Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

文字の大きさ
53 / 114
第4節 神という存在

(2)

しおりを挟む
畑からの衝撃の言葉に溝口は、もう一度長尾の事件の資料を見返した。

「…確かに亡くなった長尾智美と母親は二人家族で、母親の方には離婚歴があります。もう20年以上前の話ですが。」

池畑は少し考えたような表情をしてから畑に聞いた。

「信憑性は?」

畑は即答はできずに、少し黙ってから答えた。

「…正直半々です。だから、今回の記事には一切合切その事は書いていません。…でも彼女は嘘をついているようには見えなかった。彼女は気になることを言っていました。母親が桐生朱美からの手紙を隠しており、それを見た彼女が生き別れの姉が桐生朱美だと分かった、って。私が聞きたかったのはその手紙の存在なんですが、警察では見つけてないですか?」

溝口は資料をまた見直した。

「…資料を見る限り報告はないようですね。」

池畑は溝口から資料を受け取り、自分の目でも見直した。

「確かに記載はねぇな。これ、群馬県警に借りた物だ。あいつら抜き取ったんじゃねぇか。…今の日本の警察は桐生朱美の名前を広げたくはないだろ。死刑でさっくり終わらせて、呪いは完全に消え去りました、めでたしめでたしで終わらせたいはずだ。…ま、警察の俺が言う台詞じゃないが。…畑さん、後で群馬県警の知り合いにこっそり聞いてみますよ。この資料もそいつから、こっそりデータで貰ったやつを印刷したもんなんで。」

「ありがとうございます。それと、これ…。」

畑はスマートフォンの画面を池畑たちに見せた。昨日、粟田に教えて貰った長尾智美が呪いの紙を販売していたことが書き込まれている゛呪いの伝播゛という掲示板だ。

「この掲示板には、長尾智美が呪いの紙を販売していたことが書き込まれています。少なくとも半年前には販売していたようです。もし、その紙を購入した人がいるなら、桐生朱美と長尾智美意外にも呪いを使うことができる人間が世の中にいることになります。」 

溝口は、先程畑が机に置いた週刊誌の内容をさらっと読んでおり、その中には、足立が畑に行った呪いの紙を使用した実験談も載っていることに気付いた。

「呪いの紙って、ここに書かれてるやつっすよね?池畑さん、これ瀬古さんに教えて貰ったやつのことですよ。」

溝口はその記事を指差しながら池畑に見せた。

「あぁ、そうみたいだな。ということは、既に世の中に出回っている可能性が高いな。とりあえずこの掲示板調べて購入した者がいたら特定を急ぐしかないな。」

「そうですね。あと気になったんですけど、群馬県警の資料には、長尾智美については呪いの゛の゛の字も書かれてませんね。部屋の写真もありますけど、可愛い女の子らしい部屋ですし。ほら。」

溝口はそう言うと机に部屋の写真のページを置いて見せた。その写真を見て正人は何か違和感を覚えた。

「…あ、そうだ。実はこの長尾智美さん、妻の妹の知り合いだったんですよ。妹の話ですと、あるアーティストが好きで、ライブ会場で会うライブ仲間だったみたいなんです。昨日の夜に妻の妹に少し詳しく聞いてみたんですけど、“ミスト”ってバンドで、グッズもライブ仲間でいつも沢山買っていたみたいなんですよ。でも、今この写真見ると、全然バンドのグッズとかポスターみたいなのは見受けられませんね。」

畑もその話を聞いて、自分が取材に行った日のことを思い出し、記憶の中で部屋を観察してみた。

「…自分、取材で部屋に上がりましたけど、確かにミストっていうバンドのグッズは一つもなかったですよ。本当に女の子らしい部屋というか、ぬいぐるみとかそんなもんくらいで。」

池畑は確かに不思議だなと思いつつも、他の可能性も考えてみた。

「…もしかしたら、実家に置いてたんですかね。とりあえずこれも合わせて後程知り合いに聞いてみます。あとは何かありますか?」

畑は小さく頷いたが、中々話そうとしなかった。正人が心配して肩をポンと叩くと、下を向いていた畑は顔を上げて話し始めた。

「…池畑さん、私は長尾智美の死に自分が絡んでいるのではと思っています。タイミングがたまたま私と会った直後だっただけかもしれないですが、私が取材に行かなければ彼女は死ななかったんじゃないかと考えてしまうんです。

私は彼女の死の真実が知りたい。その真実には、手紙と桐生朱美も絡んでいるように思えるんです。でも、メディアでは一切報道されなくて…このまま母親の無理心中で終わらせてほしくは…。」

「畑さん。」

畑の暴走気味な言葉を池畑が止めた。 

「捜査は警察の仕事です。あなたから頂いた情報は無下にはしません。必ず群馬県警にも伝え、我々もできる限り捜査に絡みます。桐生朱美が絡むような話ならこの話は群馬のみじゃなく日本全域に及ぶ話に発展するでしょう。でも、捜査した結果、やはり無理心中という結論で終わるかもしれません。その場合は潔くご納得頂きたい。」

「わかってます。本当にありがとうございます。」

畑は立ち上がって頭を下げた。

「じゃあ今日はこれで。また進展がありましたら連絡しますから。」

池畑も場を締めて立ち上がると、正人が小言で池畑に話し掛けた。

「あの池畑さん。千里の件で二人で話したいことがあるんですが、この後のご都合はいかがですか?」

「この場だと難しい話ですか?」

「…そうですね、少し。」

正人の複雑な表情で、池畑は状況を察して仕事が終わり次第、夜に会って話を聞く約束をした。

その後、溝口が二人を署の出口まで案内し、村上と畑は一礼してから、それぞれ帰路についた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

ソツのない彼氏とスキのない彼女

吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。 どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。 だけど…何故か気になってしまう。 気がつくと、彼女の姿を目で追っている。 *** 社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。 爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。 そして、華やかな噂。 あまり得意なタイプではない。 どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。

【完結/番外追加】サリシャの光 〜憧れの先へ〜

ねるねわかば
恋愛
彼女は進む。過去に囚われた者たちを残して── 大商会の娘サーシャ。 子どもの頃から家業に関わる彼女は、従妹のメリンダと共に商会の看板娘として注目を集めていた。 華々しい活躍の裏で、着実に努力を重ねて夢へと向かうサーシャ。しかし時には心ないことを言う者もいた。 そんな彼女が初めて抱いた淡い恋。 けれどその想いは、メリンダの涙と少年の軽率な一言であっさり踏みにじられてしまう。 サーシャはメリンダたちとは距離をおき、商会の仕事からも離れる。 新たな場所で任される仕事、そして新たな出会い。どこにあっても、彼女が夢を諦めることはない。 一方、光に囚われた者たちは後悔と執着を募らせていき── 夢を諦めない少女が、もがきながら光を紡いでいく軌跡。 ※前作「ルースの祈り」と同じ世界観で登場人物も一部かぶりますが、単体でお読みいただけます。 ※作中の仕事や制作物、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...