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眠れぬ夜のホットミルク(後編)
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✴
「結子さんは、神様とどうやって知り合ったんですか?」
帰り道、秋也くんはまだ興奮の余熱が残っている様で、目をキラキラにして質問をしてくる。
「え…えーっと
お供え物が気に入られて、というか…」
「じゃあオレ、明日油揚げ持っていこう!」
「あ、それは辞めた方がいいかも。あの狐、それ嫌いらしくて…」
「ふーん…そうなんですね」
「あ、後さ。お互い歳も近いし(?)
無理して敬語使わなくても大丈夫だよ!」
「分かった。オレの事も『秋』で構わないよ」
「じゃあ『秋君』ね。
秋君稲荷様と会ってから楽しそうで良かったよ。都会からこんな田舎に来るの嫌だったでしょ!」
何気ない会話、というか冗談のはずだったが、秋君は真剣な表情になった。
「…爺さんがぺらぺら喋ったから、さっきは気を遣ってくれて、どうも」
「え、いやそんな事は…」
ドキン!と心臓が跳ね上がる。
「大丈夫だから。気、遣わなくて。」
秋くんは、そう言って私の目の前を歩き出した。
気を悪くしただろうか…
二人のざっ、ざっ、というサンダルの擦れる音が山道に響いた。
「あの、ごめー…」
すると、前を歩く秋くんが口を開いた。
「母さんはさ、いつも弟の事ばかりなんだ。
例えば、弟が夜中起きたら
笑ってホットミルクをつくるのに、オレが起きたら追い返されちゃうし、
テストで良い点をとっても、誉めるのはいつも弟で、俺はまるでいない奴みたいだ。
そんな時オレは、なんだか無理やり檸檬を食べさせられた、
みたいな、そんな気持ちになる。」
私は秋くんの後ろを、何も言わずに黙って歩いた。
その気持ちは、私にも覚えがある。
秋君と同じ中学生の頃、
運動会でクラスメイトが親に駆け寄るのを見つめて、お弁当を食べたあの感覚、 羨ましくて、悔しいんだ。
秋くんは小石を蹴りながら、またぽつりと話し出す。
「俺が父さんに似てるからさ、きっと憎いんだと思う。
きっと、要らなかったんだと思う。
母さんも、弟も、父さんも悪くない。
でもどうしても母さんの目にはオレが写ってないからさ。それに、いつか耐えられなくなりそうだった。だから自分で此処に来たんだ。」
そう言うと急に後ろを向いて、「かっこいいだろ」と笑った。
そう言って、また前を歩き出した。
ざっざっざ、サンダルの擦れる音が聞こえる。
私は立ち止まったままだった。
何か声を掛けなきゃ、
私はここに来て学んだ事がたくさんあるはずだ。
嬉しかった事が沢山あるはずだ。
「お母さんはそんなそうに思ってないよ」なんていう根拠のない慰めは、多分かえって傷つけてしまう。
「大丈夫?」なんて聞くのは 1番駄目だ。
嘘の「大丈夫だよ」を聞いて安心して、この話を私の自己満足で終わらすのは 1番駄目だ。
「も、
森さんは君が夜起きても、ホットミルクをつくってくれるよ。」
「………そうかな」
秋くんは歩きを止めない。
蹴った小石が遠くに飛んでったみたいで、遠くの道を眺めてた。
「いや…えっと、森さんは柚子茶とかしか作れなそうだけど…
そしたら私がつくるよ! 何杯でもつくるよ!!
もし眠りたくなかったら、一緒に夜道を散歩してもいいし
社に行ってもいいし、絵本を読んで聞かせても………
あっ中学生だから絵本はもう読まないよね!?国語の教科書を朗読しても…いやそれも可笑しいか…」
「いや、オレどんだけ眠れてないんだよ。」
考えが纏まらず手をワナワナさせてると、秋くんが私にツッコんだ。
そしてクスクスと笑われた。
「つ、つまり君は、此処にはいつまででも居ていいって事だよ!ウェルカムって事だよ!!」
「はいはーい、わかったわかった」
ちらりと秋くんの顔を見ると先程の不安の面影はなく、なんとなく、嬉しそうな顔で、安心した。
さり気なく私の隣を歩き出したし…良かった。
丁度木々に囲まれた道を抜けて、食堂が見えてきた。
が、
その途端
私のお腹が空腹の意を示す様に鳴った。
なんで今鳴るんだの?!隣に人がいるのに!
「……走ろう」
え?と声を出せぬ間に、私は秋君に手を引っ張られ、一緒に食堂までの道を走り出していた。
足の血豆が少し痛かった気も…まぁするけど、それよりもお腹の方が深刻だったし、
なにより、嬉しかった。
「結子さんは、神様とどうやって知り合ったんですか?」
帰り道、秋也くんはまだ興奮の余熱が残っている様で、目をキラキラにして質問をしてくる。
「え…えーっと
お供え物が気に入られて、というか…」
「じゃあオレ、明日油揚げ持っていこう!」
「あ、それは辞めた方がいいかも。あの狐、それ嫌いらしくて…」
「ふーん…そうなんですね」
「あ、後さ。お互い歳も近いし(?)
無理して敬語使わなくても大丈夫だよ!」
「分かった。オレの事も『秋』で構わないよ」
「じゃあ『秋君』ね。
秋君稲荷様と会ってから楽しそうで良かったよ。都会からこんな田舎に来るの嫌だったでしょ!」
何気ない会話、というか冗談のはずだったが、秋君は真剣な表情になった。
「…爺さんがぺらぺら喋ったから、さっきは気を遣ってくれて、どうも」
「え、いやそんな事は…」
ドキン!と心臓が跳ね上がる。
「大丈夫だから。気、遣わなくて。」
秋くんは、そう言って私の目の前を歩き出した。
気を悪くしただろうか…
二人のざっ、ざっ、というサンダルの擦れる音が山道に響いた。
「あの、ごめー…」
すると、前を歩く秋くんが口を開いた。
「母さんはさ、いつも弟の事ばかりなんだ。
例えば、弟が夜中起きたら
笑ってホットミルクをつくるのに、オレが起きたら追い返されちゃうし、
テストで良い点をとっても、誉めるのはいつも弟で、俺はまるでいない奴みたいだ。
そんな時オレは、なんだか無理やり檸檬を食べさせられた、
みたいな、そんな気持ちになる。」
私は秋くんの後ろを、何も言わずに黙って歩いた。
その気持ちは、私にも覚えがある。
秋君と同じ中学生の頃、
運動会でクラスメイトが親に駆け寄るのを見つめて、お弁当を食べたあの感覚、 羨ましくて、悔しいんだ。
秋くんは小石を蹴りながら、またぽつりと話し出す。
「俺が父さんに似てるからさ、きっと憎いんだと思う。
きっと、要らなかったんだと思う。
母さんも、弟も、父さんも悪くない。
でもどうしても母さんの目にはオレが写ってないからさ。それに、いつか耐えられなくなりそうだった。だから自分で此処に来たんだ。」
そう言うと急に後ろを向いて、「かっこいいだろ」と笑った。
そう言って、また前を歩き出した。
ざっざっざ、サンダルの擦れる音が聞こえる。
私は立ち止まったままだった。
何か声を掛けなきゃ、
私はここに来て学んだ事がたくさんあるはずだ。
嬉しかった事が沢山あるはずだ。
「お母さんはそんなそうに思ってないよ」なんていう根拠のない慰めは、多分かえって傷つけてしまう。
「大丈夫?」なんて聞くのは 1番駄目だ。
嘘の「大丈夫だよ」を聞いて安心して、この話を私の自己満足で終わらすのは 1番駄目だ。
「も、
森さんは君が夜起きても、ホットミルクをつくってくれるよ。」
「………そうかな」
秋くんは歩きを止めない。
蹴った小石が遠くに飛んでったみたいで、遠くの道を眺めてた。
「いや…えっと、森さんは柚子茶とかしか作れなそうだけど…
そしたら私がつくるよ! 何杯でもつくるよ!!
もし眠りたくなかったら、一緒に夜道を散歩してもいいし
社に行ってもいいし、絵本を読んで聞かせても………
あっ中学生だから絵本はもう読まないよね!?国語の教科書を朗読しても…いやそれも可笑しいか…」
「いや、オレどんだけ眠れてないんだよ。」
考えが纏まらず手をワナワナさせてると、秋くんが私にツッコんだ。
そしてクスクスと笑われた。
「つ、つまり君は、此処にはいつまででも居ていいって事だよ!ウェルカムって事だよ!!」
「はいはーい、わかったわかった」
ちらりと秋くんの顔を見ると先程の不安の面影はなく、なんとなく、嬉しそうな顔で、安心した。
さり気なく私の隣を歩き出したし…良かった。
丁度木々に囲まれた道を抜けて、食堂が見えてきた。
が、
その途端
私のお腹が空腹の意を示す様に鳴った。
なんで今鳴るんだの?!隣に人がいるのに!
「……走ろう」
え?と声を出せぬ間に、私は秋君に手を引っ張られ、一緒に食堂までの道を走り出していた。
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