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断章
断章21:「気を付けなきゃ」
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※これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本章第3話の前、アミカナが志音と合流する際の出来事になります。
<火曜日>
志音は、ホテルの斜め向かいにあるコンビニのイートインスペースに腰を下ろして、ホテルの玄関の様子を窺っていた。未来からやって来た歴史改変阻止者を名乗るアミカナとは、今日の10時に、彼女が泊るホテルの前で待ち合わせの約束をしていた。大学を休み、ホテルの付近まで来ておきながら、彼はその約束を信じることができなかった。来るはずのない彼女を待って、長時間ホテル前に立ち尽くす自分の姿を想像して、猜疑心に駆られた彼は、こうして、本当に彼女が来るのかを探っていた。ホテルの自動ドアが開くたびに顔を上げる。テーブルの上のカップコーヒーがすっかり冷めてしまっていた。
9時55分頃、アミカナは、昨日彼が買わされた白いブラウスに赤色のリボンタイ、ベージュのフレアスカートという出で立ちで、ホテルから出てきた。
……へえ、意外に日本人的だな……
事前行動に感心しつつ、彼は、再び彼女に会おうとした自分の選択に安堵していた。一瞬、出ていこうと腰を上げたが、手玉に取りやすい男と思われるのも癪に障った彼は、もう5分待つことにした。
彼女は、スカートの前で手を組むと、ホテルの前に立ち尽くしていた。相変わらず、花のようなオーラがある気がした。ホテルの前を行き交う人々も、彼女の美しさにチラチラと目をやる。
彼女は――不安げな表情をしていた。誰かを探すものの、投げかけられる視線を感じては目を伏せる。昨日の有無を言わせないような明るさは、そこにはなかった。
5分も待ち切れずに、彼は席を立っていた。自尊心から彼女を試そうとしたことを後悔していた。いや、彼に見せるつもりのない彼女の顔を盗み見たことに、申し訳なさを感じていた。
コンビニを出た瞬間に、彼女と目が合った。花が咲くような笑顔が浮かぶ。思わず足が止まった。この笑顔は、本当に自分に向けられたものなのだろうか?……。ダメ押しするように、彼女は彼に向かって小さく手を振った。
彼は道を渡ると、彼女に近寄った。
「おはよう、志音!」
元気な声が響く。
「……ああ、おはよう……」
見慣れない青い瞳に見つめられて、彼は目をそらした。
「来てくれてありがと!」
彼女は彼へと顔を近づける。そこに、さっきまでの不安の影はなかった。
「あ~!」
緊張で妙に大きな声が出る。一度咳払いをした彼は、もう一度話し始めた。
「あのさ、昨日、この街について知りたいって言ってたよね……」
思い切って彼女の顔を見る。彼女の癖なのか、彼女は真っ直ぐ彼の目を見つめていた。一瞬言葉が止まる。
「……その、市の施設で、この街の歴史を見せてくれる映像コーナーがあるらしいんだけど……」
彼女の目が見開かれる。
「調べてくれたんだ」
「……ああ……」
「……う~ん、でもな~……」
彼女は腕を組んで顔を顰めた。
「私としては、作られた映像よりも、実際に歴史を紡いできた実物が見たいな。確か、博物館があったでしょ?」
「実物?」
頷いた彼女は、人差し指を立てるとクルクルと回した。
「そう。要は、二次元の女の子と三次元の女の子、どっちがいいのかってことよ」
「……そりゃあ、三次元だけど……」
彼が呟くと、彼女は眉を顰めて身を引いた。
「え? そうなの? ちょっと意外。気を付けなきゃ」
……ああ、そういうことか……。分かった気がした。
「……知ってる? ちょっと失礼なこと言ってるよ……」
彼の突っ込みに、彼女は微かに目を見開いた。青い瞳が少し輝いたような気がした。
本当の彼女のことは分からない。しかし、彼女が、そういうキャラクターで、そういうやり取りを望むなら、乗ろうと思った。それが彼女にとって居心地のいい空間になるのなら、別に自分は構わない。どうせかっこいいキャラクターにはなれないのだ……。その承諾が、彼女にも伝わった気がした。瞳の輝きは、そういう意味に思えた。
「ごめんごめん!」
微笑んだ彼女は彼の腕を取った。彼女に引き寄せる。
「でも、調べてくれてありがとう!」
言いながら、彼女は博物館のある方向を見据えた。
「……あなた、いい人ね……」
彼とは目を合わさずに、彼女は呟いた。その声に、本当の彼女が垣間見えた気がした。しかし、次の瞬間、彼に向けられた笑顔で、それは掻き消された。
「さあ、博物館、行こ!」
<火曜日>
志音は、ホテルの斜め向かいにあるコンビニのイートインスペースに腰を下ろして、ホテルの玄関の様子を窺っていた。未来からやって来た歴史改変阻止者を名乗るアミカナとは、今日の10時に、彼女が泊るホテルの前で待ち合わせの約束をしていた。大学を休み、ホテルの付近まで来ておきながら、彼はその約束を信じることができなかった。来るはずのない彼女を待って、長時間ホテル前に立ち尽くす自分の姿を想像して、猜疑心に駆られた彼は、こうして、本当に彼女が来るのかを探っていた。ホテルの自動ドアが開くたびに顔を上げる。テーブルの上のカップコーヒーがすっかり冷めてしまっていた。
9時55分頃、アミカナは、昨日彼が買わされた白いブラウスに赤色のリボンタイ、ベージュのフレアスカートという出で立ちで、ホテルから出てきた。
……へえ、意外に日本人的だな……
事前行動に感心しつつ、彼は、再び彼女に会おうとした自分の選択に安堵していた。一瞬、出ていこうと腰を上げたが、手玉に取りやすい男と思われるのも癪に障った彼は、もう5分待つことにした。
彼女は、スカートの前で手を組むと、ホテルの前に立ち尽くしていた。相変わらず、花のようなオーラがある気がした。ホテルの前を行き交う人々も、彼女の美しさにチラチラと目をやる。
彼女は――不安げな表情をしていた。誰かを探すものの、投げかけられる視線を感じては目を伏せる。昨日の有無を言わせないような明るさは、そこにはなかった。
5分も待ち切れずに、彼は席を立っていた。自尊心から彼女を試そうとしたことを後悔していた。いや、彼に見せるつもりのない彼女の顔を盗み見たことに、申し訳なさを感じていた。
コンビニを出た瞬間に、彼女と目が合った。花が咲くような笑顔が浮かぶ。思わず足が止まった。この笑顔は、本当に自分に向けられたものなのだろうか?……。ダメ押しするように、彼女は彼に向かって小さく手を振った。
彼は道を渡ると、彼女に近寄った。
「おはよう、志音!」
元気な声が響く。
「……ああ、おはよう……」
見慣れない青い瞳に見つめられて、彼は目をそらした。
「来てくれてありがと!」
彼女は彼へと顔を近づける。そこに、さっきまでの不安の影はなかった。
「あ~!」
緊張で妙に大きな声が出る。一度咳払いをした彼は、もう一度話し始めた。
「あのさ、昨日、この街について知りたいって言ってたよね……」
思い切って彼女の顔を見る。彼女の癖なのか、彼女は真っ直ぐ彼の目を見つめていた。一瞬言葉が止まる。
「……その、市の施設で、この街の歴史を見せてくれる映像コーナーがあるらしいんだけど……」
彼女の目が見開かれる。
「調べてくれたんだ」
「……ああ……」
「……う~ん、でもな~……」
彼女は腕を組んで顔を顰めた。
「私としては、作られた映像よりも、実際に歴史を紡いできた実物が見たいな。確か、博物館があったでしょ?」
「実物?」
頷いた彼女は、人差し指を立てるとクルクルと回した。
「そう。要は、二次元の女の子と三次元の女の子、どっちがいいのかってことよ」
「……そりゃあ、三次元だけど……」
彼が呟くと、彼女は眉を顰めて身を引いた。
「え? そうなの? ちょっと意外。気を付けなきゃ」
……ああ、そういうことか……。分かった気がした。
「……知ってる? ちょっと失礼なこと言ってるよ……」
彼の突っ込みに、彼女は微かに目を見開いた。青い瞳が少し輝いたような気がした。
本当の彼女のことは分からない。しかし、彼女が、そういうキャラクターで、そういうやり取りを望むなら、乗ろうと思った。それが彼女にとって居心地のいい空間になるのなら、別に自分は構わない。どうせかっこいいキャラクターにはなれないのだ……。その承諾が、彼女にも伝わった気がした。瞳の輝きは、そういう意味に思えた。
「ごめんごめん!」
微笑んだ彼女は彼の腕を取った。彼女に引き寄せる。
「でも、調べてくれてありがとう!」
言いながら、彼女は博物館のある方向を見据えた。
「……あなた、いい人ね……」
彼とは目を合わさずに、彼女は呟いた。その声に、本当の彼女が垣間見えた気がした。しかし、次の瞬間、彼に向けられた笑顔で、それは掻き消された。
「さあ、博物館、行こ!」
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