5 / 7
私と彼女【中編】
しおりを挟む二人はステーキハウスへと入っていった。少し離れて、アミカナも後を追う。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
店員に聞かれて、志音に気付かれないよう、店内に背中を向けたままのアミカナは、黙って人差し指を立てた。
先に案内された二人は、窓際のテーブルへと向かう。
テーブルに着いた志音は黙って椅子を引き、ミカを見た。
「あ、ありがとう」
ミカを先に座らせて、自分の席に着く。
……へえ、意外に紳士的なんだ……
感心するミカから離れた席で、アミカナは、鼻の上にずらしたサングラスの縁を握り締めていた。レンズにひびが入る。
……何あれ?!……私にはしてくれたことないのに!……
嫉妬の炎が盛大に燃え上がりかけて、ふと眉を顰める。
……え?……志音、もしかして気付いてる?……
ミカと志音は各々メニューを広げていた。食欲を刺激する料理の写真が並ぶ。
目移りしながら、ミカはチラリと志音を見た。
……当然、志音君のおごりよね? 晩御飯代、浮いちゃった……
「お決まりですか?」
ウェイターがテーブルの横に立つ。
「ああ、僕はサーロインステーキのセット。彼女は水で」
「えっ?!」
驚いてミカはメニューから顔を上げた。彼女の声に、志音は眉を顰めた。
「ああ、お湯の方がよかった?」
「……う、うん。そうね……。お湯をお願いします」
二人のやり取りを離れた席から聞いていたアミカナは、唇の端を釣り上げた。
「……そうよ、ミカ。あなたは水しか飲めない。戦闘特化型アンドロイド役だからね。これで私の苦しみが少しは分かったでしょ?……でも、あなたの最大の弱点は、生身の体ってこと。最後まで、お腹を鳴らさずに済むかしら?」
やがて、鉄板の上でまだ肉汁が沸騰しているステーキが運ばれていた。香ばしい匂いが周囲に立ち込める。ミカは唾を飲み込んだ。
え~、これをお預けなの~?……
「いただきます」
手を合わせた志音は、早速肉にナイフを入れる。肉汁を滴らせながら、艶やかな赤身が顔を出す。
グルル……
お腹が鳴って、ミカは慌てた。
「あ、あの、喉が鳴っちゃった! 凄く美味しそうだから……」
……無理がある!……と思いながら、ミカはわざとらしく笑う。
志音は、切り分けたステーキの一切れをフォークに刺すと、ミカの顔の前に掲げた。
「はい。アーン」
思わずミカは身を引いた。
え? え? 何?
……二人はこんな……こんな恥ずかしいやりとりをしているの?……
何も言えずに固まっていると、志音は眉を顰めた。
「……今日は『殺すぞ』って言わないの?……」
「は?」
ミカは唖然とした。どういうこと? それが普段のやり取りなの?……混乱が渦になる。
……でも、負けられない! こういう時は、アミカナお得意の『どうとでもとれる仕草攻撃』よ!
動揺を押し殺して、ミカはどこか寂しげに微笑んだ。
「……今日は、止めとく……」
「……あ、そう……」
怪訝な顔をした志音は、ステーキを自分の口に運んだ。
え、気付いた?……凌げた?……どっち?
彼の何とも言えない反応に、緊張が高まる。しかし……
『アーン』からの『殺すぞ』……やり取りを反芻する。志音君ってM?……まあ、意外じゃないけど……
一口お湯を飲んで、何とか心とお腹の落ち着きを取り戻そうとしたミカは、ふとある事実に気付いた。
……アミカナ。これ、一緒に食事する意味ある?……志音君の食べ姿を見るだけなんですけど……。
いや、もしかして……ここは『慈愛の眼差し攻撃』をしてる?
ミカは、聖母のイメージで、ステーキを食べる志音をじっと見つめた。
が、どうしても目線が肉に行く。
「何? 欲しいの?」
志音に言われて、ミカは内心悪態をついた。
……違う!!……いや、欲しいけれども!……いや、待って! ここの反応が肝よ!
ミカは必死に思考を巡らせた。『アーン』からの『殺すぞ』なら……
「だ・ま・れ!」
目を半開きにして、冷たく音節区切り攻撃を繰り出す。
志音は肩をすくめると、再びステーキを食べ出した。微かに微笑む。
その様子に、ミカは内心胸を撫でおろしていた。
……よかった、合ってた……。それにしても……
志音を見る。
……『だ・ま・れ!』と言われて何故微笑む? やっぱりMね……
息をつくと、ミカはお湯を飲み干した。
「すいません! お湯おかわり!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。
その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。
全15話を予定
背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)
MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。
しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。
母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。
その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。
純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。
交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
