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──すごかった。なにがって、色々と。
次の日、私が目が覚めたのは日が真上に昇った頃。
隣には裸のデュクラスがいて、同じく裸の私はまた襲われた。
「姫様、お身体のほうは大丈夫ですか?」
「ふふ、大丈夫だと思う?」
「いえ、あの申し訳ございません……」
三日後、仕事に向かったデュクラスから解放された私は侍女にお風呂に入れてもらった後、ベッドの上で座っていた。
ちなみに目が覚めたのは太陽が真上に上がった頃。とっくにデュクラスはいなかった。
「わたくし、初めてだったわ……」
前回もこんなことはなかったのに。
こんなのおかしい。今回は好意を示してないのに。
というか前回好意を示していたときは真綿に包まれるように優しくしてもらっていたのに。今はどうだろう。
優し……かった、確かに。私が望んだ優しさではなかったけど。前とは確実に違う。
「いえ、でも大丈夫よね。たったの一度だもの。これ以上しなければいいのよ」
「ですが姫様、なにも姫様が修道院になど行かなくても……」
「ダメよ。わたくしが修道院に行かないと困るのはお兄様だわ」
困ったように私を見つめるのは幼い頃から私に仕えてくれているジニーだ。
お母様以外で私に唯一優しくしてくれた家族はお兄様だけ。お兄様がいなければ、お母様が亡くなったあとの私が皇宮で生きていくことは難しかったかもしれない。
側室である兄の母は私を大変嫌っていて、隙あらば私を殺そうとしていた。そんな私を守ってくれていたのがお兄様とデュクラスだ。
義母は私を嫌っているのを上手に隠していて、けれどそれに気が付いたのがデュクラスだった。
「お兄様に迷惑をかけたくないの。お兄様は皇帝になる人よ。そんなお兄様の治世を邪魔したくない」
お兄様は私が修道院に行く必要はないと言ってくれたけど、それがお兄様の優しさだということはわかっている。
聖女であったお母様の後見人である教会は私を女帝にと望んでいるし、それはお母様に救われた民や貴族も同じ。
私はそんなものになりたくないのに。
「さて、ジニー、作戦会議よ!」
「ですが、姫様。私は姫様を修道院になんて……」
「わたくしは行くしかないの! もう、どうしてデュクラスはあんなにわたくしのことが好きなのよ!」
わけがわからない!
今回の私はデュクラスを避けていた。避けて、避けて、避けていた。それなのに結婚することになるし、好き好き言われるし、もうなんなのよ!
「お兄様もお兄様だわ。デュクラス以外の人がいいと言ったのに、デュクラスを選ぶんだもの」
「それは……仕方ありません。デュクラス様以外の方を選ばれてしまいましたら、それこそ……」
「ジニー、けれどわたくしはデュクラスに嫌われなくてはいけないの。少なくとも、わたくしと離婚してもまあいっかぁ、と思ってもらわなくては」
私と離婚後にデュクラスが自殺だなんてあってはいけない。それを阻止するためにも、私はデュクラスに嫌われないといけない。
それは絶対のことで。けれど、なかなかどうしてデュクラスは私のことを嫌わなかった。
無視しても、冷たくしても、私のことを嫌った様子はない。そもそも嫌っていたら結婚なんてしなかっただろう。
「やっぱり間男でも作ってみたらいいのかしら?」
「ひっ、そんな! なんて恐ろしいことを考えるのですか……!」
「でも、嫌われる方法としては手っ取り早いじゃない」
「死人が出てしまいます! ……ひっ!」
「まさか。デュクラスは騎士よ? いくらわたくしのことが好きでも──なに、どうしたの?」
突然ジニーがぱくぱくと口を開けて目を見開く。まるでそんなお化けを見たみたいに。
そう思って首を傾げていると、とん、と肩に手が置かれた。
「あら、デュクラス」
「なんの、話ですか」
はて、と首を傾げる。もしかして、聞かれていたのだろうか。
けれどそれならそれで話が早い。
「わたくし、他に好きな人が──ンンッ!」
最後まで言う前にデュクラスの唇で口を塞がれた。
デュクラスから離れようとすると、彼の手が私の後頭部に回って、もう片方の手が私の腰に回る。
視線だけでジニーに助けを求めると、ジニーは私と目が合ってすぐにぺこりと頭を下げて部屋から出て行ってしまった。
「ぷはっ! んもぅ! なにするの!」
「嘘でもそんな言葉は聞きたくありません」
「嘘なんかじゃ……」
「それならその男の名前を教えてください」
デュクラスはにっこりと微笑んで、私の髪を撫でる。
「名前なんて知ってどうしたいの?」
「もちろんころ……挨拶するだけです」
なんだか最初に違うこと言わなかった?
ジッとデュクラスを見つめると、最初は見つめ返していたデュクラスの頬がどんどん赤く染まっていく。
やがてデュクラスは真っ赤になった顔を隠すように片手で自分の顔を覆った。
「あの、あんまり見られますと……」
「ん゛っ!」
なにこのかわいい人! 思わず私も手で口を覆う。変な声が出てしまった。きょとんと首を傾げる姿もかわいいのは卑怯だと思う。
かわいくてかっこいいなんて、デュクラスはなんて完璧なの! ずるいわ! すき!
「クリスタ、愛してます」
顔を赤くしながらも告白してきたデュクラスに、きゅんっと胸がときめいてしまう。
私も愛してる、と叫びそうになって口を閉ざした。ダメ、ダメよ。私はデュクラスに嫌われなくちゃいけない。
デュクラスが自殺するなんて未来、そんな未来は望んでいないのだから──!
「わたくしは愛してないわ」
「──それでもいい。私は永遠に貴女を愛してる」
「困るわ。わたくし、好きな人が」
「そんな人物、クリスタの人生から排除してみせますから安心してください」
ギュッと痛いくらいにデュクラスが私を抱き締める。言ってることは恐ろしいけど、耳元で囁く声はとても熱があって、まるで情熱的に口説かれてるように感じる。
うっとりとデュクラスを見つめて、けれどその瞳が笑ってないことに気付いて現実に戻ってきた。
「は、排除って、」
「大丈夫です。殺したりはしません」
「そうよね。デュクラスは立派な騎士だものね」
私の言葉にデュクラスは目を細める。私もホッとして笑みを浮かべた。
「はい。クリスタの人生に二度と関わらないようにするだけです」
……あれ、それって殺すのとどう違うんだろう?
戸惑う私に気が付いたのか、デュクラスが私の頬を指でなぞる。いやらしく触れるその指に結婚してからの情事を思い出してしまって、それにぴくりと反応すると、デュクラスからうっとりとした色気を感じた。
「ふ、ふふ」
「デュクラス?」
「私の指に反応するクリスタはいやらしくて愛しい……。貴女をこんな風にしたのが私だと思うと死んでもいい」
「ダメっ!」
「クリスタ?」
デュクラスはきょとんと私を見つめてパチクリと目を瞬かせる。そんなデュクラスの頬を両手で包んだ。
ダメよ、絶対ダメ。そんなことは絶対言ってはダメだし、するなんてもってのほか。
「デュクラスが死ぬなんて絶対嫌よ。デュクラスは絶対生きなくちゃダメなの」
「クリスタ……」
「死んでもいいなんて言わないで。わかった?」
そう言ってジッとデュクラスを見つめていると、彼の頬が赤くなって瞳が潤んでくる。
あ、かわいい。きゅんっとときめいて、よしよしと撫でたくなるけどグッと我慢。我慢。
「はい。クリスタが私のそばにいる限り、絶対に言いません。絶対に死にません」
「いえ、それは……」
「クリスタは私の全てです。愛してます」
「あの、違くて」
「クリスタがこうして私のそばにいてくださることが至高の喜びです。私の妻になってくださり、ありがとうございます」
違うの、私がいなくても生きていて欲しいの。
えっと、あの、と私が言葉を続けようとするたびに重ねるように甘い言葉を吐き出すデュクラスにだんだんなにも言えなくなる。
それどころか耳元で甘い言葉を囁かれて、だんだん足に力が入らなくなってきた。
「ずっと、永遠に、来世まで、いいえ何度生まれ変わろうと私は貴女に愛を誓います」
──どうしよう。デュクラスの愛が重い。
次の日、私が目が覚めたのは日が真上に昇った頃。
隣には裸のデュクラスがいて、同じく裸の私はまた襲われた。
「姫様、お身体のほうは大丈夫ですか?」
「ふふ、大丈夫だと思う?」
「いえ、あの申し訳ございません……」
三日後、仕事に向かったデュクラスから解放された私は侍女にお風呂に入れてもらった後、ベッドの上で座っていた。
ちなみに目が覚めたのは太陽が真上に上がった頃。とっくにデュクラスはいなかった。
「わたくし、初めてだったわ……」
前回もこんなことはなかったのに。
こんなのおかしい。今回は好意を示してないのに。
というか前回好意を示していたときは真綿に包まれるように優しくしてもらっていたのに。今はどうだろう。
優し……かった、確かに。私が望んだ優しさではなかったけど。前とは確実に違う。
「いえ、でも大丈夫よね。たったの一度だもの。これ以上しなければいいのよ」
「ですが姫様、なにも姫様が修道院になど行かなくても……」
「ダメよ。わたくしが修道院に行かないと困るのはお兄様だわ」
困ったように私を見つめるのは幼い頃から私に仕えてくれているジニーだ。
お母様以外で私に唯一優しくしてくれた家族はお兄様だけ。お兄様がいなければ、お母様が亡くなったあとの私が皇宮で生きていくことは難しかったかもしれない。
側室である兄の母は私を大変嫌っていて、隙あらば私を殺そうとしていた。そんな私を守ってくれていたのがお兄様とデュクラスだ。
義母は私を嫌っているのを上手に隠していて、けれどそれに気が付いたのがデュクラスだった。
「お兄様に迷惑をかけたくないの。お兄様は皇帝になる人よ。そんなお兄様の治世を邪魔したくない」
お兄様は私が修道院に行く必要はないと言ってくれたけど、それがお兄様の優しさだということはわかっている。
聖女であったお母様の後見人である教会は私を女帝にと望んでいるし、それはお母様に救われた民や貴族も同じ。
私はそんなものになりたくないのに。
「さて、ジニー、作戦会議よ!」
「ですが、姫様。私は姫様を修道院になんて……」
「わたくしは行くしかないの! もう、どうしてデュクラスはあんなにわたくしのことが好きなのよ!」
わけがわからない!
今回の私はデュクラスを避けていた。避けて、避けて、避けていた。それなのに結婚することになるし、好き好き言われるし、もうなんなのよ!
「お兄様もお兄様だわ。デュクラス以外の人がいいと言ったのに、デュクラスを選ぶんだもの」
「それは……仕方ありません。デュクラス様以外の方を選ばれてしまいましたら、それこそ……」
「ジニー、けれどわたくしはデュクラスに嫌われなくてはいけないの。少なくとも、わたくしと離婚してもまあいっかぁ、と思ってもらわなくては」
私と離婚後にデュクラスが自殺だなんてあってはいけない。それを阻止するためにも、私はデュクラスに嫌われないといけない。
それは絶対のことで。けれど、なかなかどうしてデュクラスは私のことを嫌わなかった。
無視しても、冷たくしても、私のことを嫌った様子はない。そもそも嫌っていたら結婚なんてしなかっただろう。
「やっぱり間男でも作ってみたらいいのかしら?」
「ひっ、そんな! なんて恐ろしいことを考えるのですか……!」
「でも、嫌われる方法としては手っ取り早いじゃない」
「死人が出てしまいます! ……ひっ!」
「まさか。デュクラスは騎士よ? いくらわたくしのことが好きでも──なに、どうしたの?」
突然ジニーがぱくぱくと口を開けて目を見開く。まるでそんなお化けを見たみたいに。
そう思って首を傾げていると、とん、と肩に手が置かれた。
「あら、デュクラス」
「なんの、話ですか」
はて、と首を傾げる。もしかして、聞かれていたのだろうか。
けれどそれならそれで話が早い。
「わたくし、他に好きな人が──ンンッ!」
最後まで言う前にデュクラスの唇で口を塞がれた。
デュクラスから離れようとすると、彼の手が私の後頭部に回って、もう片方の手が私の腰に回る。
視線だけでジニーに助けを求めると、ジニーは私と目が合ってすぐにぺこりと頭を下げて部屋から出て行ってしまった。
「ぷはっ! んもぅ! なにするの!」
「嘘でもそんな言葉は聞きたくありません」
「嘘なんかじゃ……」
「それならその男の名前を教えてください」
デュクラスはにっこりと微笑んで、私の髪を撫でる。
「名前なんて知ってどうしたいの?」
「もちろんころ……挨拶するだけです」
なんだか最初に違うこと言わなかった?
ジッとデュクラスを見つめると、最初は見つめ返していたデュクラスの頬がどんどん赤く染まっていく。
やがてデュクラスは真っ赤になった顔を隠すように片手で自分の顔を覆った。
「あの、あんまり見られますと……」
「ん゛っ!」
なにこのかわいい人! 思わず私も手で口を覆う。変な声が出てしまった。きょとんと首を傾げる姿もかわいいのは卑怯だと思う。
かわいくてかっこいいなんて、デュクラスはなんて完璧なの! ずるいわ! すき!
「クリスタ、愛してます」
顔を赤くしながらも告白してきたデュクラスに、きゅんっと胸がときめいてしまう。
私も愛してる、と叫びそうになって口を閉ざした。ダメ、ダメよ。私はデュクラスに嫌われなくちゃいけない。
デュクラスが自殺するなんて未来、そんな未来は望んでいないのだから──!
「わたくしは愛してないわ」
「──それでもいい。私は永遠に貴女を愛してる」
「困るわ。わたくし、好きな人が」
「そんな人物、クリスタの人生から排除してみせますから安心してください」
ギュッと痛いくらいにデュクラスが私を抱き締める。言ってることは恐ろしいけど、耳元で囁く声はとても熱があって、まるで情熱的に口説かれてるように感じる。
うっとりとデュクラスを見つめて、けれどその瞳が笑ってないことに気付いて現実に戻ってきた。
「は、排除って、」
「大丈夫です。殺したりはしません」
「そうよね。デュクラスは立派な騎士だものね」
私の言葉にデュクラスは目を細める。私もホッとして笑みを浮かべた。
「はい。クリスタの人生に二度と関わらないようにするだけです」
……あれ、それって殺すのとどう違うんだろう?
戸惑う私に気が付いたのか、デュクラスが私の頬を指でなぞる。いやらしく触れるその指に結婚してからの情事を思い出してしまって、それにぴくりと反応すると、デュクラスからうっとりとした色気を感じた。
「ふ、ふふ」
「デュクラス?」
「私の指に反応するクリスタはいやらしくて愛しい……。貴女をこんな風にしたのが私だと思うと死んでもいい」
「ダメっ!」
「クリスタ?」
デュクラスはきょとんと私を見つめてパチクリと目を瞬かせる。そんなデュクラスの頬を両手で包んだ。
ダメよ、絶対ダメ。そんなことは絶対言ってはダメだし、するなんてもってのほか。
「デュクラスが死ぬなんて絶対嫌よ。デュクラスは絶対生きなくちゃダメなの」
「クリスタ……」
「死んでもいいなんて言わないで。わかった?」
そう言ってジッとデュクラスを見つめていると、彼の頬が赤くなって瞳が潤んでくる。
あ、かわいい。きゅんっとときめいて、よしよしと撫でたくなるけどグッと我慢。我慢。
「はい。クリスタが私のそばにいる限り、絶対に言いません。絶対に死にません」
「いえ、それは……」
「クリスタは私の全てです。愛してます」
「あの、違くて」
「クリスタがこうして私のそばにいてくださることが至高の喜びです。私の妻になってくださり、ありがとうございます」
違うの、私がいなくても生きていて欲しいの。
えっと、あの、と私が言葉を続けようとするたびに重ねるように甘い言葉を吐き出すデュクラスにだんだんなにも言えなくなる。
それどころか耳元で甘い言葉を囁かれて、だんだん足に力が入らなくなってきた。
「ずっと、永遠に、来世まで、いいえ何度生まれ変わろうと私は貴女に愛を誓います」
──どうしよう。デュクラスの愛が重い。
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