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勇者
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▽
驚きのあまりか、声すら上げられずにいる部下たちを横目に、目の前に広がる、微かな建物の塵すら残らず、決してそこに、シエル一豊かな街が一瞬前までは存在していたとは思えない、荒野という言葉すら当て嵌まらぬ、真っ黒く焦げた、綺麗な円形の窪地の中心をじっと見つめる。
窪地には、未だ土埃や、例の淡い色の霧が立ち込め、その中心は、結界の内側の王城から幾ら目を凝そうとも、何も見えぬ程ではあるが、部下に戦果の確認をさせる気も、今の自分にその報告を心の底から信ずる余裕もないであろう故、決して己の目を離すことはなかった。
だが、次第に視界を塞ぐものが晴れ、窪地の中心が見え始めると、そんな己自身の目すら疑いたくなる様な、光景がありありと目に焼き付いてくる。
自身の創り出した強烈な結界すら痛める程の、超が付く程の大魔法を受けたにも関わらず、手足や翼を無くしながらも、黒龍はその姿を辛うじて残し、中心に立っていたのだ。
「馬鹿な……」
黒龍が生きていることへの、あまりの驚きと、再びじわじわと染み出してくる恐怖の念に囚われ、言葉と攻撃が続かず、他の魔物たち同様、呆然と、大地を踏み締める黒龍の様子を見つめていると、不意にある事に気がついた。
……傷が治らない。
その首を落とされた時や、フェンリルと戦っていた時は、人間たちを殺すことで得ているらしい、淡い色の霧でもって、傷ついた身体を瞬時に癒していたはずなのだが、今はそれが黒龍の身体を包み込まず、周囲を漂っているだけなのだ。
一瞬、先ほどの攻撃によって、霧では治癒出来ぬだけの傷を負わせたのかと、希望にも近いものが胸の内を過ぎるが、そんな甘い妄想はすぐさま消し飛び、冷酷な現実が目の前で動き始めた。
やっと収まりつつあった土埃などを再び舞わせ、地響きすら起こす、勢い良く倒れ込んだ黒龍の首あたりから、無数の“人間”の腕が突き出し、その首の肉を掻き毟りだしたのだ。
鋭利な刃物などは持たず、全てやや細めな、普通の女の手の様に見えるが、しかし、それらはいとも容易く、黒龍の強靭な鱗ごと首の肉を削り取っていき、ぽっかりと、一つの大きな穴を喉のあたりに開けてしまう。
そして、首あたりから突き出していた無数の腕が、引っ込むのではなく、周囲に漂う霧に攫われる様に、その姿形を消し去ると、先ほど開けられた喉の穴より、短めの“白髪”に、生えていた腕同様、やや痩せ細った印象を受ける、一糸纏わぬ姿の女が悠々と出て来た。
……黒龍の中から、人間の女?
もはや、黒龍が塵とならなかった時点で、思考は恐怖と驚きによって止まりかけているというのに、そこに畳み掛ける様に、不可思議な、想像もつかない出来事が多発しているせいで、何一つ分析出来はしない。
だが、髪色と同じくらいに色白な肌をした、裸の女の顔、いや、その虚ろで、何者をも映さず、感情の色さえ灯さぬ双眸がこちらへと向いた瞬間、思考と身体は完全に凍りついた。
「ゆ、勇……者……」
姿形こそまるで違うが、再会した黒龍などよりも、もっと不気味な、“虚無”としか言い表すことの出来ぬ、あの二つの瞳を忘れようはずはない。
「ま、魔王様……?」
乱れる呼吸のまま、一歩、また一歩と後退りする私の姿に、背後にいた誰かが、不安げな声を上げたその時、じっとこちらへと視線を送っていた女の、身体の半分が吹き飛び、真っ白な体毛の所々を赤く染め上げたフェンリルの姿が視界の中へと入って来た。
いつの間にか、“跳び掛かった”らしいフェンリルが、華奢な女の、頭を含む上半身の半分以上を、すり抜けざまに喰い千切ったのだ。
しかし、たとえ半分になろうとも、女が倒れこむことなく、むしろ、血飛沫すら上げぬその身体を、ゆっくりフェンリルの方へと向けると、周囲をごく当たり前かの様に漂っていた淡い色の霧は、まるで呼び寄せられる様に、女の失った部分だけでなく、全身を覆い始める。
そして、真っ白な身体を治癒するのと同時に、それとは対照的な、光さえも吸い込みそうな程に濃く、冷たい黒色の防具と剣を創り上げた。
……やはり、一緒だ、奴と。
まるで纏わりつく枝木を手で退ける、或いは、手折る様に容易く、迫り来る魔物たちを血祭りに上げ、魔界の悉くを破壊し尽くした“勇者”の姿が、走馬灯の如く脳裏に走る。
「ひ、退け!フェンリル!」
微かに残っていた理性か、恐怖から遠ざかろうとする本能を押し殺し、張り上げられるだけの声を張り上げ、聞こえるかも分からぬ程に遠いフェンリルへ向けて指示を出す。
だが、女の黒色の剣は、そんな指示よりも早くフェンリルの下顎から上顎を貫き上げ、そのまま体格差など無いかの様に、体勢をひっくり返すと、馬乗りになる形で、次は心臓に狙いを澄ました。
……殺される。
大事な部下であるにも関わらず、まるで見ず知らずの者を見る様な、感情などからきし無い、不思議なまでに、ひどく冷静な目でその光景を見つめながらも、自身の身体は未だ恐怖に震え、動こうとはしない。
「フェンリル!くっ!」
「ま、待て!」
仲間を窮地から助けようと考えたのか、こちらの制止を無視し、窓より身を乗り出すと、スレイプニルはフェンリルに跨る女目掛けて突進していく。
“跳ぶ”ことは出来ずとも、正に電光石火という言葉のままに、視覚では到底その姿を捉えられぬ速度の突進に、瞬時に反応出来なかったらしい女の身体は、“血飛沫”を上げながら、弾け飛んだ。
「っ……!?」
召使いのフェヌアと共にシエル王を抱きしめる様にして守りながら、同様に女の様子を眺めていたヘルの喉から、小さな悲鳴とも、驚きとも取れる声が漏れる。
しかしそれは、女の肉体があまりの衝撃に耐え切れず、原型すら留めぬ程ばらばらに吹き飛ぶ、あまりに惨たらしい光景が原因などではない。
確実に、スレイプニルの突進を受け、血さえ流さぬものの、単なる肉塊へと弾け飛んだはずの女が、そのスレイプニルの背中に平然と乗り、黒色の刃を深々と突き刺す、尋常では無い光景が目に入ったからだ。
背中の痛みに、スレイプニルは周囲一帯に聞こえそうな程の甲高い悲鳴を上げ、何とか女を振り落とそうと、血飛沫上げながら暴れるが、女は中々に離れないどころか、空いた片手に例の霧を集め、剣と同じ黒色の槍を創り上げる。
……息を呑む以外、私に出来ることはなかった。
そして、次の瞬間、真っ黒に焦げた大地に、真っ赤な鮮血がべっとりとへばりつく。
スレイプニルの脳天を狙った槍の一撃、それは何処からともなく、突如現れた“ベヒモス”が右腕によって防いだのだ。
「あら、んふふ……。ざ~んねん、間に合っちゃったみたいね」
恐怖に浮き足立ちながらも、聞き覚えのある、何ともこちらの嫌悪感煽る声のする方へと顔を向けると、そこには、継ぎ接ぎだらけの肌を見せるペルメルやプレシエンツァを含む、五人の“白髪”たちが立っていた。
「おいおい、ありゃあ、何の冗談だ?何であいつが此処にいる?ターイナ?」
「僕じゃない!屋敷を出る時には、ちゃんと地下は確認したもん!」
「でも、あれは確かに母様……。何故……?」
「……魔王様、失礼ながら、状況の説明をお願いしたい」
窓の淵に手を掛け、ベヒモスたちと女の戦いを見つめながら、さして恐ることもなく、呑気に話をする四人とは違い、プレシエンツァは如何にも深刻そうな顔をこちらへと向けて近づいて来る。
私は、心の中の恐怖心や焦りをぶつける様に、そんな奴の襟首を掴み上げた。
「先に聞くぞプレシエンツァ……。貴公、この件に関わっているな?」
「……残念ながら、今は何とも答えようがない。ただ、強いて言うなら、あの女の顔に見覚えはあるということだけだ」
「……」
「状況は?」
落ち着いた様子の者たちを見たおかげか、或いは、単に“勇者”への恐怖を、怒りという感情に置き換え、それを弱者へ剥き出しにしたおかげか、心は多少落ち着きを取り戻し、それ以上余計な時間を食う事はなかった。
「状況だと……?状況は見て通りだ……!“勇者”の力を行使していた黒龍の中から、本物の“勇者”が這い出てきた、それだけだ」
「本物の“勇者”?」
「そうだ、貴公ら出来損ないとは違う。我々の魔界を滅ぼした者と同じ“力”を持っている」
「ちなみにそれはどんな“力”で?」
「……原理は不明だ。だが、如何なる傷であろうと、治癒し、人間の“命”を奪うことで得ているらしい。あの霧がそうだ」
三対一であるにも関わらず、黒色の剣と槍を巧みに使い分け、フェンリルたちと互角以上の戦いを繰り広げる女だが、その身体は時折大きく傷つき、その度に霧が鎧ごと修復している様が見て取れる。
本来ならば、大半の者が、驚愕し、恐怖するであろう光景だが、プレシエンツァたちの顔に、その様な色合いは浮かんではいない。
彼らの顔に浮かんでいるのは、困惑だけだ。
「……ペルメル、君は何か知っているか?」
「あの顔とあの“力”以外で?」
「知っているならな」
「さぁねぇ……。でも、私たち以外にも“あの人”を知っている奴がいるのは確かみたいねぇ……」
「なるほど、それならば……」
「危ねぇ!」
外の様子を眺めていた、ペルメルと同様の継ぎ接ぎ痕が、首筋に一本だけくっきりと残るアル・ハイル・ミッテルは、そう叫ぶと、傍らにいたターイナを抱き上げ、窓から慌てて離れ始める。
全員が何事かとそちらに目をやった直後、二人が立っていた窓と、その周辺の壁を破壊する様にして、無理矢理、廊下へと何かが突っ込んできた。
「はっ……!」
重厚な鎧を着込む、左腕の無いガルディエーヌが、誰よりも早く、土埃舞わせるそれに駆け寄る。
見ると、先ほどよりも、全身を赤く染め、口からは途轍もない量の血を流し続けるフェンリルが横たわっていた。
「……これ以上、呑気に話をしている余裕はあまりないようだな。アル、フェンリルなどの負傷者の手当てを頼む。奴の相手は我々がしよう」
「んふふ、我々って?」
「……今は冗談は無しにしよう。正直、奴の正体は知りたい」
「……それもそうね。あの顔、見てるとイライラするし。ターイナちゃん、アトゥちゃんを呼んで来てくれない?“リウ”ちゃんと同じ“力”なら、あの子の“力”が必要になるから」
「うん!分かった!……あっ、でも、もう屋敷に戻ってるかなぁ?」
「居たら連れて来て?居なかったら、すぐに戻って来れば良いんだから、ね?」
継ぎ接ぎだらけのペルメルの手が頭に乗せられると、ターイナはまるで子犬の様に自らの頭を擦り付け、満足すると、すぐさまその姿を消した。
「んふふ……。じゃあ、もう一回、“親殺し”と洒落込みましょうか?」
「……ペルメル」
「どうする?ガルちゃんも来る?」
窘める様に、名を呼ぶプレシエンツァなど意に介さず、相変わらず、いやらしげな笑みを貼り付けたペルメルはその顔を、傷ついたフェンリルに寄り添うガルディエーヌへと向ける。
「……はい、行きます。アル、フェンリルをお願い」
「あぁ、任せておけ。ただ、お前も気をつけろよ?もうお前“だけ”の身体じゃないんだからな?」
「うん……」
アル・ハイル・ミッテルの忠告に、鎧の上から己のお腹あたりを撫でると、ガルディエーヌは静かに、しかし、強く、強く、頷いて見せた。
そして、プレシエンツァ、ペルメル、ガルディエーヌの三人は、あの女の異常な“力”にまるで恐怖することなく、むしろ、ペルメルに至っては、薄っぺらな笑みすら浮かべながら、一斉に窓から飛び降りていく。
「ま、魔王様、我々はどうすれば……?」
「……」
微かに安堵の吐息が混ざりつつも、未だ不安や恐怖心が大半を占めているのが分かる、何とも重たげな口調で尋ねるヘルに、私は何と答えるべきか分からなかった。
フェンリルやスレイプニルがこうも呆気なくやられたとあっては、もはやヘルを向かわせたところで、大した意味など無いことは明白だ。
つまり、単なる力量で言えば、もはや魔物たちの中で、あの女と戦い、滅ぼすことの出来る可能性があるとすれば、魔王である私くらいだろう。
しかし、そんな私の身体も、“勇者”という存在そのものに怖気づき、まともに動きそうもなく、到底勝機があるとは思えない。
それ故、“リウ”と同じ力、“親殺し”などの言葉が一体何を意味しているのか、また、どれほどこの一件に関与しているかは分からないが、今は恥や外聞、そして、疑いすら捨て去り、全てをプレシエンツァたちに任せる他無いのだ。
ただ、怖気づいた心の内を全て伝えることで、未だ魔王である私に縋ってくれる、ヘルやシエル王、延いては、シエル中に住む者たちを不安にさせ、ようやっと築き上げた秩序や平和を根底より崩すのではないかと、危惧した私は、思案の末に、そんな彼らの視線を無視し続けた。
「魔王様……」
フェンリルたちが戦っていた時には聞こえなかった、更に地を削る魔法の轟音や得物同士がぶつかり合う度に発する咆哮に耳を傾け、じっと“本物”と“なりそこない”たちの戦いに目を見つめ続けていると、ふと、背後から嗄れ、掠れた声が聞こえてくる。
振り返ると、そこには、ぐったりとしたスレイプニルを担ぎ上げた、フェンリル以上の血に濡れたベヒモスが膝を突き、荒々しい吐息を吐き続けていた。
「ベヒモス……」
「口惜しくも、彼奴等に救われました……」
「ベヒモス、あの女は……」
「はぁ……はぁ……。はい、見紛うことなど、あろうはずがありません……。あの“意思無き瞳”、あれは正しく過去に見た“勇者”の目です……」
「やはり、そうか……」
族長会議において、私同様、過去に“勇者”の襲撃を逃げ延び、その恐怖も知っていると公言していたベヒモスも確信しているのならば、もはや、あの女が“勇者”であることは確定事項だろう。
プレシエンツァたちという応援が駆けつけてくれたことにより、多少恐怖の支配が緩んだ心に、再び恐怖が湧き出してくるのを感じる。
「魔王様、お逃げください……」
「えっ……?」
「この場は、我々やあの“白髪”たちがどうにか致しますので、今はただ、生き延びることだけをお考え下さい……」
「しかし、私は魔王……」
「魔王であるが故です……。貴女様が消えれば、この人間界に魔物たちを制御出来る者は居なくなり、再び、黒龍の様な者共が暴れる、秩序無き世界となってしまいましょう……。それだけは避けるべきなのです……」
確かに、前魔王が消え去ったことにより、壊れた魔界は更に混乱し、長らくの間、黒龍たちをのさばらせる結果となり、最終的には、そういった者たちを切り捨てざるを得なくなった。
ベヒモスが言う様に、今此処で、私が“勇者”に討たれては、魔界と同様のことを引き起こす可能性がある。
だが、此処から逃げたとして、私などよりも弱い彼らが奴らを、本当に退けられるのだろうか。
それは無駄な“命”の消耗とはならないだろうか。
……それならば、私が戦った方が。
「……僕もベヒモス様の案に賛成です。魔王様は、一刻も早く逃げてください」
「シエル王、貴公まで……。くっ……!貴公に一体何が出来るのだ!ただ、奴に滅ぼされるだけだろう!?」
「確かに、僕には貴女の様な力はありません。でも、今貴女を喪えば、取り返しがつきません。シエル王の代わりなどいくらでも“創れます”。けれど、魔王様の代わりはいないのです……」
「……っ!」
「これまで成し遂げてきた貴女様の非情な作戦の全てを、受け入れた訳ではありません。でも、それによって、シエルやその他の国、国民はひどい犠牲を払わず、平和な世界を創り上げられた。その手腕は、今後の世界を維持する為にも、必要なものなのです……!」
昂ぶった感情故か、微かに瞳を涙で潤ませながらも、きっ、とこちらに鋭い視線を送り続ける、元は単なる傀儡となるはずだった少年の言葉は、私にある感触を思い出させた。
“お前は賢い子だ。後を頼んだよ”
頭に乗った、優しく、温かな“父”の掌の感触は、私の心に巣食っていた恐怖の雲を晴らす一筋の光となると同時に、とある覚悟を示してくれた。
……あぁ、貴方は“そういう”想いで、私に全てを託したのか。
多くの部下たちを死なせ、己の命をどうしても護ろうとしていた、密かながらに軟弱者と揶揄していた貴方が、最後の最後、己の身を犠牲にしたのは、“そういう”ことだったのか。
「た、大変です……!魔王様!」
死の恐怖に打ち克ち、己の覚悟を決めた者と、それに戸惑う者、両方の者たちの瞳を見つめていると、廊下の奥より、黒龍との戦い以後は姿を見せなかった、ナリとナルヴィが駆けてきた。
「どうした?」
「先ほど、各国を守護する魔物たちより伝令が入り、多数の竜族が各国の主要な都市を襲っているとのこと!」
「……黒龍め、先に指示を与えておいたな」
「い、如何致しましょう!?」
「……ベヒモス、ある程度の治療が終わり次第、フェンリルやスレイプニルを連れて、各国の応援に向かえ」
「それは構いませぬが……。貴女様は如何するおつもりですかな?」
「……」
「ま、魔王様……?」
ベヒモスの問いに、すぐには答えず、そっと窓よりあの女と戦う“白髪”たちを見つめた。
善戦はしているが、幾らその身を削られようとも、倒れることなく、向かってくる女に、プレシエンツァたちも次第に体力を奪われているのが分かる。
このままいけば、あの時の二の舞、いや、人間が存在し、例の霧を補充できるこの世界では、下手をすれば、もっと甚大な被害が出る可能性すらあるかもしれない。
そうなれば、もはや、今後の秩序や支配の在り方など、到底視野に入れている余裕などない。
「ヘル、この城の結界を貴公に任せる」
「は、はい……!」
「ナリ、ナルヴィ、お前たちは此処でその“白髪”、アル・ハイル・ミッテルを手伝え」
「分かりました!」
「そして、シエル王……」
背後に立つシエル王へと、身体の向きはそのままに、顔だけを向け、軽く頷いて見せる。
「後は貴公に任せる」
驚きのあまりか、声すら上げられずにいる部下たちを横目に、目の前に広がる、微かな建物の塵すら残らず、決してそこに、シエル一豊かな街が一瞬前までは存在していたとは思えない、荒野という言葉すら当て嵌まらぬ、真っ黒く焦げた、綺麗な円形の窪地の中心をじっと見つめる。
窪地には、未だ土埃や、例の淡い色の霧が立ち込め、その中心は、結界の内側の王城から幾ら目を凝そうとも、何も見えぬ程ではあるが、部下に戦果の確認をさせる気も、今の自分にその報告を心の底から信ずる余裕もないであろう故、決して己の目を離すことはなかった。
だが、次第に視界を塞ぐものが晴れ、窪地の中心が見え始めると、そんな己自身の目すら疑いたくなる様な、光景がありありと目に焼き付いてくる。
自身の創り出した強烈な結界すら痛める程の、超が付く程の大魔法を受けたにも関わらず、手足や翼を無くしながらも、黒龍はその姿を辛うじて残し、中心に立っていたのだ。
「馬鹿な……」
黒龍が生きていることへの、あまりの驚きと、再びじわじわと染み出してくる恐怖の念に囚われ、言葉と攻撃が続かず、他の魔物たち同様、呆然と、大地を踏み締める黒龍の様子を見つめていると、不意にある事に気がついた。
……傷が治らない。
その首を落とされた時や、フェンリルと戦っていた時は、人間たちを殺すことで得ているらしい、淡い色の霧でもって、傷ついた身体を瞬時に癒していたはずなのだが、今はそれが黒龍の身体を包み込まず、周囲を漂っているだけなのだ。
一瞬、先ほどの攻撃によって、霧では治癒出来ぬだけの傷を負わせたのかと、希望にも近いものが胸の内を過ぎるが、そんな甘い妄想はすぐさま消し飛び、冷酷な現実が目の前で動き始めた。
やっと収まりつつあった土埃などを再び舞わせ、地響きすら起こす、勢い良く倒れ込んだ黒龍の首あたりから、無数の“人間”の腕が突き出し、その首の肉を掻き毟りだしたのだ。
鋭利な刃物などは持たず、全てやや細めな、普通の女の手の様に見えるが、しかし、それらはいとも容易く、黒龍の強靭な鱗ごと首の肉を削り取っていき、ぽっかりと、一つの大きな穴を喉のあたりに開けてしまう。
そして、首あたりから突き出していた無数の腕が、引っ込むのではなく、周囲に漂う霧に攫われる様に、その姿形を消し去ると、先ほど開けられた喉の穴より、短めの“白髪”に、生えていた腕同様、やや痩せ細った印象を受ける、一糸纏わぬ姿の女が悠々と出て来た。
……黒龍の中から、人間の女?
もはや、黒龍が塵とならなかった時点で、思考は恐怖と驚きによって止まりかけているというのに、そこに畳み掛ける様に、不可思議な、想像もつかない出来事が多発しているせいで、何一つ分析出来はしない。
だが、髪色と同じくらいに色白な肌をした、裸の女の顔、いや、その虚ろで、何者をも映さず、感情の色さえ灯さぬ双眸がこちらへと向いた瞬間、思考と身体は完全に凍りついた。
「ゆ、勇……者……」
姿形こそまるで違うが、再会した黒龍などよりも、もっと不気味な、“虚無”としか言い表すことの出来ぬ、あの二つの瞳を忘れようはずはない。
「ま、魔王様……?」
乱れる呼吸のまま、一歩、また一歩と後退りする私の姿に、背後にいた誰かが、不安げな声を上げたその時、じっとこちらへと視線を送っていた女の、身体の半分が吹き飛び、真っ白な体毛の所々を赤く染め上げたフェンリルの姿が視界の中へと入って来た。
いつの間にか、“跳び掛かった”らしいフェンリルが、華奢な女の、頭を含む上半身の半分以上を、すり抜けざまに喰い千切ったのだ。
しかし、たとえ半分になろうとも、女が倒れこむことなく、むしろ、血飛沫すら上げぬその身体を、ゆっくりフェンリルの方へと向けると、周囲をごく当たり前かの様に漂っていた淡い色の霧は、まるで呼び寄せられる様に、女の失った部分だけでなく、全身を覆い始める。
そして、真っ白な身体を治癒するのと同時に、それとは対照的な、光さえも吸い込みそうな程に濃く、冷たい黒色の防具と剣を創り上げた。
……やはり、一緒だ、奴と。
まるで纏わりつく枝木を手で退ける、或いは、手折る様に容易く、迫り来る魔物たちを血祭りに上げ、魔界の悉くを破壊し尽くした“勇者”の姿が、走馬灯の如く脳裏に走る。
「ひ、退け!フェンリル!」
微かに残っていた理性か、恐怖から遠ざかろうとする本能を押し殺し、張り上げられるだけの声を張り上げ、聞こえるかも分からぬ程に遠いフェンリルへ向けて指示を出す。
だが、女の黒色の剣は、そんな指示よりも早くフェンリルの下顎から上顎を貫き上げ、そのまま体格差など無いかの様に、体勢をひっくり返すと、馬乗りになる形で、次は心臓に狙いを澄ました。
……殺される。
大事な部下であるにも関わらず、まるで見ず知らずの者を見る様な、感情などからきし無い、不思議なまでに、ひどく冷静な目でその光景を見つめながらも、自身の身体は未だ恐怖に震え、動こうとはしない。
「フェンリル!くっ!」
「ま、待て!」
仲間を窮地から助けようと考えたのか、こちらの制止を無視し、窓より身を乗り出すと、スレイプニルはフェンリルに跨る女目掛けて突進していく。
“跳ぶ”ことは出来ずとも、正に電光石火という言葉のままに、視覚では到底その姿を捉えられぬ速度の突進に、瞬時に反応出来なかったらしい女の身体は、“血飛沫”を上げながら、弾け飛んだ。
「っ……!?」
召使いのフェヌアと共にシエル王を抱きしめる様にして守りながら、同様に女の様子を眺めていたヘルの喉から、小さな悲鳴とも、驚きとも取れる声が漏れる。
しかしそれは、女の肉体があまりの衝撃に耐え切れず、原型すら留めぬ程ばらばらに吹き飛ぶ、あまりに惨たらしい光景が原因などではない。
確実に、スレイプニルの突進を受け、血さえ流さぬものの、単なる肉塊へと弾け飛んだはずの女が、そのスレイプニルの背中に平然と乗り、黒色の刃を深々と突き刺す、尋常では無い光景が目に入ったからだ。
背中の痛みに、スレイプニルは周囲一帯に聞こえそうな程の甲高い悲鳴を上げ、何とか女を振り落とそうと、血飛沫上げながら暴れるが、女は中々に離れないどころか、空いた片手に例の霧を集め、剣と同じ黒色の槍を創り上げる。
……息を呑む以外、私に出来ることはなかった。
そして、次の瞬間、真っ黒に焦げた大地に、真っ赤な鮮血がべっとりとへばりつく。
スレイプニルの脳天を狙った槍の一撃、それは何処からともなく、突如現れた“ベヒモス”が右腕によって防いだのだ。
「あら、んふふ……。ざ~んねん、間に合っちゃったみたいね」
恐怖に浮き足立ちながらも、聞き覚えのある、何ともこちらの嫌悪感煽る声のする方へと顔を向けると、そこには、継ぎ接ぎだらけの肌を見せるペルメルやプレシエンツァを含む、五人の“白髪”たちが立っていた。
「おいおい、ありゃあ、何の冗談だ?何であいつが此処にいる?ターイナ?」
「僕じゃない!屋敷を出る時には、ちゃんと地下は確認したもん!」
「でも、あれは確かに母様……。何故……?」
「……魔王様、失礼ながら、状況の説明をお願いしたい」
窓の淵に手を掛け、ベヒモスたちと女の戦いを見つめながら、さして恐ることもなく、呑気に話をする四人とは違い、プレシエンツァは如何にも深刻そうな顔をこちらへと向けて近づいて来る。
私は、心の中の恐怖心や焦りをぶつける様に、そんな奴の襟首を掴み上げた。
「先に聞くぞプレシエンツァ……。貴公、この件に関わっているな?」
「……残念ながら、今は何とも答えようがない。ただ、強いて言うなら、あの女の顔に見覚えはあるということだけだ」
「……」
「状況は?」
落ち着いた様子の者たちを見たおかげか、或いは、単に“勇者”への恐怖を、怒りという感情に置き換え、それを弱者へ剥き出しにしたおかげか、心は多少落ち着きを取り戻し、それ以上余計な時間を食う事はなかった。
「状況だと……?状況は見て通りだ……!“勇者”の力を行使していた黒龍の中から、本物の“勇者”が這い出てきた、それだけだ」
「本物の“勇者”?」
「そうだ、貴公ら出来損ないとは違う。我々の魔界を滅ぼした者と同じ“力”を持っている」
「ちなみにそれはどんな“力”で?」
「……原理は不明だ。だが、如何なる傷であろうと、治癒し、人間の“命”を奪うことで得ているらしい。あの霧がそうだ」
三対一であるにも関わらず、黒色の剣と槍を巧みに使い分け、フェンリルたちと互角以上の戦いを繰り広げる女だが、その身体は時折大きく傷つき、その度に霧が鎧ごと修復している様が見て取れる。
本来ならば、大半の者が、驚愕し、恐怖するであろう光景だが、プレシエンツァたちの顔に、その様な色合いは浮かんではいない。
彼らの顔に浮かんでいるのは、困惑だけだ。
「……ペルメル、君は何か知っているか?」
「あの顔とあの“力”以外で?」
「知っているならな」
「さぁねぇ……。でも、私たち以外にも“あの人”を知っている奴がいるのは確かみたいねぇ……」
「なるほど、それならば……」
「危ねぇ!」
外の様子を眺めていた、ペルメルと同様の継ぎ接ぎ痕が、首筋に一本だけくっきりと残るアル・ハイル・ミッテルは、そう叫ぶと、傍らにいたターイナを抱き上げ、窓から慌てて離れ始める。
全員が何事かとそちらに目をやった直後、二人が立っていた窓と、その周辺の壁を破壊する様にして、無理矢理、廊下へと何かが突っ込んできた。
「はっ……!」
重厚な鎧を着込む、左腕の無いガルディエーヌが、誰よりも早く、土埃舞わせるそれに駆け寄る。
見ると、先ほどよりも、全身を赤く染め、口からは途轍もない量の血を流し続けるフェンリルが横たわっていた。
「……これ以上、呑気に話をしている余裕はあまりないようだな。アル、フェンリルなどの負傷者の手当てを頼む。奴の相手は我々がしよう」
「んふふ、我々って?」
「……今は冗談は無しにしよう。正直、奴の正体は知りたい」
「……それもそうね。あの顔、見てるとイライラするし。ターイナちゃん、アトゥちゃんを呼んで来てくれない?“リウ”ちゃんと同じ“力”なら、あの子の“力”が必要になるから」
「うん!分かった!……あっ、でも、もう屋敷に戻ってるかなぁ?」
「居たら連れて来て?居なかったら、すぐに戻って来れば良いんだから、ね?」
継ぎ接ぎだらけのペルメルの手が頭に乗せられると、ターイナはまるで子犬の様に自らの頭を擦り付け、満足すると、すぐさまその姿を消した。
「んふふ……。じゃあ、もう一回、“親殺し”と洒落込みましょうか?」
「……ペルメル」
「どうする?ガルちゃんも来る?」
窘める様に、名を呼ぶプレシエンツァなど意に介さず、相変わらず、いやらしげな笑みを貼り付けたペルメルはその顔を、傷ついたフェンリルに寄り添うガルディエーヌへと向ける。
「……はい、行きます。アル、フェンリルをお願い」
「あぁ、任せておけ。ただ、お前も気をつけろよ?もうお前“だけ”の身体じゃないんだからな?」
「うん……」
アル・ハイル・ミッテルの忠告に、鎧の上から己のお腹あたりを撫でると、ガルディエーヌは静かに、しかし、強く、強く、頷いて見せた。
そして、プレシエンツァ、ペルメル、ガルディエーヌの三人は、あの女の異常な“力”にまるで恐怖することなく、むしろ、ペルメルに至っては、薄っぺらな笑みすら浮かべながら、一斉に窓から飛び降りていく。
「ま、魔王様、我々はどうすれば……?」
「……」
微かに安堵の吐息が混ざりつつも、未だ不安や恐怖心が大半を占めているのが分かる、何とも重たげな口調で尋ねるヘルに、私は何と答えるべきか分からなかった。
フェンリルやスレイプニルがこうも呆気なくやられたとあっては、もはやヘルを向かわせたところで、大した意味など無いことは明白だ。
つまり、単なる力量で言えば、もはや魔物たちの中で、あの女と戦い、滅ぼすことの出来る可能性があるとすれば、魔王である私くらいだろう。
しかし、そんな私の身体も、“勇者”という存在そのものに怖気づき、まともに動きそうもなく、到底勝機があるとは思えない。
それ故、“リウ”と同じ力、“親殺し”などの言葉が一体何を意味しているのか、また、どれほどこの一件に関与しているかは分からないが、今は恥や外聞、そして、疑いすら捨て去り、全てをプレシエンツァたちに任せる他無いのだ。
ただ、怖気づいた心の内を全て伝えることで、未だ魔王である私に縋ってくれる、ヘルやシエル王、延いては、シエル中に住む者たちを不安にさせ、ようやっと築き上げた秩序や平和を根底より崩すのではないかと、危惧した私は、思案の末に、そんな彼らの視線を無視し続けた。
「魔王様……」
フェンリルたちが戦っていた時には聞こえなかった、更に地を削る魔法の轟音や得物同士がぶつかり合う度に発する咆哮に耳を傾け、じっと“本物”と“なりそこない”たちの戦いに目を見つめ続けていると、ふと、背後から嗄れ、掠れた声が聞こえてくる。
振り返ると、そこには、ぐったりとしたスレイプニルを担ぎ上げた、フェンリル以上の血に濡れたベヒモスが膝を突き、荒々しい吐息を吐き続けていた。
「ベヒモス……」
「口惜しくも、彼奴等に救われました……」
「ベヒモス、あの女は……」
「はぁ……はぁ……。はい、見紛うことなど、あろうはずがありません……。あの“意思無き瞳”、あれは正しく過去に見た“勇者”の目です……」
「やはり、そうか……」
族長会議において、私同様、過去に“勇者”の襲撃を逃げ延び、その恐怖も知っていると公言していたベヒモスも確信しているのならば、もはや、あの女が“勇者”であることは確定事項だろう。
プレシエンツァたちという応援が駆けつけてくれたことにより、多少恐怖の支配が緩んだ心に、再び恐怖が湧き出してくるのを感じる。
「魔王様、お逃げください……」
「えっ……?」
「この場は、我々やあの“白髪”たちがどうにか致しますので、今はただ、生き延びることだけをお考え下さい……」
「しかし、私は魔王……」
「魔王であるが故です……。貴女様が消えれば、この人間界に魔物たちを制御出来る者は居なくなり、再び、黒龍の様な者共が暴れる、秩序無き世界となってしまいましょう……。それだけは避けるべきなのです……」
確かに、前魔王が消え去ったことにより、壊れた魔界は更に混乱し、長らくの間、黒龍たちをのさばらせる結果となり、最終的には、そういった者たちを切り捨てざるを得なくなった。
ベヒモスが言う様に、今此処で、私が“勇者”に討たれては、魔界と同様のことを引き起こす可能性がある。
だが、此処から逃げたとして、私などよりも弱い彼らが奴らを、本当に退けられるのだろうか。
それは無駄な“命”の消耗とはならないだろうか。
……それならば、私が戦った方が。
「……僕もベヒモス様の案に賛成です。魔王様は、一刻も早く逃げてください」
「シエル王、貴公まで……。くっ……!貴公に一体何が出来るのだ!ただ、奴に滅ぼされるだけだろう!?」
「確かに、僕には貴女の様な力はありません。でも、今貴女を喪えば、取り返しがつきません。シエル王の代わりなどいくらでも“創れます”。けれど、魔王様の代わりはいないのです……」
「……っ!」
「これまで成し遂げてきた貴女様の非情な作戦の全てを、受け入れた訳ではありません。でも、それによって、シエルやその他の国、国民はひどい犠牲を払わず、平和な世界を創り上げられた。その手腕は、今後の世界を維持する為にも、必要なものなのです……!」
昂ぶった感情故か、微かに瞳を涙で潤ませながらも、きっ、とこちらに鋭い視線を送り続ける、元は単なる傀儡となるはずだった少年の言葉は、私にある感触を思い出させた。
“お前は賢い子だ。後を頼んだよ”
頭に乗った、優しく、温かな“父”の掌の感触は、私の心に巣食っていた恐怖の雲を晴らす一筋の光となると同時に、とある覚悟を示してくれた。
……あぁ、貴方は“そういう”想いで、私に全てを託したのか。
多くの部下たちを死なせ、己の命をどうしても護ろうとしていた、密かながらに軟弱者と揶揄していた貴方が、最後の最後、己の身を犠牲にしたのは、“そういう”ことだったのか。
「た、大変です……!魔王様!」
死の恐怖に打ち克ち、己の覚悟を決めた者と、それに戸惑う者、両方の者たちの瞳を見つめていると、廊下の奥より、黒龍との戦い以後は姿を見せなかった、ナリとナルヴィが駆けてきた。
「どうした?」
「先ほど、各国を守護する魔物たちより伝令が入り、多数の竜族が各国の主要な都市を襲っているとのこと!」
「……黒龍め、先に指示を与えておいたな」
「い、如何致しましょう!?」
「……ベヒモス、ある程度の治療が終わり次第、フェンリルやスレイプニルを連れて、各国の応援に向かえ」
「それは構いませぬが……。貴女様は如何するおつもりですかな?」
「……」
「ま、魔王様……?」
ベヒモスの問いに、すぐには答えず、そっと窓よりあの女と戦う“白髪”たちを見つめた。
善戦はしているが、幾らその身を削られようとも、倒れることなく、向かってくる女に、プレシエンツァたちも次第に体力を奪われているのが分かる。
このままいけば、あの時の二の舞、いや、人間が存在し、例の霧を補充できるこの世界では、下手をすれば、もっと甚大な被害が出る可能性すらあるかもしれない。
そうなれば、もはや、今後の秩序や支配の在り方など、到底視野に入れている余裕などない。
「ヘル、この城の結界を貴公に任せる」
「は、はい……!」
「ナリ、ナルヴィ、お前たちは此処でその“白髪”、アル・ハイル・ミッテルを手伝え」
「分かりました!」
「そして、シエル王……」
背後に立つシエル王へと、身体の向きはそのままに、顔だけを向け、軽く頷いて見せる。
「後は貴公に任せる」
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