R18BLゲームの序盤で処刑されるモブキャラなのに何故か攻略対象に狙われています。

白井ゆき

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異世界ライフは甘くない

頼りになる従者

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 とんでもないことが発覚してしまった。

 俺の転生先は将来が確約された貴族の息子ではなく、高校1年生にして快楽刑に処されるモブだった。しかも悪いことなどしていない。真っ当なモブである。
 エロゲの登場人物でありながらも真面目な性格を貫き通したが故の悲惨なモブである。

 いや、記憶を取り戻したときに思ったよ? モーヴってモブじゃん! って。
 でもさ、モブの由来何て知らないし、この世界ではそれはそれは深い意味が込められてるんだろうって思うじゃん。貴族だし。

 なのに、本当にモブとかあり得る?
 そんなのってないだろ。俺は自我を取り戻したばかりだっていうのに!

「うわぁーん! 助けてエリオットぉ!」

 寮の自室に変えるや否や、ティータイムの支度をしてくれていたエリオットに文字通り泣きついた。
 扉を閉めた途端、顔をぐちゃぐちゃにして泣き出した俺に驚きながらも、優しく慰めてくれるエリオットは本当に良いやつだ。

「どうされたのです? どなたかにいじめられましたか?」
「おれ、おれ、このままだと快楽刑にしょされるぅ~」
「……なんですか? 快楽刑? 一体何の話をしているんですか?」
「だからぁ、快楽刑に処されるんだってぇ」
「……はいはい。冗談を言う前に着替えてください」

 俺の涙ながらの懸命な訴えはどうやらおふざけに聞こえたらしい。全然違う。事実だ。

 軽くあしらうエリオットの腰にしがみつき、わんわんと泣き喚く。どこかに行こうったってそんなことはさせない。

「あぁ、もう何ですか、何なんですか! 誰に何を吹き込まれたっていうんです?」

 鬱陶しそうに引きはがされて、フカフカのソファに座らされ、カップを持たされる。淹れたての紅茶をは、ここ数週間でまるっきり好みが変わったらしい、斎藤大輔の好きな甘い紅茶だ。
 一口飲めば心も落ち着いてきて、ずび、と鼻を啜りながら、すべてを話すことにした。

「あのな、俺はもうすぐ快楽刑に処されてしまうんだ」

 真剣な俺の訴えに返ってきたのは深い溜息だ。

「本当だ! 本当なんだよ!」
「はいはい。仮に本当だとして、何故そのような事態になるのです?」
「クラスにミリた……ミリエルって子がいるんだけどな、その子が校内の至る所でおっぱじめるんだよ」
「何をですか?」
「な、何って……せ、せ、せ、セックスをだよ!」

 前世も含めて誰にも手を出したことがない真の童貞である俺に、せ、セックスなんて言わせたくせにエリオットは「呆れた」と呟いて隣に座ってきた。かと思えば、ソーサーに紅茶を注ぎごくごくと飲んでいる。

 ……何か家に居るときと態度が違うな?

「把握していますよ。スノウ男爵家のご子息ですよね。目立つ容姿をしていますが、素行不良の噂を聞いたことはありません」
「悪いのはミリたそじゃなくてその周り! ミリたその優しさに付け込んだクソ野郎たちが場所を考えずにおっぱじめるんだよ!」

「ミリたそ?」と首を傾げつつ、クッキーを口に入れたエリオットのやる気のなさたるや。他人事だと思って!

「で、モーヴ様も彼に手を出す、と? 手を出さなければ済む話ではないですか」
「お、俺がミリたそに手を出すわけないだろ!」

 あんな、清らかなミリたそに、俺みたいなのが……! ま、まぁ? ミリたそからどうしてもって言われるなら? 考えないこともないけど?

「じゃあ、何故処刑されるんです? 大体なんですか、快楽刑って」
「だから、俺がミリたそに、はしたないって注意するんだよ。そしたら、何て醜い嫉妬だ! って」

 バターの香りにつられて、皿に並べられたクッキーを頬張る。ぽろぽろとカスを溢す俺にドン引きしているエリオットの視線には気づかないフリをした。

「支離滅裂ですね。一体、聡明なモーヴ様はどこに行ってしまわれたのです? やはり、一度精密な検査をして頂いた方がいいですよ」
「な、なぁ!? 俺の頭がおかしいって言うのか!?」
「そうです」

 幼い頃から共に切磋琢磨していた随分と頼りになる従者は、いつの間に冷たくなってしまったのだろう。……いや、俺の自我が出たせいだというのは明らかだが。
 でも、こっちでの貴族人生よりも、日本での所帯じみた生活の方が長いんだ。品行方正な好青年の自我を自由に出し入れできるのなら、俺だってしたいさ。

「大体、起きてもいないことに何故頭を悩ませているのです? 仮にスノウ男爵家のご子息の話が事実だったとして、関わらなければいい話ではないですか」

 当然、といった態度でバリボリと食べカス1つ落とさずにクッキーを平らげるエリオットに、きらきらとした視線を送る。

「そうか! ミリたそを呼び出さなければいいのか! エリオット天才! 相談してよかった!」

 俺としたことが、初歩的な作戦がすっかり抜け落ちていた。単純明快なその作戦であれば、慣れないこの地でも簡単だ。

 魔法とかどうでもいい。死んだら意味ないからな。
 今朝まで掲げていた、魔法を駆使してベッドから動かない生活なんていうくだらない目標はその場に投げ捨て、新たなゴールを掲げる。

『ミリたそには絶対に話しかけない!』

 その発案者であるエリオットに抱き着き、ぐりぐりと頭を押し付けていたこの時の俺は、この世界の異常性に頭を悩ませることなど知らず、呑気に笑っていたのだった。
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