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魔界の王女フェルリー・オゾート

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この俺を召喚した魔界の王女は、父と暮らしていた魔王城の落城の光景をはっきり目に焼き付けていた。
勇者が城門を破り、屈強な魔族を次々と倒し、魔王の玉座に突撃してくる様は、まさに恐怖だった。玉座の間には彼女の父と主だった魔界の有力者たちが集まっていた。人間の勇者に降伏し、世界の半分を引き渡すという条件での停戦交渉をしようと彼らは考えていたのだが、勇者らは魔王の停戦条件をあっさり拒否した。

そして、魔王城落城の悪夢が起き、王女は父親が勇者と戦って稼いだ時間で魔王城から一人落ち延び、古い歴史ある邪神様の神殿にまで逃げ延びた。神殿としては寂れて廃れていてほとんど遺跡のように放置されているのは知っていた。だが、人間どもの追撃を躱して、この廃墟にたどり着くのが、彼女にとって精一杯だった。邪神の神殿なら人間どもは気味悪がって容易には近づかないだろうという目算で、ここに駆け込んだのだ。そして、召喚魔法で強い魔物を呼び出す賭けを行った。魔王の娘とはいえ、彼女は戦いに秀でているわけではなく、召喚ぐらいしか勇者に対抗できそうなものがなかったのだ。そして、まさか、邪神様の導きで自分の救世主となるかもしれない本当に強い魔物が出てくるとは思っていなかった。だから、言われた通り神殿の奥に一人息をひそめていると、これでいいのかと不安になってくる。やはり、自分も一緒に戦うべきでは、と落ち着かない。

だが、王女が不安になっているのと同時刻、召喚された俺自身も不安だった。勇者に勝てる保証はない。ゲームのようにリセットできればいいが、そんなことはできないだろう。俺は強靭でしなやかな触手で天井の梁にしがみつき勇者たちを神殿の天井から息を殺して待ち伏せしていた。上からの奇襲という陳腐な手だが、必勝とは言わないが勝てる見込みがあると俺は思っていた。一気に全員を相手にするつもりはない。ひとりづつ、上から触手で吊り上げて、さらにその触手でいたぶり俺の粘液を肌に刷り込んでやる。卑怯な手だが、とにかく、勝てばいいのだ。魔王の娘をあれだけメロメロにできたから、勇者たちの穴という穴をすべて犯して、俺に服従させるつもりだった。

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