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方向転換で膝を怪我する女冒険者
ロールシェアリング
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フジカルは説明を続けた。
「そこで大事になってくるのが"ロールシェアリング(Role Sharing)"という考え方だ!」
ロールシェアリング、日本語で言うと"役割分担"だ。一歩一歩の接地において、それぞれ別々の役割を与えて、一歩で2つの役割を1度の接地で行わないという考え方だ。この考え方も、実は、フジカルが地球にいた2023年段階では、まだあまり知られてない考え方だった。
「最初に進んでいる方向からはマイナス方向への加速、要は減速することが大事なわけだけど、最後に方向転換を行う足で減速をしようとしてしまうと、その足は減速をするための負荷がかかって、さらに、そのうえで次の加速の負荷までかかってしまう」
1度の接地で、片方の足で減速と加速の両方を同時に行おうとしてしまうと危険なのだ。
「彼女は、左足で土人形へと走る身体の減速をしながら、そのままその左足で次の右方向への加速を行おうとしているんだ。」
「左足で減速と加速の両方をやってしまっている。」
サリーの動作の方向転換動作において、フジカルが気になった点のひとつが、このロールシェアリングが行えていないという点だった。右方向に急激な方向転換を行おうとするときに、減速動作と加速動作を、同時に左足で行おうとしていたのだ。
ただ、そのような動作パターンは、実際は珍しいことではない。その動作を行っているからといって、必ず怪我をしてしまうというわけでもないのだ。しかし、その動作を行うことによってリスクは上がってしまう。たとえば、予期しない状況において咄嗟に動こうとしたときなどが危ない。
「怪我というのは物理的なもので、ある身体の組織に対して、そこが耐えられる以上の負荷がかかると壊れる」
骨、筋肉、腱など、身体の組織も物理法則に縛られている。それぞれの組織が耐えられる以上の負荷が、そこにかかれば、そこは壊れる。そして、多くの場合、壊れるのは、負荷が集中してしまった部分であったり、最も弱かった部分となりがちだ。
「だから、減速と加速の両方のための負荷を同時に片方の足にかけたくないんだ」
一度の接地で全ての負荷を受け止めるのではなく、複数の接地に分散すれば、一歩一歩が受け止める負荷を下げることができる。ロールシェアリングは、負荷の分散のための考え方でもあるのだ。
「加速と減速の両方の負担が片方の足に一気にかかってしまうことを避けるためにも、減速に使う足と、加速に使う足、ひとつの動作を別々の足で役割分担する"ロールシェアリング"をしたい。」
そして、フジカルは、また新たな論文が印刷された紙を取り出した。
「ロールシェアリングに関しては、2017年の論文[Yamashita2017]が参考になる」
「この論文は、サイドステップに関する研究なので、いま課題としているテーマである90度の方向転換そのものを研究したものではないのだが、Role Sharingの考え方は活用可能だ」
「話は戻るが、適切なロールシェアリングをするには、切り返しを行う1歩前と2歩前で十分な減速を行えるようにしたい。右側への切り返しを行う左足で減速を行わないためにも、その1歩前と、さらに2歩前で十分な減速をできるようにしたい。」
ここにきて、先ほどの1歩前と2歩前の話とつながったようだ。
エリカへの説明を行なっている合間にも、ところどころで、「そのストップ、いいね!」とフジカルがサリーに声をかける。
ある程度の回数、サリーが土人形へのダッシュを続けたあと、少し休憩を入れてから次の練習に入る。
「よし、じゃあ、次は減速動作をもうちょっと細かく練習していこう!」
======
参考文献
======
[Yamashita2017]
Yamashita, D., Fujii, K., Yoshioka, S., Isaka, T., & Kouzaki, M. (2017). Asymmetric interlimb role-sharing in mechanical power during human sideways locomotion. In Journal of Biomechanics (Vol. 57, pp. 79–86). Elsevier BV. https://doi.org/10.1016/j.jbiomech.2017.03.027
「そこで大事になってくるのが"ロールシェアリング(Role Sharing)"という考え方だ!」
ロールシェアリング、日本語で言うと"役割分担"だ。一歩一歩の接地において、それぞれ別々の役割を与えて、一歩で2つの役割を1度の接地で行わないという考え方だ。この考え方も、実は、フジカルが地球にいた2023年段階では、まだあまり知られてない考え方だった。
「最初に進んでいる方向からはマイナス方向への加速、要は減速することが大事なわけだけど、最後に方向転換を行う足で減速をしようとしてしまうと、その足は減速をするための負荷がかかって、さらに、そのうえで次の加速の負荷までかかってしまう」
1度の接地で、片方の足で減速と加速の両方を同時に行おうとしてしまうと危険なのだ。
「彼女は、左足で土人形へと走る身体の減速をしながら、そのままその左足で次の右方向への加速を行おうとしているんだ。」
「左足で減速と加速の両方をやってしまっている。」
サリーの動作の方向転換動作において、フジカルが気になった点のひとつが、このロールシェアリングが行えていないという点だった。右方向に急激な方向転換を行おうとするときに、減速動作と加速動作を、同時に左足で行おうとしていたのだ。
ただ、そのような動作パターンは、実際は珍しいことではない。その動作を行っているからといって、必ず怪我をしてしまうというわけでもないのだ。しかし、その動作を行うことによってリスクは上がってしまう。たとえば、予期しない状況において咄嗟に動こうとしたときなどが危ない。
「怪我というのは物理的なもので、ある身体の組織に対して、そこが耐えられる以上の負荷がかかると壊れる」
骨、筋肉、腱など、身体の組織も物理法則に縛られている。それぞれの組織が耐えられる以上の負荷が、そこにかかれば、そこは壊れる。そして、多くの場合、壊れるのは、負荷が集中してしまった部分であったり、最も弱かった部分となりがちだ。
「だから、減速と加速の両方のための負荷を同時に片方の足にかけたくないんだ」
一度の接地で全ての負荷を受け止めるのではなく、複数の接地に分散すれば、一歩一歩が受け止める負荷を下げることができる。ロールシェアリングは、負荷の分散のための考え方でもあるのだ。
「加速と減速の両方の負担が片方の足に一気にかかってしまうことを避けるためにも、減速に使う足と、加速に使う足、ひとつの動作を別々の足で役割分担する"ロールシェアリング"をしたい。」
そして、フジカルは、また新たな論文が印刷された紙を取り出した。
「ロールシェアリングに関しては、2017年の論文[Yamashita2017]が参考になる」
「この論文は、サイドステップに関する研究なので、いま課題としているテーマである90度の方向転換そのものを研究したものではないのだが、Role Sharingの考え方は活用可能だ」
「話は戻るが、適切なロールシェアリングをするには、切り返しを行う1歩前と2歩前で十分な減速を行えるようにしたい。右側への切り返しを行う左足で減速を行わないためにも、その1歩前と、さらに2歩前で十分な減速をできるようにしたい。」
ここにきて、先ほどの1歩前と2歩前の話とつながったようだ。
エリカへの説明を行なっている合間にも、ところどころで、「そのストップ、いいね!」とフジカルがサリーに声をかける。
ある程度の回数、サリーが土人形へのダッシュを続けたあと、少し休憩を入れてから次の練習に入る。
「よし、じゃあ、次は減速動作をもうちょっと細かく練習していこう!」
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参考文献
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[Yamashita2017]
Yamashita, D., Fujii, K., Yoshioka, S., Isaka, T., & Kouzaki, M. (2017). Asymmetric interlimb role-sharing in mechanical power during human sideways locomotion. In Journal of Biomechanics (Vol. 57, pp. 79–86). Elsevier BV. https://doi.org/10.1016/j.jbiomech.2017.03.027
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