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14.引き戻された現実
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「あんまり調教係の手を煩わせるな」
清丸から発された低く冷たい声に、冷や汗がたらりとこめかみを流れた。
まさか何でこうもあっさり…
「まだ身体がツラいんだろう?」
そう清丸に問われて思わずカッとなった。
「なっ、違うしっ…!ツラくなんかない!!」
他の人たちの前であっさりと聞かれて、恥ずかしさで余計に悪態ついて見せた。
聞く人が聞けば、それがどういう意味のツラさなのか容易に想像できるだろう。
「走りながら何度も顔を歪めてたな。あんな状態で本当に逃げ切れるつもりでいたのか」
「えっ?!何でそんなこと知ってんの…?」
「馬ぁ鹿!そんないきなり、ただで服返してやったりするわけないだろ!ちょっとは疑えよなー」
困惑する私の耳に冬吾の声がこだまする。
朝渡された服に何か細工して…?
それからずっと見張ってたってこと?!
最初から踊らされていたのは私の方…?
ここまで走らせるだけ走らせて、期待持たせるだけ持たせて裏で嘲笑ってた…?
「最っ低…!!悔しい!バカにして!絶対に許さない!!あんた達なんかみんな狂ってる!!!」
「ぁあッ?!テメェふざけてんのか?!そんな口の利き方しやがって」
咄嗟に冬吾が怒りを露わにして、負けじと叫び返した。
「ふざけてんのはどっちよ?!」
「わーお、強気!あれだけ忠告してあげたのに、清丸チャンの調教がまだ足りてないんじゃなあい?」
アンジェリカの問いかけに、呟く清丸の冷たい声が私の耳を突き抜けた。
「確かに罰が必要だな」
一瞬背筋に何かぞくりとしたものが走った。
清丸の言うその“罰”が何なのかを、本能だけが悟った。
そんな感覚だったように思う。
清丸がひょいと私の身体を抱き上げると、短いスカートの下から下着が見えてしまいそうで、バッと裾を押さえた。
「ちょっ…離してっ!!降ろしてよ!バカ丸!!パンツ見えちゃう!!」
「イイ眺めだな」
ヒラリと風に靡いたスカートの中を覗き込んで、小次郎がニヤニヤと笑った。
「やだっ、小次郎もオッサンね」
「オッサンに言われたかないね」
「やーね、私はレディよ!淑女アンジーと呼んで?」
「呼ぶか!」
「つーかさ、そもそもこんなちんちくりん捕まえるために、こんな大人数で来る必要あったのか?」
冬吾が呟いた。
「馬鹿ね!本人に自覚皆無だけど、七瀬チャンは一応五条院家当主の許嫁なのよ?誰にどんな目的で狙われているか分からない立場なんだから、ちょっとしたことでもあたし達は最悪な状況を仮定して動かなきゃならないの!」
「そんなもん?まあ、普通に考えてこんな夜中に女子大生がそんな服で走ってたら不審だよ。むしろ警察に声掛けられたりとか、面倒なことされなくてよかったんじゃね?」
清丸の後ろで、冬吾がまだブツブツと言っている。
「うるさい!ってか放してよ!自分で歩けるから!また逃げ出してやるから!隙を見つけて絶対に逃げ出してやるから!!」
もちろん降ろしてもらえるはずはない。
悔しい…!!
こんな屈辱絶対に許せない。
都築 清丸。
私を辱め、蹂躙する憎い男。
逃げ出すその一瞬でも、この男の顔を思い浮かべたなんて反吐が出そう。
「お前のことは“よく”分かった。ちょっと甘やかし過ぎたようだな」
抱き上げられたその耳元で、清丸が囁いた。
「人のこと騙すようなことしておいて、何が分かったよ?この卑怯者!!」
思わず清丸の腕の中で暴れて、そう叫んだ。
「言い付けを破るような奴に卑怯者呼ばわりされたくはないな。昨夜のあのくだらない芝居は何だ?心底呆れ果てる」
思わず口を噤んだ。
確かに油断させたくてしたことだけど、言ったこと全部が全部噓なわけじゃない。
孤独な一週間の中で私が正気を保てたのは、皮肉にもこの男が居たからなのは確かだ。
孤独な人生の中で、夜誰かの存在をまだかまだかと密かに待ち侘びたのは生まれて初めてのことだった。
例え仕事だとしても私を抱く時にたまに見せるあの優しさは本物な気がして、少しだけ甘えていたのは事実だ。
だから逃げ出すあの一瞬、この男の顔が浮かんだのかもしれない。
男が小さく溜め息をついた。
「お前にはもう少し、ココでの秩序というものをもう一度一から教え込む必要がありそうだな」
その意味にギクリと心臓が鈍く鳴り出した。
さっき本能で感じ取ったものの正体が、“女としての恐怖”であることにやっと気付いた。
抱きかかえられたまま、言い様のない恐怖が沸々と込み上げてくる。
「派手に逃げ出しておいて、さすがに無事で済むとは思ってないよな」
さっきまでの私の強気はいつの間にか消え失せ、鼻で嗤う男の声にこの身体が震えていた。
清丸から発された低く冷たい声に、冷や汗がたらりとこめかみを流れた。
まさか何でこうもあっさり…
「まだ身体がツラいんだろう?」
そう清丸に問われて思わずカッとなった。
「なっ、違うしっ…!ツラくなんかない!!」
他の人たちの前であっさりと聞かれて、恥ずかしさで余計に悪態ついて見せた。
聞く人が聞けば、それがどういう意味のツラさなのか容易に想像できるだろう。
「走りながら何度も顔を歪めてたな。あんな状態で本当に逃げ切れるつもりでいたのか」
「えっ?!何でそんなこと知ってんの…?」
「馬ぁ鹿!そんないきなり、ただで服返してやったりするわけないだろ!ちょっとは疑えよなー」
困惑する私の耳に冬吾の声がこだまする。
朝渡された服に何か細工して…?
それからずっと見張ってたってこと?!
最初から踊らされていたのは私の方…?
ここまで走らせるだけ走らせて、期待持たせるだけ持たせて裏で嘲笑ってた…?
「最っ低…!!悔しい!バカにして!絶対に許さない!!あんた達なんかみんな狂ってる!!!」
「ぁあッ?!テメェふざけてんのか?!そんな口の利き方しやがって」
咄嗟に冬吾が怒りを露わにして、負けじと叫び返した。
「ふざけてんのはどっちよ?!」
「わーお、強気!あれだけ忠告してあげたのに、清丸チャンの調教がまだ足りてないんじゃなあい?」
アンジェリカの問いかけに、呟く清丸の冷たい声が私の耳を突き抜けた。
「確かに罰が必要だな」
一瞬背筋に何かぞくりとしたものが走った。
清丸の言うその“罰”が何なのかを、本能だけが悟った。
そんな感覚だったように思う。
清丸がひょいと私の身体を抱き上げると、短いスカートの下から下着が見えてしまいそうで、バッと裾を押さえた。
「ちょっ…離してっ!!降ろしてよ!バカ丸!!パンツ見えちゃう!!」
「イイ眺めだな」
ヒラリと風に靡いたスカートの中を覗き込んで、小次郎がニヤニヤと笑った。
「やだっ、小次郎もオッサンね」
「オッサンに言われたかないね」
「やーね、私はレディよ!淑女アンジーと呼んで?」
「呼ぶか!」
「つーかさ、そもそもこんなちんちくりん捕まえるために、こんな大人数で来る必要あったのか?」
冬吾が呟いた。
「馬鹿ね!本人に自覚皆無だけど、七瀬チャンは一応五条院家当主の許嫁なのよ?誰にどんな目的で狙われているか分からない立場なんだから、ちょっとしたことでもあたし達は最悪な状況を仮定して動かなきゃならないの!」
「そんなもん?まあ、普通に考えてこんな夜中に女子大生がそんな服で走ってたら不審だよ。むしろ警察に声掛けられたりとか、面倒なことされなくてよかったんじゃね?」
清丸の後ろで、冬吾がまだブツブツと言っている。
「うるさい!ってか放してよ!自分で歩けるから!また逃げ出してやるから!隙を見つけて絶対に逃げ出してやるから!!」
もちろん降ろしてもらえるはずはない。
悔しい…!!
こんな屈辱絶対に許せない。
都築 清丸。
私を辱め、蹂躙する憎い男。
逃げ出すその一瞬でも、この男の顔を思い浮かべたなんて反吐が出そう。
「お前のことは“よく”分かった。ちょっと甘やかし過ぎたようだな」
抱き上げられたその耳元で、清丸が囁いた。
「人のこと騙すようなことしておいて、何が分かったよ?この卑怯者!!」
思わず清丸の腕の中で暴れて、そう叫んだ。
「言い付けを破るような奴に卑怯者呼ばわりされたくはないな。昨夜のあのくだらない芝居は何だ?心底呆れ果てる」
思わず口を噤んだ。
確かに油断させたくてしたことだけど、言ったこと全部が全部噓なわけじゃない。
孤独な一週間の中で私が正気を保てたのは、皮肉にもこの男が居たからなのは確かだ。
孤独な人生の中で、夜誰かの存在をまだかまだかと密かに待ち侘びたのは生まれて初めてのことだった。
例え仕事だとしても私を抱く時にたまに見せるあの優しさは本物な気がして、少しだけ甘えていたのは事実だ。
だから逃げ出すあの一瞬、この男の顔が浮かんだのかもしれない。
男が小さく溜め息をついた。
「お前にはもう少し、ココでの秩序というものをもう一度一から教え込む必要がありそうだな」
その意味にギクリと心臓が鈍く鳴り出した。
さっき本能で感じ取ったものの正体が、“女としての恐怖”であることにやっと気付いた。
抱きかかえられたまま、言い様のない恐怖が沸々と込み上げてくる。
「派手に逃げ出しておいて、さすがに無事で済むとは思ってないよな」
さっきまでの私の強気はいつの間にか消え失せ、鼻で嗤う男の声にこの身体が震えていた。
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