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ディオンがマリを連れて立ち去ったあと、アルベールはサラの手をしっかりと握り締め、自身の宮殿へと向かった。
茶の支度も忘れ、人払いをするアルベールに、いつもの余裕は欠片もなかった。
「サラ、今日までなにも説明できずにすまなかった」
急いで駆けつけてくれたのは素直に嬉しかったが、どんなに忙しくても手紙のひとつくらい書けただろうにと、恨み言のひとつも言いたくなる。
そんな不満と不信感のような感情が顔に出ていたのか、アルベールは苦しそうに眉間に皺を寄せた。
「なぜ知らせひとつよこさないのか──薄情な男だと思っただろう。今となっては言い訳にしかならないが、マリが現れた当初は大きな混乱が起きていて、対処に忙しくて連絡できなかったのは本当だ。しかもその後、王宮内の情報が外に漏れ出した。しかも誤った情報がね」
何者かによって王宮内の誤情報が流され始め、あたかもそれが真実のように国民が信じ込まされている。
しかし、犯人を突き止めたくても尻尾が掴めない。
そんな中、どう言葉を取り繕ったところで信用などしてもらえないだろうと思ったアルベールは、サラに直接会えるタイミングを見計らっていたそうだ。
「しかし肝心な時になるといつも邪魔が入って……父上や重臣たちは目先の利益……マリの持つ知識に目が眩んでいて、彼女の肩ばかり持つ。情けないが、王太子といえど身動きが取れなくてね。だから今日君が来てくれて本当に良かった。サラ……」
アルベールの手が伸び、サラの頬を包んだ。
もう片方の腕が腰に回り、言葉を紡ぐ間もなく唇を塞がれた。
余裕のない性急なキスから、アルベールの煩悶がどれほどのものだったかがうかがえる。
うまく息を継げないサラのためか、アルベールは熱を抱えたままの唇を一旦離した。
そしてサラの瞳を見つめ、親指の腹で優しく唇をなぞった。
「……アルベール様を信じて待つことができませんでした……ごめんなさい」
「どうして謝るの。サラは何も悪くない。それに、君が来てくれたからこそ、こうして会うことができた」
「でも──」
言いかけたサラの唇をアルベールの人差し指が止めた。
「サラのすることを迷惑だなんて思わない。絶対に」
「アルベール様……」
「サラ、君は私に怒っていい」
怒るなんてできない。
だって、アルベールは何も悪いことをしていない。
王太子として、自分の責務を果たしていただけだということは、頭の中ではちゃんとわかっている。
けれど、心は違う。
サラは頬に触れるアルベールの手を取り、胸の前で握り締めた。
「……会えなくて不安でした……」
素直な気持ちを口にするのは勇気がいる。
サラは唇を震わせながら言葉を紡いだ。
「市井で囁かれる噂も耳にしました。信じていたけれど……アルベール様が心変わりをしてしまったのではないかって、私──」
不安だった日々が、前世の辛い経験と相まって思い出され、サラの眦から涙が伝い落ちた。
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