47 / 55
最終章 先生と透明
(5)
しおりを挟む
ー 現在 ー
曽我は、内藤の作成した報告書に添付されている白井の遺体発見時に、部屋の机に置いてあった遺書のコピーに改めて目を通した。
そこには、由比環奈への強い嫉妬心と、それに重なるタイミングで日下部の愚行の発覚、これは神からのお告げだと自分に言い聞かせ、万引きグループで、唯一の由比環奈と同じクラスだった久保寺神楽に、由比環奈を不登校にさせるように日下部を通して命令したことが書かれていた。
曽我は遺書を見ているだけで、怒りが込み上げてきた。
「…結局、最後は後悔と恐怖で自ら命を絶った。ホント、最悪な教師よね。」
曽我が振り返ると、内藤が頭を掻きながら立っていた。
「先輩。…すみません、報告書作成していただいて。」
「いいのよ、私がこの事件調べたいって言い出したんだから。」
内藤は自席に座り、曽我から報告書を取り上げて、パラパラと見返した。
「良かったわ、調べ直して。由比環奈が自殺って結論は変わらなくても、裁かれるべき悪人を捕まえられたし。本当だったら、白井も死なれる前に逮捕して、罪を償わせたかったけどね。…ふぁぁぁ。」
内藤は緊張感を無くし、大きな口を開けてあくびをした。
「プッ、ハハハハ。先輩、間抜けな顔っすよ!」
指を差して笑う曽我に、内藤が座ったまま蹴りを喰らわせた。
【三嶽宅】
同時刻。
夏音は、ゆっくりと目を開いた。目の前には、彰が布団に寝かされており、顔には白い布が被されていた。和室の中にはお線香の匂いが充満していた。
「…あ、私寝ちゃってたのか…。」
昨晩帰ってきてから、葬儀社が色々と設えをし、皆で交代で線香の番をしていた。
目の前の彰の姿を見て、彰が亡くなったことを痛烈に感じた夏音は、顔を覆っている白い布を外し、お椀の水で唇を湿らせてあげた。
「…父さん。帰ってきたよ。…もっと早くに会いたかったな。お姉ちゃんのことは心配しないでね、これからは三人で力を合わせて生きてくから。…父さん、空から見守っててね。」
襖を挟んだ廊下では、茜がそっと夏音の言葉を聞いていた。
しばらくして、茜が襖を開けた。
「夏音、おはよう。…あ、父さんに話しかけてたんだ。」
夏音は頷いて、白い布をそっと顔の上に被せた。茜は、彰の好物だったお菓子を盛った皿を置きながら、話を続けた。
「少し部屋で休んだら?疲れたでしょ。父さんのこともそうだけど、クラスの子がまた大変な目に合っちゃったんでしょ?あれから連絡あったの?」
夏音は、首を横に振った。
「奏からはあれから来てないな。…佐藤くんちゃんと目覚ましたのかな。…ちょっと部屋で寝たら、お見舞い行ってくる。いい?」
「勿論よ。でも、あなたも疲れてるんだから、無理しないでね。学校には母さんから連絡しとくから。」
夏音は、「ありがとう」と言って、二階の自室へと向かった。部屋の前に着き、扉を開けようとすると、隣の部屋から愛弓が顔を覗かせた。
「夏音、ちょっといい?」
愛弓が手招きし、夏音を部屋に入れた。
「部屋、私が出ていった時のまんまなんだね。驚いちゃったよ。」
愛弓はそう言いながらベッドに腰掛け、夏音に隣に座るように布団をポンポンと叩いた。夏音は、言われるがまま隣に腰掛けた。
「うん。母さんがね、定期的に掃除してて、父さんの物も、捨てずにずっと綺麗に取ってあるし。」
「そうなんだ。…離婚の話…母さんが原因だったんだね。私てっきり父さんに何か原因があったのかと思ってたよ。何かさ…父さんに申し訳なかったなって。」
愛弓は、少し微笑みながらも涙を拭いながら言った。夏音も愛弓と同じ思いだった。
「お姉ちゃんがさ、ちゃんと父さんに付いていってくれて、私は安心できたよ。父さんも本当に嬉しかったと思うし。…ありがとう。」
夏音は、今まで照れくさくて、愛弓に“ありがとう”という言葉を素直に言うことができなかった。年頃の夏音は、本当だったら愛弓に相談したいことが山程あったが、やはり気軽に電話することもできず、一人で悩んで泣いた日も多々あった。妹としては、姉の存在は大きく、父親の死という切っ掛けではあるが、また愛弓と一緒に暮らせると思うと嬉しかった。
「ありがとうなんて、夏音に言われるの久しぶり?いや、初めてかな?」
愛弓も嬉しそうな表情で夏音をからかった。夏音は、不意に愛弓のイロカゲを見た。愛弓のイロカゲは、夏音が一番好きな色をしていた。
「…う、うぅ。オレンジだ。…また家族に戻れた。…嬉しい。」
「え…夏音?」
急に泣き出した夏音に、愛弓は少し戸惑ったが、優しく抱き寄せて、夏音の頭を優しく撫でた。
「…夏音。…オレンジって良い色?」
また愛弓からのイロカゲの質問に、夏音はドキッとしたが、もう愛弓には隠す必要はないと思い、聞かれたことは答えることにした。夏音は涙を拭って愛弓の目を見て答えた。
「うん、そうだよ。私たち家族四人の象徴の色。楽しい時や幸せを感じた時に、暖かいオレンジ色になるの。…昨日の父さんも、会った時はオレンジ色だった。…もう一回家族四人で…皆で…幸せな時間を過ごしたかったな…。」
愛弓はニッコリ微笑んで、夏音を更に強く抱き締めた。
曽我は、内藤の作成した報告書に添付されている白井の遺体発見時に、部屋の机に置いてあった遺書のコピーに改めて目を通した。
そこには、由比環奈への強い嫉妬心と、それに重なるタイミングで日下部の愚行の発覚、これは神からのお告げだと自分に言い聞かせ、万引きグループで、唯一の由比環奈と同じクラスだった久保寺神楽に、由比環奈を不登校にさせるように日下部を通して命令したことが書かれていた。
曽我は遺書を見ているだけで、怒りが込み上げてきた。
「…結局、最後は後悔と恐怖で自ら命を絶った。ホント、最悪な教師よね。」
曽我が振り返ると、内藤が頭を掻きながら立っていた。
「先輩。…すみません、報告書作成していただいて。」
「いいのよ、私がこの事件調べたいって言い出したんだから。」
内藤は自席に座り、曽我から報告書を取り上げて、パラパラと見返した。
「良かったわ、調べ直して。由比環奈が自殺って結論は変わらなくても、裁かれるべき悪人を捕まえられたし。本当だったら、白井も死なれる前に逮捕して、罪を償わせたかったけどね。…ふぁぁぁ。」
内藤は緊張感を無くし、大きな口を開けてあくびをした。
「プッ、ハハハハ。先輩、間抜けな顔っすよ!」
指を差して笑う曽我に、内藤が座ったまま蹴りを喰らわせた。
【三嶽宅】
同時刻。
夏音は、ゆっくりと目を開いた。目の前には、彰が布団に寝かされており、顔には白い布が被されていた。和室の中にはお線香の匂いが充満していた。
「…あ、私寝ちゃってたのか…。」
昨晩帰ってきてから、葬儀社が色々と設えをし、皆で交代で線香の番をしていた。
目の前の彰の姿を見て、彰が亡くなったことを痛烈に感じた夏音は、顔を覆っている白い布を外し、お椀の水で唇を湿らせてあげた。
「…父さん。帰ってきたよ。…もっと早くに会いたかったな。お姉ちゃんのことは心配しないでね、これからは三人で力を合わせて生きてくから。…父さん、空から見守っててね。」
襖を挟んだ廊下では、茜がそっと夏音の言葉を聞いていた。
しばらくして、茜が襖を開けた。
「夏音、おはよう。…あ、父さんに話しかけてたんだ。」
夏音は頷いて、白い布をそっと顔の上に被せた。茜は、彰の好物だったお菓子を盛った皿を置きながら、話を続けた。
「少し部屋で休んだら?疲れたでしょ。父さんのこともそうだけど、クラスの子がまた大変な目に合っちゃったんでしょ?あれから連絡あったの?」
夏音は、首を横に振った。
「奏からはあれから来てないな。…佐藤くんちゃんと目覚ましたのかな。…ちょっと部屋で寝たら、お見舞い行ってくる。いい?」
「勿論よ。でも、あなたも疲れてるんだから、無理しないでね。学校には母さんから連絡しとくから。」
夏音は、「ありがとう」と言って、二階の自室へと向かった。部屋の前に着き、扉を開けようとすると、隣の部屋から愛弓が顔を覗かせた。
「夏音、ちょっといい?」
愛弓が手招きし、夏音を部屋に入れた。
「部屋、私が出ていった時のまんまなんだね。驚いちゃったよ。」
愛弓はそう言いながらベッドに腰掛け、夏音に隣に座るように布団をポンポンと叩いた。夏音は、言われるがまま隣に腰掛けた。
「うん。母さんがね、定期的に掃除してて、父さんの物も、捨てずにずっと綺麗に取ってあるし。」
「そうなんだ。…離婚の話…母さんが原因だったんだね。私てっきり父さんに何か原因があったのかと思ってたよ。何かさ…父さんに申し訳なかったなって。」
愛弓は、少し微笑みながらも涙を拭いながら言った。夏音も愛弓と同じ思いだった。
「お姉ちゃんがさ、ちゃんと父さんに付いていってくれて、私は安心できたよ。父さんも本当に嬉しかったと思うし。…ありがとう。」
夏音は、今まで照れくさくて、愛弓に“ありがとう”という言葉を素直に言うことができなかった。年頃の夏音は、本当だったら愛弓に相談したいことが山程あったが、やはり気軽に電話することもできず、一人で悩んで泣いた日も多々あった。妹としては、姉の存在は大きく、父親の死という切っ掛けではあるが、また愛弓と一緒に暮らせると思うと嬉しかった。
「ありがとうなんて、夏音に言われるの久しぶり?いや、初めてかな?」
愛弓も嬉しそうな表情で夏音をからかった。夏音は、不意に愛弓のイロカゲを見た。愛弓のイロカゲは、夏音が一番好きな色をしていた。
「…う、うぅ。オレンジだ。…また家族に戻れた。…嬉しい。」
「え…夏音?」
急に泣き出した夏音に、愛弓は少し戸惑ったが、優しく抱き寄せて、夏音の頭を優しく撫でた。
「…夏音。…オレンジって良い色?」
また愛弓からのイロカゲの質問に、夏音はドキッとしたが、もう愛弓には隠す必要はないと思い、聞かれたことは答えることにした。夏音は涙を拭って愛弓の目を見て答えた。
「うん、そうだよ。私たち家族四人の象徴の色。楽しい時や幸せを感じた時に、暖かいオレンジ色になるの。…昨日の父さんも、会った時はオレンジ色だった。…もう一回家族四人で…皆で…幸せな時間を過ごしたかったな…。」
愛弓はニッコリ微笑んで、夏音を更に強く抱き締めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる