【本編完結】アルウェンの結婚

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 「サウラ妃、私の花嫁に対し、あまりに無礼ではないか?初夜を終えたばかりだぞ」

 新婚夫婦なら、今頃はまだ寝台の中にいてもおかしくはない。
 普段なら顰蹙を買う行為だが、それが許されてしまうのが唯一この初夜という特別な一日。
 まさかとは思うが、アルウェンとサリオンの間で本当に夫婦の契りがなされたのか、確認にでも来たのだろうか。
 
 「無礼は承知の上ですわ。それについてはアルウェンにもきちんと謝って──」

 「その呼び方も止めていただこうか」

 サリオンはいつもよりずっと低い声で、サウラ妃の言葉を遮った。

 「我が妃は将来の皇后──国母となる女性だ。名前ひとつ呼ぶにも敬意を払って貰わねばな」

 「……承知いたしましたわ」

 「わかって貰えたならそれでいい。ではそろそろお戻りいただこうか。なにせ私たちは新婚なのでな」

 歩き出したサリオンは、アルウェンの側までくると足を止め、侍従に扉を開けるよう目だけで促した。
 サウラ妃は悔しげに歪めた口元を扇で隠し、侍女を連れ足早に去っていった。
 アルウェンは立ち上がり、サリオンに頭を下げた。

 「殿下、来てくださってありがとうございます。それとお仕事の邪魔をしてしまい、申し訳ございません」

 「気にしなくていい。それより、サウラ妃から他になにか余計なことは言われなかったか」

 彼はどこから話を聞いていたのだろう。
 果たして、元婚約者に会わせてやるという話をされたことを言うべきか否か、アルウェンは少しの間逡巡した。

 「どうした、やはりなにか──」

 「いえ、大丈夫です」

 今のところ、おそらくだが円滑にいっていると思われるサリオンとの関係に、水を差したくなかった。
 それとただ単純に、ユランのことを口にしたくなかったのだ。
 サリオンは納得のいかない顔をしていたが、口を閉ざすアルウェンに、それ以上なにも言わなかった。
 
 「わかった……また同じようなことがあればすぐ言え」

 「はい。ありがとうございます」

 再びサリオンを見送ったアルウェンは、アルマを呼び出した。
 アルマの顔には疲労の色が濃く滲んでいた。

 「サウラ妃の足止めをしてくれてありがとう。大変だったでしょう?」

 「いえ……サウラ妃殿下への対応につきましては、サリオン殿下よりきつく申し渡されておりましたゆえ」

 「せっかく頑張ってくれたのに、結局こんなことになってしまってごめんなさい」

 アルマは、アルウェンの謝罪に驚いたように眉を上げた。

 「そんな、滅相もございません。いずれにせよ、サウラ妃をあれ以上お止めするのは難しかったと思います。妃殿下のご対応に心より感謝いたします」

 一介の侍女が皇妃と張り合うのはさぞかし荷が重かっただろう。
 
 「アルマ、よかったら皆を呼んでちょうだい。一緒にお茶にしましょう?」

 「私どもが妃殿下と……ですか?」

 最初アルマは遠慮していたが、アルウェンの押しに根負けし、大人しく侍女たちに声をかけに行った。
 (色々あったけど、良い機会だわ)
 皇太子妃として動き出す前に、あらかじめ彼女たちの心構えを知っておけば、後々それが役に立つ日も来るだろう。
 (アンと皆が打ち解ける良い機会にもなるしね)
 そうして集められた皇太子宮の侍女たちは、思いがけず始まった楽しい集いに喜び、なんだかんだで大盛り上がり。
 お開きになる頃にはアンもすっかり打ち解けた様子で、アルウェンは胸を撫で下ろした。
 

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