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私と彼女【前編】
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道行く人々は、誰もが目を奪われていた。カフェの軒先の小さなテーブルに、双子の美女が腰掛けていたからだ。艶やかな漆黒のロングヘア。ラピスラズリのように青く輝く瞳。そして、二人は服装も全く同じだった。襟元にレースのフリルが波打つ白いブラウスに、サテン調の赤いリボンタイ。深いドレープが印象的なベージュのフレアスカート。同じように足を組んだ彼女らは、好奇の視線を意に介することなく、一緒に紅茶――いや、正確には、一人は水だったが――を飲んでいた。彼女達の足元には、膨れた紙袋がいくつも置かれている。
「一杯買っちゃったね」
「そうね」
「ミカ、その服、似合ってるわよ」
「あなたもね、アミカナ」
二人は微笑み合った。向日葵のようなオーラが広がる。
「さて、晩御飯、どうする?」
ミカが聞くと、アミカナは申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせた。
「ごめん! 晩御飯は志音と行く約束なんだ」
「あ、そう……」
そこでアミカナをまじまじと見たミカは、不意に微笑んだ。
「ねえ。私とあなたが入れ替わったら、志音君、気付くかな?」
「そりゃ気付くよ!」
「どうして? 見た目はもちろんだけど、精神の器だって一緒なのよ。気付かないかも」
「そんなことない。だって、私の方が……」
そこまで言って、ハッとしたアミカナは口を噤んだ。
ミカはテーブルの上に片肘を突くと、アミカナを睨んだ。
「『だって、私の方が』……何?」
「あ、いや……私の方が……その、蝉のように儚げというか、何というか……」
慌てて取り繕うアミカナに、ミカは挑戦的に微笑んだ。
「なら賭けましょう! 私があなたのふりをして、志音君が気付かなかったら私の勝ち。気付いたらあなたの勝ちね」
アミカナは、内心舌打ちしていた。ミカは――まあ、私もだけど――勝負事に拘る性格だった……。
「いや、でも……」
「何? 自信がないの?」
ミカの声に侮蔑の色を感じて、アミカナの心もざわめく。
「……何を賭けるの?」
「そうね。今日の二人の買い物代」
ミカに言われて、アミカナはニヤリと笑った。
「よし、乗った!」
* * *
街角でアミカナを待っている志音を、二人は遠くから眺めていた。
「じゃあ、私は後ろからこっそり付いていくから。彼にミカだって気付かれたら、そこで終了ね」
来る途中に買ったサングラスをかけながら、アミカナが確認する。
「オッケー。ちなみに、最後まで気付かなかったら……」
ミカが言い終わる前に、アミカナは被せた。
「買い物代でしょ? 分かってる。あと、そん時は志音をぶちのめす!」
「うわ、こわーい! そん時は、私が彼を慰めてあげよ!」
「ああ?」
アミカナに睨まれたミカは、一瞬舌を出すと、志音に向かって颯爽と歩き出した。
……フン!……どうせ、顔を合わせた瞬間にばれるわ……
ミカの背中に、アミカナは嘲笑を投げかける。
しかし、ミカは一人ほくそ笑んでいた。
……あなたの考えはお見通しよ。『私の方がかわいい』と思っているんでしょ?……でも、知ってるのよ、アミカナ。あなたの戦略は……。まずは『ゼロ距離攻撃』……
後ろから、こっそりと志音に近づいたミカは、急に彼の腕を取って自分に密着させた。
「ごめん、志音! 待った?」
彼の腕に体を寄せたまま、ミカは顔を近づけた。驚いて振り返る志音の目をじっと見つめる。
……次に『視線攻撃』……
「あ、いや、今来たところ」
青い眼差しに耐えられずに、彼は目を逸らした。
「……ええと、どこ行く?」
彼に聞かれて、ミカはにっこりと微笑んだ。
「ど・こ・で・も・いい!」
……とどめに、『音節で区切り発言攻撃』……
ミカは、背後のアミカナへとちらりと目線をやった。自信たっぷりに微笑む。
……どう、アミカナ? 完コピでしょ?……
物陰から覗いていたアミカナは唖然とした。
……ミカ、本気だ……。
……っていうか、私、あんなことしてる?
少し何か会話した後、二人はレストランへと移動を始めたようだった。
……えっ?……志音、気付かないの?……
勝利を確信していたアミカナの心に、暗雲が立ち込める。
彼の腕を離すことなく、ミカは楽しげに笑い、志音は頭を掻いていた。
……あいつ、ぶちのめし確定だわ……
アミカナは拳を震わせた。
「一杯買っちゃったね」
「そうね」
「ミカ、その服、似合ってるわよ」
「あなたもね、アミカナ」
二人は微笑み合った。向日葵のようなオーラが広がる。
「さて、晩御飯、どうする?」
ミカが聞くと、アミカナは申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせた。
「ごめん! 晩御飯は志音と行く約束なんだ」
「あ、そう……」
そこでアミカナをまじまじと見たミカは、不意に微笑んだ。
「ねえ。私とあなたが入れ替わったら、志音君、気付くかな?」
「そりゃ気付くよ!」
「どうして? 見た目はもちろんだけど、精神の器だって一緒なのよ。気付かないかも」
「そんなことない。だって、私の方が……」
そこまで言って、ハッとしたアミカナは口を噤んだ。
ミカはテーブルの上に片肘を突くと、アミカナを睨んだ。
「『だって、私の方が』……何?」
「あ、いや……私の方が……その、蝉のように儚げというか、何というか……」
慌てて取り繕うアミカナに、ミカは挑戦的に微笑んだ。
「なら賭けましょう! 私があなたのふりをして、志音君が気付かなかったら私の勝ち。気付いたらあなたの勝ちね」
アミカナは、内心舌打ちしていた。ミカは――まあ、私もだけど――勝負事に拘る性格だった……。
「いや、でも……」
「何? 自信がないの?」
ミカの声に侮蔑の色を感じて、アミカナの心もざわめく。
「……何を賭けるの?」
「そうね。今日の二人の買い物代」
ミカに言われて、アミカナはニヤリと笑った。
「よし、乗った!」
* * *
街角でアミカナを待っている志音を、二人は遠くから眺めていた。
「じゃあ、私は後ろからこっそり付いていくから。彼にミカだって気付かれたら、そこで終了ね」
来る途中に買ったサングラスをかけながら、アミカナが確認する。
「オッケー。ちなみに、最後まで気付かなかったら……」
ミカが言い終わる前に、アミカナは被せた。
「買い物代でしょ? 分かってる。あと、そん時は志音をぶちのめす!」
「うわ、こわーい! そん時は、私が彼を慰めてあげよ!」
「ああ?」
アミカナに睨まれたミカは、一瞬舌を出すと、志音に向かって颯爽と歩き出した。
……フン!……どうせ、顔を合わせた瞬間にばれるわ……
ミカの背中に、アミカナは嘲笑を投げかける。
しかし、ミカは一人ほくそ笑んでいた。
……あなたの考えはお見通しよ。『私の方がかわいい』と思っているんでしょ?……でも、知ってるのよ、アミカナ。あなたの戦略は……。まずは『ゼロ距離攻撃』……
後ろから、こっそりと志音に近づいたミカは、急に彼の腕を取って自分に密着させた。
「ごめん、志音! 待った?」
彼の腕に体を寄せたまま、ミカは顔を近づけた。驚いて振り返る志音の目をじっと見つめる。
……次に『視線攻撃』……
「あ、いや、今来たところ」
青い眼差しに耐えられずに、彼は目を逸らした。
「……ええと、どこ行く?」
彼に聞かれて、ミカはにっこりと微笑んだ。
「ど・こ・で・も・いい!」
……とどめに、『音節で区切り発言攻撃』……
ミカは、背後のアミカナへとちらりと目線をやった。自信たっぷりに微笑む。
……どう、アミカナ? 完コピでしょ?……
物陰から覗いていたアミカナは唖然とした。
……ミカ、本気だ……。
……っていうか、私、あんなことしてる?
少し何か会話した後、二人はレストランへと移動を始めたようだった。
……えっ?……志音、気付かないの?……
勝利を確信していたアミカナの心に、暗雲が立ち込める。
彼の腕を離すことなく、ミカは楽しげに笑い、志音は頭を掻いていた。
……あいつ、ぶちのめし確定だわ……
アミカナは拳を震わせた。
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