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しおりを挟む騎士団の稽古場から戻った私は、自室に籠もってひとり泣きました。
ばあやたちは涙を流しながら帰ってきた私をとても心配して、退出する事を渋りましたが、申し訳ないと思いつつも出てもらいました。
私は長椅子にもたれかかり、何度目かの溜め息をつきます。
もう、これ以上どんな策があるというのでしょうか。
「やっぱり、先見の力に逆らおうとしても無駄なのね……」
心のどこかで理解はしていたのです。
いつもこの力は、私たちにとって最善の未来を視せてくれますから。
そもそも【先見様】として生まれた時点で、自身の幸せを願うなんて許されない話なのかもしれません。
それでも、恋をした事のない私には、ほんの少し憧れてしまいます。
エリアス王子が好みという訳ではありませんが、あのように優しく愛されて嫌な女性はいません。
ですが……あの時クリューガー卿が放った言葉が頭を過ります。
『そのお綺麗な笑顔にすっかり騙されたよ……まさかあんな事を企てていたとはな……』
いったいエリアス王子が何を企んでいたというのでしょう。
しかし、この未来も両国の同盟があってこそ。今はまだ不確定だという事なのでしょう。
窓の外に目をやると、空にはもう一番星が輝いています。
私は夜風に当たって頭を冷やそうとバルコニーに出ました。
泣いて腫れぼったい顔に冷たい風が気持ちいいです。
「アンネリーエ殿下」
突如背後から聞こえてきた声に、全身が凍りつきました。
なんと、いつの間にかすぐ後ろにクリューガー卿が立っていたのです。
「ク、クリューガー卿!?どうしてここに?」
「殿下、無礼は承知の上です。ですがどうしてもお聞きしたい事があって参りました。どうか私を中に入れて貰えないでしょうか」
「な、中にですか!?それはいけません!」
中には長椅子やら寝台やらがあるじゃないですか。
クリューガー卿と長い台は、近付けたら駄目!危険です!
「しかしここでは外回りの衛兵たちの目が……殿下、どうかお願いします。大切な話なのです」
クリューガー卿の目は真剣です。
確かに上も下も、外を見張る衛兵の目があります。万が一こんなところを見つかれば、彼は即刻捕らえられ、最悪の場合斬首の刑に処せられます。
それをわかっていても尚このような行為に及んだという事は、相当重要な問題が起こったとしか考えられません。
私は悩みましたが、彼を失う事はこの国にとって得策ではありません。
「わかりました。どうぞ……お入りになってください」
クリューガー卿を先に促し、中に入ると大窓とカーテンを閉めました。
月の光が、窓際に立つクリューガー卿の顔を照らします。
少し野性味のある整った顔立ち。そして紳士的な振る舞い。女性たちに人気があるのも頷けます。
素敵な方なのでしょう。
実際に私も今回の件を通して彼の人となりをほんの少し知りました。
夫候補としても、何の過不足もない気がします。アレさえなければ……。
「……殿下。私は早朝、リヴェニアに発ちます」
「は、はいぃ!?」
リヴェニアに発つ!?
もう一度言いますけど、今あなたリヴェニアに発つっておっしゃいましたか!?
「そんな、どうしてですか!?」
今再びのパニックが私に巻き起こりました。
止まった筈の涙がまた溢れ出し、頬を濡らします。
「私に……私にもう少しだけ時間をください!!それで駄目なら諦めます!!諦めるから……っ!!」
クリューガー卿の顔が苦しげに歪み、次の瞬間、私は彼の腕の中にいました。
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