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今日も僕らは平和です

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 今日のマリアーナ様、もとい真凛様。

 流架様と別れて学校に登校。
 嫌がらせの不幸の手紙が下駄箱に入ってたものの、首を傾げてゴミ箱に捨てる。
 それを見ていた早乙女結花が苛立ちを隠さず、親指の爪を噛んで真凛様を後ろから睨む。

 教室に着いた真凛様。早乙女結花とその取り巻きに絡まれる。
 ちなみに早乙女結花は周りには早乙女家の令嬢と偽っている。馬鹿、もとい脳内花畑の取り巻き令嬢たちはそれを信じている模様。
 早乙女結花がただの一般庶民の出とバレたときが今から楽しみである。
 真凛様、絡まれたもののお得意のスルーで早乙女結花とその取り巻きをスルー。

 真凛様も火に油を注ぐ上手いッスよね~。
 あ、オレの主観はいらない? そっすか。失礼しました。

 部活の終わった飾西が登校。次いで若王子も教室にやってきました。
 真凛様は本に夢中で気付いてないッスね、アレ。ちなみに読んでる本は『コミュニケーションの取り方』です。
 ……なんであんなに努力してんのに、いまだに友達ゼロなんスかね? 流架様、なんかやってません?
 やってない? まあ、本に夢中になってて目の前陣取る飾西と若王子に気付かない真凛様は友達どころか恋人すらできないんじゃないッスか?

 恋人なんてモノが真凛にできたら殺す? 誰を?
 ……は、いやちょっとオレのせいじゃないッスよ! マジ洒落になんないッスから! 誰かさんが本気にするからマジやめてほしいッス!
 つーか、嫌がらせ止めたんだから、オレとしては褒めてもらいたいくらいなんスけど。ボーナス欲しいッス、ボーナス。

 早乙女結花が嫌がらせ止めてないだろ、って? あの女はほっとけばいいんスよ~。害はないッスよね? 嫌味だって言われてるけど、真凛様無視してるじゃないッスかぁ。
 止めろっつーなら止めますけど。
 愚痴る真凛を慰められなくなるから止めなくてもいい……なら、いいじゃないッスか。ボーナス! 
 は~? まとい様と相談~? あんな愉快犯、どうせ面白いからって理由でボーナスなんてくれないッスよ……あ? いる? 隣に? 纏様が?

 ……あ、真凛様がやっと目の前にいる二人に気付いた。気付いて、あ、とした顔をして、見なかったことにしてまた本を読み始めた。
 キャーキャー言ってる早乙女結花とその取り巻きを無視して、若王子が市販の……あ、アレって真凛様が欲しいって言ってた限定のがじゃりこ!
 真凛様の目が輝き始めた。

 最近、若王子と飾西も真凛様のことわかってきたッスよね。真凛様が食べ物に弱いとは思わなかったッス。
 食べ物のことになると目が輝く真凛はかわいいでしょ? あー確かにかわいいッスよね~。普段ツンと澄ましてるくせに食べ物のことになると幼くなるというか……。
 ちょっ、違うッスよ!? オレはそんな邪な気持ちとかないッスから!

 は? 真凛の幼顔を撮ってきたらボーナスをやる? ……纏様、それってオレの命かかってますよね。無言の圧力が流架様から来るんスけどォ!
 というかこのオレの中継必要ッスか? 魔力食うの辛いんスけど。結局ビデオカメラに撮って帰ってから見るならリアルタイムとかなくても……リアルタイムで真凛様の様子を知りたい、と。
 ああ、そっすか……。

 限定ゆず塩味のがじゃりこを見つめて目を輝かせる真凛様。
 流架に怒られるかな~と思いながらも手を伸ばす真凛様の葛藤が見える。
 葛藤しつつも、食い気に勝てないらしい真凛様はがじゃりこに手を伸ばして開けようとして、

『キーンコーンカーンコーン』

 チャイムが鳴った。
 目に見えて悔しそうにする真凛様を微笑ましそうに見る若王子と飾西。
 え? 二人の目を潰せ? ちょっと変なこと言わないでください。オレが捕まったらどうするんスか。いや、すぐに釈放するとかそういう問題じゃないんで!

 予鈴が鳴ると、若王子も教室に戻って、飾西と早乙女結花とその取り巻きも自分の席に着く。
 真凛様はまた自分の席で小説を読み始めた。
 ただ時々思い出したように足をジタバタさせて机に突っ伏してる。

 あの人、結構子どもみたいなところあるよな。という呟きは自分の中だけにして、観察続行。

 真凛様は授業を聞きつつ、小説もペラペラと捲る。よくバレねーなと思ったら、真凛様は魔力を使って幻術使ってる。才能の無駄遣いッスね。
 それにしたって流架様と纏様、授業受けてるんスか? 他の奴から1時間目は体育って聞いてるんスけど。

 あ、やりながら……
 この小学生やべーわ。こえー。

 真凛様は授業に飽きたのかうとうとしながら、がくっと顔を机にぶつかりそうになる。瞬間、ハッとしてぶんぶんと首を振った。
 けど、またすぐにまたウトウトとし始める。
 なんかもう振り子みたい。見てたらこっちも眠くなってきた。

 ああ、やべ。もうむ………。



 …………あー、よく寝た。
 あ、いや、大丈夫ッスよ。真凛様も寝てたみたいなんで……いやいや寝顔見たらアンタ怒るでしょう! 見てもいいならがっつり見て報告しますよ! ほらまたすぐ死ねとかいう!

 というか、そろそろ昼食の時間なんスけど、まだやらなくちゃダメッスか?
 そろそろ真凛様の目が本当に殺すぞみたいな目になってきてるんスけど。
 ……ああ、オレが嫌われるのは流架様にとっては都合がいいと……。

 ……オレもできるなら美人に嫌われたくねーよ。

 若王子と飾西と早乙女結花が来たところでオレも気配を殺して立ち上がる。

 若王子と飾西はすでにオレが流架様の飼い犬だと言うことは知ってる。知らなかったらこいつらにまで殺されるわ。
 若王子と飾西は流架様には弱いからな。当たり前だけど。流架様は牽制することを忘れてない。裏からばっちり牽制済みだ。
 婚約のことは知らないから、流架様と真凛様が婚約してるって知ったら驚くだろうなァ。
 それを想像して嗤えるオレもなかなか性格が主人に似てきてるのかもしれない。
 ……嬉しくねー。

「……あ」

 パクッと真凛様の食べ物を奪う。
 うん、毒は入ってねぇな。過保護すぎる主人を持つとオレが苦労する。
 毎回毎回手作りのモンにはオレが味見させられる。そのせいで真凛様のオレを見る視線が強くなってる。

 具体的に言うと「殺すぞ貴様」くらいに強くなってる。というか魔力の圧力がやべぇ。

 オレもできるならやりたかねぇんスけど、過保護な流架様からの命令なんで諦めてください。
 そう言えたら楽なんスけどねぇ。
 言ったら殺される。つーか、オレが真凛様と話しても殺されるんスからね? 無視とかしてるわけじゃないんスよ、真凛様。

 流架様があいつらからの手作りの食べ物を許すのは、真凛様が食べ物を好きだからっつー理由もあるけど、一番は最終的に自分の手作りを一番だと言ってもらうためだ。
 そのために流架様は学校をサボったりして、有名シェフから有名パティシエ、おまえはなにを目指してるんだっつーほど必死になって修行してる。
 いやー、マジキモいッスわ。言葉に出したら殺されるケド。思うだけなら自由ッス。唯一の自由ッス!

 ちなみに出来上がったモンはすべてオレらの夕飯になってる。もう妥協しましょうよ、そこらの店より充分美味いッスから……。

 真凛様の無言の圧力からさっさと逃げ出す。
 真凛様って滅多に怒らないんだけど、怒ったらぜってーコワイ。下手したら流架様よりコワイんじゃね?
 ……今のところ、真凛様の怒りに触れてるのオレだけなんだけど、オレ、もしかして相当やばい?

 つーか、なんで影の中でオレだけこんな危ねぇ真似しなくちゃいけねぇんだよ!

 今日も今日とて真凛様に睨まれるオレは胃が痛い。
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