【完結】疎遠だった幼馴染に突然キスをされた男の子の話

白井ゆき

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番外編2 光希side

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「それは塚本君が悪いんじゃない?」

 思わずそう伝えれば、グラスに刺さったストローを不満げにかき回し始めた。

 元クラスメイトの小倉凛と、今俺の目の前で不貞腐れている学年1の有名人と言っても過言ではない塚本千明が交際している事実を知った日から、1年が経とうとしている。
 幼馴染という話を知り合いから聞かなければ、接点も共通点もないようなこの2人が急に一緒に行動するようになったため、堪らず聞いてみれば、「付き合ってる」とだけ返ってきたときの衝撃と言ったらもう。

 ぶっちゃけ、俺以外に友達がいるのか怪しい凛に、彼女と過ごしたいから昼休みも放課後も別々ね、と伝えるときはそこそこ緊張したが、聞いてみればその2週間ほど前から付き合っていたらしい。1人は嫌だと駄々こねる凛も見てみたかった。言わなそうだけど。
 それはさておき、凛が誰かと付き合うのは意外だった。恋愛なんて興味ありませんと言う態度を貫いていたあの凛が、まさか俺より先に恋人を作っていたなんて。1ミリも気づかなかった。

 でも、相手が塚本君なら納得ではある。凛と一緒にいると視線を感じることが多く、その先には必ず塚本君がいたからだ。一時期は、もしかして俺のことを、なんて自意識過剰なことを考えていたが、1人の時には驚くほど興味を持たれなかったため、その視線が凛に注がれていることはすぐに分かった。
「塚本千明ってゲイなの?」だなんて凛に探りを入れてみたときの表情から、完全なる塚本君の片思いだと思っていたけれど、いつの間に恋人にまで発展していたんだろう。
 でもまぁ、2人とも整った顔をしているし、背も高いしお似合いではある。

 そして今、なぜか俺はそんな2人の……というか塚本君の恋愛相談にのっている。彼女と一緒に帰る予定だったのに、「今日時間あるよね?」と圧をかけられた俺の気持ちも考えてほしい。断ろうとすると、誰が彼女の仲介してやったと思ってるの、とでも言いたげな表情で見下ろされ、泣く泣くついてきた。整った顔に凄まれるのは怖かったし、愛梨ちゃんも愛梨ちゃんで、「相談のってあげなよ」と俺の背中を押すものだから、本当に泣く泣く。

 話を聞いてみれば、席替えで前後になったことをいいことに、授業中に塚本君がちょっかいを出し続けたせいで凛が怒ったらしい。凛は、どちらかと言えば授業を真面目に聞くタイプではなかったけれど、1年の3学期あたりから気合を入れていたことを踏まえると、塚本君と同じクラス――特進クラスに入ろうと頑張っていたんだろう。普通クラスと比べると難易度もスピードも桁違いだと聞くし、そんな中しつこくちょっかいを出されればキレるのも当然だ。

 そして、冒頭に戻る。

「だって、凛可愛いんだもん」

 そう言って不貞腐れる塚本君に、顔を顰めてしまったのは許してほしい。

 凛は確かに、女の子のような可愛い顔立ちをしているとは思う。でも、高い身長に派手な髪色、そして何よりあの不愛想なしかめっ面を常にしているせいで、可愛いとはかけ離れた仕上がりになっている。最近は、表情も柔らかくなっている気もするが、それも誤差。可愛いより先に、おっかないという感想が出るのが普通だ。

 可愛いのか……?と疑問を思い浮かべつつも、恋人が可愛く見えるのは全人類の共通事項だと納得させて、正面を見た。

「だってさ、ほら。凛は凛なりに塚本君に追いつこうと頑張ってるわけじゃん?それを邪魔されたら、せっかく頑張ってるのにー!ってなるよ、誰だって」

 と言えば、「それ、凛が言ってたの?」と返ってきた。

「え、どれ?」
「俺に追いつこうってところ」
「直接聞いたわけじゃないけど、見たらわかる、的な?」
「……岡田君には分かって、俺には分からないって言いたいの」

 違う。断じて違う。

 不愉快そうに首を傾け、眇めた目で見られる。

 初めて話した時は表情豊かではないけれど、優しくてかっこいい好青年だったのに、凛がいないとすぐこれだ。最近益々ひどくなっている気がする。「マウント取ってる?」って、とるわけないじゃん。メリットないよ。

「そーじゃなくてさ、ほら、凛ってシャイじゃん?頑張ってるところ好きな人に見られたくなかったんだよ、きっと」
「ふーん」

 少しだけ和らいだ表情に、ホッと胸を撫で下ろした。いつ地雷を踏みぬいてしまうか分からないけれど、凛にとっては塚本君は特別な存在だとほのめかせば機嫌を取れるその単純さには助かっている。

「……で、そういうことだから凛の気持ちも汲み取ってあげたらいいんじゃないかな?」
「分かった。……でもさぁ、目の前に恋人がいたら構ってほしくなるじゃん」
「授業中にはならないよ。俺、愛梨ちゃんの邪魔したくないし」
「俺が凛の邪魔してるってこと?」
「そういう意味じゃなくってー」

 めんどくさいな、この人。これを飼いならしてるのすごいよ、凛。だから早く帰ってきて。帰ってこなくてもいいから、連絡してあげて。そしたら気分良くして塚本君も帰るから。

 そもそもさぁ、と前から聞こえた言葉に抱えていた頭を戻した。

「凛は俺が邪魔しても邪魔しなくても授業ついていけるよ」

 だからちょっとくらい構ってくれてもいいじゃん、とむくれ始める。

 確かに凛は頭がいい。1年の頃はテストの度に勉強を見てもらってたし、赤点の時には、それはもうお世話になった。コイツ何で普通クラスにいるんだろうと思ったことも1度や2度ではない。実際、塚本君と付き合う前から、特進クラス圏内の順位を取っていたことも知っている。そんなに頭がいいのに、謙虚なのか自覚がないのか、何故か自信なさげな様子が不思議だった。
 というか、塚本君に言われるくらい頭良いんだ。すげぇ。

「塚本君のために頑張る気持ちを邪魔されたのが嫌だったんじゃない?ほらぁ、あるじゃん?そういう、乙女心?的な?」

 ほら、だからさぁ、と身振り手振りで中身のないことをそれっぽく言っていれば、テーブルの上に置いていた俺のスマホが鳴り、2人の視線を集めた。

 バイブレーションをつけているおかげでブブブブと大きな音を立てるその画面には、凛と表示されており、冷や汗が背筋を伝った。

「出たら?」
「はい……」

 あからさまに不機嫌になる塚本君に怯えながら、恐る恐るスマホを手に取った。
 連絡をするべき相手は俺じゃないだろ……!俺も俺で、何で画面上にして置いてんだよ、ほんと!

「もしもし……?」
『急にごめん、今千明と一緒にいる?』
「うん、いちおー……」

 だから、早く切ってくれと切に願う。

『じゃあ、人に迷惑かけんなって伝えて』
「え、」

 俺が伝えるの?とちらりと目線を前にやれば、頬杖をついて不機嫌さを露にする塚本君と目が合った。
 俺から塚本君に迷惑かけんなって伝えたら、今この状況が迷惑です、って思ってるみたいになるじゃん。いや、迷惑ではあるんだけど。そんなことを伝えようもんなら、「彼女紹介したの誰だっけ、恩知らずだなぁ」って雄弁な目で責められるのがオチだ。1回言われたことあるし。
 凛は、凛以外の前での塚本君を知らなすぎるよ。

 そんなことを、目の前に座る人物に言えるわけもなく、「代わろうか」と申し出れば、塚本君が分かりやすく表情を明るくする。

『いい』

 この”いい”はお願いしますの”いい”だよねと、自分に都合のいい解釈をしてスマホを差し出す。凛の返事が来る前に、すでに手を伸ばしていた塚本君に「代わりたくないって言ってる」なんて言う勇気、俺にはない。

「凛?今日はごめんね、凛が俺のために頑張ってるって知らなくて。もう2度と邪魔しないから1人で帰んないで」

 こんな風に反省している素振りを見せる塚本君だけど、数日後にはまた別のことで怒られるのを俺は知っている。こういう風に放課後呼び出されるのは稀だが、あまりにもしつこすぎるアピールやらスキンシップやらで凛から疎まれ、注意されているたびに、『塚本君も反省してるから許してあげて』というメッセージを送らされている俺が言うのだから間違いない。

 俺に冷たい塚本君より、1年間同じクラスで友情を築いた凛の相談乗りたいというのが本音ではあるが、以前喧嘩をした際に、ファミレスで凛から話を聞いていると不機嫌MAXの塚本君が登場し、俺にガンを飛ばしながら凛を連れ去っていったのは記憶に新しい。
 後日、塚本君に見つからないように大丈夫だったか聞いてみれば、「ちょっとヤキモチ妬いてただけだったよ」と平然と言われ開いた口が閉まらなかった。凛はあの目で見られたことがないから、そんな呑気な事を言えるんだよ。
 それ以来、どうせなら凛の相談に乗りたい、だなんて馬鹿げたことを考えることはなくなった。

「それよりさ、何で俺より先に岡田君に電話するの?凛は岡田君と付き合ってるの?……だよね、これからは岡田君じゃなくて――」

 人のスマホでイチャつくなと言いたいところだが、自ら飛び火を受け止めるような真似をする程バカではない。
 氷が解けて薄くなったコーラをズズッとすすった。

「じゃあ、すぐ帰るから待っててね。先にご飯食べちゃダメだよ、一緒に食べたい。すぐ帰るから!」

 何度も念押ししてから電話を切った塚本君の顔は、俺が相談に乗っていたときとは比べ物にならない程晴れやかだ。

「スマホありがとう。凛が待ってるから帰るね。お会計はするから岡田君はゆっくりしてて」
「はーい、ありがとー。お幸せにー」

 手を振る俺には目もくれず、伝票を片手にレジへ向かう塚本君の背を見送る。

 結局、俺に解決できることなんてないのだから、いちいち挟まず2人で話し合いをすればいいものを。しかし、普段は何を考えているのか分からない2人の表情がコロコロと変わるのを楽しんでいる自分もいる。

 まぁ、たまには相談に乗ってあげなくもないかな、と呑気にコーラを飲んだ。

 その数日後、『ちょっとお願いがあるんだけど』と届いた塚本君からのメッセージに頭を抱えるのは、また別の話。

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