好きな人間、ひとりだけ殺せるよ。

雨木良

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参【完結】

柚奈は、三廻部たちの声を聞き、また良からぬ考えが頭の中を巡り始めた。

ー 三廻部…私が毎日ツラく感じるのは彼女らのせいよね。そして、きっと三廻部がいなくなれば、他の二人も大人しくなる。…三廻部さえいなくなれば…。 

柚奈は、紙をじっと見つめた。

ー “ほうほう”って、どういう意味だろ? ー

紙に書かれている『なまえ』と『じかん』は何となく理解できたが、『ほうほう』と『びこう』がよく理解できていなかった。

ー ほうほう…“方法”のことだよね。…死に方? ー 

柚奈は考えた。例えば屋上から転落死と書けば、そのとおりになるのか。柚奈は自然と三廻部の残酷な死に方を考えていた。

すると、三廻部たちの話し声が徐々に近付いて来ていた。

「工藤もだけど、窪野もムカつくわ。センコーに助けて貰ってよ。」

「で、どうする?この窪野の制服。教室に散乱してるって、どういう状況だったかよくわかんないけど。」

「今、裸だったりして!!」

「そんな制服燃やしちまうか!」

ー え!?ちょっと! ー
ガタッ! 

柚奈は動揺してよろけてしまい、教卓にもたれ掛かってしまった。

「ん?何か音しなかったか?」

三廻部たちは、柚奈のいる教室に入ってきた。柚奈は、教卓の裏側に小さく丸くなって身を隠した。

ー お願い、出ていって。 ー

「紙、使えば?」

急にカエデの声が聞こえ、柚奈は顔をゆっくり上げると、目の前にカエデが立っていた。

「柚奈ちゃん、あの女嫌いなんでしょ?殺しちゃえばいいのに。紙に名前書いて、時間は今、方法はそうだなぁ飛び降りてもらう?フフフ。備考にさ、仲間も道連れに、って書いたら、一緒にいる女2人も一緒に死ぬんじゃない?フフフフフ。」

ー やめて。 ー

「柚奈ちゃん、ねぇ今だよ。使っちゃいなよ。」

ー やめて。やめて。 ー

「柚奈ちゃんが救われるんだよ。あんな女死んだって、誰も悲しまないんじゃない?ねぇ、ほら。」

ー やめて。やめて。やめて。 ー

「人一人の命なんて、大したことないし、柚奈ちゃんが…。」
「やめてってば!!」

柚奈は、立ち上がりながら叫んだ。

「…はぁ、はぁ、はぁ。」

柚奈は泣いていた。目の前にいたカエデは、ふて腐れた顔をしながら、またスーッと消えていった。

「窪野か?」

「お前、ブラ一丁で何やってんだ!?」

三廻部たちは、突然現れた柚奈に驚いていた。

「え、あ、あの…これは…。」

柚奈が戸惑っていると、また誰かの足音が教室に近付いてきた。

「お前ら、ここにいたか!」

工藤だった。柚奈は咄嗟に上半身を隠しながら教卓の裏に座り込んだ。

「何だ、窪野もここにいたのか。」

工藤が窪野の元に歩き出した。

「大丈夫だったか?窪野。」

柚奈は丸まったまま震えていた。

三廻部は二人の様子を伺い、工藤を睨み付けた。

工藤が三廻部たちの間を通ろうとした時、三廻部が工藤の足を引っ掛けた。工藤はそのまま倒れこみ、机に頭をぶつけた。

「いって!三廻部!何しやがんだ!」

怒鳴り散らす工藤に三廻部は近づき、シャツの襟を掴んで引き起こすと、工藤の顔面を一発殴った。

「ちょ、明菜!?」
「どうしたの!?」

三廻部と一緒にいた2人も、急な三廻部の行動に戸惑っていた。

「窪野にあんなことしたのはテメェだろ!窪野の反応と、テメェが窪野が裸なのを不審に思ってないことでわかったよ!」

「な、何の話だ!?」

慌てる工藤に、三廻部はそっと近付いた。

「女に手を出す野郎はぜってー許さねぇ。…お前の人生終わらせてやるよ。」

三廻部は工藤の耳元で呟いた。

柚奈はその様子を教卓の裏からそっと眺めていた。

「友香(ゆか)、警察呼んで。」

三廻部が仲間の一人に指示すると、工藤は諦めたように、その場に力なく座り込んだ。

三廻部は、柚奈の顔を一瞬見ると、教室から出ていった。

「三廻部さん…。」

「今、柚奈ちゃん。あの女殺さなくて良かったって思ってるでしょ。」

ー え? ー

柚奈が振り向くと、またカエデが立っていた。

「せっかくの機会だったのに。あの男も観念したみたいだし。柚奈ちゃん、今殺したい人いる?」

ー 殺したい人、殺したいくらい憎い人…。 ー

柚奈はカエデの言葉について、ゆっくり考えた。

ー 人を殺す。…きっと自分も心を痛める。そうまでして殺したい人…。 ー

柚奈は、カエデの目を見つめ首を横に振り、握りしめていた紙をカエデに突き出した。

すると、カエデはニコリと微笑んだ。その瞬間、柚奈が持っていた紙が光の粉になって宙に消えていった。

「やっぱりね。フフフ、お友達との賭けはカエデの勝ち。…柚奈ちゃんは強いよ。」

「え?」

予想外のカエデの言葉に、柚奈はドキッとした。

「いつか、柚奈ちゃんは人を恨むようになると思ったから。…人を恨むことは簡単。だけど、そうなる前に自分を変えなきゃ。恨んだって、自分も傷付くだけだから。…また、柚奈ちゃんが困ってるなって思ったら、カエデ来るからね。」

カエデは、そう言い残すとスーッと消えていった。

「…ありがとう、カエデちゃん。」

柚奈は自分の頬をパンパンと叩いて気を引き締めると、教室の外にいる三廻部の元に向かった。



後日。

「ねぇねぇ、柚奈ちゃん女の子の幽霊の話知ってる?」

柚奈は、知らないふりして首を横に振った。

「この学校、昔は小学校があった場所なんだって。その時代に、イジメにあっていた女の子がいて、ある日イジメっ子たちへの不満がたまって、階段から突き落として何人か殺しちゃっんだって。その後、自分も屋上から飛び降りたらしいの…。…それから、夜な夜なその子が化けて出るんだって!怖くない!?」

「その子は悪い子じゃないよ。優しい子だから怖くないよ。」

「…え?」

柚奈は、理科室の方向を見ながら微笑んだ。

「ね、カエデちゃん。」

【完】
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