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断章
断章65:「彼が必要なの!」
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※これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本章第17話において、志音とシオンが対峙している時のアミカナの心情を描いたものになります。
<土曜日>
三本の蜘蛛の針を深々と体に受けたアミカナは、その勢いで吹き飛ばされた。細かい瓦礫を巻き上げて地べたを何度も転がる。ようやく止まった時には、頭の中で、体のダメージを知らせる様々な警告が鳴り響いていた。
……うるさい……
彼女は呟いた。
……もういい……もう疲れた……
もはや何も感じなかった。もう私には何もない。いや、始めから私には絶望しかなかった。志音の言葉を思い出す。『僕には、夢を見る資格さえないってことさ』……だが、私にこそ、夢を見る資格などなかった。志音という蜘蛛の糸にすがって、一瞬の天国を夢見たが、糸は見事に切れて、深すぎる絶望を思い知らされている。何てみじめなの……。私は、歴史改変阻止者ではない。ミカ=アンダーソンでもない。それは、水曜日の夜に分かっていた。ただただ、消え去ることに怯えるだけの存在。消え去るだけの存在なのに、それに怯えている、滑稽な存在。どうして私には心があるの?……いや、それも違う。私は機械。心のようなものがあると錯覚している機械。一体、私は何なの?……もう、こうやって、無様に地面に転がったまま、機能停止したい……
うっすらと目を開けると、志音が彼のオリジナルと対峙しているのが見えた。会話が途切れ途切れに聞こえる。
<……君は否定ばかりだ。それ自体、安易なんだよ。否定するだけなら、誰にでもできる……>
……彼が侮辱されている。何も感じなくなったはずの心に痛みが湧き上がる。
……そんなことはない。彼は、私の弱さを支えてくれた……機械の私を認めてくれた……私のことを覚えていたいと言ってくれた……私の存在を肯定してくれたわ……
彼はシオンへとアトロポスを向けた。
「僕は……僕だ!」
銃声が響いた。彼女は目を閉じた。
『……僕だけカッコ悪いのはフェアじゃない……』
夕刻の彼の言葉が思い返される。彼女は微笑んだ。
……いいえ、志音。カッコ悪いなんてことない……あなたはやったわ……
<……『僕は僕だ』か……。全く君らしい……>
シオンがまだ話すのを聞いて、彼女は驚いて目を開いた。
……まさか?!……
肉体改造を施されたと思われるシオンが、志音へと殴りかかっていた。彼は吹き飛ばされると、咳き込みながら黒いオイルを吐いた。
志音!……
しかし、体は言うことを聞かなかった。彼女は歯ぎしりした。このまま、自分と心を通わせた人が破壊されるのを見ているしかないのか……神様は、私のようなちっぽけな存在に、どれほどの絶望を与えたいの?……
不意に言葉が閃いた。
『……人生はいつだって道半ばよ。生きている限り、可能性は常にある……』
――それは自分自身の言葉だった。そう、私はまだ生きている。選択する権利がある。私はどうしたいの?
『……僕らはもうバディだろ?……』
彼の声が蘇る。
……そう。私がアミカナであるためには……彼が必要なの!
彼女は目を見開いた。瞳が青白く燃え上がる。
『一番は閉鎖。三番と五番はバイパス!』
頭の中で指示を出すと、警告の合唱は一気に大人しくなった。
彼女は、突き刺さった針の一本に手をかけた。しっかりと握ると、シオンに気付かれないように、少しずつ少しずつ引き抜く。針と体のフレームとが擦れて、不快な音を立てる。それは、まるでゼンマイが軋みながら巻かれていくようであった。今更ながらに痛みを感じる。これは生きることの痛みだ。歯を食いしばりながら、最後まで引き抜くと、彼女はそれを後ろ手に隠した。
その時、再びシオンに殴られて、志音は彼女の間近まで飛ばされてきた。激しく咳き込む彼に駆け寄りたい衝動を必死に抑えて、彼女は明後日の方向を向いたまま、一際ゆっくりと立ち上がった。
「……ハアム・シェエイノ・ミシュタハヴェ……」
『ひれ伏さぬ民は等しくアラクネの牙の露と消えるであろう』のフレーズを、ヘブライ語で繰り返し口ずさむ。それは、ここ数日、彼と繰り返し聞いた歌の一節だった。
……お願い、志音。気付いて!……
針を握る手に力が入る。
……アミ! 今だ!……
頭の中に彼の声が響いた気がした。彼がかがむと同時に、思い切り針を振りかぶって、彼女は最終目標へ猛然と跳躍した――
<土曜日>
三本の蜘蛛の針を深々と体に受けたアミカナは、その勢いで吹き飛ばされた。細かい瓦礫を巻き上げて地べたを何度も転がる。ようやく止まった時には、頭の中で、体のダメージを知らせる様々な警告が鳴り響いていた。
……うるさい……
彼女は呟いた。
……もういい……もう疲れた……
もはや何も感じなかった。もう私には何もない。いや、始めから私には絶望しかなかった。志音の言葉を思い出す。『僕には、夢を見る資格さえないってことさ』……だが、私にこそ、夢を見る資格などなかった。志音という蜘蛛の糸にすがって、一瞬の天国を夢見たが、糸は見事に切れて、深すぎる絶望を思い知らされている。何てみじめなの……。私は、歴史改変阻止者ではない。ミカ=アンダーソンでもない。それは、水曜日の夜に分かっていた。ただただ、消え去ることに怯えるだけの存在。消え去るだけの存在なのに、それに怯えている、滑稽な存在。どうして私には心があるの?……いや、それも違う。私は機械。心のようなものがあると錯覚している機械。一体、私は何なの?……もう、こうやって、無様に地面に転がったまま、機能停止したい……
うっすらと目を開けると、志音が彼のオリジナルと対峙しているのが見えた。会話が途切れ途切れに聞こえる。
<……君は否定ばかりだ。それ自体、安易なんだよ。否定するだけなら、誰にでもできる……>
……彼が侮辱されている。何も感じなくなったはずの心に痛みが湧き上がる。
……そんなことはない。彼は、私の弱さを支えてくれた……機械の私を認めてくれた……私のことを覚えていたいと言ってくれた……私の存在を肯定してくれたわ……
彼はシオンへとアトロポスを向けた。
「僕は……僕だ!」
銃声が響いた。彼女は目を閉じた。
『……僕だけカッコ悪いのはフェアじゃない……』
夕刻の彼の言葉が思い返される。彼女は微笑んだ。
……いいえ、志音。カッコ悪いなんてことない……あなたはやったわ……
<……『僕は僕だ』か……。全く君らしい……>
シオンがまだ話すのを聞いて、彼女は驚いて目を開いた。
……まさか?!……
肉体改造を施されたと思われるシオンが、志音へと殴りかかっていた。彼は吹き飛ばされると、咳き込みながら黒いオイルを吐いた。
志音!……
しかし、体は言うことを聞かなかった。彼女は歯ぎしりした。このまま、自分と心を通わせた人が破壊されるのを見ているしかないのか……神様は、私のようなちっぽけな存在に、どれほどの絶望を与えたいの?……
不意に言葉が閃いた。
『……人生はいつだって道半ばよ。生きている限り、可能性は常にある……』
――それは自分自身の言葉だった。そう、私はまだ生きている。選択する権利がある。私はどうしたいの?
『……僕らはもうバディだろ?……』
彼の声が蘇る。
……そう。私がアミカナであるためには……彼が必要なの!
彼女は目を見開いた。瞳が青白く燃え上がる。
『一番は閉鎖。三番と五番はバイパス!』
頭の中で指示を出すと、警告の合唱は一気に大人しくなった。
彼女は、突き刺さった針の一本に手をかけた。しっかりと握ると、シオンに気付かれないように、少しずつ少しずつ引き抜く。針と体のフレームとが擦れて、不快な音を立てる。それは、まるでゼンマイが軋みながら巻かれていくようであった。今更ながらに痛みを感じる。これは生きることの痛みだ。歯を食いしばりながら、最後まで引き抜くと、彼女はそれを後ろ手に隠した。
その時、再びシオンに殴られて、志音は彼女の間近まで飛ばされてきた。激しく咳き込む彼に駆け寄りたい衝動を必死に抑えて、彼女は明後日の方向を向いたまま、一際ゆっくりと立ち上がった。
「……ハアム・シェエイノ・ミシュタハヴェ……」
『ひれ伏さぬ民は等しくアラクネの牙の露と消えるであろう』のフレーズを、ヘブライ語で繰り返し口ずさむ。それは、ここ数日、彼と繰り返し聞いた歌の一節だった。
……お願い、志音。気付いて!……
針を握る手に力が入る。
……アミ! 今だ!……
頭の中に彼の声が響いた気がした。彼がかがむと同時に、思い切り針を振りかぶって、彼女は最終目標へ猛然と跳躍した――
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