colors -イロカゲ -

雨木良

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最終章 先生と透明

(5)

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ー 現在 ー

曽我は、内藤の作成した報告書に添付されている白井の遺体発見時に、部屋の机に置いてあった遺書のコピーに改めて目を通した。

そこには、由比環奈への強い嫉妬心と、それに重なるタイミングで日下部の愚行の発覚、これは神からのお告げだと自分に言い聞かせ、万引きグループで、唯一の由比環奈と同じクラスだった久保寺神楽に、由比環奈を不登校にさせるように日下部を通して命令したことが書かれていた。

曽我は遺書を見ているだけで、怒りが込み上げてきた。

「…結局、最後は後悔と恐怖で自ら命を絶った。ホント、最悪な教師よね。」

曽我が振り返ると、内藤が頭を掻きながら立っていた。

「先輩。…すみません、報告書作成していただいて。」

「いいのよ、私がこの事件調べたいって言い出したんだから。」

内藤は自席に座り、曽我から報告書を取り上げて、パラパラと見返した。

「良かったわ、調べ直して。由比環奈が自殺って結論は変わらなくても、裁かれるべき悪人を捕まえられたし。本当だったら、白井も死なれる前に逮捕して、罪を償わせたかったけどね。…ふぁぁぁ。」

内藤は緊張感を無くし、大きな口を開けてあくびをした。

「プッ、ハハハハ。先輩、間抜けな顔っすよ!」

指を差して笑う曽我に、内藤が座ったまま蹴りを喰らわせた。 

【三嶽宅】

同時刻。

夏音は、ゆっくりと目を開いた。目の前には、彰が布団に寝かされており、顔には白い布が被されていた。和室の中にはお線香の匂いが充満していた。

「…あ、私寝ちゃってたのか…。」

昨晩帰ってきてから、葬儀社が色々と設えをし、皆で交代で線香の番をしていた。

目の前の彰の姿を見て、彰が亡くなったことを痛烈に感じた夏音は、顔を覆っている白い布を外し、お椀の水で唇を湿らせてあげた。

「…父さん。帰ってきたよ。…もっと早くに会いたかったな。お姉ちゃんのことは心配しないでね、これからは三人で力を合わせて生きてくから。…父さん、空から見守っててね。」

襖を挟んだ廊下では、茜がそっと夏音の言葉を聞いていた。

しばらくして、茜が襖を開けた。

「夏音、おはよう。…あ、父さんに話しかけてたんだ。」

夏音は頷いて、白い布をそっと顔の上に被せた。茜は、彰の好物だったお菓子を盛った皿を置きながら、話を続けた。

「少し部屋で休んだら?疲れたでしょ。父さんのこともそうだけど、クラスの子がまた大変な目に合っちゃったんでしょ?あれから連絡あったの?」

夏音は、首を横に振った。

「奏からはあれから来てないな。…佐藤くんちゃんと目覚ましたのかな。…ちょっと部屋で寝たら、お見舞い行ってくる。いい?」

「勿論よ。でも、あなたも疲れてるんだから、無理しないでね。学校には母さんから連絡しとくから。」

夏音は、「ありがとう」と言って、二階の自室へと向かった。部屋の前に着き、扉を開けようとすると、隣の部屋から愛弓が顔を覗かせた。

「夏音、ちょっといい?」

愛弓が手招きし、夏音を部屋に入れた。

「部屋、私が出ていった時のまんまなんだね。驚いちゃったよ。」

愛弓はそう言いながらベッドに腰掛け、夏音に隣に座るように布団をポンポンと叩いた。夏音は、言われるがまま隣に腰掛けた。

「うん。母さんがね、定期的に掃除してて、父さんの物も、捨てずにずっと綺麗に取ってあるし。」

「そうなんだ。…離婚の話…母さんが原因だったんだね。私てっきり父さんに何か原因があったのかと思ってたよ。何かさ…父さんに申し訳なかったなって。」

愛弓は、少し微笑みながらも涙を拭いながら言った。夏音も愛弓と同じ思いだった。

「お姉ちゃんがさ、ちゃんと父さんに付いていってくれて、私は安心できたよ。父さんも本当に嬉しかったと思うし。…ありがとう。」

夏音は、今まで照れくさくて、愛弓に“ありがとう”という言葉を素直に言うことができなかった。年頃の夏音は、本当だったら愛弓に相談したいことが山程あったが、やはり気軽に電話することもできず、一人で悩んで泣いた日も多々あった。妹としては、姉の存在は大きく、父親の死という切っ掛けではあるが、また愛弓と一緒に暮らせると思うと嬉しかった。

「ありがとうなんて、夏音に言われるの久しぶり?いや、初めてかな?」

愛弓も嬉しそうな表情で夏音をからかった。夏音は、不意に愛弓のイロカゲを見た。愛弓のイロカゲは、夏音が一番好きな色をしていた。

「…う、うぅ。オレンジだ。…また家族に戻れた。…嬉しい。」

「え…夏音?」

急に泣き出した夏音に、愛弓は少し戸惑ったが、優しく抱き寄せて、夏音の頭を優しく撫でた。

「…夏音。…オレンジって良い色?」

また愛弓からのイロカゲの質問に、夏音はドキッとしたが、もう愛弓には隠す必要はないと思い、聞かれたことは答えることにした。夏音は涙を拭って愛弓の目を見て答えた。

「うん、そうだよ。私たち家族四人の象徴の色。楽しい時や幸せを感じた時に、暖かいオレンジ色になるの。…昨日の父さんも、会った時はオレンジ色だった。…もう一回家族四人で…皆で…幸せな時間を過ごしたかったな…。」

愛弓はニッコリ微笑んで、夏音を更に強く抱き締めた。
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