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ルイス②
しおりを挟む前国王、そして王妃が続いて崩御し、後ろ盾を持たない幼い王子を新たな王にするため、アンジェリクが生贄に選ばれたのだ。
ルイスは気が狂いそうだった。
アンジェリクを連れてどこか遠くへ逃げてしまいたい。
本気でそう思っていた。
けれどアンジェリクは運命に従う事を選び、笑顔でルイスに別れを告げたのだ。
ショックだった。
アンジェリクも自分と同じ気持ちでいるものだとばかり思っていたルイスは、覚悟を決めた彼女の、悲壮感の感じられない笑顔に何も言えなくなってしまったのだ。
ルイスはあの日からずっと後悔していた。
どうしてあんなにあっさりとアンジェリクの手を離してしまったのか。
十歳も年下の子どもに愛する人を取られ、何もできなかった意気地のない自分が惨めで仕方なかった。
別れてからもアンジェリクへの想いは募るばかり。
別の女性と新しい道を歩む気になんて到底なれなかった。
「アンジェリク様はこの国を出ようとお考えです」
「国を出る?いったいどういう事だ」
「三日後、オスロへ向けて出航する船に乗られる予定です。帰国のご予定はありません」
「……陛下はご存知なのか?」
クレフは深刻な顔で首を横に振る。
「今陛下について、まことしやかに囁かれている噂をご存知ですか」
「同盟の証としてアトラスの王女を娶るという話か」
クレフは頷いた。
国王が同盟もしくは子孫繁栄のために、何人もの妃を娶るのは歴史上珍しくない。
それはアンジェリクとて理解し、覚悟していたはず。
聡明なアンジェリクに限って、怒りに任せての出奔なんてあり得ない。
「他にも何か理由があるのか」
「……アンジェリク様とジュリアン国王陛下は白い結婚にございます」
「そんなまさか、何かの間違いだろう」
あんなにも美しいアンジェリクを妃にしておきながら、ふたりの間には何もないという事実は、にわかには信じがたかった。
けれどクレフの表情は真剣そのもの。
「アンジェリク様から実際にお聞きした事です。ジュリアン国王陛下は、アンジェリク様に指一本触れてはいないと」
「なんて事だ……!」
それではジュリアンは、花の盛りのアンジェリクを無理矢理妻にしておきながら、女性としての彼女を無視してきたというのか。
後ろ盾さえ得られればこっちのものだと、アンジェリクの気持ちなんてどうでも良いと?
どれほど虚しかった事だろう。
悲しく、悔しかったことだろう。
ルイスにはアンジェリクの絶望が理解できる。
それは彼女と別れてから、自分自身が経験してきた事だから。
「危険な旅路です。訳あって私は最後までお供することができません」
「なぜこの話を私に?」
「……ジュリアン陛下の元へ嫁がれる前、おふたりは非常に仲睦まじい婚約者であらせられたと耳にしました。ルイス様であれば、もしかしたらアンジェリク様のお力になってくださるのではないかと」
ルイスの中には一片の迷いもなかった。
「クレフ……私の元へ来てくれたことを生涯感謝する。アンジェリク様の事は任せてくれ。必ずや無事に、オスロまで送り届けてみせる」
そしてその先も──
ルイスは強く拳を握り締めた。
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