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断章
断章12:「あと50000回……」
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※これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本章第2話の後、アミカナが志音と別れてからの出来事になります。
<月曜日>
ブラウスとスカートをハンガーにかけると、アミカナは、ホテルの窓から、すっかり日の暮れた、全く馴染みのない街並みを眺めた。直下の道では、ライトをつけた車が忙しなく往来している。アーケードの下では、家路を急ぐ人、繁華街で憂さを晴らす人の波が入り乱れていた。人々の生き生きした動きを見ていると、窓越しにでも、喧騒が聞こえてくるような気がした。
彼女はふと部屋を振り返った。皺一つなくセットされたベッドの白いリネンが無機質な雰囲気を醸し出している。機能的と言えば聞こえはいいが、『これだけあれば十分だろう?』――部屋全体が、彼女にそう言っているような気がした。
そう、ここは彼女の世界ではなかった。自分が、全くの一人であることを実感する。
覚悟はしていたつもりだったが、これほどの疎外感を感じるとは思っていなかった。締め付けられるような不安に――いや、このボディにそんな機能はない。生身だった時の記憶が呼び覚まされ、そのように感じるだけであったが――思わず胸に手を当てる。私の前の三人も、こんな感じだったのだろうか?……
彼女は頭を振った。
今から、長い夜が来る。眠りを必要としない彼女には、一種の試練でもあった。
彼女は地図を広げた。調べることはたくさんあった。まずは観測点。あの球体に対し、急遽アトロポスを使うことになった場合も想定すると、地上からでは障害物が多過ぎる。自由に出入りでき、遠くまで見渡せるとなると……この百貨店しかないか……。しかし、そこはアトロポスの射程外であった。顔をしかめた彼女は、人差し指で鼻先を擦った。まあ、仕方ない……。
次に武器。あの球体があのまま鎮座していてくれればいいが、そうはならないだろう。となると、恐らくアトロポス一丁では全く足りない。しかし、この世界でのこの国で、銃器を手に入れるのは簡単なことではなかった。白兵戦用の武器なら何とかなるか……。海際に博物館がある。一般的に、博物館には古代の武器が展示されていることが多い。明日、確認する必要があるわね……。
彼女は、傍らに置いたコップから、自身の体の燃料である水を口に含んだ。不意に、昼間のファミレスでのメニューが思い出される。最後のデザートのページに、美味しそうな一品があった。思わず喉が鳴るのを、水を飲んでごまかす。
「……ティラミス~……何だっけ?……」
呟いた彼女は苦笑した。量子頭脳になったはずなのに、物覚えがよくないのは生身の時のままだ。甘い物好きの性格もそのままなのに、体は一切の食事を必要としない仕様になっている。それなのに、空腹であるかのような錯覚もあった。コピーによる様々な変化に、まだ馴染むことができていない。
彼女は壁にかかったブラウスに目をやった。
……志音、か……。一応、過去人と接触する時の定石には従った。若干頼りない気はするが、まあ、仕方ない。結構なお金を使わせたことが少し気になったが、任務が無事完了すれば、この服を買い、ホテルを取ったという事実さえなくなる。だから、まあ、いいか……
……彼、誰かに似てる?……
ふと、彼女は思った。何となく、前に会ったような気がする……。だが、やはり量子頭脳では思い出すことはできなかった。
つい数時間前までの彼とのやり取りを思い返す。何故か、遥か昔の懐かしい出来事のような気がした。思わず身震いする。
……こういう状況だと、人恋しくなるのか……
彼女は再び苦笑した。このままだと、独り言が増えそうだ……
薄暗い部屋の中、緑色に光るデジタル時計を見る。明日の待ち合わせまでにはまだ12時間以上あった。この二つ並んだ点の点滅が、あと50000回……。アミカナはため息をつくと呟いた。
「……彼、来るかな?……」
<月曜日>
ブラウスとスカートをハンガーにかけると、アミカナは、ホテルの窓から、すっかり日の暮れた、全く馴染みのない街並みを眺めた。直下の道では、ライトをつけた車が忙しなく往来している。アーケードの下では、家路を急ぐ人、繁華街で憂さを晴らす人の波が入り乱れていた。人々の生き生きした動きを見ていると、窓越しにでも、喧騒が聞こえてくるような気がした。
彼女はふと部屋を振り返った。皺一つなくセットされたベッドの白いリネンが無機質な雰囲気を醸し出している。機能的と言えば聞こえはいいが、『これだけあれば十分だろう?』――部屋全体が、彼女にそう言っているような気がした。
そう、ここは彼女の世界ではなかった。自分が、全くの一人であることを実感する。
覚悟はしていたつもりだったが、これほどの疎外感を感じるとは思っていなかった。締め付けられるような不安に――いや、このボディにそんな機能はない。生身だった時の記憶が呼び覚まされ、そのように感じるだけであったが――思わず胸に手を当てる。私の前の三人も、こんな感じだったのだろうか?……
彼女は頭を振った。
今から、長い夜が来る。眠りを必要としない彼女には、一種の試練でもあった。
彼女は地図を広げた。調べることはたくさんあった。まずは観測点。あの球体に対し、急遽アトロポスを使うことになった場合も想定すると、地上からでは障害物が多過ぎる。自由に出入りでき、遠くまで見渡せるとなると……この百貨店しかないか……。しかし、そこはアトロポスの射程外であった。顔をしかめた彼女は、人差し指で鼻先を擦った。まあ、仕方ない……。
次に武器。あの球体があのまま鎮座していてくれればいいが、そうはならないだろう。となると、恐らくアトロポス一丁では全く足りない。しかし、この世界でのこの国で、銃器を手に入れるのは簡単なことではなかった。白兵戦用の武器なら何とかなるか……。海際に博物館がある。一般的に、博物館には古代の武器が展示されていることが多い。明日、確認する必要があるわね……。
彼女は、傍らに置いたコップから、自身の体の燃料である水を口に含んだ。不意に、昼間のファミレスでのメニューが思い出される。最後のデザートのページに、美味しそうな一品があった。思わず喉が鳴るのを、水を飲んでごまかす。
「……ティラミス~……何だっけ?……」
呟いた彼女は苦笑した。量子頭脳になったはずなのに、物覚えがよくないのは生身の時のままだ。甘い物好きの性格もそのままなのに、体は一切の食事を必要としない仕様になっている。それなのに、空腹であるかのような錯覚もあった。コピーによる様々な変化に、まだ馴染むことができていない。
彼女は壁にかかったブラウスに目をやった。
……志音、か……。一応、過去人と接触する時の定石には従った。若干頼りない気はするが、まあ、仕方ない。結構なお金を使わせたことが少し気になったが、任務が無事完了すれば、この服を買い、ホテルを取ったという事実さえなくなる。だから、まあ、いいか……
……彼、誰かに似てる?……
ふと、彼女は思った。何となく、前に会ったような気がする……。だが、やはり量子頭脳では思い出すことはできなかった。
つい数時間前までの彼とのやり取りを思い返す。何故か、遥か昔の懐かしい出来事のような気がした。思わず身震いする。
……こういう状況だと、人恋しくなるのか……
彼女は再び苦笑した。このままだと、独り言が増えそうだ……
薄暗い部屋の中、緑色に光るデジタル時計を見る。明日の待ち合わせまでにはまだ12時間以上あった。この二つ並んだ点の点滅が、あと50000回……。アミカナはため息をつくと呟いた。
「……彼、来るかな?……」
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