって行った。

3人がもう少し善悪の区別ができていればこの件でミクロ達は自身の家族が住民達から信用を失うことも将来が理想とかけ離れたものになることもなかったと後の彼らは生涯後悔することになる…。
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感想 9

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みんなの感想(9件)

tomato
2020.01.13 tomato

続きが読めるのを楽しみに待ってます(*^^*)

解除
nyanko
2019.11.06 nyanko

先がすごく気になります〜ぜひツヅキを〜

2019.11.21 雨宮洪

ちまちまと空色娘に使えそうなネタと文章を思いついた時に携帯のメモ機能に書いていますが、かなり先の展開に使えるネタ及び、執筆時間が中々取れず楽しみにして頂いているのに更新出来ず申し訳ないです…。

最終兵器(ノートPC)での執筆準備が整えば更新が早まると思いますのでもう暫しお待ち下さい

解除
リリス
2018.10.10 リリス

はじめて!
今、一生懸命に楽しく読ませて頂いてます!
まだ途中までしか、読み進めていないのですが、気になる箇所がありましたので、ご報告させて頂きます。
21話の最後の方でエイリがお米をもらった辺りの言葉なんですが

「口から手が出る程の~」

ではなく

「喉から手が出る程の~」

ではないでしょうか?
間違えていたらすいません(-_-;)

これからゆっくりですが楽しみながら読み進めて行きたいと思います!
微力ながら応援させて頂きます!

2018.10.12 雨宮洪

御感想ありがとうございます。

指摘されて「口から手が出る程の〜」が間違っていることに気づき先程修正しました。

御指摘および応援ありがとうございます。

こちらも最新話を更新出来るよう頑張ります!

解除

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