34 / 46
断章
断章42:「嘘は言ってないわ」
しおりを挟む
※これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本章第9話の「* * *」の部分に挿入される出来事になります。
<木曜日>
志音の街での球体との戦闘を受けて、半島にいた人々は、遠隔地に避難するために、内陸に繋がる道に殺到した。おかげで、街へと帰る道はどこも大渋滞となっていた。車列は一向に進む気配がない。ラジオでは、どこの局も戦闘に関する臨時ニュースを流している。暫くは聞いていた二人だったが、気持ちが陰鬱になるだけだと感じた志音はラジオを消した。動かない車の中は無音となる。重苦しい沈黙に耐えられなくなった志音は、ダメ元でしりとりを提案してみた。「何言ってるの?」と軽蔑されるかと思ったが、意外にもアミカナは乗ってきた。既に、何回戦目かの勝負になっていた。
「それはさっき言った」
「え~? そうだっけ?」
「じゃあ、またアミカナの負けね」
彼女は口を尖らした。志音の記憶力の良さから、アミカナの二回言いは見過ごされることがなかった。
「むかつく!」
腕を組むと悪態をつく。勝負事にはこだわる性格のようだった。志音は肩をすくめた。
「じゃあ、アミカナから始めていいよ」
「ムカツク!」
「いいから始めて」
「もう始めてる! ムカツクの『く』!」
……名詞じゃないんだけど……まあ、いいか……。志音は勝者の余裕を見せることにした。
「く……靴」
「つ……ツギハ ゼッタイ カツ!」
「何それ?」
イレギュラーな言葉の連発に、彼は苦笑した。彼女はちらりと彼を睨む。
「いいから! カツの『つ』!」
「月見」
「ミテロヨ オマエ」
「……お前って言うな」
志音が突っ込むと、彼女はとぼけた。
「別に志音のことじゃないわ。ただの言葉の羅列よ」
「……じゃあ、え……駅」
「き……き……き……」
それまで天井を見上げるようにして言葉を紡ぎ出していたアミカナは、不意に目を伏せた。両手を太腿の下に入れる。
「……キノウハ ハゲマシテクレテ アリガトウ」
「え?」
彼女の言葉に、志音は思わず聞き返した。彼女は俯いたままだった。
「……『え』じゃない。……アリガトウの『う』」
「ああ。……う……う……」
ただの言葉の羅列ではない。照れ隠し? しりとりに乗じて、感謝の言葉を伝えようとしている?……そういうことなら、自分も、何か伝えられるだろうか?……
「ウマク ゲンキヅケラレタ?」
調子を合わせた志音に、ハッとして彼女は彼を見た。二人で微笑み合う。
「た……タスカッタワ。アナタ、ヤサシイノネ。ホントウニ」
「に……に……に……ニンゲンガ デキテル カラネ。タヨッテクレテ イイヨ」
「よ……ヨカッタ。……」
そう言った彼女は、一度息をついた。不意に彼の方を向くと、真顔で身を乗り出す。
「……ワタシハ、あなたともっと一緒に居たい。あなたもそう思う?」
青い瞳で見つめられて、志音は混乱した。え、しりとりのはずでは?……。彼の言葉を不安げに待つような彼女の表情に、彼は心を掴まれた。
「……う……うん……」
思わず頷いた志音に、彼女は微笑んだ。
「はい! 志音の負け!」
「……は?」
よほど間の抜けた顔をしていたのだろう、彼女は嬉しくてたまらないというように声を出して笑った。久々の勝利に興奮したのか、両手で顔をあおぐ。
「志音は心理戦に弱いね!」
弄ばれたと気付いて、彼は体中が熱くなった。一瞬本気にした自分の愚かさを悔いる。まるで、結婚志願者に無理難題を押し付けて翻弄する、おとぎ話の姫のようだ。男心を何だと思ってるんだ……
「……うるさいよ……」
ぶっきらぼうに言って、彼は窓を開けた。勢いよく風が吹き込む。違和感を感じて彼が振り返ると、彼女も窓を開けていた。ちらりと彼を見る。その瞳には、勝利の優越とは違う色があるような気がした。
「……ごめん……調子に乗った……」
窓の外を眺めて、彼女は呟いた。
「え?」
驚いて彼女を振り返る。彼女は窓の外を眺めたままだった。
「……でも、嘘は言ってないわ……。ハゲマシテクレテ アリガトウ……」
「……ああ……」
「……『あ』じゃないわ。アリガトウの『う』……」
彼は苦笑した。いつの間にか、次のしりとりが始まっているようだった。
……う……う……嘘は言ってないって……どこまで?……
一人呟いた彼は深く息をついた。球体の目的、歌の意味、昨夜の叫び声とため息、神社でのやり取り、今の彼女の言葉……何もかも、謎だらけだ。
考えることを諦めた彼は、正面の車列に目をやる。赤いテールランプはどこまでも続いていた。
「……進まないね……」
彼が言うと、彼女も前を見据えた。テールランプを追った目線がやがて遠くを見る。彼女は苦笑した。
「……そうね……何もかも……」
<木曜日>
志音の街での球体との戦闘を受けて、半島にいた人々は、遠隔地に避難するために、内陸に繋がる道に殺到した。おかげで、街へと帰る道はどこも大渋滞となっていた。車列は一向に進む気配がない。ラジオでは、どこの局も戦闘に関する臨時ニュースを流している。暫くは聞いていた二人だったが、気持ちが陰鬱になるだけだと感じた志音はラジオを消した。動かない車の中は無音となる。重苦しい沈黙に耐えられなくなった志音は、ダメ元でしりとりを提案してみた。「何言ってるの?」と軽蔑されるかと思ったが、意外にもアミカナは乗ってきた。既に、何回戦目かの勝負になっていた。
「それはさっき言った」
「え~? そうだっけ?」
「じゃあ、またアミカナの負けね」
彼女は口を尖らした。志音の記憶力の良さから、アミカナの二回言いは見過ごされることがなかった。
「むかつく!」
腕を組むと悪態をつく。勝負事にはこだわる性格のようだった。志音は肩をすくめた。
「じゃあ、アミカナから始めていいよ」
「ムカツク!」
「いいから始めて」
「もう始めてる! ムカツクの『く』!」
……名詞じゃないんだけど……まあ、いいか……。志音は勝者の余裕を見せることにした。
「く……靴」
「つ……ツギハ ゼッタイ カツ!」
「何それ?」
イレギュラーな言葉の連発に、彼は苦笑した。彼女はちらりと彼を睨む。
「いいから! カツの『つ』!」
「月見」
「ミテロヨ オマエ」
「……お前って言うな」
志音が突っ込むと、彼女はとぼけた。
「別に志音のことじゃないわ。ただの言葉の羅列よ」
「……じゃあ、え……駅」
「き……き……き……」
それまで天井を見上げるようにして言葉を紡ぎ出していたアミカナは、不意に目を伏せた。両手を太腿の下に入れる。
「……キノウハ ハゲマシテクレテ アリガトウ」
「え?」
彼女の言葉に、志音は思わず聞き返した。彼女は俯いたままだった。
「……『え』じゃない。……アリガトウの『う』」
「ああ。……う……う……」
ただの言葉の羅列ではない。照れ隠し? しりとりに乗じて、感謝の言葉を伝えようとしている?……そういうことなら、自分も、何か伝えられるだろうか?……
「ウマク ゲンキヅケラレタ?」
調子を合わせた志音に、ハッとして彼女は彼を見た。二人で微笑み合う。
「た……タスカッタワ。アナタ、ヤサシイノネ。ホントウニ」
「に……に……に……ニンゲンガ デキテル カラネ。タヨッテクレテ イイヨ」
「よ……ヨカッタ。……」
そう言った彼女は、一度息をついた。不意に彼の方を向くと、真顔で身を乗り出す。
「……ワタシハ、あなたともっと一緒に居たい。あなたもそう思う?」
青い瞳で見つめられて、志音は混乱した。え、しりとりのはずでは?……。彼の言葉を不安げに待つような彼女の表情に、彼は心を掴まれた。
「……う……うん……」
思わず頷いた志音に、彼女は微笑んだ。
「はい! 志音の負け!」
「……は?」
よほど間の抜けた顔をしていたのだろう、彼女は嬉しくてたまらないというように声を出して笑った。久々の勝利に興奮したのか、両手で顔をあおぐ。
「志音は心理戦に弱いね!」
弄ばれたと気付いて、彼は体中が熱くなった。一瞬本気にした自分の愚かさを悔いる。まるで、結婚志願者に無理難題を押し付けて翻弄する、おとぎ話の姫のようだ。男心を何だと思ってるんだ……
「……うるさいよ……」
ぶっきらぼうに言って、彼は窓を開けた。勢いよく風が吹き込む。違和感を感じて彼が振り返ると、彼女も窓を開けていた。ちらりと彼を見る。その瞳には、勝利の優越とは違う色があるような気がした。
「……ごめん……調子に乗った……」
窓の外を眺めて、彼女は呟いた。
「え?」
驚いて彼女を振り返る。彼女は窓の外を眺めたままだった。
「……でも、嘘は言ってないわ……。ハゲマシテクレテ アリガトウ……」
「……ああ……」
「……『あ』じゃないわ。アリガトウの『う』……」
彼は苦笑した。いつの間にか、次のしりとりが始まっているようだった。
……う……う……嘘は言ってないって……どこまで?……
一人呟いた彼は深く息をついた。球体の目的、歌の意味、昨夜の叫び声とため息、神社でのやり取り、今の彼女の言葉……何もかも、謎だらけだ。
考えることを諦めた彼は、正面の車列に目をやる。赤いテールランプはどこまでも続いていた。
「……進まないね……」
彼が言うと、彼女も前を見据えた。テールランプを追った目線がやがて遠くを見る。彼女は苦笑した。
「……そうね……何もかも……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
