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第二章
#38
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町の外れの一角に、古びた一軒の屋敷がある。
商売で成功を収めた裕福な住人が建てたものだが、その栄華は既に過去のものだ。
住む者もいなければ手入れや管理をする者もおらず、長い歳月を雨風に曝され続けた結果、風化して荘厳さを失った建築物は、ただ不気味さを漂わせるばかりである。
現在では時折、子供たちが度胸試しに訪れる程度の屋敷内を、いくつもの荒々しい足音が踏み荒らしていた。
いずれもがならず者と見て確かな中で、ただ一人、鮮やかな花の如き人物がいた。
屋内へ突き飛ばされるように押し入れられて、アレクトラはよろめきながらも何とか体勢を整えると、きつい眼差しをならず者たちに向ける。
ぞろぞろと屋内へ入ってくるならず者の男たちーーーその数は十数人を越えていた。
「あんたがいけないんだぜ? 姉ちゃんよお」
扉が閉められたところで首領格と思しき一人が、前に一歩進み出る。
「俺はちゃんと警告してやっただろ? それを無視するからこんな羽目になったんだぜ?」
自分が今、危機的状況に陥っていることは理解している。
数人程度ならまだしも、これだけの大人数で一度に攻められたら全てをさばききるのは不可能だろう。
そんな絶体絶命の直中にいながらも、アレクトラはどうしても気になっていることを問いとして相手に投げかけてみた。
「その顔、どうしたの?」
首領格である隻眼の男を始め、その後ろに立つ舎弟連中まで全員、顔面が痣だらけだった。
もの凄い力で完膚なきまでに殴られたかのような有様である。
「うるせえな! そんなことはどうだっていいんだよ!」
どうやら触れて欲しくない事情があるらしく、アレクトラも別段深堀する気はないので小さく肩をすくめただけでそれ以上追求はしなかった。
気を取り直したように、隻眼の男がアレクトラに要求を突きつける。
「大人しく資格証を渡せば見逃してやる・・・・・・って、言ったところで従う気はねえんだよな?」
「あら。よく分かっているじゃない」
にやりと不敵に笑うアレクトラに対して、隻眼の男も凄み利かせるような笑みを浮かべて見せた。
痣だらけの上に腫れ上がった顔では、まったく迫力は感じないが。
「なら、残念だがここで消えてもらうしかねえなあ・・・・・・けど、その前に」
穏やかではない宣告は予想していたものであり、別段驚くほどのことはなかった。しかし、付け足されたその言葉は・・・・・・
「折角、これだけの美人が相手なんだ。楽しまない手はねえだろうよ」
下劣極まりない発言は、アレクトラの美貌を思い切り顰めさせるものであった。
隻眼の男が顎をしゃくって合図をすると、控えていた舎弟たちが品のない嬌声を上げながら、アレクトラへ一斉に押し寄せる。
一人、二人、三人・・・・・・対処できたのは、そこまでだった。
腕を、肩を掴む、いくつもの手が体重をかけて細身の身体を床へと押し倒す。
下卑た笑い声に取り囲まれて、何人もの手に全身を押さえ込まれたアレクトラが小さく吐息を漏らした。
呆れたような、蔑むような意が込められていることに気付く者はおらず、力任せに衣服を引き裂く甲高い音が廃墟の空間に響き渡った。
商売で成功を収めた裕福な住人が建てたものだが、その栄華は既に過去のものだ。
住む者もいなければ手入れや管理をする者もおらず、長い歳月を雨風に曝され続けた結果、風化して荘厳さを失った建築物は、ただ不気味さを漂わせるばかりである。
現在では時折、子供たちが度胸試しに訪れる程度の屋敷内を、いくつもの荒々しい足音が踏み荒らしていた。
いずれもがならず者と見て確かな中で、ただ一人、鮮やかな花の如き人物がいた。
屋内へ突き飛ばされるように押し入れられて、アレクトラはよろめきながらも何とか体勢を整えると、きつい眼差しをならず者たちに向ける。
ぞろぞろと屋内へ入ってくるならず者の男たちーーーその数は十数人を越えていた。
「あんたがいけないんだぜ? 姉ちゃんよお」
扉が閉められたところで首領格と思しき一人が、前に一歩進み出る。
「俺はちゃんと警告してやっただろ? それを無視するからこんな羽目になったんだぜ?」
自分が今、危機的状況に陥っていることは理解している。
数人程度ならまだしも、これだけの大人数で一度に攻められたら全てをさばききるのは不可能だろう。
そんな絶体絶命の直中にいながらも、アレクトラはどうしても気になっていることを問いとして相手に投げかけてみた。
「その顔、どうしたの?」
首領格である隻眼の男を始め、その後ろに立つ舎弟連中まで全員、顔面が痣だらけだった。
もの凄い力で完膚なきまでに殴られたかのような有様である。
「うるせえな! そんなことはどうだっていいんだよ!」
どうやら触れて欲しくない事情があるらしく、アレクトラも別段深堀する気はないので小さく肩をすくめただけでそれ以上追求はしなかった。
気を取り直したように、隻眼の男がアレクトラに要求を突きつける。
「大人しく資格証を渡せば見逃してやる・・・・・・って、言ったところで従う気はねえんだよな?」
「あら。よく分かっているじゃない」
にやりと不敵に笑うアレクトラに対して、隻眼の男も凄み利かせるような笑みを浮かべて見せた。
痣だらけの上に腫れ上がった顔では、まったく迫力は感じないが。
「なら、残念だがここで消えてもらうしかねえなあ・・・・・・けど、その前に」
穏やかではない宣告は予想していたものであり、別段驚くほどのことはなかった。しかし、付け足されたその言葉は・・・・・・
「折角、これだけの美人が相手なんだ。楽しまない手はねえだろうよ」
下劣極まりない発言は、アレクトラの美貌を思い切り顰めさせるものであった。
隻眼の男が顎をしゃくって合図をすると、控えていた舎弟たちが品のない嬌声を上げながら、アレクトラへ一斉に押し寄せる。
一人、二人、三人・・・・・・対処できたのは、そこまでだった。
腕を、肩を掴む、いくつもの手が体重をかけて細身の身体を床へと押し倒す。
下卑た笑い声に取り囲まれて、何人もの手に全身を押さえ込まれたアレクトラが小さく吐息を漏らした。
呆れたような、蔑むような意が込められていることに気付く者はおらず、力任せに衣服を引き裂く甲高い音が廃墟の空間に響き渡った。
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