時間戦士は永遠の夢を見るのか

刹那メシ

文字の大きさ
33 / 46
断章

断章41:「触ってみて」

しおりを挟む
※これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本章第8話と第9話の間の出来事になります。


<木曜日>
 □□神社までの階段を登り切った志音は、激しく息を切らしていた。膝の上に手をついてかがむ。アミカナも、肩で息をしているようには見えたが、表情には余裕があった。汗をかいている様子もない。
「青少年は体も鍛えないと。勉強ばっかりはダメよ!」
 彼女はからかうように言う。
「アミカナは鍛えてるの?」
「もちろん! 体を張った仕事だからね」
 志音は胸を張る彼女を見上げた。決して痩せぎすではないが、筋肉質にも見えなかった。どこにそんなパワーがあるのだろう……
 階段を登り切った少し先には鳥居があった。その前で、息を整えた彼はしっかりと背筋を伸ばした。
「入る前に、ここで立ち止まって……」
 言いながら、隣にいるはずのアミカナを見たが、彼女は二、三歩後ろで立ち尽くしていた。鳥居の奥の巨大な御神木を見上げている。海から吹き上げる風が、四方に広がった枝をざわざわと揺らしていた。
「……何か……違うね……」
 後れ毛を掻きあげて、彼女は呟いた。
 ……未来人でもそういう感覚があるのか?……いや、彼女だからなのか?……
「……分かる?……」
 どうとでも取れるように聞く。この雰囲気が感じられる人なら、ここでの立ち振る舞いも分かるはずだ……
「ええ……私のルーツもこの国だから……」
 彼女が答えて、彼は微笑んだ。彼女が隣に来るのを待つと、並んだ二人は、どちらからともなく、鳥居の前で頭を下げた。
 鳥居をくぐると、志音は再び足をふらつかせた。
「ごめん、まずは休憩させて」
 境内の端の藤棚の前にある自動販売機へと近づく。アミカナも後に続いた。
「アミカナは? 水でいい?」
 財布を出しながら、彼は聞く。彼女は頷いた。
「イラッシャイマセ」
 二人を感知して、自動販売機が声を上げた。
「こんにちは! 調子はどう?」
 微笑みながら、彼女は答えた。
 ……え?……
 驚いて志音は彼女を見た。これは、わざと?……それともマジ?……
 自動販売機は沈黙を守っている。
「……答えねぇのかよ……」
 笑顔のまま、彼女は悪態をついた。
 ……いや、答えねぇよ……
 志音は心の中で呟いていた。
「……AIじゃないの?……」
 自動販売機の方を向いたまま、彼女は彼に聞いた。
「……じゃないね。普通、AIは装備されてない……」
「……境内に誰かいる?……」
「……いや、誰もいない……」
 辺りを見回した彼が答えると、彼女は息をついた。すがるような顔で勢いよく彼を見る。後ろでポニーテールが揺れた。
「……よかった! 恥ずかしくて死ぬかと思った……」
 ……まあ、そうだろうね……
「AIでもないのに、何でしゃべるの? もしかして、一言だけ?」
 自動販売機を睨むと、彼女は聞く。
「さあ?」
「意味ないよね?!」
 彼女は急に彼へと詰め寄った。思わぬとばっちりを受けた志音はたじろいだ。
「いや、ほら、しゃべったりした方が、機械の冷たさが薄れるというか……」
「……機械の冷たさ?……」
 彼女は眉を顰めた。
「……機械の冷たさ、か……」
 もう一度呟いて自動販売機の方を見る。暫くして、彼女は彼の方へと向き直った。
「イラッシャイマセ」
 自動販売機と全く同じ声色で、彼女は言葉を発した。
「え?! 凄い! よく似てる!」
 志音は声を上げたが、彼女は表情を変えなかった。
「どう? 暖かく感じた?」
 奇妙な質問に、彼は面食らった。
「いや……そもそも、君は機械じゃないから」
「どうしてそう思うの? 確かめてもいないのに」
 そういうと、手の甲を上にして、彼女は左手を差し出した。
「触ってみて」
「え?」
「いいから触ってみて」
 有無を言わせない口調の彼女に促されて、彼はおずおずと彼女の指先を掴んだ。
 ……冷たい!……
 志音が思った以上に彼女の手は冷たかった。しかし、直感的に、これは触れてはいけない事実だと感じた。触った瞬間の感情が顔に出ていないことを祈って、彼は鈍感な男を演じることにした。
「どう? 何か感じる?」
「……いや、別に何も……」
「本当?」
「……まあ、強いて言うなら……」
「……言うなら?……」
「……指が細い……」
 志音が言うと、彼女は、彼の手の中から風のように自分の手を引き戻した。右手で隠す。
「変態か?!」
 彼女に睨まれて、彼は苦笑した。息をつくと、彼女は探るように彼の顔を覗き込む。
「本当に、何も感じなかった?」
「ああ。何かあるの?」
 平静を装って、彼は答えた。
「……志音……」
 一度目を伏せた彼女は、顔を上げると、切なそうな表情で彼を見つめた。
「……実は私……」
 ひとしきり風が吹いて、背後で御神木の枝がざわめく。そんな顔で、一体何を言おうというのだろう?……
「……凄く喉乾いている……」
「ああ! ごめんごめん!」
 慌てた彼は再び自動販売機に近づいた。
「お湯ってある?」
 彼女は聞く。
「いや、ちょっとないかも」
「じゃあ、いいわ。『つめた~い』ヤツで」
 彼女は、『た』に極端な抑揚をつけて波線を表した。志音は苦笑した。
「『あたたか~い』はあるけど、『つめた~い』はないかな」
「ふ~ん。変なの……」
 微笑みながら、彼女は呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...