【本編完結】婚約者と別れる方法

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 (どこから聞かれていたんだろう)
 アルベールの様子からして、しばらく前からそこで二人の会話を聞いていたようだった。
 あの日のことが思い出され、恥ずかしくてアルベールの顔が見れない。

 「ロイ、サラと二人にしてくれ。私が呼ぶまでは誰も部屋へ入れないように」

 「かしこまりました」

 ロイは一礼し、サラに退出の挨拶をすると足早に部屋を出て行った。
 (どうしよう……殿下の顔、見れない……)
 俯き、膝の上でドレスを握り締めるサラに、アルベールの手が重なった。

 「そんなに強く握っては皺になる」

 「アルベール様……」

 「会いたかったよサラ。そのドレス、よく似合ってる」

 サラは会いたくなかったけど、会いたかった。
 (本当に馬鹿だ)
 どうしてアルベールに対しては『好き』がなくならないのだろう。
 紺碧の瞳を恐る恐る覗くと、そこにはサラがはっきりと映っていて泣きたくなった。

 「どうして泣くの。それに……さっきのロイとの会話も……私はサラと婚約できたことを幸せに思っているよ」

 やっぱり聞いていたんだ。
 それもきっと全部。

 「ううう、嘘だぁ」

 頭の中がぐちゃぐちゃで、淑女の嗜み表情管理はおろか、言語も怪しくなってきた。

 「この前あんなことをしてしまったから、私に怒っているの?」

 違う。サラはぶんぶんと首を横に振った。
 
 「それならあれは……かった……?」

 これにはぶんぶんと首を振れなかった。
 サラはずっと疑問に思っていたことを口にした。

 「どうしてアルベール様はしなかったの。私だけ……すごく寂しかった……」

 アルベールの顔から笑みが消え、僅かに目を見開いた。
 ──すごく寂しかった
 最後のひと言は勝手に口から出て行った言葉だが、驚くほどストンと腑に落ちた。
 そうだ、自分は寂しかったのだ。
 どうせなら邪魔な衣服を取り払って、お互いに肌を触れ合わせ感触を味わって、同じようにどこまでも昇りつめたかった。
 どうしてそんな風に思うのか。
 それはやはり、生まれたままの姿で絡み合うアルベールとマリを見てしまったから。
 (もしかして……あれと同じことをすれば私も気が済むのかしら……)
 アルベールと身も心も結ばれてしまえば、募らせ過ぎた想いも少しは昇華するかもしれない。
 そしてこれは盲点だったが、アルベールと結ばれることにより、再び彼がマリを選んだとしても、婚約者という立場に【王太子のお手つき】という事実が加味され、サラの今後は保証される。
 打算的な考えなのは認める。
 けれど手札は多ければ多いほど、サラの生存確率が上がるのは間違いない。
 サラは真っ直ぐにアルベールの瞳を見た。
 
 「アルベール様……サラはアルベール様と結ばれたいです」

 「サラ、その……それは少し気が早いのではないだろうか」

 あんなにいやらしいことをしておいて、今さらなにが早いと言うのか。
 現況サラはアルベールのせいで、『清い身体です』と胸を張れるのかどうかも怪しい領域にいるというのに。

 「どうしてですか?」

 「どうしてって……その……」

 言葉に詰まるアルベール。
 最悪の予想が頭に浮かび、サラの顔がくしゃりと歪む。

 「サラではその気になれないからですか?」

 「それは違う!」

 間髪入れずアルベールが叫ぶ。
 
 「ならどうして……?」

 「私は狡いんだ……」

 「アルベール様が狡い?」

 六年一緒にいたが、そんなこと感じたこともなければ、見たことも聞いたこともない。

 「アルベール様、理由を話してください」

 「今は言えない……けれどサラ、結婚したら必ず君を幸せにする。それだけは信じてくれ」

 「そんな…………っ!」

 アルベールはサラから考える隙を奪うかのように、深く口づけた。
 強引に舌が割り入り、サラの腔内を舐め回す。

 「…………んっ…………んぅ…………」

 両手を掴まれ、椅子に押しつけられたサラは逃げることもできず、熱い舌を受け入れるしかない。
 長い長い口づけはあの日の記憶を呼び覚まし、サラの身体に火を点ける。
 




 
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