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断章
断章54:「え?!……嘘?!」
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これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本章第11話の後で、第14話冒頭の回想よりも更に後の出来事になります。
<金曜日>
「……ゼンマイか……」
露天風呂に入ったアミカナは、ふと呟いた。
夜の間に巻いたゼンマイの力で、朝になったら一気に跳躍する。まあ、そうなのかも知れない――でも、どこに? 跳躍した私が着地できるところは、どこにあるのだろう?
不意に志音の顔が浮かんで、彼女は苦笑した。
……何を考えているんだか……ほんと、バカね……
月明かりの下、数メートル先の部屋の方に目をやる。縁側の扉は閉じたままだった。
……ほんと、バカ……
水曜日の夜のことが悔やまれる。あの時叫んでいなければ、今頃はもっと……違ったことになったのかも知れない。自分の弱さに打ちひしがれている姿は、裸よりも見られたくなかったのだ。だが、見られてなどいなかった。全ては、彼女の後ろめたさが生み出した妄想だった。
……そもそも、タオルなんか黙って置いてくれたらよかったのに……
苦い思いから逃れるために、彼に責任転嫁してみる。だが、それで現状が変わるはずはなかった――そのはずだった。
彼女が諦めて上がろうとした時、突然、縁側の扉がゆっくりと開き出した。
え?……え?!……嘘?!……
思わず肩までお湯に浸かると、部屋とは反対側の湯船の縁に身を寄せる。
存在しないはずの鼓動が耳の中で脈打つ――気がした。それ以前に、水が入ったように、耳がよく聞こえない――気がする。彼女の時間感覚がおかしくなったのか、扉は殊更ゆっくりと開いていく。扉の間の黒い空間が徐々に広がって、彼女は背中を湯船の壁に押し付けた。
待って待って!……真面目には考えてなかった!……一応、機械の体なんだけど……大丈夫なのかな?……技官に聞いておけばよかった!……
10センチほど開くと、扉の動きは止まった。続いて、ガタガタと扉を揺らしながら、隙間から白いタオルが無理矢理押し出される。タオルが全部外に出ると、それを掴んだ手が、そのまま縁側の上へとタオルを置く。そして、再び扉が閉まっていった。
……え?……
沈黙した扉の前で、白いタオルが月明かりに照らされている。ふと、彼女は辺りを見回した。
……あ……タオル忘れてる……
湯船のそばには、彼女が脱ぎ捨てた浴衣しかなかった。
全身が一気に弛緩する。自然に腰が滑って、彼女は鼻まで湯に浸かった。長い髪が湯の中に揺らぐ。やがて、彼女は両腕を掲げると、思い切り湯面を叩いた。湯気を上げながら飛沫が飛び散る。
……あいつ、何なの、もう!……
期待していたはずなのに、いざとなると怖気づいた心をごまかすために、彼女は悪態をついた。
……そもそも、一体何をしているんだろう?……メタクニームの球体を破壊するために来たはずなのに、若い男と二人きりで旅館に泊まり、夜の露天風呂に浸かって、彼が来るか来ないかで一喜一憂している……
……まるで夢ね……叶うことなら、ずっと見ていたい夢……
彼女は湯船から上がった。浴衣を片手に、肢体を堂々と月明かりに晒して縁側まで歩くと、畳んだままのタオルを胸に抱き締める。
「……誠実過ぎるのもどうかと思うけど……」
彼女は呟いた。……でも、それが志音らしい……
彼は、少し離れたところから、いつも支えてくれる。それが有難かった。もっと近づいてくれたら、どんなに満たされるだろうか。しかし、それは恐らく彼女のせいだった。自分の弱さが見えない位置から、自分を見て欲しい――自分自身で壁を作り、その中に入ってきて欲しいと願っている。その身勝手さの代償として、彼女は切なさに苛まれる罰を受けている。もう、自身に残された時間は少ないというのに……
……夢を見られるのなら、それは甘美でなくていい……
アミカナは振り返った。暗い内海の向こうには、あの球体がある。彼の世界を改変しようという球体。この夢の恩返しに、私はあれを破壊しなければならない。何故なら、私は歴史改変阻止者なのだから……。
息をつくと、彼女は体を拭き始めた。やがて、浴衣を羽織ろうとして、ふと眉を顰める。
「……っていうか、彼、何でまだ起きてるの?……」
何とはなしに自分の肌に手を滑らせると、彼女は恥じらうように微笑んだ。
……やっぱ、気になるのかな……
「……バ~カ……」
閉まったままの扉に向かって、アミカナは呟いた。
<金曜日>
「……ゼンマイか……」
露天風呂に入ったアミカナは、ふと呟いた。
夜の間に巻いたゼンマイの力で、朝になったら一気に跳躍する。まあ、そうなのかも知れない――でも、どこに? 跳躍した私が着地できるところは、どこにあるのだろう?
不意に志音の顔が浮かんで、彼女は苦笑した。
……何を考えているんだか……ほんと、バカね……
月明かりの下、数メートル先の部屋の方に目をやる。縁側の扉は閉じたままだった。
……ほんと、バカ……
水曜日の夜のことが悔やまれる。あの時叫んでいなければ、今頃はもっと……違ったことになったのかも知れない。自分の弱さに打ちひしがれている姿は、裸よりも見られたくなかったのだ。だが、見られてなどいなかった。全ては、彼女の後ろめたさが生み出した妄想だった。
……そもそも、タオルなんか黙って置いてくれたらよかったのに……
苦い思いから逃れるために、彼に責任転嫁してみる。だが、それで現状が変わるはずはなかった――そのはずだった。
彼女が諦めて上がろうとした時、突然、縁側の扉がゆっくりと開き出した。
え?……え?!……嘘?!……
思わず肩までお湯に浸かると、部屋とは反対側の湯船の縁に身を寄せる。
存在しないはずの鼓動が耳の中で脈打つ――気がした。それ以前に、水が入ったように、耳がよく聞こえない――気がする。彼女の時間感覚がおかしくなったのか、扉は殊更ゆっくりと開いていく。扉の間の黒い空間が徐々に広がって、彼女は背中を湯船の壁に押し付けた。
待って待って!……真面目には考えてなかった!……一応、機械の体なんだけど……大丈夫なのかな?……技官に聞いておけばよかった!……
10センチほど開くと、扉の動きは止まった。続いて、ガタガタと扉を揺らしながら、隙間から白いタオルが無理矢理押し出される。タオルが全部外に出ると、それを掴んだ手が、そのまま縁側の上へとタオルを置く。そして、再び扉が閉まっていった。
……え?……
沈黙した扉の前で、白いタオルが月明かりに照らされている。ふと、彼女は辺りを見回した。
……あ……タオル忘れてる……
湯船のそばには、彼女が脱ぎ捨てた浴衣しかなかった。
全身が一気に弛緩する。自然に腰が滑って、彼女は鼻まで湯に浸かった。長い髪が湯の中に揺らぐ。やがて、彼女は両腕を掲げると、思い切り湯面を叩いた。湯気を上げながら飛沫が飛び散る。
……あいつ、何なの、もう!……
期待していたはずなのに、いざとなると怖気づいた心をごまかすために、彼女は悪態をついた。
……そもそも、一体何をしているんだろう?……メタクニームの球体を破壊するために来たはずなのに、若い男と二人きりで旅館に泊まり、夜の露天風呂に浸かって、彼が来るか来ないかで一喜一憂している……
……まるで夢ね……叶うことなら、ずっと見ていたい夢……
彼女は湯船から上がった。浴衣を片手に、肢体を堂々と月明かりに晒して縁側まで歩くと、畳んだままのタオルを胸に抱き締める。
「……誠実過ぎるのもどうかと思うけど……」
彼女は呟いた。……でも、それが志音らしい……
彼は、少し離れたところから、いつも支えてくれる。それが有難かった。もっと近づいてくれたら、どんなに満たされるだろうか。しかし、それは恐らく彼女のせいだった。自分の弱さが見えない位置から、自分を見て欲しい――自分自身で壁を作り、その中に入ってきて欲しいと願っている。その身勝手さの代償として、彼女は切なさに苛まれる罰を受けている。もう、自身に残された時間は少ないというのに……
……夢を見られるのなら、それは甘美でなくていい……
アミカナは振り返った。暗い内海の向こうには、あの球体がある。彼の世界を改変しようという球体。この夢の恩返しに、私はあれを破壊しなければならない。何故なら、私は歴史改変阻止者なのだから……。
息をつくと、彼女は体を拭き始めた。やがて、浴衣を羽織ろうとして、ふと眉を顰める。
「……っていうか、彼、何でまだ起きてるの?……」
何とはなしに自分の肌に手を滑らせると、彼女は恥じらうように微笑んだ。
……やっぱ、気になるのかな……
「……バ~カ……」
閉まったままの扉に向かって、アミカナは呟いた。
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