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番外編
結婚への道のり シエラの場合④
しおりを挟む普段は冗談でもこんな事を言わないロニーが、なんと、首を傾げて上目遣いでシエラを見上げてくるではないか。
シエラの心を撃ち抜いた塩顔が、あざとさ全開で。
「し、しないわよ!“あーん”なんて!」
「そうですか……私は、ジュリアン陛下が羨ましかったのに」
「嘘つかないで」
ロニーがそんな事を羨ましがるなんて、にわかには信じがたい。
だってシエラへの愛情表現だって、滅多にしてはくれないのに。
どう考えてもシエラの機嫌を取るために、話を合わせてくれているとしか思えない。
「嘘ではありません。ただ、私は臆病者だから。殿下が愛情を示してくださらないと、自分の気持ちを正直に伝える事ができないのです」
「そんなのずるいわ……」
シエラは情熱の国の女。
祖国アトラスでは、溢れるほどの愛で女を溺れさせるのが、男の甲斐性だと考えられている。
それをロニーに押し付けるつもりはまったくないが、淡白な彼に物足りなさや寂しさを覚える事がなかったかと言われれば、ある。
それもかなり。
だからつい、よくないとわかっていても『私ばっかり』そんな卑屈な思いを抱いてしまう。
これまでに経験した事のない感情に、シエラ自身動揺するほどに。
「アトラスを除いての話ですが……一般的に、のべつ幕無しに女性に愛を囁く男は、軟派で浮気者と相場が決まっております……まあ、例外もあるようですが」
例外とは、間違いなくジュリアンの事だろう。
最近の彼は、アンジェリクを見れば砂糖を吐き散らかして、周囲を遠い目にさせているから。
でも、シエラはそれが羨ましい。
夫婦だけど、恋人。
おそらく、今が幸せの絶頂ともいえる時期の二人を間近で見ていると、自分もロニーとそうなりたいと、色々待てなくなってしまう。
「……それならこの国の男はどうやって愛を伝えるの?」
「この国で生まれ育った男の愛情表現の定義はわかりかねますが、私の場合は言葉よりも行動です」
「嘘ね」
それが本当なのだとしたら、ロニーはシエラを好きじゃない。
なぜなら彼は“行動”してくれないから。
不穏な顔でロニーを見つめるシエラ。
こんな時、いつもなら困ったように微笑んで誤魔化すロニーだが、今日は違う。
真剣な表情。
シエラの大好きな薄茶色の瞳の奥に、これまで感じた事のない、熱情のようなものが揺らめいている。
その熱はシエラの視線を絡め取り、離さない。
ロニーの手が、シエラの頬にかかる艷やかな黒髪を梳く。
そのままロニーの顔が近づき、そっとシエラの唇を塞いだ。
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