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魔女見習いリテと偽装姉弟

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私の新しい弟子は、優秀だった。もしかしたら、その優秀さに嫉妬して、自分を越えられたら困るから、わざと潰すために彼女を私にぶつけて来たのかもしれない。彼女自身も自分の師匠の嫉妬に気づいていたから、あっさり私に鞍替えしたのかもしれない。
薬草の知識は、私の弟子よりも上で、それはうちの弟子自身もすぐに気づいた。
おまけに娼婦たちを避けるため彼は彼女のそばにいることが多くなった。
私は、歩きながら、道端の薬草を摘んで、
「これは、何に効く?」
と、弟子に質問したが、未熟な私の弟子はすぐに答えられずに、返事に困ることが多かったので、私は、そばにいた新しい弟子に聞いた。
「あなたなら、これ、分かる」
「はい、腹痛に効く、旅人が急にお腹が悪くなったときに、その場で食べることの多い、一般的に良く知られた花ですね」
「正解。あなた、これから、この子をお姉ちゃんと呼んだ方がいいんじゃないかしら?」
「はい? ボクが、この人をお姉ちゃんですか?」
「ええ、そうよ、お姉さんでもいいわ、この子の方が後から弟子になったんだから、本来なら、先輩のあなたが兄弟子としてこの子に薬草の基礎を教えるべきなのに、全然だめでしょ。それとも、兄弟子面して威張れるような実力があると思ってる」
「いえ、ないです」
「なら、実力を認めてお姉ちゃん。これから先、魔女の弟子として振舞うよりも姉弟としてやっていった方がいいんじゃないかしら」
魔女は、魔女狩りが存在するように一般的に忌避される存在である。なのに、わざわざ、魔女の弟子を公言する理由はない。
「どう、偽装姉弟、悪くないでしょ」
「それも、そうですね」
私の弟子は、少し困った顔をしたが、彼女は私の提案にニタリとわらっていた。
「私は、いいですよ、偽装姉弟をやっても。師匠、いい考えだと思います」
「・・・わかりました。これからよろしく、お姉ちゃん」
彼が渋々承諾すると派手な女や娼婦たちが会話に割り込んできた。
「なによ、その女だけお姉ちゃんって呼ぶの? いっそ、みんな姉弟ってことにして、私たちもお姉ちゃんって呼んで欲しいわね」
「は、あんたらが、お姉ちゃん? おばさん、ちゃんと鏡見ていったら。この子とあんたらとでは年が離れすぎてるでしょ」
そう辛辣な言葉を放ったのは、偽装姉弟をやる気満々の彼女だった。
娼婦の中には借金を背負わされて娼館に売られてくる子が、多い。だが、うちの店の常連たちは、元は借金があったのかもしれないが、その実力で大金を稼げるようになり、自分の金で好きなだけうちの店の薬や化粧品を買えるようになった高級娼婦ばかりだった。でなければ、いきなり王都を飛び出してきた私に付いて来れるわけがなく、うちの常連だから、うちの化粧品で見た目以上に若く美しい肌をしていた。
だが、私も全員が姉弟というのは無理があると思った。
「ま、あなたたちは魔女の私と関係ないから、他人のままでいいでしょ」
「あら、他人のままでいいなんて冷たいのね、店長」
「世間的には、魔女と関りがまったくない方が利口じゃないかしら」
「いまさら水臭いわね。あなたについて来てる段階で無関係はないでしょ」
すると苦笑しつつくノ一が口を挟む
「確かに全員姉弟設定は無理があると思うし、魔女の弟子ふたりだけが姉弟でいいと思います。でも、そうなると魔女が、お母さん役になるってことでしょうか。いっそ親子と名乗った方が、世間の目を誤魔化すのにはいいと思いますが」
くノ一が、ニヤニヤ顔でそう私に言った。
「ええ、そうね、親子で旅してるということにした方が利口よね」
「そうですね、それがいいですね、お母さん」
偽装姉弟にさせられた反撃と言わんばかりに、師匠である私を彼はお母さんと言った。
「そうね、息子を厳しくしつける母親役ってのも悪くないかも」
そうして、落ち着いて住める街が見つかるまで、魔女と弟子ではなく、家族と偽装することになった。


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