R18BLゲームの序盤で処刑されるモブキャラなのに何故か攻略対象に狙われています。

白井ゆき

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異世界ライフは甘くない

心強い味方……?

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 ジェイドに肩を引き寄せられ歩く廊下。ひりひり痛む尻を庇いながら小股で進む俺は、ジェイドの話に適当に相槌を打ちながら落ち着きなく辺りを見渡していた。

 何といっても、高校生の時に入手して以来、長くお世話になってきたゲームの舞台だ。正直に言ってしまえば、ミリたそのあられもない姿にばかり注視していたため聖地巡礼の感動はないが、上部がアーチを描く窓枠や校舎を支える柱に施された彫刻はいかにも異世界といった様子で感動を覚える。
 しかし、よくよく見れば板張りの床は懐かしいフローリングだし、天井にはめ込まれた蛍光灯はどう考えたって現代日本の文明である。
 俺が気付いていなかっただけでレイン家の屋敷でも現代日本が散らばっていたのだろうか。それとも、この学園が特殊なのだろうか。

 ミリたそを見るまでエロゲの世界に転生したとは微塵も思わなかった辺り、この学園の敷地内だけ治外法権と化している可能性は多いにあるので、俺としては後者ではないかと踏んでいる。

「――ってわけだから、ヴィクターのこと怒らせないように気を付けてね。……聞いてる?」
「え? あぁ、うん、聞いてる聞いてる!」
「本当かなぁ」

 背中を丸め俺を覗き込むジェイドにへらりと笑ってみせる。
 周囲を見るのに必死で一体何の話をしていたのかさっぱりではあるが、ヴィクターはもちろんのことジェイドともなるべく関わらない方向性で行きたいので問題はない。今日のように思わぬトラブルに巻き込まれたときは頼らせてもらおうと思う。これまでに出会った3人の攻略対象の中では唯一話が通じそうだし、何より1回助けてくれたんだから2回目3回目も助けてくれるはずだ。まぁ、1番は何事もなく無事に卒業して幸せなニート生活を送ることだが。

 そんなことを考えているうちに到着した保健室に入る。
 ここにも現代日本がにじみ出ている……というか、まんま日本の保健室が広がっていた。唯一違いを挙げるとすればベッドのサイズである。ここのベッドは大人が3人並んでもゆとりがありそうなほど大きいが、それは異世界というよりエロゲ由来のものだろう。将来的にミリたそは3Pすることになるので仕方ない。その際にはベッドの下に潜り込んで盗み聞きをしようと思う。

「さ、ここに寝っ転がって」
「はぁい――って、は?」
「うん?」

 話半分で適当に頷いていたが、流石にジェイドの言葉を聞き流すことはできず、目を見開き、隣に立つジェイドを見上げた。

 「どうしたの?」なんて言いながら首を傾げるジェイドの姿は生徒を労わる温厚な教師そのものであるが故全く警戒していなかったが、コイツもれっきとした攻略対象の1人である。自分が開発した媚薬でミリたそを快楽堕ちさせたマッドサイエンティストことジェイド・バードウェルだ。

 その証拠にコイツは俺にベッドに寝ろなどと宣うと来た。冷静になって考えてみれば、いくら足元がおぼつかないとはいえ、生徒の肩を抱くのはおかしいじゃないか、何故気づかなかった。普通は肩を貸すところだろう。

 そして何より、ヴィクターのスパンキングからミリたそを救出したヴィクターは、治療と称してセクハラをするのだ。
 ヴィクターに叩かれ赤く腫れたミリたそのお尻に軟膏を塗るフリして撫でまわすだけでは飽き足らず、「おや、中まで傷がついているね」なんて嘯いてミリたそのアナル開発に勤しむのだ。
 少し前なら人違いですよなんて言って適当に流していただろうが、ヴィクターとのことがあった今の俺に、そんな余裕しゃくしゃくの態度を取れるはずもない。

 途端に貞操の危機を察知した俺は距離を取るべく後ろへ上体を反らしたわけだが、この体の寸法に慣れていない上、サーブからのヴィクターという2人がかりの身体攻撃により笑いの止まらない膝がかくりと折れ、俺の体は後ろへと倒れていく。

「え」
「うわっ、ちょっ!」

 だがしかし、ただで倒れる俺ではない。倒れる俺に伸ばされたジェイドの手を遠慮なく鷲掴みさせていただき、ジェイドを下敷きにして怪我なくこの危機を乗り越える。はずだった。
 
「ぎゃん!」
「あっぶねー……。大丈夫? 怪我はない?」

 都合よく背後にあった革張りのソファ。今後のスチルイベントのため座面が広く、なんとも座り心地が良い、その座面の上。眼前に迫ったジェイドの整った顔に俺は息を呑んだ。

 ジェイドを下敷きにする予定だったが、体が本調子ではなかったからか日ごろの運動不足のせいか、体を反転できなかった俺はソファの上でジェイドに押し倒されていた。

 覆いかぶさるジェイドの影が俺を覆う。座面についていた腕を移動させたジェイドは、その手で俺の頬をするりと撫でた。

「ぎ、」
「もう、気を付けて。君の体は今ダメージを受けているんだから」
「ぎ、」
「ヴィクターの仕置きを舐めちゃだめだよ」
「ぎゃぁぁぁああああ!!!!」

 渾身の大絶叫である。
 静かな保健室に響いたその悲鳴に肩を震わせたジェイドの下から抜け出そうともがく俺だが、さすが攻略対象。モブである俺の攻撃ごときではビクともしない。

「や、やめろっ! どけっ、どけよぉ」
「わ、わ、急に何? どうしたの?」
「お前らのっ、ひぐっ……うぅ、お前らの相手は俺じゃないだろぉ」

 あまりの恐怖に泣き出した俺の頭をジェイドが撫でる。しかし、そんなことで絆される俺ではない。しっかりはたき落としてからが次から次へと零れる涙を袖で拭く。
 「擦ると赤くなるよ」なんて両手を掴まれようものなら俺の恐怖心はピークに達し、声を上げて泣き喚いた。

「やぁっ、放せよぉ。ぅわぁあん!」
「あらあら、一体ヴィクターに何をされたの? 可哀そうに、よしよし」
「やだぁっ!」

 俺の体を抱きしめるジェイドの手を引きはがす間もなく、俺の視界が回転する。ぎゅっと瞑った目を開けば、視界にはジェイドの来ていた白衣が映っていた。

「あ、え……?」

 押し倒されていたはずだったが、気が付けば、ソファの座面の上でジェイドと横ならびに寝転がっている。驚いて顔を上げれば、柔和に細められた目が合った。

「大丈夫だよ、俺は何もしないからね」

 そう言って俺の頭をぽんぽんと撫でる。
 その頭を撫でる手や体に回された手に不埒な動機は感じられない。どころか、俺を宥めるように「大丈夫だよ」と繰り返すのだ。

「……ほ、ほんとに、何もしない?」
「うん、本当」
「絶対、絶対?」
「絶対」

 腕の中で見上げる俺と目を合わせ、しっかりと頷くジェイドに力が抜けた俺は、皺ひとつないその白衣にしがみついて、へにゃ、と笑う。

「え、えへへ」

 冷酷無比なこのゲームでも頭一つ抜けた鬼畜さを見せるヴィクターとも渡り合える猛者、ジェイドを味方にすることに成功してしまったかもしれない。初日としては上々の功績である。

 なかなかに順調な滑り出しに、案外処刑を免れるのも簡単そうだなと考えていた俺は、腕の中に収めた俺を見つめるジェイドの視線に気づくことなく、ぐへぐへと不気味な笑い声をあげていたのだった。
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