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しおりを挟む程なくして、ハロルドがリヴェニアを落としたと知らせが入りました。
ハロルドは第一騎士団本隊を国境に布陣し、リヴェニア兵と睨み合いをさせました。
そしてリヴェニアがそちらに気を取られている間に、ハロルド含む少数精鋭がリヴェニア城内に潜入し、見事グレゴールを拘束したそうです。
王を人質に取られた臣下たちはなすすべもなく、降伏したと……
*
「まさか潜入作戦なんて……クリューガー卿のこれまでの戦い方を知っているグレゴール王は、考えもしなかったでしょうね」
父の元でハロルドたちの朗報を聞いた私は、部屋でばあやの淹れてくれたお茶を飲んでいました。
「ええ、ええ。本当にようございました。それにしても団長自らリヴェニア城に潜入なさるなんて……この作戦に対する熱意がひしひしと伝わって参りますね」
他意はないのでしょうが、ばあやの言う“熱意”という言葉に何だか落ち着かない気持ちになります。
それは熱意があるでしょう。
だってハロルドは愛する私のために命を捨てる覚悟だった訳で、それが自分は勝つのだと太鼓判を押された挙げ句、帰ってきたら私とアレコレし放題というご褒美が待っているのですから。
「アンネリーエ様もさぞかしご心配されたでしょうね。ご自分のために皆さまが戦いに行かれたのですから」
ばあやの言う通りです。
これまで、必ず帰ってくるとわかっている人たちを送り出した事は幾度もありますが、やはりそれでも心配になります。
先見の力を信じていない訳ではありません。
けれど思うのです。
ほんの些細な事がきっかけで、人の運命が変わることは世の中にたくさんあります。
それが偶然にも重なり続け、先見の力でも予測できない事がいつか起きてしまうのではないかと。
「第一騎士団はどれくらいで帰還するのかしら……」
「そうですねぇ……まだあちらは混乱の最中でしょうし、新体制を作るために派遣された高官の皆様がようやく到着される頃でしょうから、もう少しかかられるでしょうね」
「そうよね……」
リヴェニアのこれからは、それほど心配はしていないのです。
グレゴール王は悪政で名を轟かせていましたから、サルウィンが介入する事で民の暮らしは楽になるでしょうし、リヴェニア王家の中から能力・人格共に適した人物がいれば、その方に新たに治めていただく形になるので、民からの反発も少ないと思います。
ですが問題は周辺国の反応です。
サルウィンが【先見様】のために他国に攻め入ったと聞けば、少なからず非難を受けるはず。
「どうなるのかしら……」
ハロルドのいない日々はとても心細いものでした。
ですが、思いもかけない人物の訪問に、私は慌てる事になります。
ローナンの使者として、エリアス第二王子がやって来たのです。
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