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第2節 拡散
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ー 科学研究所 ー
先程の研究報告に満足していた瀬古が、気分よく自席で一息ついていると、卓上の電話が外線を意味する着信音で鳴った。瀬古は食べていた煎餅を机に置き、口に含んだ分を慌てて噛み砕きながら受話器を取った。
「もひもひ、せ、瀬古でふ。あ、池畑さん、先程はどうも。」
池畑は、瀬古の話し方で、何かを口にしていたなと直ぐに分かったが、何も言わずに用件を伝えた。
「こちらこそ、ありがとうございました。それで、早速さっきの研究結果が手助けになりそうです。」
池畑の言葉に驚いた瀬古は、思わず席を立ち上がった。勢いよく立ち上がったため、ガタンと大きな椅子が動く音がし、自席でお茶を啜っていた府川はビクンと身体を震わせた。
「本当ですか!?それは嬉しいです!何か事件にお役立ちに?」
「えぇ。それで、先程画像で使用した被害者のうち、千代田美晴について何ですが、正面から見てどちらの方向から、呪いを掛けられたかを確認したくて。」
「千代田さんですね。少々お待ちを。」
瀬古は電話を保留にすると、府川を呼び、画像データの中から千代田の画像を出すように依頼した。府川は机に溢れたお茶を拭きながら返事をし、一旦拭くのを止め、パソコンの画面を部屋のスクリーンに表示させ、画像を検索し始めた。
その様子を志澤は、離れた自席で板チョコレートを齧りながら眺めていた。
「ありました、これです。」
府川はそう言うと、残りの溢れた箇所を拭き始めた。瀬古は府川に礼を言ってから、電話の保留を切った。
「…あ、池畑さん、お待たせしました。彼女は…正面から見て……ほぼ正面だけど、ちょっと右寄りね。伝わりました?」
瀬古が不安そうに聞いた。
「……前方からちょい右寄り……なんとなくわかりました。でも、あれですよね、呪いを掛けられた時に、被害者がどの方向を向いていたかに左右はされますよね?」
「えぇ、そうですね。併せて、外見には呪いを掛けられたとわかる目印は残りませんから、例えば防犯カメラに呪いが掛けられた瞬間が映っていたとしても、その瞬間だと証明する術はないです。今のところ。」
「……なるほど。…また捜査方法を考えます。ありがとうございました。」
池畑との電話が終わり、瀬古は千代田の脳の画像を見つめていた。
「刑事さん、何だって言うんです。」
志澤が板チョコレートを右手に、ノートパソコンを左手に持ち、瀬古の席に向かってゆっくり歩きながら聞いた。瀬古は、パソコンの画面を見つめながら答えた。
「千代田さんを殺した犯人を捜す手掛かりの話よ。さっきの報告が役に立ちそうなんだけど、なかなか決め手に使うには難しいって話…。」
志澤は瀬古に、持っていたノートパソコンを手渡した。瀬古は何かと思ったが、流れのままパソコンを受け取り、画面を開いた。志澤が板チョコレートを齧りながら話を始めた。
「その3D画像は先程、この研究室宛に竈山センター長から送られてきたやつです。」
それは、千代田の頭部を最新のMRIで撮影したものだった。
「この画像で脳を立体的に見ることができるわけですが、これを見てどう思います?」
それは脳を内側から見た画像であり、志澤がスクロールすると、脳の内部画像も合わせて動き出した。そして、該当部分に到達すると、志澤はスクロールを止めた。
「これって…。」
こそこそと、二人の背後から一緒に画面を見ていた府川が驚いた。瀬古もなるほどと頷きながら答えた。
「あの熱エネルギーによる白色部分は表面だけの話じゃなかったのね。」
「まだ人間の脳については全てが解明されているわけではない。この該当部分だけに何故呪いの症例が出るのかは、これからの研究で判明させるとして、ある部分から急に白色になる症例が現れています。しかも内部に行くほどその白色は強くなる。」
志澤が、該当箇所を指差しながら言った。
「なるほど。…呪いの方向は2次元じゃなく3次元で把握できるってことですね?」
府川の問いに志澤が頷いた。瀬古もパソコン画面に釘付けになっていた。
「後で池畑さんにも連絡しないとね。」
ー 群馬県警 署内 ー
12時15分
「松蔭、ミストってバンド知ってるか?」
捜査で外出中、行き付けの定食屋で、犬童が刺身を食べながら聞いた。
「えぇ、もちろんです。ボーカルの卓弥(たくや)がなかなかのイケメンですよ。」
松蔭は、日替わり定食の極厚ステーキを頬張りながら答え、逆に質問を返した。
「犬童先輩が音楽の話なんて珍しいですね。忘年会のネタですか?」
「馬鹿、違うわ。長尾智美はそのバンドの大ファンでよくライブにも行き、その度にグッズも買っていたようだ。さっき、神奈川県警の池畑から連絡が来て、得られた情報だ。」
「あぁ、この前の横浜の刑事さんですね。有給使ってまで捜査に来るんですから、正に警察の鑑ですね。」
犬童はフンっと鼻で笑った。
「……働きすぎもどうかと思うがね。疲れているといざという時にヘマをする。ま、これは俺の持論だ。……で、話を戻すが長尾智美の部屋や実家にそのバンドのグッズはあったか?俺には覚えがないんだが。」
松蔭は手帳と事件調書を取り出し、一通り確認をした。
「一点もなかったですね。本当にグッズ買っていたんですか?買っていたなら無きゃおかしいですもんね。」
「その情報は確かのようだ。特にさっきお前が言っていたボーカルの………あ、そうか……そういうことか。」
犬童は何か閃き、口にしようとしたマグロの刺身を皿に置いた。そして、自分の中だけで解決していくような表情をしていた。
「ちょっと先輩。何を思い付いたんですか?ずるいですよ!自分だけ。」
松蔭はそう言うと、ステーキの最後の一切れを口に入れた。
「………なんで買ったはずのグッズが部屋にも実家にも無いかが、何となくわかったよ。同じなんだよ、名前が。長尾智美の好きだったボーカルと、離婚した長尾薫の元夫、つまり長尾智美の父親の名前がね。」
「……と言ふと?」
口にステーキ肉を頬張ったまま、質問する松蔭に、犬童は呆れた表情で答えた。
「いいか?長尾薫は、夫を恨んでいた。智美は、薫に気を遣ってたんだろう。客観的には、たかだか名前が同じってだけだが、当人たちにしかわからない複雑な事情があったんじゃないかと思う。……しかし、ならそのグッズは一体どこに…。池畑が言っていた手紙も未だに見つかっていない。もしかしたら、同じ場所に隠してある可能性もあるな。……友人関係の捜査範囲を広げるか。」
松蔭はステーキ肉を呑み込み、頷きながらも、疑問を抱き質問をした。
「今から範囲を広げてする捜査って、何についてのですか?長尾智美は長尾薫に殺され、薫は自殺した。この結論が変わるってことですか?」
犬童は、さっき皿に置いたマグロの刺身を口にし、呑み込んでから答えた。
「いや、それもまだわからんが、長尾智美には呪いの症例が見られた。どういう内容の呪いかは不明だが、薫が行ったとは限らない。第三者が絡んでいる可能性も視野に入れて捜査していく。……我々は常に、固定観念に囚われず、広い視野でいる必要がある。松蔭も気付いたことがあったら、遠慮なく言ってくれ。」
犬童の言葉に松蔭はクスリと笑った。その瞬間を見ていた犬童は、松蔭を睨みながら聞いた。
「何だ?何がおかしい?」
「だって…犬童さんの考えが、横浜の刑事さんが来てた時と全然違うんですもん。いいんですか?組織を守れない結論になるかもしれませんよ。」
松蔭がからかうような笑みを浮かべながら言った。
犬童は、松蔭に言われるまで、自分の考えが変わっていたことに気が付いていなかった。知らぬ間に、事件の真相を求めていた。それを気付かされた犬童は、フンっと鼻で笑い、ゆっくり答えた。
「…きっと、俺の中の何かが、池畑を見習わないといけないと思ったんだろうな。そして今、何で警察官になったのかを、もう一度考えさせられたよ。…松蔭の言う通り、池畑は警察の鑑だな。」
犬童はそう言うと、食べ終わった味噌汁のお椀の蓋を閉め、箸を綺麗に置いて、ごちそうさまと手を合わせた。
松蔭は、本当は犬童が自分の思い描いていた理想通りの先輩だと分かり、とても嬉しかった。松蔭は、早速手帳を見返し、次の捜査を考えた。
「…あ、じゃあ早速!長尾智美の預金口座関係が不明でして。通帳やカードなどが何も見つかっていなくて、金融機関にも問い合わせができない状況です。」
犬童は、顎に手を当てながら考え、ぼそりと呟いた。
「…たんす預金派か?」
先程の研究報告に満足していた瀬古が、気分よく自席で一息ついていると、卓上の電話が外線を意味する着信音で鳴った。瀬古は食べていた煎餅を机に置き、口に含んだ分を慌てて噛み砕きながら受話器を取った。
「もひもひ、せ、瀬古でふ。あ、池畑さん、先程はどうも。」
池畑は、瀬古の話し方で、何かを口にしていたなと直ぐに分かったが、何も言わずに用件を伝えた。
「こちらこそ、ありがとうございました。それで、早速さっきの研究結果が手助けになりそうです。」
池畑の言葉に驚いた瀬古は、思わず席を立ち上がった。勢いよく立ち上がったため、ガタンと大きな椅子が動く音がし、自席でお茶を啜っていた府川はビクンと身体を震わせた。
「本当ですか!?それは嬉しいです!何か事件にお役立ちに?」
「えぇ。それで、先程画像で使用した被害者のうち、千代田美晴について何ですが、正面から見てどちらの方向から、呪いを掛けられたかを確認したくて。」
「千代田さんですね。少々お待ちを。」
瀬古は電話を保留にすると、府川を呼び、画像データの中から千代田の画像を出すように依頼した。府川は机に溢れたお茶を拭きながら返事をし、一旦拭くのを止め、パソコンの画面を部屋のスクリーンに表示させ、画像を検索し始めた。
その様子を志澤は、離れた自席で板チョコレートを齧りながら眺めていた。
「ありました、これです。」
府川はそう言うと、残りの溢れた箇所を拭き始めた。瀬古は府川に礼を言ってから、電話の保留を切った。
「…あ、池畑さん、お待たせしました。彼女は…正面から見て……ほぼ正面だけど、ちょっと右寄りね。伝わりました?」
瀬古が不安そうに聞いた。
「……前方からちょい右寄り……なんとなくわかりました。でも、あれですよね、呪いを掛けられた時に、被害者がどの方向を向いていたかに左右はされますよね?」
「えぇ、そうですね。併せて、外見には呪いを掛けられたとわかる目印は残りませんから、例えば防犯カメラに呪いが掛けられた瞬間が映っていたとしても、その瞬間だと証明する術はないです。今のところ。」
「……なるほど。…また捜査方法を考えます。ありがとうございました。」
池畑との電話が終わり、瀬古は千代田の脳の画像を見つめていた。
「刑事さん、何だって言うんです。」
志澤が板チョコレートを右手に、ノートパソコンを左手に持ち、瀬古の席に向かってゆっくり歩きながら聞いた。瀬古は、パソコンの画面を見つめながら答えた。
「千代田さんを殺した犯人を捜す手掛かりの話よ。さっきの報告が役に立ちそうなんだけど、なかなか決め手に使うには難しいって話…。」
志澤は瀬古に、持っていたノートパソコンを手渡した。瀬古は何かと思ったが、流れのままパソコンを受け取り、画面を開いた。志澤が板チョコレートを齧りながら話を始めた。
「その3D画像は先程、この研究室宛に竈山センター長から送られてきたやつです。」
それは、千代田の頭部を最新のMRIで撮影したものだった。
「この画像で脳を立体的に見ることができるわけですが、これを見てどう思います?」
それは脳を内側から見た画像であり、志澤がスクロールすると、脳の内部画像も合わせて動き出した。そして、該当部分に到達すると、志澤はスクロールを止めた。
「これって…。」
こそこそと、二人の背後から一緒に画面を見ていた府川が驚いた。瀬古もなるほどと頷きながら答えた。
「あの熱エネルギーによる白色部分は表面だけの話じゃなかったのね。」
「まだ人間の脳については全てが解明されているわけではない。この該当部分だけに何故呪いの症例が出るのかは、これからの研究で判明させるとして、ある部分から急に白色になる症例が現れています。しかも内部に行くほどその白色は強くなる。」
志澤が、該当箇所を指差しながら言った。
「なるほど。…呪いの方向は2次元じゃなく3次元で把握できるってことですね?」
府川の問いに志澤が頷いた。瀬古もパソコン画面に釘付けになっていた。
「後で池畑さんにも連絡しないとね。」
ー 群馬県警 署内 ー
12時15分
「松蔭、ミストってバンド知ってるか?」
捜査で外出中、行き付けの定食屋で、犬童が刺身を食べながら聞いた。
「えぇ、もちろんです。ボーカルの卓弥(たくや)がなかなかのイケメンですよ。」
松蔭は、日替わり定食の極厚ステーキを頬張りながら答え、逆に質問を返した。
「犬童先輩が音楽の話なんて珍しいですね。忘年会のネタですか?」
「馬鹿、違うわ。長尾智美はそのバンドの大ファンでよくライブにも行き、その度にグッズも買っていたようだ。さっき、神奈川県警の池畑から連絡が来て、得られた情報だ。」
「あぁ、この前の横浜の刑事さんですね。有給使ってまで捜査に来るんですから、正に警察の鑑ですね。」
犬童はフンっと鼻で笑った。
「……働きすぎもどうかと思うがね。疲れているといざという時にヘマをする。ま、これは俺の持論だ。……で、話を戻すが長尾智美の部屋や実家にそのバンドのグッズはあったか?俺には覚えがないんだが。」
松蔭は手帳と事件調書を取り出し、一通り確認をした。
「一点もなかったですね。本当にグッズ買っていたんですか?買っていたなら無きゃおかしいですもんね。」
「その情報は確かのようだ。特にさっきお前が言っていたボーカルの………あ、そうか……そういうことか。」
犬童は何か閃き、口にしようとしたマグロの刺身を皿に置いた。そして、自分の中だけで解決していくような表情をしていた。
「ちょっと先輩。何を思い付いたんですか?ずるいですよ!自分だけ。」
松蔭はそう言うと、ステーキの最後の一切れを口に入れた。
「………なんで買ったはずのグッズが部屋にも実家にも無いかが、何となくわかったよ。同じなんだよ、名前が。長尾智美の好きだったボーカルと、離婚した長尾薫の元夫、つまり長尾智美の父親の名前がね。」
「……と言ふと?」
口にステーキ肉を頬張ったまま、質問する松蔭に、犬童は呆れた表情で答えた。
「いいか?長尾薫は、夫を恨んでいた。智美は、薫に気を遣ってたんだろう。客観的には、たかだか名前が同じってだけだが、当人たちにしかわからない複雑な事情があったんじゃないかと思う。……しかし、ならそのグッズは一体どこに…。池畑が言っていた手紙も未だに見つかっていない。もしかしたら、同じ場所に隠してある可能性もあるな。……友人関係の捜査範囲を広げるか。」
松蔭はステーキ肉を呑み込み、頷きながらも、疑問を抱き質問をした。
「今から範囲を広げてする捜査って、何についてのですか?長尾智美は長尾薫に殺され、薫は自殺した。この結論が変わるってことですか?」
犬童は、さっき皿に置いたマグロの刺身を口にし、呑み込んでから答えた。
「いや、それもまだわからんが、長尾智美には呪いの症例が見られた。どういう内容の呪いかは不明だが、薫が行ったとは限らない。第三者が絡んでいる可能性も視野に入れて捜査していく。……我々は常に、固定観念に囚われず、広い視野でいる必要がある。松蔭も気付いたことがあったら、遠慮なく言ってくれ。」
犬童の言葉に松蔭はクスリと笑った。その瞬間を見ていた犬童は、松蔭を睨みながら聞いた。
「何だ?何がおかしい?」
「だって…犬童さんの考えが、横浜の刑事さんが来てた時と全然違うんですもん。いいんですか?組織を守れない結論になるかもしれませんよ。」
松蔭がからかうような笑みを浮かべながら言った。
犬童は、松蔭に言われるまで、自分の考えが変わっていたことに気が付いていなかった。知らぬ間に、事件の真相を求めていた。それを気付かされた犬童は、フンっと鼻で笑い、ゆっくり答えた。
「…きっと、俺の中の何かが、池畑を見習わないといけないと思ったんだろうな。そして今、何で警察官になったのかを、もう一度考えさせられたよ。…松蔭の言う通り、池畑は警察の鑑だな。」
犬童はそう言うと、食べ終わった味噌汁のお椀の蓋を閉め、箸を綺麗に置いて、ごちそうさまと手を合わせた。
松蔭は、本当は犬童が自分の思い描いていた理想通りの先輩だと分かり、とても嬉しかった。松蔭は、早速手帳を見返し、次の捜査を考えた。
「…あ、じゃあ早速!長尾智美の預金口座関係が不明でして。通帳やカードなどが何も見つかっていなくて、金融機関にも問い合わせができない状況です。」
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