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断章
断章64:「かわいさの欠片もない!」
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※これは「時間戦士は永遠の夢を見るのか」本章第12話の一番最後の「* * *」の部分(「今から作戦会議ね」の後)に挿入される出来事になります。
<土曜日>
薄暗い部屋で、アミカナはボディスーツに着替えていた。スーツのジッパーは、胸元、みぞおち、下腹部と多段になっていた。それぞれのジッパープルを上まで引き上げる。二日間の浴衣生活の後では、スーツの密着感で身の引き締まる思いがした。脱ぎ捨てた浴衣に目をやる。ついさっき、彼に抱きかかえられた情景が思い出された。それは、自分がずっと拒絶しながら求めていた、支えられる感覚。彼の胸の温かさが蘇って、右頬に手をやる。彼は、私の体の冷たさに気付いただろうか?……
「……乙女か……」
思わず自嘲する。着替えながら、自分でもテンションが上がっていくのが分かっていた。
……私は、やっぱり『動いてる』方が性に合ってる……
目的は明確になった。あの球体を原子崩壊させる前に、中からメシアを引きずり出して、息の根を止める!……
アミカナは目を閉じた。ビュアーをインナーに切り替え、剣技ファイルを検索する。『示現流』を見つけた彼女は、それを解凍すると、全てインストールした。インストールの進行に合わせて、指先が微妙に痙攣する。技官の話によると、主に脳の無意識領域を使用する技能は比較的簡単にインストールできるらしい。全くもって便利な体だ。ただ、量子頭脳に元々備わっている能力を書き換えたり、消去することはできないらしい。どういう仕組みかは彼女にも分からないが、ハードとソフトの違いだと、技官は言っていた。つまり、元々持っている軟弱な心は、アンインストールできない訳だ。『それを書き換えてしまったら、君はもう君じゃないだろ?』――技官の言葉が思い出される。それはそうだ。そうなんだけど……
……肝心なところに手が届かないのよね……
彼女は苦笑した。こんな風に、自分の弱さを一瞬で削除できたなら、どんなにか幸せだろう……
彼女は目を開いた。試運転の必要がある。部屋の中を眺めたが、刀に変わるようなものは見当たらなかった。外から枝でも拾ってくるか、と考えた時、非常用の懐中電灯が目に止まった。太さはちょうどいい。が、刀身はどうする?……
彼女は懐中電灯を手に取ると、スイッチを入れた。壁に光が届く。薄暗い部屋の中では、光の広がりは刀身のようにも見えた。
……これでいいか……何とかサーベルね……
彼女は微笑んだ。足を八の字に開いたアミカナは、懐中電灯を顔の近くに持ち上げる。左肘は胸に密着させ、右肘は外に張り出させる。
……一の太刀を疑わず……
意味は分からないが、自然に言葉が浮かぶ。そして、一瞬でも早く振り下ろす。掛け声と共に……掛け声と共に?
「キィエーイ!!」
猿のような凄まじい叫び声と共に、彼女は懐中電灯を振り下ろした。あまりの速さに光の軌道が曲がったかのようであった。刀身がないのに風鳴りが起きる。
インストールに問題はなかったが、無意識に出た声に、彼女はゾッとした。
「どうした?!」
突然襖が開いて志音が飛び込んできた。
マズイ!と思ったが、彼女は剣士モードになっていた。思考とは関係なく、侵入者に対して体が動く。志音の顔目がけて、矢のような突きが炸裂した。刀身がなかったことが幸いだった。彼女は、彼の顔の真正面に懐中電灯を突き出していた。突然の閃光を浴びて、彼は後ろに転がった。
「うわ、目が! 何だよ?!」
我に返った――いや、それは正確ではない。突きを繰り出す前から、我には返っていた――彼女は、畳の上でのたうつ彼へと駆け寄った。
「大丈夫、志音?! 当たらなかった?」
目を押さえながら頷く志音に、彼女は心の底から胸を撫でおろした。息が震える。木の枝だったらこうはならなかった。この体がフルパワーを出せば、生身の志音が無事でいられるはずがない。
「……それより、凄い叫び声だったけど、なんかあったの?」
目を閉じたまま、志音が聞く。叫び声……そうだった。
……これは、どこまでが本当の感覚なのだろう? 羞恥で体が焼かれるようであった。そんな機能が備わっているのだろうか? とにかく、胸の奥から首筋、顔、そして耳が熱い。皮膚が紅潮する機能があるかも聞いていないが、この熱さは、生身なら真っ赤になっているはずだった。水曜日に、寄りかかって椅子を壊した比ではない。その夜の叫び声でもまだましだった。
「……き、着替えるって言ったでしょ。勝手に開けるな!」
言葉を喉に詰まらせながら、それでも取り繕って怒ったように言うと、彼女は乱暴に襖を閉めた。あまりの熱さに、襖を背にした彼女は首元のジッパーを下げた。大きく息をつく。襖越しに志音が何やら言っていたが、耳に入らなかった。獣のような雄叫びが耳に蘇って、彼女は頭を抱えた。指まで震えている。
……あ~、かわいさの欠片もない!……カッコ悪すぎる……こんなのフェアじゃない……
「……大体、何で叫ぶ必要があるのよ!……」
悪態をつく。床には、電気がついたままの懐中電灯が転がっていた。
目を閉じると、天井を仰いだアミカナは呟いた。
「……猿叫、アンインストール!」
<土曜日>
薄暗い部屋で、アミカナはボディスーツに着替えていた。スーツのジッパーは、胸元、みぞおち、下腹部と多段になっていた。それぞれのジッパープルを上まで引き上げる。二日間の浴衣生活の後では、スーツの密着感で身の引き締まる思いがした。脱ぎ捨てた浴衣に目をやる。ついさっき、彼に抱きかかえられた情景が思い出された。それは、自分がずっと拒絶しながら求めていた、支えられる感覚。彼の胸の温かさが蘇って、右頬に手をやる。彼は、私の体の冷たさに気付いただろうか?……
「……乙女か……」
思わず自嘲する。着替えながら、自分でもテンションが上がっていくのが分かっていた。
……私は、やっぱり『動いてる』方が性に合ってる……
目的は明確になった。あの球体を原子崩壊させる前に、中からメシアを引きずり出して、息の根を止める!……
アミカナは目を閉じた。ビュアーをインナーに切り替え、剣技ファイルを検索する。『示現流』を見つけた彼女は、それを解凍すると、全てインストールした。インストールの進行に合わせて、指先が微妙に痙攣する。技官の話によると、主に脳の無意識領域を使用する技能は比較的簡単にインストールできるらしい。全くもって便利な体だ。ただ、量子頭脳に元々備わっている能力を書き換えたり、消去することはできないらしい。どういう仕組みかは彼女にも分からないが、ハードとソフトの違いだと、技官は言っていた。つまり、元々持っている軟弱な心は、アンインストールできない訳だ。『それを書き換えてしまったら、君はもう君じゃないだろ?』――技官の言葉が思い出される。それはそうだ。そうなんだけど……
……肝心なところに手が届かないのよね……
彼女は苦笑した。こんな風に、自分の弱さを一瞬で削除できたなら、どんなにか幸せだろう……
彼女は目を開いた。試運転の必要がある。部屋の中を眺めたが、刀に変わるようなものは見当たらなかった。外から枝でも拾ってくるか、と考えた時、非常用の懐中電灯が目に止まった。太さはちょうどいい。が、刀身はどうする?……
彼女は懐中電灯を手に取ると、スイッチを入れた。壁に光が届く。薄暗い部屋の中では、光の広がりは刀身のようにも見えた。
……これでいいか……何とかサーベルね……
彼女は微笑んだ。足を八の字に開いたアミカナは、懐中電灯を顔の近くに持ち上げる。左肘は胸に密着させ、右肘は外に張り出させる。
……一の太刀を疑わず……
意味は分からないが、自然に言葉が浮かぶ。そして、一瞬でも早く振り下ろす。掛け声と共に……掛け声と共に?
「キィエーイ!!」
猿のような凄まじい叫び声と共に、彼女は懐中電灯を振り下ろした。あまりの速さに光の軌道が曲がったかのようであった。刀身がないのに風鳴りが起きる。
インストールに問題はなかったが、無意識に出た声に、彼女はゾッとした。
「どうした?!」
突然襖が開いて志音が飛び込んできた。
マズイ!と思ったが、彼女は剣士モードになっていた。思考とは関係なく、侵入者に対して体が動く。志音の顔目がけて、矢のような突きが炸裂した。刀身がなかったことが幸いだった。彼女は、彼の顔の真正面に懐中電灯を突き出していた。突然の閃光を浴びて、彼は後ろに転がった。
「うわ、目が! 何だよ?!」
我に返った――いや、それは正確ではない。突きを繰り出す前から、我には返っていた――彼女は、畳の上でのたうつ彼へと駆け寄った。
「大丈夫、志音?! 当たらなかった?」
目を押さえながら頷く志音に、彼女は心の底から胸を撫でおろした。息が震える。木の枝だったらこうはならなかった。この体がフルパワーを出せば、生身の志音が無事でいられるはずがない。
「……それより、凄い叫び声だったけど、なんかあったの?」
目を閉じたまま、志音が聞く。叫び声……そうだった。
……これは、どこまでが本当の感覚なのだろう? 羞恥で体が焼かれるようであった。そんな機能が備わっているのだろうか? とにかく、胸の奥から首筋、顔、そして耳が熱い。皮膚が紅潮する機能があるかも聞いていないが、この熱さは、生身なら真っ赤になっているはずだった。水曜日に、寄りかかって椅子を壊した比ではない。その夜の叫び声でもまだましだった。
「……き、着替えるって言ったでしょ。勝手に開けるな!」
言葉を喉に詰まらせながら、それでも取り繕って怒ったように言うと、彼女は乱暴に襖を閉めた。あまりの熱さに、襖を背にした彼女は首元のジッパーを下げた。大きく息をつく。襖越しに志音が何やら言っていたが、耳に入らなかった。獣のような雄叫びが耳に蘇って、彼女は頭を抱えた。指まで震えている。
……あ~、かわいさの欠片もない!……カッコ悪すぎる……こんなのフェアじゃない……
「……大体、何で叫ぶ必要があるのよ!……」
悪態をつく。床には、電気がついたままの懐中電灯が転がっていた。
目を閉じると、天井を仰いだアミカナは呟いた。
「……猿叫、アンインストール!」
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