怪異の忘れ物

彼女の証言

彼女は、「俺を殺して食べて、君だけでも生き延びて欲しい」と彼の方から持ち掛けたと証言した。だが、彼の夫の遺族は、遭難した彼女が自分だけでも助かろうとして漂流するヨットの上で夫を殺して食料にして生き延びたと、彼女を殺人罪で起訴し、裁判を起こした。
彼女は彼が自分で、その身を差し出したと世間に訴えた。
だが、漂流する海の上、彼女の証言を証明する証拠はなく、逆に、彼女が彼を自分勝手に殺したという証拠もなかった。で、裁判は、彼の犠牲がなければ彼女が死んでいたという緊急避難を認めて、彼女を無罪にした。
実は、彼は死ぬ前に、自分が妻に殺されるだろうと予感して遺言をスマフォに残しており、それをヨットに隠しておいたのが、後日見つかった。その遺言は、もし妻が自分を殺そうとしたら、共倒れになるよりも黙って妻のために殺されるという内容だった。それを見せられた彼女は、夫の気持ちを知って精神的にまいってしまい拒食症となって衰弱死した。