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吸血鬼カーリア
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「冒険者は、本当に脳筋ですね」
聖女様はあきれながら、団長にボコられた獣人娘の怪我を癒していた。
「あれ、もう痛くない」
聖女がそっと手を触れた瞬間、スッと痛みが引いていた。
「私も神の果物をいただきましたから」
「でも、手で触れただけで治すなんて、すごい」
信じる神の奇跡の力を借りる。それは、当然、信仰心の強さに比例した。
「これが、神のご加護というものです」
聖女様がほほ笑む。それを見て、団長も納得顔で笑みを浮かべる。
「おやおや、聖女様は、神の実で奇跡の手を手に入れられ大聖母様になられましたか」
「大聖母と言うのは、大げさです」
「けど、一瞬で傷を癒せるなんて普通の聖女にはできない。大聖母様に匹敵する力だと思うけど?」
「・・・そう、ですね」
彼女自身も急に得られたその力に戸惑うような表情をしていた。
触れただけでどんな病も傷を癒すという「奇跡の手」を持つ人物が実在することを、団長や聖女は知っていた。
暁の風の団員が大怪我をして死にそうになったとき、神殿に多額の寄付をして、高名な大聖母様に来てもらって助けてもらった経験が団長にはある。その大聖母様は、白髪交じりで、少なくとも目の前の聖女よりは、一回りは年上だった。たぶん、それなりの修練が必要で、こんな若くして奇跡の手を手に入れた聖女はいないだろうと団長は察していた。
「私のことよりも、女の子の顔を傷つけるのはよくないと思いますよ。それと、あなたもです」
聖女が、まず団長を一言注意してから、次に俺を見た。
「女性を逆さにするなんて、いくら冒険者とはいえ、破廉恥だとは思わないんですか」
「い、いや、あれは、仕方なかったというか、あの場合はああいう奇襲しかないと・・・」
「仕方なく、女性を逆さにして、その足を露にさせるしかなかったと?」
聖女様の声は咎めるというよりも少し呆れるような感じだった。
「いや、でも、やらしいことを考えなかった証拠に頭痛はなかったぜ」
そう、純粋に勝ちにこだわった戦法だから頭が痛くなるという邪魔はなかった。
つまり、俺にいやらしい考えはなかったという証拠だ。頭が痛んだのは最初だけ、女剣士が負けたらエロいことしていいと男の下心を刺激された時だけだ。あとは、戦いに夢中で、エロいことなど考えている余裕はなかった。
「だが、私は負けたらエロいことしていいとは言った覚えはあるが、逆さにしろとまで言ったか?」
女剣士が逆さにされた仕返しという感じでニヤッと俺を見ていた。
「それに、逆さにしておいて、全くエロいことを考えなかったというのは、それはそれで女としていささか傷つくな」
「な、なんだよ。まるで、俺にエロいことを考えて欲しかったみたいな言い方はやめろよ」
「いや、つまり、お前は私を女として見ていないと言われているようで、それも、なんだかね」
女剣士が神妙な顔をすると、聖女様があきれるように俺たちの会話を切った。
「とにかく、みなさん、頭まで筋肉みたいに考えなしで、行動しないでください。女の子の顔にあざを作るとか女性を逆さに吊るすとか、今後は言語道断です。みなさん、分かりましたね」
聖女様が生真面目にキッとにらむ。
「は、はい・・・」
冒険者の俺たちはしゅんとしおらしく聖女に了承の返事をした。団長さんも、きちんと獣人娘に謝る。
「悪かったね、つい見どころのある新人と思って指導に熱が入っちまった」
「いえ、いいんです。大変勉強になりました」
「どうだい、うちの団に入らないか」
「いいんですか」
「ああ、それだけの腕っぷしがあれば、充分うちでやってけるよ」
そんな雑談をしていると、森の大賢者様が、俺たちの方に静かに近づいてきた。
「どうやら、手合わせは無事に終わったようですね」
「はい、どうもすみません、森を騒がせて」
気が付けば、草木が戻って花々が周囲で咲き乱れていた。
「いやいや、こちらこそ、珍しいものを見せていただき、感謝。しかも、皆さんに無事、神の祝福があったようで、なにより。森の大賢者と大仰に名乗っておりながら大した力になれなくて、申し訳ない」
「いえ、そんなことありません、ありがとうございました」
俺の腕を元に戻すことはできなかったが、俺たちはなにも得られなかったわけではない。冒険者として恥じるべきときは、一銭にもならないようなことをしたときだけだ。それに、まだ、俺の腕が一生このままと決まったわけでもない。
長居する理由もなく、俺たちは軽く会釈して、大賢者様と別れた。
森には、オオネズミの他に、まだオオトカゲなどの魔物がいたが、今の俺たちに敵はいなかった。
「聖なる実を食べたことは、誰にも言わない方がいいね」
ふと、団長が言った。
「こんな力が得られる実があるなんて知れ渡ったら、この森に人が殺到して、エルフや大賢者様の迷惑になるだろうからね」
「そうですね」
滅多に天から落ちて来ないとはいえ、あてもなく探すより確実と森にやって来る輩がいないという保証はない。
誰も異論はなく、このことは俺たちだけの秘密にすることにして、街に戻ることにした。
森のはずれまでエルフの女の子はついてきた。
「じゃ、みなさん、お元気で」
「さよなら」
エルフの女の子は、さっと風のように森の奥へ踵を返して駆けて行った。
「あの子は、あまり変わったように見えないな」
「いや、そうでもないでしょ。もう姿が見えなくなっているじゃない」
「臭いも消えた。森の中で追いかけっこしたら、もう絶対にあの子は捕まえられないだろうね」
鼻に自信のある獣人娘が苦笑していた。
「あの子、次に会うときには、大賢者様以上の大物になってるかもね」
「いいな、きちんとあの実を食べられたひとは」
不味くて吐いてしまった俺はため息をついた。
「あんたには、その立派な触手があるでしょ」
「いや、こんな気持ち悪い腕よりも神の祝福の方がいいに決まっているだろ」
俺一人落胆しつつ街に戻った。団長は団員たちの元へ、さすが金のある有名な団だけあって、団長が不在の間、宿をひとつ丸ごと貸し切り、そこに滞在し、暇つぶしにうちのギルドから仕事を回してもらっていたらしい。聖女様は神殿に戻り、獣人娘は心配していた父親に会っていた。そして、俺と女剣士はギルド長に会い、大賢者様は戻し方を知らなかったが、近くの魔族の吸血鬼なら、何か情報を持っているかもしれないと助言をくれたと話し、ついでに、エルフの村の村長さんに会ったことも伝えた。そして、今度はその吸血鬼に会いに行くとも伝えた。
「さて、あとは、このオオネズミの尻尾を換金すれば、ひと段落かな」
ギルド長に報告を終え、俺と女剣士は受付のお姉さんのところに行こうとしたが。一階では、獣人娘とベテランのおっさんがちょっとした騒ぎを起こしていた。騒ぎとはいっても、父親と腕相撲して、獣人娘が、皆の前でおっさん相手に勝っていたのだ。父親の威厳が保てんとおっさんもムキになって、何度も再挑戦していた。
俺はこっそり女剣士に尋ねた。
「あの実を食べたら、怪力になれるのか?」
外見的に筋肉が増量されたようには見えなかったので確認した。
「いや、多少は筋力も向上してるだろうけど、腕相撲って力を入れるタイミングとかで勝負がつくから、そのタイミングを鋭く察してるんじゃない」
「カンが良くなった?」
「そんなところじゃない。私たちも試しにやってみる?」
「いや、いい」
俺たちは親子対決を横目で見ながら受付にオオネズミの尻尾を出す。
その量の多さに受付のお姉さんは少し驚いたようだが、俺たちの顔を見て、なんとなく納得したように換金をしてくれた。
「はい、どうぞ」
「どうも」
俺たちが金を受け取るときには、獣人娘の前に対戦者がずらりと並んでいた。ベテランさんの娘ということで、小さい頃から知られていたのだろう。あの小さかった子がと、その成長を確かめるように彼らは挑戦し、続々と破れていった。
「じゃ、予定通り、明日出発で、いい?」
相棒に確認する。みなとも、別れる前に明日吸血鬼に会いに出発すると話してあった。
「ああ、予定通り明日で」
俺は、予定に変更がないことを獣人娘に伝えようと彼女に近づいた。
「おい、触手、お前もお嬢ちゃんに挑戦するのか」
勘違いした冒険者が、そう俺に声を掛ける。
「いや、俺は、明日の予定を」
「なんだい、旦那。あんたもやるかい」
「そうだ、やれやれ」
周りの冒険者たちが盛り上がり、彼女も俺をくぃくぃと手招きする。断れる空気ではない。
仕方なく、彼女と向かい合い、
「明日は、予定通り吸血鬼に会いにいくからな。それと、オオネズミのお前の取り分」
「お、冒険者として初収入」
ほとんど俺が退治したのだが、パーティーを組んでいる場合、報酬は仲間と分け合うのが冒険者の鉄則だ。それが冒険者仲間というものである。
「予定通り、明日、吸血鬼に会いに行くが、いいか」
「もちろん」
で、連絡とは別にきちんと腕相撲をし、俺が勝った。
すると、女剣士が獣人娘の代わりに俺の前に立って、腕相撲を挑んできた。周りの冒険者の期待する目があるので、俺は仕方なく勝負を受けた。
「なっ!」
彼女は卑怯にも革の胸当てを外し、胸元を正面の俺にだけ良く見えるように開けていた。
「いて、いてて・・・」
痛みに耐えつつ、何とか触手を女剣士の手と組ませる。当然、俺の負けだった。俺の誓約のことを知っている獣人娘がクスクスと笑い、敗者として俺は周りの冒険者の失笑を浴びた。
「なんだよ、魔族の触手と言ってもたいしたことねぇな」
「気持ち悪いだけかよ」
俺は弁解しなかった。俺の触手が、本当は強いと証明してなんになる。こいつは元の普通の腕にする予定なのだ。
翌日、吸血鬼のいるという古城を目指して、再び、街を出た。
俺、女剣士、獣人娘、団長、聖女様のパーティーだ。団長は、乗り掛かった舟だから、もう少し付き合うと、聖女様は、少し、約束の時間に遅れた。どうやら、奇跡の手を手に入れたことを神殿に正直に報告し、少しもめたらしい。奇跡の手の持ち主が俺たちみたいな粗野な冒険者と行動をともにするのはと言われたらしい。
だが、彼女は俺たちのところに来た。奇跡の手を得たとはいえ、まだ自分は未熟と感じているようだ。
吸血鬼が住むという古城は、街から近く、鋭い尖塔がいくつも並んで立ち、古いが洗練された芸術品のようにたたずんでいた。
「ここが、吸血鬼の城か」
冒険者たちの間で、近くの古城に吸血鬼が住み着いているらしいと聞いたことはあるが、ギルドでは、むやみに近づかないようにと注意されている場所だった。
城門に近づくと、勝手に門が開いた。
中から、美麗な執事服の青年が出て来た。
「この城に何ようですか」
「あんた、人狼だね」
獣人娘が臭いで見抜く。
「はい、そうですが」
「あ、あの、森の大賢者様の紹介で、ここの御主人様に、聞きたいことがあって来たんだけど」
「森の大賢者様から、ですか」
人狼の執事が、少し考えこむ。
「すこし、お待ちください、まだ陽も出ておりますので」
そうして、俺たちは陽が沈むまで、門の外で待たされた。
考えてみたら、吸血鬼に会いに昼間来る方が失礼だったかと俺は反省した。
聖女様はあきれながら、団長にボコられた獣人娘の怪我を癒していた。
「あれ、もう痛くない」
聖女がそっと手を触れた瞬間、スッと痛みが引いていた。
「私も神の果物をいただきましたから」
「でも、手で触れただけで治すなんて、すごい」
信じる神の奇跡の力を借りる。それは、当然、信仰心の強さに比例した。
「これが、神のご加護というものです」
聖女様がほほ笑む。それを見て、団長も納得顔で笑みを浮かべる。
「おやおや、聖女様は、神の実で奇跡の手を手に入れられ大聖母様になられましたか」
「大聖母と言うのは、大げさです」
「けど、一瞬で傷を癒せるなんて普通の聖女にはできない。大聖母様に匹敵する力だと思うけど?」
「・・・そう、ですね」
彼女自身も急に得られたその力に戸惑うような表情をしていた。
触れただけでどんな病も傷を癒すという「奇跡の手」を持つ人物が実在することを、団長や聖女は知っていた。
暁の風の団員が大怪我をして死にそうになったとき、神殿に多額の寄付をして、高名な大聖母様に来てもらって助けてもらった経験が団長にはある。その大聖母様は、白髪交じりで、少なくとも目の前の聖女よりは、一回りは年上だった。たぶん、それなりの修練が必要で、こんな若くして奇跡の手を手に入れた聖女はいないだろうと団長は察していた。
「私のことよりも、女の子の顔を傷つけるのはよくないと思いますよ。それと、あなたもです」
聖女が、まず団長を一言注意してから、次に俺を見た。
「女性を逆さにするなんて、いくら冒険者とはいえ、破廉恥だとは思わないんですか」
「い、いや、あれは、仕方なかったというか、あの場合はああいう奇襲しかないと・・・」
「仕方なく、女性を逆さにして、その足を露にさせるしかなかったと?」
聖女様の声は咎めるというよりも少し呆れるような感じだった。
「いや、でも、やらしいことを考えなかった証拠に頭痛はなかったぜ」
そう、純粋に勝ちにこだわった戦法だから頭が痛くなるという邪魔はなかった。
つまり、俺にいやらしい考えはなかったという証拠だ。頭が痛んだのは最初だけ、女剣士が負けたらエロいことしていいと男の下心を刺激された時だけだ。あとは、戦いに夢中で、エロいことなど考えている余裕はなかった。
「だが、私は負けたらエロいことしていいとは言った覚えはあるが、逆さにしろとまで言ったか?」
女剣士が逆さにされた仕返しという感じでニヤッと俺を見ていた。
「それに、逆さにしておいて、全くエロいことを考えなかったというのは、それはそれで女としていささか傷つくな」
「な、なんだよ。まるで、俺にエロいことを考えて欲しかったみたいな言い方はやめろよ」
「いや、つまり、お前は私を女として見ていないと言われているようで、それも、なんだかね」
女剣士が神妙な顔をすると、聖女様があきれるように俺たちの会話を切った。
「とにかく、みなさん、頭まで筋肉みたいに考えなしで、行動しないでください。女の子の顔にあざを作るとか女性を逆さに吊るすとか、今後は言語道断です。みなさん、分かりましたね」
聖女様が生真面目にキッとにらむ。
「は、はい・・・」
冒険者の俺たちはしゅんとしおらしく聖女に了承の返事をした。団長さんも、きちんと獣人娘に謝る。
「悪かったね、つい見どころのある新人と思って指導に熱が入っちまった」
「いえ、いいんです。大変勉強になりました」
「どうだい、うちの団に入らないか」
「いいんですか」
「ああ、それだけの腕っぷしがあれば、充分うちでやってけるよ」
そんな雑談をしていると、森の大賢者様が、俺たちの方に静かに近づいてきた。
「どうやら、手合わせは無事に終わったようですね」
「はい、どうもすみません、森を騒がせて」
気が付けば、草木が戻って花々が周囲で咲き乱れていた。
「いやいや、こちらこそ、珍しいものを見せていただき、感謝。しかも、皆さんに無事、神の祝福があったようで、なにより。森の大賢者と大仰に名乗っておりながら大した力になれなくて、申し訳ない」
「いえ、そんなことありません、ありがとうございました」
俺の腕を元に戻すことはできなかったが、俺たちはなにも得られなかったわけではない。冒険者として恥じるべきときは、一銭にもならないようなことをしたときだけだ。それに、まだ、俺の腕が一生このままと決まったわけでもない。
長居する理由もなく、俺たちは軽く会釈して、大賢者様と別れた。
森には、オオネズミの他に、まだオオトカゲなどの魔物がいたが、今の俺たちに敵はいなかった。
「聖なる実を食べたことは、誰にも言わない方がいいね」
ふと、団長が言った。
「こんな力が得られる実があるなんて知れ渡ったら、この森に人が殺到して、エルフや大賢者様の迷惑になるだろうからね」
「そうですね」
滅多に天から落ちて来ないとはいえ、あてもなく探すより確実と森にやって来る輩がいないという保証はない。
誰も異論はなく、このことは俺たちだけの秘密にすることにして、街に戻ることにした。
森のはずれまでエルフの女の子はついてきた。
「じゃ、みなさん、お元気で」
「さよなら」
エルフの女の子は、さっと風のように森の奥へ踵を返して駆けて行った。
「あの子は、あまり変わったように見えないな」
「いや、そうでもないでしょ。もう姿が見えなくなっているじゃない」
「臭いも消えた。森の中で追いかけっこしたら、もう絶対にあの子は捕まえられないだろうね」
鼻に自信のある獣人娘が苦笑していた。
「あの子、次に会うときには、大賢者様以上の大物になってるかもね」
「いいな、きちんとあの実を食べられたひとは」
不味くて吐いてしまった俺はため息をついた。
「あんたには、その立派な触手があるでしょ」
「いや、こんな気持ち悪い腕よりも神の祝福の方がいいに決まっているだろ」
俺一人落胆しつつ街に戻った。団長は団員たちの元へ、さすが金のある有名な団だけあって、団長が不在の間、宿をひとつ丸ごと貸し切り、そこに滞在し、暇つぶしにうちのギルドから仕事を回してもらっていたらしい。聖女様は神殿に戻り、獣人娘は心配していた父親に会っていた。そして、俺と女剣士はギルド長に会い、大賢者様は戻し方を知らなかったが、近くの魔族の吸血鬼なら、何か情報を持っているかもしれないと助言をくれたと話し、ついでに、エルフの村の村長さんに会ったことも伝えた。そして、今度はその吸血鬼に会いに行くとも伝えた。
「さて、あとは、このオオネズミの尻尾を換金すれば、ひと段落かな」
ギルド長に報告を終え、俺と女剣士は受付のお姉さんのところに行こうとしたが。一階では、獣人娘とベテランのおっさんがちょっとした騒ぎを起こしていた。騒ぎとはいっても、父親と腕相撲して、獣人娘が、皆の前でおっさん相手に勝っていたのだ。父親の威厳が保てんとおっさんもムキになって、何度も再挑戦していた。
俺はこっそり女剣士に尋ねた。
「あの実を食べたら、怪力になれるのか?」
外見的に筋肉が増量されたようには見えなかったので確認した。
「いや、多少は筋力も向上してるだろうけど、腕相撲って力を入れるタイミングとかで勝負がつくから、そのタイミングを鋭く察してるんじゃない」
「カンが良くなった?」
「そんなところじゃない。私たちも試しにやってみる?」
「いや、いい」
俺たちは親子対決を横目で見ながら受付にオオネズミの尻尾を出す。
その量の多さに受付のお姉さんは少し驚いたようだが、俺たちの顔を見て、なんとなく納得したように換金をしてくれた。
「はい、どうぞ」
「どうも」
俺たちが金を受け取るときには、獣人娘の前に対戦者がずらりと並んでいた。ベテランさんの娘ということで、小さい頃から知られていたのだろう。あの小さかった子がと、その成長を確かめるように彼らは挑戦し、続々と破れていった。
「じゃ、予定通り、明日出発で、いい?」
相棒に確認する。みなとも、別れる前に明日吸血鬼に会いに出発すると話してあった。
「ああ、予定通り明日で」
俺は、予定に変更がないことを獣人娘に伝えようと彼女に近づいた。
「おい、触手、お前もお嬢ちゃんに挑戦するのか」
勘違いした冒険者が、そう俺に声を掛ける。
「いや、俺は、明日の予定を」
「なんだい、旦那。あんたもやるかい」
「そうだ、やれやれ」
周りの冒険者たちが盛り上がり、彼女も俺をくぃくぃと手招きする。断れる空気ではない。
仕方なく、彼女と向かい合い、
「明日は、予定通り吸血鬼に会いにいくからな。それと、オオネズミのお前の取り分」
「お、冒険者として初収入」
ほとんど俺が退治したのだが、パーティーを組んでいる場合、報酬は仲間と分け合うのが冒険者の鉄則だ。それが冒険者仲間というものである。
「予定通り、明日、吸血鬼に会いに行くが、いいか」
「もちろん」
で、連絡とは別にきちんと腕相撲をし、俺が勝った。
すると、女剣士が獣人娘の代わりに俺の前に立って、腕相撲を挑んできた。周りの冒険者の期待する目があるので、俺は仕方なく勝負を受けた。
「なっ!」
彼女は卑怯にも革の胸当てを外し、胸元を正面の俺にだけ良く見えるように開けていた。
「いて、いてて・・・」
痛みに耐えつつ、何とか触手を女剣士の手と組ませる。当然、俺の負けだった。俺の誓約のことを知っている獣人娘がクスクスと笑い、敗者として俺は周りの冒険者の失笑を浴びた。
「なんだよ、魔族の触手と言ってもたいしたことねぇな」
「気持ち悪いだけかよ」
俺は弁解しなかった。俺の触手が、本当は強いと証明してなんになる。こいつは元の普通の腕にする予定なのだ。
翌日、吸血鬼のいるという古城を目指して、再び、街を出た。
俺、女剣士、獣人娘、団長、聖女様のパーティーだ。団長は、乗り掛かった舟だから、もう少し付き合うと、聖女様は、少し、約束の時間に遅れた。どうやら、奇跡の手を手に入れたことを神殿に正直に報告し、少しもめたらしい。奇跡の手の持ち主が俺たちみたいな粗野な冒険者と行動をともにするのはと言われたらしい。
だが、彼女は俺たちのところに来た。奇跡の手を得たとはいえ、まだ自分は未熟と感じているようだ。
吸血鬼が住むという古城は、街から近く、鋭い尖塔がいくつも並んで立ち、古いが洗練された芸術品のようにたたずんでいた。
「ここが、吸血鬼の城か」
冒険者たちの間で、近くの古城に吸血鬼が住み着いているらしいと聞いたことはあるが、ギルドでは、むやみに近づかないようにと注意されている場所だった。
城門に近づくと、勝手に門が開いた。
中から、美麗な執事服の青年が出て来た。
「この城に何ようですか」
「あんた、人狼だね」
獣人娘が臭いで見抜く。
「はい、そうですが」
「あ、あの、森の大賢者様の紹介で、ここの御主人様に、聞きたいことがあって来たんだけど」
「森の大賢者様から、ですか」
人狼の執事が、少し考えこむ。
「すこし、お待ちください、まだ陽も出ておりますので」
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